第146話 闇ゴケVSコケのPT


「燃えた後の蜜柑の木って感じだな! 『ファイアクリエイト』『火の操作』!」


 纏属進化を行ったアルの姿は、簡単に言えば火事で燃え残って火が燻っている木であった。……ただし大きく違うことは自身が焼け朽ちている気配は全くない事だろう。まさしく火を纏った木である。


「アル、『発火』も使え! 状態異常の火傷が確率で発生させられる!」

「火傷ってあれか! 植物系だと純粋に燃える状態異常か!」

「……その辺はよく知らんけど、多分それ!」

「まぁ試せば良いだけか! 『発火』!」

「わっ!? アルさんが燃え上がったー!? 私はどうしたら!?」

「ハーレ、落ち着いて。味方には一切ダメージないからね!」

「あ、そうだったね!」


 発火を使って燃え上がるように火を纏ったアルと、そこから逃げるように増殖していく闇ゴケ。……火傷って植物系なら普通に燃えてる状態異常なのか。よく考えたら動物系と同じ訳がないか。オフライン版には火傷って状態異常はなかったしな。

 そういやこいつの詳細はまだろくに確認出来ていなかった。


<行動値を3消費して『識別Lv3』を発動します>  行動値 38/41(上限値使用:4)


『闇ゴケ』Lv13

 種族:黒の暴走種

 進化階位:成長体・暴走種

 属性:闇

 特性:魔法吸収、隠密


「属性は闇で特性は魔法吸収と隠密! みんな、見失うなよ!」


 まだそれほど奥には進んでないからレベルは低めか。前に俺が殺られたのはもっと奥なので多分だけど別個体なんだろう。だが同じ名称なので特徴は同じ。属性は闇で、魔法吸収と隠密持ちか。ただでさえ気付きにくいコケに特性で隠密まであるとは厄介な……。魔法吸収はいまいちよく分からん。とりあえず、別個体であっても以前やられたことはやり返してやろう。


<行動値を3消費して『群体化Lv3』を発動します>  行動値 35/41(上限値使用:4)

<行動値を3消費して『群体化Lv3』を発動します>  行動値 32/41(上限値使用:4)


 この周辺に見える限りのコケは俺の群体として支配下においた。以前はこれをされて逃げ道を塞がれたからな。同族だからこそ、弱点も知ってるんだよ!


「逃げ道は塞いだ! アル、燃やせ!」

「おう! 『ファイアボール』! って、何!?」

「えっ!? 火の玉を吸い込んだ!?」

「くそっ、特性の魔法吸収ってそういう事か!」


 俺の持っていない闇ゴケの特性の魔法吸収はその名の如く、魔法を吸収するようである。そして魔法を吸収した闇ゴケはすごい勢いで増殖していく。俺の増殖よりも遥かに増殖速度が早い。魔法を吸収した途端に早くなったから、俺の増殖とは別のスキルかもしれない。

 ……でもなんでアルの『発火』は吸収しなかった? あれも確か魔法の火だったはずだけど……もしかして放った後の魔法しか吸収出来ないとか? もしそうなら……。


「アル、ファイアボールじゃなくてファイアクリエイトと火の操作で焼いてみてくれ!」

「魔法は吸収されるだろ!」

「支配下にある魔法が吸収されるかを確認したいんだよ!」

「……もしかしてこういう事かな? 『魔力集中』『爪連撃』!」

「そういう事か! 『ファイアクリエイト』『火の操作』!」

 

 サヤの魔力集中で発生した無色のオーラは吸収される事もなく、そのままで地面を斬りつけた。魔力強化のサヤの爪で切れるくらいの強度の岩場のようだ。サヤの威力が凄いのか、地面が岩場にしては脆いのか微妙なところ。だけどその攻撃もコケのHPがないという性質上、増殖していたコケを分断こそしたものの数は減っていない。そしてその状況を見たアルがサヤに続き、火を操っていく。……今度は火が吸収される気配はない。


「やっぱり支配中の魔力や魔法は吸収出来ないか! アルは増殖してる側を狙ってくれ!」

「おう!」

「ヨッシさん、増殖してない方に腐食毒でポイズンボールを頼む!」

「え、でもそれだと吸収されるんじゃ?」

「俺の水分吸収の仕様から考えたら、核じゃないほうの群体からは吸収は出来ないはず! サヤは闇ゴケの群体を分断していってくれ! ハーレさんはアースクリエイトの砂で増殖してる側へ散弾を頼む! 吸収された場所がコケの核だ!」

