第136話 競争クエストの激戦
「他のチームはどうなってる?」
「湖突入チームは『特性の実』を持ってる奴は一度拠点に戻ってからエリア切り替えに向かっているらしい。ヤナギ護衛チームは合流が始まったそうだ」
「マップの端から直接向かうよりはそっちのほうが早いか」
「ヤナギさんは今はどの辺りだ?」
「えっとね、マップの中央の西寄りの辺り!」
「くそ、また出たぞ!」
「こうなると普通の黒の暴走種は邪魔なだけだね。『ポイズンボール』!」
「そうっすよね! 『強爪撃』!」
他のチームは散発的に赤の群集との衝突もあるみたいだけど、比較的順調なようである。一番重要なのは俺達だな。ちょいちょい普通の黒の暴走種が飛び出てきて、移動に専念する俺やアル、サヤ、ベスタ以外のメンバーが仕留めていく。……そしてあまり多くない経験値ときて本当に邪魔でしかない。
「サヤ、ベスタさん、もうちょい左方向! そっちに拓けた場所があるよ!」
「こっちかな?」
「うん、そうだよ!」
「そこが第二陣の増援だったな。……また時間稼ぎが必要か」
そろそろ全行程の3分の2が見え始めてきた。そろそろ回復に時間を稼ぐ必要がある。デカいとはいえザリガニは1メートルちょっとの大きさだ。森の中だとこちらの攻撃も通しにくい上に、人数が人数なので互いに誤って攻撃する事が何度かあった。ダメージがないのが幸いだったけど、ザリガニはお構いなしに木ごとぶっ飛ばしてくるのである程度の拓けた所でなければ人数の有利が活かせない。
「ザック、増援の方はどうだ?」
「もう待機に入ってるぜ。ちっ……おい、不味い情報が入った! しかも事後報告かよ!?」
「どんな情報だ?」
「赤の群集のこっちのヤナギに当たるやつがこの先に回り込んできてる! そこに赤の群集の連中が集結していたって事だ! 激戦で殺られるまでは書き込む余裕が無かったらしい!」
とうとう赤の群集もこっちの動きを察知して動き出したか。あれだけ大人数で仕留めていれば流石に異常に気付くよな……。……もしかしたらルアーのPTも動き出しているかもしれない。
「ザックさん! その中に特徴的な奴はいなかったか!?」
「ちょっと待て、今聞いてみる!」
「……ケイ、誰か気になる奴がいるのか?」
「ちょっとな……? このクエストを始めた頃に向こうのリーダー格のPTを倒してるからな」
「……あぁ、川魚のルアーって奴か。確かにログインしていれば出てくる可能性は充分あるな」
「そういう事。纏風を使われてたら厄介だぞ」
「あーその悪い予想は大当たりみたいだ……。やたらと強い魚が大暴れした後らしい」
嫌な予感が当たっていたようだ。ルアーがこのタイミングでここに参戦してくるのか。そして大暴れ済みと……。これは厄介な事になってきた。
「……やっぱり来るよな、ルアーなら……」
「ルアーが来てるなら迂回するか?」
「いや、おそらく狙いの位置は予測されているはずだ。それに……」
「みんな、危機察知に反応ありだよ! 緊急回避!」
「ベスタさん、右に急旋回!」
「やはり来たか! アルマース、衝撃に備えろ!」
ハーレさんの警告に合わせて、サヤとベスタが右方向へと一気に曲がる。そして遠心力でアルが弧を描く様に振り回されていく。そして勢いがあり過ぎたため、アルの根が地面から浮いた。ってこりゃやばい!? 水の操作で滑るのに使っていた水を即座に水の防壁へと作り変えて、アルを受け止める。
「おわっと!? ケイ、ナイス!」
「『アクアボム』」
「誰だ!?」
「奇襲かな!?」
そしてその回避直前まで俺らがいた場所にあまり速くはない水球が通り過ぎて、俺達を追いかけてきていたザリガニへと直撃する。その途端に水球が強烈な勢いで爆発し、ザリガニのHPが一気に減る。なんだ、今の水球!? 赤の群集の奇襲か!?
「ちっ、外したか。まぁいい、邪魔なものから始末するか。『魔力集中』『並列制御』『アクアボール』『アクアボール』『回刃鱗』」
6発の水弾が撃ち出され、その後に青いオーラを纏った1枚の大きな鱗が激しく回転しながらザリガニへと襲いかかる。水弾で滅多打ちにし、鱗で切り刻み、あっという間にHPを減らしていく。……知らない技も多いけど、多分これは……。
そして地面をペタペタと歩きながら川魚が歩いてくる。その姿は以前よりも大きく、ヒレや鱗は刃物のようになっている。随分と物騒な姿になってるじゃないか。
「よう、また会ったな。それにしても色々やってくれてるみたいだな、ケイ。……にしても随分と頑丈だな、このザリガニは」
「……随分とまぁあっさりとダメージを与えてくれるもんだな、ルアー!」
「そりゃな。こっちは妨害ついでにリベンジマッチに来てるんだ。ザリガニ、てめぇは色んな意味で邪魔だ。『アクアボム』」
そしてルアーの作り出した水球がまたもザリガニに襲い掛かり爆発し、吹き飛ばされHPがごっそりと減る。まだ倒されてはいないけど、この調子ならあっという間に倒されてもおかしくはない。
それにしても見た事も聞いたこともないけど、あれはもしかして水魔法Lv4……? Lv3は拘束用の『アクアプリズン』のはず……。てっきりザリガニの高圧水流みたいなのがLv4かと思ったけど、あれは別物か……?
