第138話 競争クエストの終わり
すぐに往路の実を使い、ヤナギさんの元へとみんなで転移していく。そして転移した場所には色んな種族が大量に集まっていた。色んな種類の木、クマ、ヘビ、イノシシ、フクロウ、小鳥、トカゲ、シカ等など数えきれないほど集まっている。そして賑やかに談笑しつつ、俺たちの方を見ている。……いや、その背後をだろうか?
「うわ!? 人、多いな!?」
「あ、みんな! こっちこっち! 何とか半覚醒の暴走種に勝ったんだね!」
「おう、サヤ! そっちはどうだった?」
「……私は水月さんに負けちゃったかな……」
「……そっか。今回は負けたか」
「次は勝つつもりだけどね!」
転移してきた俺達を見つけたサヤに手招きされたのでそちらへと向かっていく。水月さんとサヤのリベンジマッチは、今回は水月さんが勝利を収めたらしい。……水月さんはやっぱり強い。サヤだって結構強い筈なんだけどな。
そしてそこにベスタがやってきた。その表情はどことなく誇らしげな感じがする。
「おう、来たか。お前ら、良くやった!」
「ベスタはルアーとの戦いはどうなった?」
「ふん、この俺が負けるとでも?」
「……よく言うよ。とにかく勝ったんだな?」
「負けたやつもチラホラといるが、あの場所での戦いって意味では俺らの勝ちだ。そうじゃなきゃここでのんびりはしてねぇよ。それにルアーを筆頭にあそこにいた赤の群集は全員、拠点へと送り返してやったぞ」
「それもそうか。で、今はどういう状況?」
明らかに競争クエストの真っ最中で戦っているという雰囲気ではない。……むしろこれはその後の光景。まだクエストクリアのメッセージは出てないと思うんだけど、気を抜き過ぎているような?
「往路の実を使わずに持ってて良かったな。これからクエストクリアだ。後ろを見てみろ」
「……後ろ?」
「あ、あれが瘴気の石!?」
「ヤナギさんが光ってる?」
言われた通りに後ろを見てみれば以前に常闇の洞窟を開放した時に見た石とよく似た禍々しいオーラを纏う石と、その前で根を下ろし、葉が光っているヤナギさんがいた。これはクエストの最終段階の目前か?
「位置的な運が良かったみたいでね? ヤナギさんの位置から視認出来る位置に、あの石が出てきたんだ」
「マジか! え、そんなに近かったのか!?」
「でも今の位置を考えたらそれほど不思議でもないかも?」
「あ、ここほぼマップの中央だよ! ヤナギさんは少し前にこのすぐ西の辺りに居たからすぐ来れたんだね!」
「……すぐに目撃情報が出た時点で分かってた話でもあるか」
「……そういやそうだな」
すぐに瘴気の石が発見された時点で、目撃したプレイヤーが近くにいた訳で、その近くにヤナギさんが居たのならば誘導は楽勝だろう。少し東の位置って言ってたからもう少し離れているかと思ったけど、思った以上に近かったようである。目視可能な距離とか超ラッキーじゃん。
そしてこれだけの人数を相手に、これから赤の群集が阻止するのはもう不可能。だからこそみんなもう気が抜けているって事か。
「ベスタさんは往路の実で来たんだよね」
「ルアー共を一掃してからな。赤の群集にも結構な強者が揃ってるもんだったが、ルアーに比べると一段落ちるな」
「いや、それはベスタが進化したからじゃないか? ……具体的にどういう進化でどう戦ったんだよ?」
「……言っても良いが、前にも言ったようにネタバレだぞ? それにこれは予め聞いておくのはお勧めしない」
「私も聞きたいけど、そこまで言うなら我慢しようかな?」
「まぁネタバレっていうならやめとくか」
「でも進化したベスタさん強かったよね。見た事もないスキルを使ってたし」
「……そんなに凄いのか?」
未成体に進化したとはいえ、そこまで極端に変わるものなのか……? 使い方とか言ってるし、もしかして何か大きく変わる要素がある? ……もう少しで2枠目解放だし、自分で探ってみよう。
「ねーサヤ! ここまで大人数な理由は!?」
「えっとね、元々のヤナギ護衛チームの人達に加えて、負けた人たちがどんどんここに集まってきてて、この状態になったかな。まぁ私もその1人なんだけどね」
「なるほど! そっか、その状況ならそうなるよね!」
「何度か赤の群集も攻めてきたけど、流石にこれだけ人数がいればね?」
位置的にもどこにも増援に行けないならば、ここだけは死守しようとみんなが考えたのかもしれない。湖突入チームの最終目的地はヤナギさんのところだから、それも含めてここに揃っているのだろう。何よりもここにいれば、成功さえすればクエストの完了演出が見れる可能性が一番高い場所だしな。
「クエスト的にはどんな段階?」
「集めた『浄化の欠片』をエンに送って、『浄化の実』を生成中だとよ」
「ここからが見所かな」
『……皆さん、ご協力ありがとうね。『浄化の実』が完成しました。これから瘴気の石を排除します!』
厳かな雰囲気の中、地中から光が伝わりヤナギさんの幹の中を光る何かが通っていくのが見える。やがて葉の生い茂る枝へと辿り着き、光り輝く実が生っていく。間違いなくあれが『浄化の実』だ。前に見た時はこれほど神々しさはなかった気もするけども、あれは周りの様子が幻想的過ぎただけなのかもしれない。
