第143話 ヨッシの合成進化
「それにしてもここも随分雰囲気変わってきたな」
「穴だらけだもんねー!」
「この感じだと結構な広さの池になりそうかな?」
出発する前にいつもの崖下を眺めてみる。ここも穴だらけになって結構雰囲気が変わってきている。まぁ工事現場みたいに雑然としているだけなんだけど。……池作りはどこかで本格的にやって、いくつかある穴を繋げて仕上げをしないとな。今度は結構な広さの池が出来上がりそうだ。……敷き詰める石が大量に必要だし、どっかで集めておかないと後々大変そうだな。
「さて、それじゃ行きますか」
「あ、少しだけ待ってて貰っていい? 少しいったんに聞いてくるから」
「分かったよ! ヨッシ、いってらっしゃい!」
「待ってるね」
そしていったんに相談しに一度ヨッシさんがログアウトしていった。さて、いったんがどこまで教えてくれるかは分からないし、どうなることやら……。場合によってはぶっつけ本番で試すしか無くなるだろうな。
それはそうとして、出発前にしておくべき事があったのを忘れていた。もしかしたら俺がログインする前にやってるかもしれないけど、これは割と重要なことでもある。
「アルは今のうちにリスポーン位置を再設定してたほうが良いんじゃないか?」
「あー、そういや昨日あっちのエリアで再設定してたんだっけか。そうだな、今のうちに再設定しておくか」
「あ、アル待って!」
「どうした、サヤ?」
「……それって『常闇の洞窟』の中では無理かな?」
「あー、どうなんだろうな? ……そうか、場合によってはセーブポイント代わりに使えるかもしれないのか」
「あ、そうなるのか。陸路じゃ初期エリア同士は複数エリア跨いでるって話だし、相当広いはずだもんな」
「死んだら入り口からやり直しは厳しいもんね!」
「うん。だから、アルには温存しておいてもらえないかな?」
「そういう事なら良いぜ。聞いてる限りじゃ群集拠点に帰るだけなら楽勝っぽいしな」
サヤが良いことに気付いてくれた。そっか、そういう事が可能になってくるんだな。現在地復帰不可の場所でログアウトしてしまえば、1つ前のエリア、つまり森林深部エリアに戻される訳だから帰り道の心配はいらない。逆に必要なのは死なずに先に進み続ける手段を確保する事だ。……これは移動種の存在が重要なのかもしれない。
「ただいまー」
「お、ヨッシさんおかえり。どうだった?」
「成長体でのアイテム使用の合成進化は『複合解除薬』で元に戻す事は可能だって。でもその先の進化については教えてもらえなかったよ」
「あーそりゃ残念……」
「うん、でも決めた。私は『合成進化』をやってみるよ」
「おー! ヨッシの進化だね!」
「おう、そう決めたなら良いと思うぞ」
ヨッシさんがそれで良いのなら問題ないだろう。……あれ、そういやアイテム使用での合成進化……? その言い方だとアイテム使用以外もありそうな言い方なような……?
「ヨッシさん、もしかしてだけどアイテム使用以外の合成進化もあるのか……?」
「え? あ、そういえばその言い方は気になるね。2枠目と合成でも出来るのかな?」
「……複合進化は色々とありそうだな」
「ま、それも2枠目作ってからか。ヨッシさん、進化はすぐにやるか?」
「うん、そうしようかな。そういえばアイテム使用の合成進化はゲーム内で出来るって言ってたような?」
「ゲーム外でやる合成進化がありそうだね! 融合進化とはまた別物かな!?」
「ま、今考えてても答えは出ないな」
「そうだね。それじゃ進化するよ。『合成進化』!」
そうしてヨッシさんは青白い光を放つ『進化の輝石・氷』をインベントリから取り出し、進化を開始する。『進化の輝石・氷』は強烈な青白い光を放ちながら砕け散り、その破片がヨッシさんの周囲へと漂い始めていく。そして球形の卵型ではなく、欠片同士が光の線で繋がっていき、その線に覆われた部分には青白い膜が形成されていく。少しの間を空けて、その膜が内部に吸収される様な形で消えていった。
行う進化によって演出も変わってくるんだな。そして進化したヨッシさんは今までとは随分様子が変わっていた。大きさはそれほど変わらないが、全体的には色が青白くなっている。そして羽ばたく度に、キラキラと極小の氷の結晶が舞い散っていた。
「進化終わったよ。『氷王バチ』で、属性は氷。特性は刺突と統率でそのままだね。少し魔力のステータスが上がった代わりに、攻撃が少し下がったかな? それでも全体的なステータスのバランスは良いみたい」
