第144話 他のプレイヤー達


「『常闇の洞窟』のPT募集中! 光源になるスキルを持ってる人、特によろしくー!」

「『常闇の洞窟』入りの為のヒノノコ討伐PT、次戦の未討伐メンバー募集中!」

「こっちは火魔法あり。回復役の果樹系移動種を募集中!」

「ヒノノコ討伐が終わったー! これで洞窟に入れる! 蜜柑の移動種だけどPT良いかな?」

「お、希望者ですか。どうぞどうぞ」

「あ、先越された!?」

「あー! 光源持ちが足りねー!」

「……文句言うなら、自分で火魔法か『発光』でも取ったら?」

「進化用にポイントを温存してるんだよー!?」

「はいはい、無駄遣いするからぎりぎりになるんじゃないか……。それじゃ出発するよ!」

「はい!」


 常闇の洞窟へと向かう為に移動していたら、エンの前では沢山のプレイヤーが集まり大騒ぎになっていた。……これは常闇の洞窟へ行く為のPT募集のようである。ソロで行くには厳しいのでPTの募集がかなり活発になっている。ちょうど1組はメンバーが揃ったのか、洞窟へ向けて移動を始めているようだ。

 そしてヒノノコ討伐周回PTとかいうのも募集している様子。未討伐者がPTにいなければボス戦の再戦は出来ないから、周回して『進化の軌跡』を集めている人と、固定PTではない未討伐のプレイヤーの利害が一致しているみたいだな。


「っていうか、便利だな。この『樹洞投影』ってスキル」

「移動拠点種の固有スキルだ。ま、あったほうが便利だろ」

「そだねー! 直接見るのも良いけど、これはこれでいいね!」


 現在、アルの樹洞の中にてみんな待機中。この状態だと外の様子が分からないと思っていれば『樹洞投影』というアルの視界を内部に映し出すという移動拠点種の固有スキルがあったらしい。流石は拠点であり、ゲームだね。無茶な事も平然とやってくれるものだ。ちなみに不動種はこれの強化版で中継を行うらしい。

 ただしこの状態でのんびり移動出来るのは今のところは群集拠点の中くらいだろう。他の場所では黒の暴走種といつ遭遇するかわからないからこうはいかない。


「それにしても結構賑わってるな?」

「そりゃ新しい群集クエストのメインの場所だしね。情報ポイント5倍もいいし」

「みんなも2枠目が気になってるのかな?」

「そうだろうねー! こうやって見てみたら競争クエストで見た人が結構いるねー!」

「よく覚えてるな、ハーレさん」

「俺も見知った相手がチラホラいるな。どこのPTも光源になるプレイヤーの取り合いか」

「光源になるプレイヤーって少ないのか?」

「まぁ少ないぞ。……自前で光源のスキルを持ってるのはホタルのプレイヤーとかキノコのプレイヤーの一部とかそんなレベルだからな?」

「そして貴重なその1人がケイさんだね!」

「あ、そうなのか。でもそれだと困らないか?」


 意外と発光持ちは少ないらしい。ホタルのプレイヤーには会ったけど、光るキノコのプレイヤーもいるんだな。……そういやまだキノコのプレイヤー自体に会ったことがない。……なんとなくだけどキノコも色物枠な気がする……。


「実質困ってるとこなんだろうよ。『暗視』は地味にポイント数も必要だからな」

「『暗視』持ちじゃなくて、火魔法ありで募集かけてるって事は火魔法を光源代わりに使ってるのが多いのかな?」

「みたいだねー! 紅焔さんが喜びそう!」

「まぁ光源の為だけに『発光』を取るのも微妙といえば微妙だからな。PT全員が持ってる必要がある『暗視』は余計にな。それなら攻撃にも使える火魔法の方が取得を選びやすいみたいだぜ」

「確かに火魔法の方が用途としては広いもんな。……そういや『発光』ってポイント取得出来るのか?」

「あー、それは種族によるみたいだぞ。……ちなみに俺は可能だ」

「ちょっと確認してみようかな。……うん、私は無理みたい?」

「えーと、私は……。あ、あるにはあるけど『発光針』……? あれ、何かが違う……?」

「私は無理だったー! ヨッシの『発光針』って気になるね!?」

「……ハーレ、未成体への進化が終わるまではポイント使いたくないから、取らないからね?」

「うー、残念……」

「……それにしても『発光針』か。どんなのだろうか?」

「ケイさん、取らないからね?」

「分かってるって!?」


 かなり興味はあるけどね。スキル名から単純に考えれば光る針なんだろうけど、それなら普通に『発光』でも良さそうな気はする。……何か違う要素があるんだろうけど、これは取得してみて貰わないと分からないだろう。でも未成体に進化するまではヨッシさんはポイントを使うつもりは無さそうなので、無理に取得してくれとも言えないな。そもそも光源なら俺がいるから光源として無理に取得してもらう必要もないだろう。

 