そして浄化の実が瘴気の石へとぶつかり、禍々しいオーラが消え去った。それと同時に塞がれていた大地の脈動が開放されて、淡く温かい光が満ちていく。
『では、これから私がここの不動種へーー』
『待ってくれ、ヤナギ』
『あなたはミズキ!? 戻ってこれたのね!』
そこに現れたのは、見た目はグレイと大差のない幽霊っぽい姿をした精神生命体。……これも演出の一部かな? というかヤナギさんの喋り方がなんか物凄く真面目だ。どことなくゆるっとしたおばちゃん的な雰囲気はまるでない。
『その役目、私にやらせて欲しい。私を解放してくれた者達の為にも』
『……今、グレイから事情は伺いました。それではここはお任せしますね』
『すまない、そしてありがとう。精一杯やらせてもらう。私のような者を解放していく為にもな』
『それでは余った『浄化の欠片』を使い、私の進化情報を元に新たな実を作りましょう』
『あぁ、そうか。私にも新たな身体が必要なのか』
ヤナギさんが余分にあった浄化の欠片を取り込み、先程の浄化の実とは違い緑色に輝く新しい実が生成され、ミズキと呼ばれていた精神生命体へと渡される。そしてその実の中にミズキが入り込み、浄化の要所へと埋まっていく。……このミズキって、もしかしてさっき倒したミズウメか?
そしてその実は芽が出て急激に成長していき、立派な木が誕生した。……何の木かよく分からないが、エンによく似ていて、少し小さくしたエンのようである。そしてエンが誕生した時ほどではないけど、周囲の草木も淡い光を放ち始めていく。その幻想的な光景にプレイヤーのみんなは声を上げることなく魅入っていた。
『自己紹介がまだだったな。私はミズキ。同胞達にはこう言った方が分かりやすいかもしれない。黒の暴走種となっていた『ミズウメ』と言えば分かるだろうか? 同胞達には助けてくれた事に感謝する』
『それじゃ、後はお願いするわね。……そういえばあなたと同じような黒の暴走種がいたはずね? どうしましょうか?』
『……同じ状況という事に同情はするが、対立している以上は放置しておきたい。……と言いたい所だがそうも言っていられないようだな。あちらの流れも正常化する必要がありそうだ。不本意ではあるが初仕事として、排除しておこう』
『……流れの正常化を確認したわ。もうあの場にはいないようね』
『あぁ、これでこの場でやる事は完了した。……だが、やはりグレイから聞いた通り淀みが酷いな。……もし何かあったとしたら、また同胞たちの力を貸してくれ』
やっぱりそうだったか。あのミズウメがこのミズキだったって事になるんだな。そしてあのもう1体の赤の群集側の半覚醒の黒の暴走種は排除出来たわけか。そして意味深なセリフを吐いていくね。……そのうち、なんかありそうだな。
<競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き森林』が完了しました>
<『名も無き森林・灰の群集エリア2西部』を灰の群集の『群集支援種:ミズキ』が占拠しました>
<他の群集のプレイヤーへの攻撃は通常仕様に戻ります>
<『往路の実(限定)』『復路の実(限定)』は使用不可になり、廃棄されました>
<『競争クエスト情報板』が使用不可になりました>
<『群集支援種:ミズキ』と『群集拠点種:エン』とのネットワークの構築が完了しました。両地点同士の任意の転移が可能になります>
<『群集拠点種:エン』での交換可能アイテムが追加されました>
<参加ボーナスとして経験値を獲得しました>
<参加ボーナスとして情報ポイントを100獲得しました>
<勝利ボーナスとして情報ポイントを300獲得しました>
<ミズキの群集支援種化ボーナスとして情報ポイントを200獲得しました>
<ケイがLv20に上がりました。各種ステータスが上昇します>
<Lvアップにより、増強進化ポイント1、融合進化ポイント1、生存進化ポイント1獲得しました>
<Lv上限の為、過剰経験値は『群集拠点種:エン』に譲渡されます>
<使用キャラクター枠の2枠目が解放されました>
<新たに複合進化が解放されました>
<チュートリアルクエスト『キャラクターの2枠目』の受注が可能になりました>
って、クエスト終わったら一気に来た! えっと、こことエンの間は行き来自由になるのか。うん、それほど遠くはないけど、移動は楽にはなるか。こっちでやりたい事があればすぐに行けるのは楽ではあるしな。あとは戦闘仕様は元に戻って、限定アイテムは使用不可か。これは当たり前の措置だな。
エンでの交換可能アイテムの追加もいいね。後で何が追加されたのか確認しておかないと。そんでもって、参加ボーナスで情報ポイントと経験値がLv上限を超えて手に入った。溢れたっぽいけど、まぁエンの強化に回るのなら良しとしよう。
気になるのはミズキの群集支援種化のボーナスだな。……これはもしかしたら攻略方法によっては手に入らなかったボーナスだろうか? もしかして、ミズウメをザリガニを誘導する事で倒していたら無理だったとか?