「お、コケのアニキ! やっほー!」
「こら、アーサー! 流石にここは空気を読みなさい!」
「……ともかくだ、この先に行きたければ俺達を倒していくんだな。……とっととくたばれ『アクアボム』」
後ろの木々から出てきたイノシシとクマはアーサーと水月さん、その他にも赤の群集のプレイヤーが数名。……流石にフラムは不動種だからいないか。……アーサー、流石に空気を読め。水月さんが慌ててるじゃないか。
そしてルアーのPTは前回戦ったメンバーが揃っている。今の一撃でザリガニのHPは削り切られて、ポリゴンとなって砕けて消えていった。ちっ、あのザリガニをこうもあっさり倒すとか……。
<ケイがLv19に上がりました。各種ステータスが上昇します>
<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>
未成体なだけあって結構な経験値が入ってきたけど、この状況では全然嬉しくないんだが!? それに多分ルアーは未成体へと進化している可能性が非常に高い。……これはマズいな……。しかもルアーの容赦のないザリガニの倒し方を見る限り、こっちの思惑は筒抜けのようである。
「また会ったかな、水月さん」
「えぇ、サヤさん。私もリベンジマッチをさせて頂きますよ」
そして火花を散らすサヤと水月さん。ザリガニがルアーに仕留められた事でアルは移動の意味を感じなくなったのか、それとも戦うことを優先するのか、サヤとベスタから根を離した。そしてベスタがルアーの前へと踏み出していく。
「勝手にリベンジマッチにされても困るんだがな。ザリガニを仕留められたせいで計画が失敗じゃねぇか」
「……そりゃこっちも同じだ。ようやく色々と算段がついたかと思えば、灰の群集の大暴れの情報が飛び込んできて大慌てだからな。そっちはまぁもう無意味になったんだろうが、一応聞くだけ聞いておこうか。一体何に気付いた?」
「……教える訳がねぇだろう。それに未成体で成長体を嬲ろうってのも気に入らねぇな」
「生憎と勝負事に手を抜く気はないんでな。……まだケイが成長体だったのは拍子抜けではあるが」
「……良いぜ、だったら俺が相手をしてやるよ」
「お前もまだ成長体なのにか?」
「あんまり舐めてると痛い目に合うぞ?」
あーまぁ俺はレベル上げより熟練度上げのほうが多いからな。……明日にでも来てくれれば未成体でも相手出来ると思うんだけど、お引き取り願えないかな? ……そんな理由でこの状況から引き下がってくれる訳がないな……。というか、何故成長体だと分かった? あ、そういや識別ってプレイヤー相手にも使えたっけ。
そしてなんかルアーとベスタが互いに睨み合っている。……それにしても算段がついた? 状況からみて競争クエスト絡みは間違いないだろうし、躊躇なくザリガニを仕留めた様子からしてザリガニを使う以外の手段がある? 未成体でのゴリ押しか? それもありだろうけど、そうじゃない気がする。よく考えろ、半覚醒の黒の暴走種にダメージを与える手段は他に何がある……?
「おい、蒼弦!」
「……何だ、ベスタ?」
「こいつらの相手は俺とサヤで受け持つ。あとオオカミ組の連中も借りるぞ。お前がアルマースを引っ張る役目をやれ」
「……それは良いが、どうする気だ? ザリガニはもう居ないぞ?」
「いや、他にも手段がある筈だ。なぁ、ケイ?」
「あぁ、多分な。だけど肝心の手段が……」
「考えるのは移動しながらでいい! まずは行け!」
確かに今はここでルアーと正面衝突しても勝ち目は絶望的だ。だけどベスタには何か考えがあるようだし、ここは任せて先に行って別の手段を考えるべきか? ……あと少しで何かが思い付きそうな気がする。だけどそのあと少しが思いつかない……。
「……ケイ、ここは任せて行くぞ」
「……そうだな。サヤ、任せていいか?」
「うん、私も本気でやりたいしね」
「それじゃここは任せたぞ!」
「逃がすか! 回り込め!」
「やらせねぇぜ! ボス、早く行ってくれ!」
ルアーの号令により赤の群集も俺達の妨害に動き出すが、オオカミ組も戦闘態勢に入る。ちょっとした睨み合いの膠着状態になるが、おそらく何かの動きがあればすぐに乱戦へと突入するのだろう。そしてルアーがそのきっかけを作り出す。
「ケイは逃さねぇよ! 『纏属進化・纏風』!」
「お前の相手は俺だってんだ! 『融合進化』!」
「融合進化だと!?」
ルアーが緑の光の膜に覆われていき、そしてベスタが黒い膜に覆われていく。……ベスタのは聞いた覚えのない進化だ。……これがネタバレになるとか言っていたベスタの新しい進化項目?