「ところで、アルって何処が光るんだ?」

「取ってないから知らん」

「はい! 私は光る蜜柑を希望します!」

「いや、希望されてもな? ……必要がありそうならその時には取るが、今はケイもいるし」

「てか、ハーレさん食べる気だよな?」

「もちろん!」


 やっぱりハーレさんは食い気か。……光る蜜柑ね。可能性としては十分ありそうだけど、それって食えるんだろうか? というか根本的に『暗視』ではなくて光源になるスキルの方が人気なんだな。まぁ1人用だし、PT攻略がメインになりそうな『常闇の洞窟』なら光源がある方が動きやすいか。


「光と言えば、光の操作ってあるのかな?」

「あ、どうなんだろうね!?」

「光源グモと光モリが確か光属性を持ってたけど、あの目くらましが光魔法か?」

「どうだろ? さっきの『発光針』みたいな『発光』系統の別スキルの可能性もあるよね?」

「……だな。『進化の軌跡・光の欠片』とか落としてくれればいいんだけどな」

「あ、そういや成長体ならどれでも属性があったら落とすんだったね! 纏属進化を使えば確かに分かりそう!」


 とはいえ、落ちなければ意味はない。ま、落ちた時に考えればいいか。闇の方も気にはなるけど、こっちも今考えても分からないだろうしね。


「いつまでもここに居ても仕方ないし、そろそろ出発するか」

「お、アルさんじゃん。今日も臨時PT、入っていかない?」

「おう、レナさんか。すまんな、今日はメインPTが勢ぞろいだからそっち優先だ」

「あーそりゃ残念……。なら蜜柑をいくつか貰ってもいい?」

「それなら別にいいぞ? ちょっと待ってろ、今採るから」

「あ、私がやるよー!」

「ハーレさんも居たんだね。そこが巣なんだ?」

「そうだよー! はい、蜜柑どうぞ!」

「ありがと。うん、やっぱり良い感じの蜜柑だね」

「そうでしょうとも!」

「……何やってんの?」

「あ、コケの人! ケイさんって名前なんだ」


 ハーレさんが樹洞の中から、巣へと移動しアルの蜜柑をもぎ取って渡していく。何をやっているのか少し気になったので、俺もハーレさん同様に巣から外に出る。話しかけてきた人はリスの人か。ハーレさんとは少し違って、少し赤い体毛になっている。会話を聞いている感じではアルとハーレさんの知り合いっぽいな。


「メンバーが揃ってるって事はアルさん達はこれから『常闇の洞窟』? コケの人……ケイさんが光源になるスキル持ってるんだよね?」

「まぁな。……それなりに俺のスキルって知られてる?」

「あはは、そりゃ『火の玉検証』とかの発端だもん。あの時は色々と役立つ情報をありがとね」

「……あ、それはどうも?」


 火の玉検証ってのはあれか、この周辺で発光と水球移動を組み合わせて発動した時に驚かせてしまったあれか。あの時は紅焔さんとホタルの人がいて事態を収めてくれたんだったな。急に驚かせて悪かったような気もするから、素直にどういたしましてとも言いにくい……。


「これ以上は邪魔になっちゃいそうだからこれくらいにしとくね」

「あーすまんな?」

「いえいえ、こっちこそ呼び止めてごめんね。はい、これ果物分のお代で投擲用の石と木の実ね」

「おう、ありがとよ」

「こっちこそありがとね。果物の補給は助かったよ」

「レナさん、またねー!」

「うん、またね!」


 そしてリスのレナさんはPT募集をしている方へと走っていった。やり取りも終わったようなので俺とハーレさんは樹洞の中へと戻っていく。光源募集をしている野良PTの一員のようである。メンバーが揃うまでは暇だったのかもしれないな。


「アルとハーレの知り合いかな?」

「うん、そうだよー! 蹴リスのレナさん!」

「あの人、あれで近接戦闘型だからな。何度かみんながログアウトした後に野良PTで一緒になった事があって、よく蜜柑とハーレさんの投擲用の弾との交換をしてるぜ」

「リスって近接戦闘いけたんだ?」

「私は殆ど使ってないけど、『噛みつき』とか『ひっかき』とか『蹴り』ってスキルは初期スキルであるよ?」

「そんなスキルあったんかい!? いや、投擲メインなら要らないのか」

「あったんだよー! そもそも投擲を上げるの勧めてくれたのってアルさんとケイさんじゃなかったっけ?」

「……そういやそうだった気もする」

「なんだかんだで投擲の弾はほぼ使い捨てだから、結構消費激しいんだよねー! 毎回投げたのを拾いに行く訳にもいかないし、これでも弾の確保は頑張ってるよ!」


 初めてゲーム内で会った時にフクロウの牽制から始まった投擲だったっけ。育て方次第で随分と変わってくるもんなんだな。投擲の弾はどうなっているのかあまり気にしていなかったけども、ハーレさんはハーレさんなりに弾の確保手段は考えていたらしい。そりゃ散弾投擲とか、見てるだけでも大量に小石を使ってるもんな。何処かで安定した補充手段は必要か。


