第135話 みんなで協力して
「殺らせないっすよ! 『ウィンドボール』!」
「サヤ、ベスタさん! 前に段差があるからそこは左に行って迂回!」
「分かったかな!」
「おう!」
「きりがないよね! 『ポイズンボール』!」
「だが、なんとか凌げる範囲だ! 『アクアボール』!」
後ろから迫りくるザリガニの撃ち出してくる水の砲弾を魔法で撃ち落としながら逃亡、いや誘導は続く。時々生っている果物などに目を向けて、木によじ登り果物を食べてHPを回復している素振りがある。……この状況だとありがたいけども、本来なら鬱陶しい動きだろうな。
「そろそろ水の操作が切れる! ハーレさん、行動値の回復する時間は挟めそうか!?」
「行動値にはまだ余裕はあるけど、この感じだとどっかで回復が必要だぞ!」
「今回は無理! 再発動だけが限界っぽい!」
「ちっ、仕方ねぇ! オオカミ組、再発動の時間は稼げよ!」
「「「「「おう」」」」」
操作系スキルは無茶な制御をすればするほど効果時間は短くなる。今のこのサヤとベスタの2人で引っ張ってる状態では良くて5分が限界ってところ。場合によってはもっと短い。今はまだ行動値に余裕があるけども、どこかで回復を挟まないと厳しそうである。この感じだと行動値の回復を狙うならサヤとベスタの自己強化が切れた時になるか。
「根の操作が切れそうだ! 水の防壁を頼む!」
「任されたぜ! 『アクアクリエイト』『水の操作』!」
アルの根の操作の限界がきたようで、俺が予めオオカミ組へ減速方法として伝えておいた水の防壁の生成を頼んでいた。サヤとベスタは自分で勢いを殺し、アルは作って貰った水の防壁に突撃し、速度を落とす。今は水魔法を使える他の人がいるから任せておいた方が安全だ。俺にそれほどの余裕はない。……もし水魔法持ちのオオカミが倒された時は毒魔法で代用予定。
「よし、減速した! 再発動だ。『根の操作』!」
<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 32/38(上限値使用:4) : 魔力値 64/72
<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します> 行動値 28/38(上限値使用:4)
合わせて俺も水魔法と水の操作を一度破棄し、再発動しておく。同じタイミングで再発動しておく方が安全だ。
「ヨッシ、大丈夫かな?」
「慣れてきたみたいだし、戦闘に集中してるから大丈夫」
「ザリガニはこれでも食べててねー!」
絶叫系の苦手なヨッシさんも意外と大丈夫そうだし、俺も慣れがあるのか地形の問題か、前回の大暴走ほどの怖さは感じない。そして足止めの為にザリガニに向かってハーレさんが蜜柑を投げている。……勿体無いけど、一度試してみたら地味にこれで時間が稼げたんだから仕方ない……。露骨に足を止める行動パターンがあるって事はこの誘導も攻略パターンの内って事だろうな。
「よし、行けるぞ!」
「再出発だ! ハーレさん!」
「うん! ちゃんと着いてきてよね! 『アースクリエイト』『投擲』!」
操作系スキルを再発動して、再び逃走へ戻っていく。魔力集中の効果中のハーレさんの投擲が再びザリガニへと命中し、果物に気を取られていたザリガニは再びこちらへと狙いを戻してくる。さて、果物をやった分だけちゃんと来てもらうぜ!