「ほんの少しだけ魔法寄りのステータスに変わって氷属性が増えた感じか」
「おー! やったね、ヨッシ!」
「まだだよ、ハーレ。『王毒バチ』の方がどうなったかが肝心なんだから。えっと……やった! そのまま残ってる訳じゃないけど、新しい進化先に変わってるよ」
「お、って事は成功か!」
「良かったな、ヨッシさん」
「具体的にどんな感じかな?」
成功したのは良かったけど、実際どんな風に変わったのかは気になるな。おそらく『王毒バチ』は毒に特化した進化先だったんだろうけど、それがどう変わったんだろうか。
「確認するからちょっと待って。えっと『氷王毒バチ』になってて、進化条件に『氷の操作Lv3』以上と『氷魔法Lv3』以上が追加されてるね。え、進化ポイントが全部30ずつ必要なの!?」
「……条件が厳しくて強い分だけ、必要な進化ポイントが多いって訳か」
「ヨッシ、ポイントは大丈夫?」
「ポイント自体は節約してたし、取得量も結構あったから大丈夫。あ、でもこれ転生進化だから死んで来ないと駄目だね」
「あ、そういやそうか。どうする? 死んでくる?」
「んー、ちょっと手間掛かりそうだし、洞窟の中でHP回復させずに進んでいくよ。それでHPが無くなったら未成体に進化するね。アルさんも一緒だからすぐに復帰できるし」
「それが良いか。成長体Lv20を倒してくれる敵ってのもまだあんまりいないしな」
それには時間もかかるから、HPを回復させずに洞窟を突き進むのは選択肢としては良いかもしれないね。ザリガニ辺りが健在なら楽だっただろうけど……ってあのザリガニって残滓化して残ってたりするんだろうか? 確認に行くのも面倒……でもないのか? エンからミズキへの転移も可能になったんだし、残滓化していれば楽だな。……そういや先のエリアって確認してなかったような気もする?
「なぁなぁ、今更と言えば今更なんだけどミズキの森林より先のエリアってどうなってるんだ? あとあのザリガニはどうなってる?」
「あ、そういや気にしてなかったね」
「正直それどころじゃなかったもんねー!」
「あぁ、それなら一応は確認しておいたぞ」
「お、流石アル!」
流石は情報担当の一員。多分、俺が寝てる間に仕入れた情報っぽいよな。地味にアルはアルで独自の情報網を構築している気もする。不動種と移動種で中継機能があったとは知らなかったし。
「話すのはいいんだが、時間が勿体無いから移動しながらにするぞ。『樹洞展開』!」
「引っ張らなくても良いのかな?」
「自力で歩いておかないと『根脚移動』の熟練度が稼げないからな。サヤも乗ってていいぞ」
「そっか。そういう事ならアルに任せようかな。お邪魔します」
「俺もお邪魔しますっと」
「やっほー! お邪魔しまーす!」
「こら、ハーレ。あんまり慌てないの! アルさん、お願いね」
そしてアル以外のみんなが樹洞の中へと入り、アルが移動を開始していく。俺はハーレさんの巣に置いてある石を持ってきて、そっちに移動しておく。魔法産の小石で土の操作をし続けてもいいけど、それすると行動値が回復しないしね。自分で移動する必要がない時はこれに限る。
移動しながらでも話をするのには充分だろうし、こっちの方が時間の節約にはなるもんな。今回の移動はそれほど急ぎでもないので移動は全面的にアルに任せよう。
「それで話の続きだが、ザリガニの方は残滓化して徘徊してるとさ」
「……湖に引きこもってるんじゃなくて、徘徊なのか……」
「そうみたいだぜ。徘徊といえばヤナギさんも徘徊してるらしいぞ?」
あの広いミズキの森林を徘徊しているザリガニを探すのは地味に面倒だな。……そしてまだ進化以外ではあまり会いたくはない。そしてヤナギさんもあそこでウロウロしているとはね。ミズキが群集支援種になったから役目が空いたのか。
「ヤナギさんって何やってるのかな?」
「結構良い割合回復の果物や素材を情報ポイントと交換してくれるんだとよ。ボーナス的なNPCショップになってるらしい。ただし、ザリガニ同様に位置は不確定だから会ったらラッキーみたいな感じらしいぜ」
「それって競争クエストで勝って占拠したボーナスって事なのかな!?」
「多分な。だけど、不穏な事も言うらしいぜ。『……いつまで占拠し続けられますかね?』ってさ」
「……それって確実に再戦のイベントフラグだよね?」
「ま、しばらくの間でもボーナスがあるのならいいだろ。流石に直ぐにって訳じゃないだろうしな」