「アルさんの蜜柑は結構便利だから、トレードアイテムとしてはバッチリなんだよ!」

「なるほどね」

「そういう事だ。一応俺は俺で色々やってるしな」

「あー、知らないスキルやらがいつの間にか増えてたりするもんな」

「……ケイ、その言葉はそっくりそのまま返すぜ」


 俺のログインしていない間のアルやハーレさんの行動が垣間見えた時であった。いつでも一緒って訳でもないし、それぞれ自由に行動する時もある。俺が知っていることばかりが全てではないというのは当たり前の話だけどね。


 それにしても持ってても使ってないスキルはあるんだな。俺も光合成やら毒生成やらは全然使ってないな。……毒はヨッシさんがどんどん強力になってるからいまいち使いどころが微妙。光合成はアルが水分吸収し過ぎてコケを含む植物を回復させた時に使ったけど、それ以外に何に役立つのかがいまいち不明。……ちょっと今度、光合成を上げてみるか。


「……ハーレさん以外に使ってないスキルある人いる? 俺は『毒生成』と『光合成』を全然使ってない事に今気付いた」

「あー、そういやケイも毒はあったな。……俺も『光合成』は使ってないか。『樹液分泌』や『養分吸収』もだな」

「あ、敵の集めすぎを懸念して使用を自重したあの『樹液分泌』か!」

「そういやそんな事もあったねー! その後、ケイさんが大岩で転がってきたんだよね!」

「確かそうだった。『樹液分泌』は今なら使ってもある程度は大丈夫かもな」


 あの頃のアルはまだ移動出来なかったし、ランダムリスポーンしかなかったから安全策を取っていたんだった。……そしてアル、養分吸収もあったのか。オフライン版では定番だった筈のスキルだったけど、なんで使っていない?


「ところで『養分吸収』を使ってない理由ってなんだ? あれってオフライン版じゃHP回復付きの根での攻撃じゃなかったっけ?」

「あー、それか。一番の理由はスキルの同時発動が不可の仕様で根の操作と併用が出来ないからだな。オンライン版の『養分吸収』って根の自動照準の攻撃で、攻撃速度が遅いんだよ。『樹液分泌』で集まってる一般生物の虫くらいなら簡単に捕まえられるんだが、今メインの成長体の黒の暴走種が相手だとな……?」

「え、アルさん、そういう理由だったんだ!? てっきり魔法をメインにしたいんだと思ってた!?」

「まぁそれもあるといえばある。一応レベルを上げれば『養分吸収』も使える速度の物理攻撃になるのは分かってはいるんだが……」

「あー要するにどっちも上げてる時間は無かったって訳か」

「ま、簡単に言えばそうなるな。だけどちょっと物理攻撃も上げといたほうが良さそうな気もするし、合間を見て『養分吸収』も上げていくか」


 スキルの数があればあるだけ熟練度の稼ぎに時間は必要になるし、仕方ないといえば仕方ないか。というか養分吸収はオンライン版だと自動照準か。オフライン版の手動の根の操作からのコンボ攻撃ではなくなってるんだな。……移動種と不動種や、魔法と操作系スキルとかのオンライン版の新仕様の影響で仕様の変わったスキルって感じか。


「『光合成』はどうなってる? 水の操作を取った時以来、全然使ってないんだけど」

「少しのステータス強化と水分吸収でのHP回復速度が上がるとかは聞いたぜ。だけど昼間の晴れの日しか使えんから、安定性に欠けるとさ。必須でもなさそうだから今のところは俺も使ってないな」

「あーなるほどね。確かに常時使えないなら安定性は微妙か」


 光合成はそういう仕様か。そりゃ群体化したコケが元気になって復活する訳だ。……でもHPのない俺の光合成って同じ仕様なのか……? 試しに上げてみる? でも安定性に欠けるのは変わらないから、悩みどころだな。……無駄な空き時間が出来た時に試してみる事にしよう。


「サヤとヨッシさんはどんな感じ?」

「私は少し前までなら『投擲』はさっぱり放置だったけど、使うようになってきたね。あ、でも『威嚇』は全然使ってないかも……?」

「私は『刺針』の使用頻度が低いね。『毒針』や『斬針』の方をよく使うから……」


 みんなそこそこスキルを持っているけれど、使用頻度の少ないスキルは少なからずあるらしい。まぁ何でもかんでも上げきれるわけでもないって事だな。分散し過ぎて器用貧乏になっても仕方ない。ちなみに『威嚇』は自身のLvより低い相手を追い払う効果、『刺針』はただ単に刺すだけらしい。……うん、そりゃ使わないよね。


 まぁ別に全部のスキルを使わなければならない訳じゃないし、いいか。それじゃ今日も常闇の洞窟へ出発だ!

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