第145話 探索方針


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『常闇の洞窟』に移動しました>


 洞窟に入る人達が前にいたので、少しだけタイミングをずらしてから常闇の洞窟へと突入した。さてと、夜目を一応発動しとくか。光源ありなら暗視までは必要ないしな。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 42/42 → 41/41(上限値使用:4)


「流石に『常闇の洞窟』の中は一緒に移動しようぜ」

「そうだね」

「私も降りなきゃだね」

「俺はハーレさんの巣のとこでいいか?」

「あー、ケイはそのほうが攻撃しやすいか。……明るさ次第だけど、問題ないんじゃねぇか?」

「ケイ、ちょっと大きめの石にでも移動しておく?」


 そう言ってサヤがハーレさんの巣にぎりぎり入りそうな少し大きめの石を拾い上げながら聞いてくる。案としては悪くはないんだろうけど、これだとハーレさんの巣が……。


「サヤー! それじゃ大き過ぎて私が巣から追い出されちゃうよ!?」

「あ、そっか。そうだよね。んー、あ、これなんてどうかな?」

「おぉ!? 何、その椅子みたいな良い形の石は!」

「それならちょうど良さそうだね。ハーレの巣にこれを設置して、ハーレは座りながら、ケイさんが灯りで常駐しておく?」

「それがよさそうだな。それにしても随分と良い形の石があったもんだ」


 ちょっと歪な形ではあるが僅かにL字型でイスっぽい感じの石である。ちょっと角が尖りめではあるから、石の一部が砕けて欠けた感じだろうか? ……そのままだと座り心地は悪そうだけどコケで覆えばクッション代わりになるかもしれないな。


「サヤ、その石を俺の小石に並べてくれ」

「こうかな?」

「おう、そんな感じ!」


<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します>  行動値 38/41(上限値使用:4)


 並べた石から増殖でコケを生やしていって、コケに覆われたイス型の石の完成! そして発光も発動中なのでじんわりと光っている。……なんか妙に威厳のありそうなイスになった……?


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 37/41(上限値使用:4)


 そして群体内移動で新しい石に移動完了。さて次はハーレさんの巣に移動させるか。


「これは、光ってるのが目立つ?」

「良い感じかな? ハーレ、巣に置くけど良い?」

「良いよー!」

「お、サヤ、サンキュー!」


 俺が土の操作で移動させるつもりだったけど、サヤが運んでくれたので手間が省けた。これでハーレさんの巣にコケに覆われたイス型の石が設置された。


「光るイスだー! いやっほーう!」

「あー、ハーレの影が思いっきり壁に映ってるね?」

「……これは微妙かな?」

「どんな形の石でも俺の枝の上の方から照らすんだし、ヨッシさんやサヤでも位置によっては影も出来るから気にしなくてもいいだろ。それより次のPTが入ってきたら邪魔になるし、早く移動するぞ」

「それもそうだね。アル、引っ張った方がいいかな?」

「足場が足場だ。引っ張るのはやめといた方が良いだろうよ」

「そっか。分かったよ」

「それじゃ出発だね!」


 サヤの苦手なクモが出てきた時の為にヨッシさんを先頭に、その後をサヤ、さらにその後をアルが移動していく。俺とハーレさんはアルにあるハーレさんの巣から遠距離攻撃役である。


 そしてそう進まないうちにやつが現れた。言わずとしれた闇コウモリである。数は4体だからまだあまり分裂はしていないようだ。


「来たな、闇コウモリ。残滓だけど、ヨッシさん移動妨害は任せた」

「了解! 先手必勝『アイスプリズン』!」

「ナイス、ヨッシさん! アル、ハーレさん、サヤ、分裂する前に遠距離から仕留めるぞ!」

「「「おー!」」」


 そしてうまい具合に4体の闇コウモリが氷で作られた檻に閉じ込められていく。氷の檻は周辺の壁へと繋がっており、空中に浮かぶ即席の牢獄へとなっていく。

 ヨッシさんの氷魔法Lv3である『アイスプリズン』は敵の周囲に冷気を纏わせて、確率で凍結状態。状態異常にならなくても氷の檻も生成され、逃げ道を制限している。……コウモリ達はそれほど大きくはないので間からすり抜けられそうではあるけど、ある程度行動が鈍るので効果は有りだ。


 これならぶつかりそうな水魔法の水球より、土魔法の小石の方が檻の隙間から狙えそうだな。


<行動値2と魔力値8消費して『土魔法Lv2:アースバレット』を発動します> 行動値 35/41(上限値使用:4) : 魔力値 68/76


「折角だ、俺もケイと同じで行くか。『アースバレット』!」

「私はそれは無理かな? って事で『投擲』!」

「私もいくよー! 『散弾投擲』!」


 みんなで小石を遠距離から撃ち放っていく。結果的には巣のダメージボーナスがあり広範囲攻撃になる散弾投擲のハーレさんが一番成果があり、魔力の差から俺の方がアルより威力は高かった。サヤの投擲は威力はあったが、まだ命中精度が甘いのか檻にぶつかるだけで終わっている。氷の檻の中で無意味に分裂した闇コウモリも半分ほど仕留められていた。


「当たらなかったよ……」

「サヤ! 投擲は練習あるのみだよ!」

「うん、頑張るね!」

「よし、第二射いくぞ!」


 そして残滓という事や、既に何度か戦っていた事、ヨッシさんの新たな進化形態により、あっという間に仕留められた。まだ入り口だからレベル差も大きいのだろう。


「拘束系の魔法は魔力値の消費が大きいけどなかなか便利だね」

「みたいだなー。……そういや、俺も水魔法Lv3になって『アクアプリズン』は覚えてるけどまだ使ったこと無いな。っていうか、ヨッシさんって進化したらそのまま氷魔法が使えたのか?」