「分かった。『ポイズンボール』!」

「とにかく増殖したコケをバラバラに分断して行けば良いんだね。『双爪撃』『爪連撃』!」

「行くよー! 砂の『アースクリエイト』『散弾投擲』!」


 よし、これで闇ゴケの動きをある程度は制限出来るはず。……隠密のせいかカーソルでの位置特定が困難なんだよな。でもこれで弱点である火から群体内移動で逃げるか、逃げられずに核を仕留められれば他の群体に移動する事になる。腐食毒が有効かどうかは正直試したことが無いので博打だけど、植物系に有効なHP回復阻害性能がある毒だ。全く効果なしって訳でもないだろう。


 そしてサヤには増殖した闇ゴケをバラバラにして分断してもらう。増殖速度は早いが、増殖する為にはそれなりに場所が必要だ。1つの塊であれば核を特定するのは難しい。……火の操作のLvが高ければもっと効率よくいけるだろうけど、今のアルは『進化の軌跡』による纏火なので火力不足は仕方ない。


「ケイさん! こっちに核がいたよ!」

「よし、アルはハーレさんと連携して、ひたすら核狙いで頼む!」

「おうよ!」

「うん、わかった!」

「サヤは結構分断し終わったな。最後の仕上げを頼むから待機しててくれ」

「仕上げがあるんだね。わかったよ」

「ヨッシさん、腐食毒は効果ありそう?」

「あるみたいだね。枯れていってるよ?」

「おう……マジだ。これは俺も腐食毒には注意しないと……」

「……確かにそうだね。私は核のいないコケを枯らしていけばいい?」

「そうだな。ヨッシさん任せた!」

「任されたよ」


 そうしてどんどんと闇ゴケの核の逃げ場所を奪い、追い詰めていく。ふふふ、逃げ道を塞ぐ事こそコケを倒す為の手段だ! HPのないコケだって決して倒せない相手ではない! ヒノノコには高火力でこうやって追い詰められて、身を持って知っている。負けた経験もこうして次の戦いへと繋げていくんだよ!


「ケイ、闇ゴケももうあとほんの少しだけかな?」

「よし、仕上げだ。サヤ、地面ごと抉り取って放り投げられるか?」

「えっ? ……うん、あれを使う時かな」

「無理そうなら他の手段を試すぞ?」

「ううん、大丈夫」


 ぶっちゃけ、地面があまり頑丈ではない感じで魔力集中を発動中のサヤはその地面に何度も切り込みをいれていた。だから大丈夫だとは思うけど。

 なんだか少し緊張感を滲ませながら、サヤが攻撃へと動き出す。


「それじゃ行くよ。『アースクリエイト』『操作属性付与』『爪連撃・土』!」


 サヤの鋭い爪にアースクリエイトで生み出された土が集まっていく。そして茶色い光に包まれたかと思えばサヤの爪の表面が石で覆われていた。その変化により重量が増したのか、サヤが少し重そうにしているが破壊力は上がっていそうである。……少し切れ味は落ちてそうだけど。

 そしてサヤは先程までのコケを分断する為の攻撃で出来た切り込みも利用して、あっさりと闇ゴケを隔離するように岩を切り取って……いや粉砕していく。そして闇ゴケの逃げ場を封じる様に砕いた部分を空中に放り投げた。てか何だ、今のスキル!?


「サヤの新技か!? いや、詳細は後でいいや。よくやった!」


 予想外のサヤの新技に驚いてしまったけど、指示だけだったから行動値は全快している。もう闇ゴケに逃げ場はないし、これで仕上げだ。

 

<行動値を4消費して『土の操作Lv3』を発動します>  行動値 37/41(上限値使用:4)


 放り投げられた闇ゴケ付きの元岩場の地面、今は少し大きめの石となったそれを支配下におく。土の操作の範囲の大きさだな。そして他のコケは俺が群体化して、増殖したコケはみんなの攻撃によって全滅させた。もう増殖出来る範囲は俺が操作している石の範囲のみだ。もう逃げ場は存在しない。