……この感じだとザリガニ討伐ボーナスとかもありそうだ。勝利ボーナスとは別になってるから、もしかしたら赤の群集ではザリガニ討伐ボーナスが貰えてるのかもしれないな。
そんでもって、Lv20到達だ! 2枠目解放に、複合進化とやらが解放されたぜ! ……この複合進化がベスタがやっていた融合進化とやらに関係しているんだろうか。……うん、これはいったんに聞いてみれば良いか。……進化項目が光ってるって事は別の進化先も出たっぽいけど、確認してみるか。チュートリアルクエストは後でやればいいな。
<命名クエスト『命名せよ:名も無き森林・灰の群集エリア2西部』を開始します>
<本クエストは現在ログイン中の【競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き森林』】の参加者に限定されます>
<以下の選択肢より、1時間以内に好きなものを選んでください。最も多かった選択肢が新しいエリア名となります>
【命名候補】
1:闘争の森林
2:灰の森林
3:ヤナギの森林
4:ミズキの森林
ってまだあった!? 進化の確認は後回しー! 命名クエストって、そういやここは名前がないエリアだったっけ。命名するのは選択式なんだな。……誰かが自由に設定って訳にもいかないか。特に誰が1番とかのランキングも無かったわけだし。
「クエスト終わったと思ったけど、最後にこういうのがあったんだね」
「これはどれが良いかな!?」
「とりあえず1と2は無いかな」
「闘争の森林とかいいじゃねぇか。俺は好きだぜ」
「お、ベスタもか。俺も好きだぜ、そういうの。やっぱり気が合うんじゃねぇか? どうだ、ベスタもオオカミ組に……」
「だから何度も断ってるだろうが! しつこいぞ!」
「ちっ、結局1番個数が多かったのはボスかよ」
「仕方ないっすよ。そういう勝負だったんっすから」
「俺はボスならベスタがいいな……」
「俺も同感だ」
「だから、何度も断ると言ってる! しつこいぞ、オオカミ組!」
「何やってんだか。俺としちゃ、ケイさん達の戦いを見てたからにはミズキの森林だな」
「僕はヤナギの森林かな? ライルはどう?」
「これは悩みどころですね……。紅焔はどうです?」
「んー、俺は闘争の森林か……いや、でもなぁ……」
ここに集まっている灰の群集のみんながそれぞれに悩み出している。それぞれに違った反応があって見ていて面白い。わいわいと賑やかに、みんなでやり遂げた感があって良いな。
「アルはどうする?」
「俺はミズキの森林だな。最後に戦ったってのもあるが、このエリアの象徴みたいなもんでもあるだろ?」
「あ、それもそうだな」
アルの言う事ももっともだし、俺としても俺達としては最終戦だったミズウメ……ミズキとの事もあるのでそれに関わる名前にしたい。ここはミズキの森林に1票を入れておこう。
そうしてみんなで騒ぎつつも悩みながら投票をしていると、そこに赤の群集の集団が現れてきた。……もうクエストは終わったんだから戦う必要はないけども、流石にみんなに緊張が走り賑やかな雰囲気が霧散していく。……ルアーたちが負けてからここに来るまでに必要なだけの時間が既に経ってたのか。
「……勝った側はそういうクエストもあるんだな?」
「ルアー!? くそ、まだやる気か!?」
「……クエストは終わったんだからもうやらねぇよ。……個人的に勝負を受けてくれるってのなら話は別だがな?」
「……流石にこれからは勘弁。また今度な」
「なら、次の機会を期待しとくぜ」
「……で、何しに来たんだ?」
「特殊演出くらい見に来たって構わんだろう?」
「あ、そういう事か」
その発言を聞き、みんながホッとして力が抜ける。赤の群集からは演出を見せろと野次も飛んできている。大方の演出は終わったとはいえ、まだ幻想的に光っている状況は続いているし、それを見たいだけなのだろう。クエストが終われば盛大な戦いは無しということだな。
「それに赤の群集はこのエリアでの戦闘にはペナルティ付きになったから、戦おうって奴はいねぇよ」
「ペナルティ……?」
「負けた時のデスペナ2倍の上にランダムリスポーン以外は不可だ。そんなエリアで戦ってられるか」
