第142話 みんなの要望


 いきなりこういう事態があるとは思ってなかったけど、万が一思った通りの進化にならなければこの手段を使うしかないだろう。すなわち課金アイテムである『複合解除薬』の使用を。……まぁぼったくり価格でもないし、壊れアイテムって訳でもないからこのくらいなら使っても良い気はする。


「やっぱりそれしかないかな? 出せない訳じゃないけど、月額は払ってるからあんまり追加は出したくないけどね……。でも毒と氷の2属性の可能性は魅力的……」

「もしくは先に『王毒バチ』に進化してから合成進化が可能かどうかだな。こっちは多分やり直し出来ないけど、それでも『纏属進化』は使えるから全く駄目って訳ではないと思うけど」

「あ、そっか。その手もあるね」


 確かに悩みどころではあるのは間違いないな。毒と氷を両方持ってたら結構戦法の幅が広がるだろう。俺も持ってたのが樹ではなく氷だったなら悩んだかもしれない。……いやまぁ纏樹自体もそれなりに気に入ってはいるんだけど、あれは一時的だから良いんだよな。


「うん、1回いったんに相談してみて、もう少し考えてみる」

「すぐに決める必要もないもんね!」

「……そういやヨッシさんの『王毒バチ』って変異進化と転生進化のどっちだっけ?」

「あれ、言い忘れてた? 転生進化の方だよ」

「転生進化の方か」


 じっくり考えてから結論を出すのも良いだろう。とりあえずヨッシさんは合成進化と転生進化の組み合わせを試せるかどうかで悩んでいた訳だ。みんなにも相談したんだろうけど、同じ進化の輝石持ちの俺に確認したかったって感じかな。……みんなの進化状況も確認しておこうかな。


「サヤとアルとハーレさんは進化はどうするんだ?」

「私は基本の強化の転生進化しか出てないから、他の進化先が出るまで粘りたいかな? それか共生進化を試してみたいとも思ってるよ」

「私はこのまま共生進化はせずに単体で強化していくよー! でも私もサヤと同じで通常強化しか出てないから方針はサヤと同じ! 共生進化も試してみたい気も無いわけじゃないけど、私はある意味既にアルさんと共生しているからね!」

「あーそういやそうなるのか。そうか、小動物と木との共生進化って俺とハーレさんの状態みたいなのになるのかもな。……となると、どうしたものか」


 サヤは別の進化先を狙いつつ、可能であれば共生進化を狙う。ハーレさんは共生進化を使わずに、このまま変異進化か転生進化で強化を目指すか。で、2人ともが共通するのが別の進化先が出るまで粘るってとこか。まぁ選択肢を増やしたい気持ちも分かる。

 ……競争クエストでちょっとレベルが一気に上がり過ぎたもんな。単純に進化階位を上げるだけならあれでも良いんだろうけど、変わった進化先が出にくくなるのが欠点か。


「アルはどうするのかな?」

「俺はそうだな……。ハーレさんの言うように既に共生済みみたいなもんだしな。だが、牽引役の専用キャラを自前で用意するというのも有りだとは思ってる。だから一応は共生進化だな」

「……それはありかもな。となると大型動物系か?」

「おー! アルさん、そういう方向もありなんだね!」

「毎回毎回サヤに引っ張って貰うのもな? つってもどの程度の操作が出来るもんかはやってみないとわからないけど」

「あー『共生指示』と『半自動操作』だっけ。スキルの仕様がまだわからないしな」

「まぁな。その仕様次第か。どっちにしても共生進化をする必要もあるし、そもそも2枠目がまだだから、俺はまずLv20だな」


 アルの場合まずはそれが最優先だな。Lv20になってからじゃないとどれも出来ない話だし、順番を間違えたら駄目か。


「それもそうだな。アルは進化先はどうなってる?」

「まだなんもねぇよ。そういやケイは進化はどうするんだ?」

「俺か? とりあえず共生進化を目指してみようかと思ってる。……ベスタがやってた融合進化ってのが気になってるんだよ」

「あー、あれか。確かに気になるな」


 融合進化という名前的に、2枠を使って共生している状態とはまた違う別の何かの様な気はする。だけど、具体的な事は何もわからないんだよな。共生進化状態で、変異進化や転生進化がどうなるのかも気になるし。他の進化が実行できるのか、実行できないのか、はたまた別の何かに変わるのか、それを試してみたい。……もしかしたらその1つが融合進化なのかもしれないし。


「サヤは見てたんだし、ベスタの融合進化についてなんか分からないか?」

「んーじっくりとは見れてなかったけど、なんとなく想像はつくかな?」

「ほう、どんな感じ?」

「多分、あれって共生進化の状態から派生する進化じゃないかな。多分、オオカミとコケで融合進化したんだとは思うけど……」

「具体的にベスタってどう戦ってたんだ?」

「んー、何ていうのかな。姿が消えたと思ったら、全く別の場所から現れてね? その読めない動きに翻弄されてルアーさんは倒されてたよ」

「マジか……」


 ベスタの姿が消えて、全く別の場所に現れる……? まるでコケの群体化による擬似的な瞬間移動じゃないか。……もしかして融合進化は元になる種族の性質を引き継ぐのか……? ……なんにしても情報不足過ぎる。これは2枠目を育てて自分で試してみるしかないか。


「んで、2枠目ってどうする?」

「私は海行きたい! それでクラゲになって漂いたい! はっ!? クラゲで空中浮遊を取得して、リスと共生進化で空中からの狙撃もありかな!?」

「気球かよ!? いや、パラシュートか!? でもそれはそれでありか?」


 空中からの狙撃、それはそれでありかもしれない。飛べる相手には要注意ではあるけど、飛べない敵相手には絶対的な有利になる。共生進化はいつでも解除可能だし、試してみるのもいいかもしれない。