「えっと、纏氷の時の一時スキルは全部そのまま引き継いでるみたい。これ、欲しい属性があれば一気に取得するのにいいかもね」

「へー! 合成進化ってそんな仕様なんだ!」

「流石は『進化の輝石』を消費してるだけはあるって事か。そりゃ情報ポイント500かランキングの報酬だもんな」

「まぁ纏樹みたいに使えないスキルが出てくる場合は慎重にしたほうが良いだろうけどな」

「……それは纏樹じゃなくて元になるコケが特殊なだけじゃないかな?」

「……まぁそうなんだけどな!」


 そもそもコケのHPがない特殊仕様や、移動が特殊な固有スキルに依存しているから発生している問題だしね。普通ならそんな事にはならないだろう。


「それにしても初めて見た時は逃げ帰ったが、こうして戦うと呆気ないもんだな」

「まぁレベルも上がってるし、スキルも充実してきてるからな。これで苦戦してたらこのエリアの攻略は無理だって」

「……それもそうだな。そういやマップは貰ってきてないが、良いのか?」

「海に続いていそうな海水の地下湖までのルートなら既に判明済みだから、とりあえずそれでいいだろ。途中で人数分の『進化の軌跡・海の欠片』を集める必要はあるだろうけどな」

「アンコウとかその辺の討伐か。まだ倒せてないんだよな?」

「昨日のレベル上げは別のルートに行ったからね! ケイさん以外は遭遇すらしてないよー!」

「そうか。ならケイ、道案内は任せたぞ?」

「おう、任せとけ!」


 しばらく何度も残滓と遭遇して討伐しながら奥へとどんどん進んでいく。その途中で他のプレイヤーが苦戦しているのにアドバイスをしたりという事もあった。結構多くのプレイヤーが『常闇の洞窟』入りをしているようで残滓の割合がかなり増えている。


 そうして進んでいくうちに初めの分かれ道へと辿り着いた。俺はここに来るのは3度目である。


「ここは昨日は左に行ったんだよね?」

「そうだねー! ケイさんが1人の時は右だったよね!?」

「おう、そうだぜ。って事でアル、ここは右な!」

「右だな。ケイ、こっちに出る敵は?」

「基本的には闇コウモリと光源グモだけど、それ以外も充分いる可能性あるから要注意な?」

「ベスタさんが海属性の敵がいるって言ってたもんね! それも探さないと海水の中は行けないよね!?」

「海用の進化の軌跡を集めながらになるかな?」

「そうだね。最低でも人数分の5個は必要?」

「……俺は強引に魔法産の水で押し退けて海水の中を移動って手段もあるな」

「あ、そっか。ケイさんはそういう事も可能なんだね」

「まぁいざって時はな」


 多分、魔法産の水を水の操作で操って強引に海水へと突入する事も可能だろう。……攻撃手段が限定されてくるし、時間制限もあるから出来るだけ纏海を使いたいところではあるけど。……纏海はどんな付与スキルがあるんだろうか?


「ま、とりあえず海属性持ちの黒の暴走種を探しながら移動だな」

「そうなるな。とりあえず、アンコウは確実に居るからな」

「確実に1種類は確認済みってのはありがたいところだな。……一応、海水の地下湖の近くの分かれ道は出来るだけ埋めていくか」

「それが無難かな?」

「私はそれで良いよ」

「私もそれで問題なーし!」

「それで行こう!」


 という事で方針を決めて進んでいく。俺は一度は通った道だけど、あの時は暗視のみでコケを探すのに必死だったのでアルに乗りながらだと違った風情になってくる。


「改めて周りを見渡しながら移動してると、結構雰囲気のある洞窟だよな」

「みんなの中に暗いのが苦手な人が居なくて良かったかな」

「確かにな。暗所恐怖症とか、閉所恐怖症とかいたらどうしようもなかったし」

「あー確かにそういう人もいるよね」

「その辺りはどうしようもないもんね!」


 流石にその辺りは苦手生物フィルタとかそういうものではどうにも出来ないだろう。……それをどうにかしろというのは流石に運営にとって酷な話だ。もうその類の苦手なものは本人に避けてもらうしか方法はない。


「あ、ちょっと広めの場所に出たね。……でも安全地帯ではなさそうかな?」

「ここの足場はちょっと脆い感じの岩場だな。これはちょっとした衝撃で壊せるか?」

「危機察知に反応ありだよ! アルさん、気を付けて! 近いよ!」

「ちっ、奇襲か! サヤの巣穴で確率ダウンの効果はあっても、絶対でも無いってことだな。……何処から来る?」

「アル、足元かな!」

「ちっ、こいつは!?」


 アルの根元に広がりつつある黒いモノ。これには見覚えがあるし、俺にとっては忌々しい相手である。あの時は判断ミスで不覚を取ったが今度は仕留めてやるぜ、同類よ!


「今度はきっちり仕留めてやるよ! 闇ゴケ!」

「って、それは良いからこれはどうすりゃいい!? このコケ、水分吸収してきてるぞ!?」

「出し惜しみしてても仕方ない! アル、『進化の軌跡』を使え!」

「……って、『輝石』じゃなくて『軌跡』の方か! 発音同じで紛らわしいわ!」

「それは運営に言ってくれ!」

「そりゃそうだ! 『纏属進化・纏火』!」


 さてと、これから対コケ用戦闘の開始だ! コケでやられたら嫌な事で封殺してやるぜ!

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