「そりゃそうだ。勝っても占拠は1日で終わりとかになったらやる気無くすわ」
せめて最低でも1週間、出来れば1ヶ月くらいは占拠しといて欲しいところだ。……永続的なのは流石にゲーム的にも無しだろうし、後続のプレイヤーが競争クエストに参加できなくなるもんな。その辺は多分ちゃんと考えているんだろう。……再戦があった時は更に激戦になりそうだよな。お互い進化も進むだろうし、他の初期エリアからも強い人が来る可能性もある。……それは俺達の灰の群集も同じだけど。
「ま、ミズキの森林についてはそんなもんだ。で、そこから繋がるエリアだが、まだ地形的な情報しかないな」
「今はそれでも充分じゃないかな?」
「まぁ、確かにな。とりあえず北側は赤の群集の調査クエストのある平原へ繋がってるらしいぞ」
「……って事はあんまり俺達には関係なさそう?」
「行けない訳じゃないだろうが、南側も別の平原に繋がってるから微妙なところか」
「それなら無理に赤の群集の多い地域に行く意味はないかな?」
北側が赤の群集の調査クエストの平原で、南側にも別の平原があるのなら無理に行く必要もないか。クエストエリアって事は多分、ミズキの森林とかと敵のレベルも同じくらいだろう。何か特別な理由でもない限りは赤の群集の優先的なエリアになるんだろうな。
「ただ南側の平原は相当広いみたいで、平原の中でもいくつかエリア分けはされてるらしい。ま、基本的には今のところは素通り出来るが、先に進めば進むほど敵が強くなって死ぬ頻度が上がりまくるみたいだがな」
「ふむ、そういうパターンもあるのか」
「広い場所はそういう風になるのかな?」
「だろうな。ただ、未確定な情報も多いからまだなんとも言えないらしいぜ」
「それもそうだよね。ミズキの森林だけでも結構な広さがあったしね」
「だよねー! 自己強化ありで飛ばしても半分行くのに1時間近くかかったもんね!」
「そういやエリア名はどうなんの?」
「あーそれなんだが、初めはエリア分割されてる事は分らなくて単純に『名も無き平原』だったらしいが、元々設定されてるエリア端までいけば『名も無き平原・その1』とかに変わるらしいぞ」
「へー! そうなってるんだね!」
相当に広いエリアではそうやってエリア名の分割がされるのか。……今はまだ素通り可能って事は何らかの条件が整えばクエストが始まったりしそうだな。あんまり同時にクエストを並行しすぎてもプレイヤーが分散し過ぎてしまうから、それぞれのエリアでのクエストが一通り終わってからとかそんな感じだろうか?
「よし、北側と南側は分かった。東側は赤の群集の森林と俺らの森林深部だから、西側は?」
「ケイさん、西側は丘陵エリアだよー!」
「ぶっちゃけミズキの森林の西の方に行けば普通に見えるらしいんだがバタバタ移動しまくってたから、自分の目では見てないんだよな……。ちなみに更に奥が岩山らしい」
「え、そうなの? 気付かなかったかな……?」
「……普通に見えるのかよ」
「あれ、みんな見えてなかったんだ? そっか、昨日は雲に隠れてたから見えなかったかも。一昨日は私は見えてたよ。あ、でもアルさんの巣の位置や、地面のコケからだと見えないかも?」
「……なんでハーレさんは見えてるの?」
「私もまだ見てないよー! 貰ったマップに隣接エリアの名前が出てたんだよ! 『名も無き丘陵』ってね!」
「あー、なるほどね」
直接見ていたのはヨッシさんだけで、他のみんなは気付いていなかったようだ。西側の方向を見上げて、先のエリアを確認する余裕なんかなかったしな。これは仕方ないだろう。……ヨッシさんだけは自由に飛べて視点の高さが自由自在なので気付いていたという事か。
「ヨッシ! 次からは教えてねー!」
「うん、ごめんね。視点の違いを忘れてて、みんな気付いてるものとばかり思ってたからね。次からは余裕がある時は報告するよ」
「よろしく頼むぜ、ヨッシさん!」
「ヨッシ、お願いね」
「うん、任せて」
次回からは話している余裕があれば、出来るだけ報告するという形で落ち着いた。まぁ流石に戦闘中やらザリガニの誘導中とかには無理だしね。
「よし、ちょうどいいタイミングでエンのところに着いたぞ」
そして話しているうちに目的地のすぐ側まで辿り着いていた。それじゃ海エリアと、アルのレベル上げと、クエスト進捗も兼ねた常闇の洞窟の踏破へレッツゴー!
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