そしてルアーは風を纏って鋭利な刃を全身に持つ緑の魚に、ベスタは漆黒の体毛と脚部がなんだがモコモコした感じのものに覆われた姿に変わった。……もしかしてベスタのモコモコした部分は真っ黒なコケに覆われている……?
「今の段階でもうそこまで行ってる奴がいるのか!? ……未成体に進化さえすれば勝てるってのは甘く見すぎていたか」
「……本当ならもう少し育ててからのつもりだったんだがな。流石に未成体を相手にするにはこれしかない」
「ちっ、つくづく灰の群集には良いやつが揃ってんじゃねぇか。お前ら揃ってこっちの群集に欲しかったくらいだぜ」
「ふっ、言ってろ。それにケイのPTだけが強いとは思わないことだな」
「……そうみたいだな。ベスタって言ったか?」
「そっちはルアーだな?」
「「いざ尋常に勝負!」」
その言葉をきっかけに赤の群集と灰の群集のメンバーによる壮絶な戦闘が始まった。
「ケイ、行くぞ! 蒼弦さん、行けるか?」
「ここまで来たらやるしかないだろ!」
「俺もこのまま着いていくぜ。露払いは必要だろう?」
覚悟を決めた蒼弦さんに、アルが根の操作を再発動して身体にしがみつく。ザックさんは未だに蒼弦さんの背中に乗ったままで、このまま一緒に行くつもりらしい。強行突破が必要になる以上はこちらにも戦力が欲しいからな。
「自己強化は切れてるから、魔力集中で強引にいくぞ。『魔力集中』!」
「……それしかないか。それじゃみんな任せたぞ!」
「いいから早く行け!」
「赤の群集! 奴らを行かせるな!」
<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 32/38(上限値使用:4) : 魔力値 64/74
<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します> 行動値 28/40(上限値使用:4)
出発の準備は整ったがそうはさせないと襲い来る赤の群集が5人。ルアーのPTはベスタとオオカミ組が抑えてくれていて、サヤは水月さんと打ち合っている。
アーサーは俺達の妨害に来ているな。……今考える事でもないけど馴染めた様子で良かったな。
「ハーレ、魔法産の石で散弾って出来る?」
「えっと、うん! 生成するのが砂なら出来たと思う!」
「じゃ、それで!」
「んじゃ行くよ! 砂の『アースバレット』!」
「『ポイズンボール』!」
「ちっ! 毒か!」
「ぎゃー!?」
おそらく複合魔法化した砂状の禍々しい色合いの散弾が、追いかけてこようとする赤の群集のプレイヤーへの牽制になる。悲鳴を上げていたのはアーサーだ。
「くそっ、突破は厳しいか!」
「ライル、下ろせ」
「はいはい。分かりましたよ」
「増援に来たよ。ここは僕らに任せて」
「紅焔さん!? ライルさんに、カステラさんも!?」
「えっ!? なんでこっちに!?」
「俺が呼んどいた!」
「ザックさん、いつの間に!?」
厳しい状況に上から頼もしい3人が下りて来た。どうやら気付かない内にザックさんが増援を頼んでいたらしい。飛べる種族はこういう時に色んな障害物を無視できるからやって来れたのか。でもさっきの今でよく間に合ったな!
「詳しい事はザックさんに聞いてね」
「そういう事だ。ここは任せて、ケイたちは行け」
「……おう! 蒼弦さん、アル、ヨッシさん、ハーレさん、行くぞ!」
「おう!」
「「「おー!」」」
時間切れとなった自己強化の代わりに魔力集中で足を強化して蒼弦さんが強引に進み始める。全身が強化される自己強化と違い、魔力集中では一部分の強化しか出来ないので移動には不向きだった。攻撃の一瞬なら問題ない反動が、移動に使う事によって自己強化の時よりも遥かに蒼弦さんへと負担をかけている。
だが、自己強化よりもその足取りは力強く、大地を踏みしめ駆けていく力へと変わっていく。多くの仲間の力を借りてここまで来たんだ! ここは任せて俺たちは半覚醒の黒の暴走種を解放するしかないだろう!
【ステータス】
名前:ケイ
種族:水陸コケ
所属:灰の群集
レベル 17 → 19
進化階位:成長体・複合適応種
属性:水、土
特性:複合適応
群体数 154/3400 154/3600
魔力値 64/72 → 64/74
行動値 28/42 → 28/44
攻撃 39 → 43
防御 47 → 51
俊敏 38 → 42
知識 63 → 69
器用 63 → 69
魔力 86 → 94
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