「私も海には興味あるかな。……クマと相性の良さそうな海の生物って何かいないかな?」

「貝とかで防御とか?」

「もしくは海藻を巻き付けてとか……? あ! 珊瑚で全身鎧化するとか!?」

「……出来るのかな、それ?」

「実際に誰かが共生進化をやってみないとわからないな……」


 まだ全然具体的な事が分かってないんだ。推測だけでは限界がある。……でも色々と試せそうで面白そうだ。いったんは相性があるとは言っていたから、相性の良い組み合わせを探すのもそれはそれで楽しそう。


「ケイさんは!?」

「俺か? みんなが知ってるやつにしてみようかと思ってる」

「……みんなが知ってるやつ?」

「……もしかしてケイさん、ザリガニにするつもり?」

「お、ヨッシさん。正解!」

「あー! そういや海の方にロブスターってあったもんね!」


 格上の未成体だったとはいえ、自己強化ありのサヤとベスタの2人体制と同等のあの移動速度。そしてあの甲殻類なら表面にコケを覆わせての共生進化も案外成立するんじゃないかという期待はある。あとどうせなら変わった種族をやってみたい。

 あの戦った水砲ザリガニは魔法主体だったっぽいけど、物理攻撃力もありそうだからな。魔法はコケで2枠目を物理にしてみたかったりもする。


「あー海なら、イルカとかでこの木を引っ張って水上スキーみたいなのをやるってのもありか。海だからって海中しか移動しちゃいけない訳じゃないだろうし。まぁスキル次第にはなりそうだが」

「となると、ホバークラフトの要領で風の操作が必要か?」

「ま、そんなとこだろうな。水の操作で代用出来る可能性もあるだろうが、試してみないことにはな」

「おー、アルさん、ケイさん! それ、いいね! 水上スキー、やってみたい!」


 実際に出来るかはやってみなければ分からないけども、こうやって想像してみるだけでも楽しくはある。……これは『半自動制御』と『共生指示』のスキル内容を早めに知っておく必要がありそうだ。その仕様次第で可能か不可能かが分かれてくるもんな。


「みんなもう海に行く気満々だ。んー私は特に希望もないから、いっそ海でランダムにしてみようかな」

「ヨッシはランダムにするんだ?」

「ハチと相性のいい海の生物って思いつかないしね。別に絶対に共生進化をしなきゃいけない訳じゃないんだし、それでもいいかなってね」

「それもそうだ。別に共生進化は必須じゃないもんな」


 下手に複合進化をすれば操作が複雑になるっていったんも言ってたからな。でも折角だから2枠目は作りたいのもまた事実。共生進化の有無は別として、是非とも海には行ってみたい。


「どっちにしても、ケイとヨッシさん以外は海エリアまで行く必要性はありそうだな」

「そうだねー! ってなると群集クエストの進行も含めて『常闇の洞窟』の踏破だね!」

「そうなるね。多分、その途中でアルもLv20になるかな?」

「それじゃ、今日の目的は『常闇の洞窟』の海へと繋がるルートへ進む事だね」

「それっぽい場所までの地図は埋まってるから任せとけ!」


 以前単独で突入した時に海水の地下湖は発見済み。あれが間違いなく通じているとは断言は出来ないけど、可能性があるのは間違いない。海の属性持ちの黒の暴走種を探して、進化の軌跡・海の欠片を集めて、海エリアへの洞窟へ向かってみようか!


 その道中で、アルのLv20とサヤとハーレさんの未成体への新しい進化先の出現を目指す。……まぁ後者は条件が分からないので運頼りにはなるけども。……これは群集拠点種の強化のクエスト始まってて良かったかもな。アル以外のみんなはLv上限に達していて経験値が溢れるけど、クエストのおかげで全くの無駄という訳ではない。むしろレベル上限に達している状態のほうが群集拠点種へ渡される経験値が増えてクエスト的には美味しいのかもしれない。

 ……群集拠点種が強化されたら具体的にはどうなるんだろうか?


「それじゃ今日も洞窟探検だね!」

「今日は昨日とは別ルートかな? ケイの前に通ったルートが良さそうだよね」

「俺は本格的にあそこへ入るのは初めてだな」

「よし、今日はアルがいるから攻撃がやりやすい!」

「私も巣のボーナスで威力アップだね!」

「それじゃ『常闇の洞窟』へ出発! 目標は海エリアまでの経路確保!」

「「「「おー!」」」」


 そうして本日の目的は決定した。未成体への進化は少し待つことになるけど、別に焦ってやる必要もないし、のんびりとやればいいだろう。別にトップ争いがしたい訳でもないからな。

 まぁ競争クエストとかボス戦はやり甲斐もあるから可能な範囲で挑戦はしたいけど、無理をしてまではやる気はない。ゲームは楽しくやるが俺の基本方針だ!


「……その前にみんな、泥落としていくか」

「あ、そういやそうだな。よし『アクアクリエイト』」

「ヨッシ、いくよー!」

「え、ちょ!? ハーレ!?」

「ケイ、水をお願いしていいかな?」

「……おう」


 アルは自分で覚えたての水魔法で洗い落とし、ハーレさんはヨッシさんを両手で掴んだ状態で岩風呂……小さな池に飛び込み、サヤは俺に頼んできた。うん、それぞれの個性が出ているよね、この状態。

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