「あ、そういう風になるのか」
灰の群集にとっては赤の群集があまりやって来ない比較的安全なエリア、赤の群集にとってはリスクの高いエリアという事になるのか。これは色々な実験用エリアとして役に立つかもしれない。森林深部と比べたら平坦だから、岩が転げ落ちていくとかいう心配もないだろうし。
「あぁ、そうだ。そっちに情報があるかはしらんが、これは教えといてやるよ」
「……何をだ?」
「こっちの群集支援種が再戦がある可能性を示唆してたぜ。その内、競争クエストはまたあるかもな。その時は負けないから覚悟しておけ、ベスタ、ケイ!」
「良い情報をどうも! こっちこそ次も負けないからな!」
「そう簡単に俺らを倒せると思わない事だな」
ルアーからの挑発というか宣戦布告を受けた俺とベスタも言い返す。こっちだって簡単に負けてやるつもりはない。今回は俺はルアーとの直接対決にはならなかったけど、再戦があるのであればまた戦う機会もあるだろう。ミズキもなんだか意味深な事を言ってたしな。
「おい、赤の群集! 程々の所で帰ってこいよ!」
「分かってる!」
「心配いらねぇよ!」
ルアーがそう告げてから、赤の群集の面々は口々にそう言っていた。そして少し前までの殺伐とした戦いの雰囲気も何処かへと消えていき、群集に縛られず各々が言葉を交わしていく。そしてルアーは先に立ち去っていった。多分赤の群集拠点へと帰ったんだろう。
ここにいる人達を見てて思ったけれど、負けて悔しいと思っている者はあまりいないようだった。多分そういう人達はここには来ていないんだろうな。
「あ、コケのアニキ、発見!」
「どうも、皆さん。先程ぶりです」
「あ、アーサーくんに水月さん!」
「水月さん、次は私が勝つからね!」
「勝ち越しさせていただきますよ、サヤさん!」
「アニキ達、強いよなー!」
「アーサーも少しは強くなったんじゃないか?」
「俺はまだまだだって!」
「そういや、フラムの奴は? 不動種だとやること無いか?」
「フラム兄なら、森林エリアで戦闘中継やってた!」
「戦闘中継? そんなのあるの?」
「あ、ヨッシさんは知らないのか。不動種は同族同調の視界映像を外部に投影出来るスキルがあるんだよ」
「え、アル、そんなのあったのか!?」
「もちろんエリア超えになると制限はあるけどな。不動種は動けない分、移動や攻撃以外のスキルが割と豊富らしくてな?」
「アル、その制限って何だ?」
「フレンドの移動種に限定されるんだよ。俺はしてなかったけど、その辺に中継やってた移動種の奴も結構いるんじゃないか?」
「マジか!? え、知らずに中継されてた可能性あんの!?」
「まぁ、あるだろうな」
「俺、拠点でそんなの見たことないんだけど!?」
「そりゃいつでもやってる訳じゃないからな。大きく動きがある時にしかやらねぇって」
「中継されてた側だと知らなくても仕方ないよね!」
「確かにそうかもしれんけども!?」
<命名クエスト『命名せよ:名も無き森林・灰の群集エリア2西部』が完了しました>
<『名も無き森林・灰の群集エリア2西部』を改め『ミズキの森林』へと名称が変更になりました>
思いもよらない情報が出てきたりして、話していくうちにゲーム内での夜明けが近付き徐々に朝焼け空に染まっていく。
そして、このエリアの新たな名称は『ミズキの森林』に決まったようである。赤の群集と灰の群集の入り混じった競争クエストの最中とはまた違った大騒ぎは仕様変更の為の緊急メンテナンスまで続いていった。
【ステータス】
名前:ケイ
種族:水陸コケ
所属:灰の群集
レベル 19 → 20(上限)
進化階位:成長体・複合適応種
属性:水、土
特性:複合適応
群体数 154/3600 → 154/3700
魔力値 74/74 → 74/76
行動値 44/44 → 44/45
攻撃 43 → 45
防御 51 → 53
俊敏 42 → 44
知識 69 → 72
器用 69 → 72
魔力 94 → 98
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