「アル、石ごと闇ゴケを焼き尽くせ」

「もう逃げ場はないもんな。『ファイアクリエイト』『火の操作』!」


 逃げ場を完全に封じられた闇ゴケは燃やされていき、そしてポリゴンとなり砕け散って消えていく。


<成長体・暴走種を討伐しました>

<成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>

<Lv上限の為、過剰経験値は『群集拠点種:エン』に譲渡されます>


 そして闇ゴケの討伐は完了した。ああやればコケも倒せるんだな。いや、倒せないと問題だけどな。そもそも俺も何度か倒されてるんだから倒す手段が存在していて当たり前だ。


「そういやさっきのサヤの新技って何?」

「えっと、あれは……」

「サヤってば操作系が苦手なままなのが嫌だって、特訓しててね?」

「ヨッシ!? それは内緒って話かな!?」

「仕上がるまでの話でしょ?」

「う、それはそうだけど……。えっと、ヨッシの言った通りでね。何とか使えないか色々と工夫して、自分の身体に纏わせてみたらどうかなって思ってやってみたら、『操作属性付与』っていうスキルが土の操作から派生してね?」

「簡単に言えば種族として属性を持ってなくても『魔力集中』に属性を付与して、無属性の攻撃スキルの性質を変えるスキルらしいよ。サヤの爪に土属性を付与したらあんな風になったんだって」

「『魔力集中』の発動中にしか使えないけどね」

「ほうほう、そんなスキルもあったんだな」

「うん。でも『魔力集中』の上限値使用に加えて、『操作属性付与』でも上限値をごっそり持っていかれるから使いどころは要注意かな」

「あの威力なら仕方ないだろ」


 俺は操作系スキルは移動に使うか、離れたところから遠距離攻撃として使っていたから、操作系スキルを自身に纏わせるっていう発想は無かった。そうか、操作系スキルにも物理攻撃みたいに派生スキルがあった訳だ。

 聞いてる感じだと『魔力集中』を更に強化させる為のスキルっぽい感じだな。そして持ってる操作系スキルの種類の分だけ、付与出来る属性が増えそうだ。これは多分物理向けの強化スキルだろう。

 ……それにしても時々こそこそと特訓してた感じはしてたけど、これの特訓をしてたんだな。サヤは離して使うのは感覚がよく掴めないから、自身の延長上になる感じに纏わせてみたって所だろうか。


「何にしても、みんなお疲れさん」

「ケイがコケの特徴を把握してたからやりやすかったな」

「そうだねー! でもこれは他の人って厳しくないかな!?」

「あー、多分他にも手段はあるぞ」

「え!? そうなの!?」

「あくまでも多分だけどな。……コケって海水で弱るんだよ」

「……なるほど、纏海か」

「うん、そういう事。あくまでも予想だけどな」

「あと、ここは意図的に分断しやすい地面になってるかな?」

「まぁ、コケを分断しろって事なんだろうな」


 ここはまだ推測段階だけど纏海のための進化の軌跡が手に入る可能性のあるエリアだ。纏火や腐食毒も有効だから、魔法を吸収されても飽和攻撃を仕掛けて押し切れば何とかなるだろう。場合によっては纏火状態からの魔力集中による属性付き物理攻撃も有効だと思う。苦手な攻撃を受けたら逃げる素振りもあったので追い払うこと自体は簡単なのかもしれない。

 あとは灯り代わりの火魔法持ちも増えているだろうから、対処が困難という事もないだろう。……前にボロボロに俺が殺られたのは色んな意味で準備不足だったって事だ。


 サヤの見つけた新技は後で群集のみんなに伝えておくとしようか。物理攻撃型で操作系が苦手な人は他にもいるだろうし、そういう人には朗報だろう。そして他の属性でも試してもらって、是非ともその情報を公開してもらえるとありがたい。


「さて、それじゃ先に進みますかね」

「そだねー!」

「次に安全地帯を見つけたら一回休憩にしないかな?」

「いいね。私は賛成」

「そうだな。そこそこ進んできたし、一回休憩するか」

「集中力が尽きてもあれだしな。そうするか」


 闇ゴケとの戦いも終わったので、一度休憩を挟むことにした。他のプレイヤーでもいれば情報交換をしてもいいし、情報共有板で情報を仕入れてくるのもありだな。まぁとりあえず安全地帯へと辿り着くのが先決だな。

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