そしてそんな誘導も何事もなく済むはずがなく、早くも赤の群集が現れてきた。2PTくらいはいるのか、それなりに人数が多い。ちっ、このタイミングで厄介な……。
「灰の群集か! って、ザリガニ引き連れてんじゃねぇよ!?」
「ちょうどいい、ザリガニと挟撃だ!」
「何事か知らんけど、それが良さそうだ!」
戦うつもり満々ですか! まぁ、俺だってそっち側ならそうするけどな。……この人数はほぼこちらと同数だし、俺やアルは移動の為に完全に戦力外。後ろからザリガニが迫っている以上は策もなしに下手に立ち止まる訳はいかないし、かといって放置出来るような人数ではない。
「ベスタ、どうする?」
「強引に突っ切るしかないだろう。ザリガニを使って始末するにも人数が多い」
「いや、大丈夫だ」
「ザックさん?」
「何かあるのかな?」
「……なんか声が聞こえてくるな?」
「もうすぐ第一陣の増援が到着するからな!」
「お、ナイスタイミング! この声は味方の増援か!」
そして雄叫びを上げながら、ザックさんが頼んでおいてくれた湖突入チームに入れなかった人たちが増援として到着した。人数としては20人いないくらいで多分3PTか? 足の早そうなクマやオオカミなどの肉食動物系が多いな。そしてすぐに赤の群集のプレイヤーとの乱戦が始まった。
「赤の群集がいるぞ! 邪魔をさせるな!」
「何でこんなに大量に灰の群集が集まってんだよ!?」
「足止めは任せろ! 今のうちに行け!」
「サヤ! 援軍に来たよ!」
「ラーサ! ありがとね!」
「おう! みんな、助かった!」
ラーサってクマの人はサヤの友人か。例の質問攻めで捕まってたのを助けてくれて、スキル取得のコツを教えた人かな?
とにかく今は増援のみんなに任せて先に進もう。ザリガニは迷う素振りを見せたが、ハーレさんがまた1発頭に撃ち込んだ事で再びこちらへと狙いを絞ってきた。……頭を何度も撃たれれば流石にヘイトも溜まるのだろうか? まぁ、結果オーライって事で!
そして何度も放たれるザリガニの砲撃を撃ち落としながら、一定の距離を保って誘導していく。だけどそろそろ本格的な足止めが必要か……。また水の操作の時間切れが近い。おそらく自己強化もそろそろ限界だろう。
「そろそろ『自己強化』が切れるぞ!」
「根の操作の方もまた再発動が必要だ!」
「もう少し先まで行けるか!? 落とし穴の第一弾がなんとか出来たそうだ!」
「なら、そこで足止めして時間稼ぎかな!」
「そこまで粘れ! 他のプレイヤーもいるからそこで再発動までの時間を稼ぐぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
ベスタの激励にオオカミ組も気合が入った返事をする。ベスタをライバル視していると同時にPTに勧誘しているみたいだし、こうやって一緒に戦う状況というのも気合が入っている一因なんだろうな。オオカミ組の動きもこの戦いの最中にどんどん良くなってるみたいだし。
「誘導チームが来たぞ!」
「自己強化の再発動の時間稼ぎをしたい! 協力頼めるか!」
「もちろんさ!」
「当たり前だ! ここでやらなくて何をやるってんだよ!」
少し森の拓けた部分のようで、何やら葉っぱのような物が刺してある場所が見える。そして声は聞こえるけれど、プレイヤーが何処にいるのかがよく分からない。……あ、拓けた森の境目のとこに移動種の木達が揃っているのか。そして小動物系のプレイヤーの姿もちらほらとあるようだ。ざっと2~30人くらいか?
「サヤさん、ベスタ! 目印には葉っぱを刺してるって事だ!」
「……うん、あれだね!」
「サヤ、飛び越えるのは可能か?」
「問題ないかな!」
「ちょっ!? 飛び越えるのか!?」
「そういう事は先に言えー!」
そして目印になっている葉っぱの部分を飛び越えるサヤとベスタ。うわっ!? まさか飛び越えるとは思ってなかった! そういうのは先に言っといてくれっての。……勢いがつきすぎない程度に地面に向けて水をぶつける様に操作する。よし、反動でアルが少し浮いた。そしてサヤとベスタの飛び越えた勢いに引っ張られて、アルも落とし穴がある場所を飛び越えた。
「アル、着地は任せた!」
「おう!」
そして飛び越えた所でアルが根で衝撃を殺し、上手く着地する。
「すまん、着地の方はアル任せになった!」
「いや良いって。むしろケイはよく俺をジャンプさせてくれた。それよりも飛ぶなら先に言っといてくれよ、お二人さん?」
「あー悪かった。ついな?」
「アル、ケイ、ごめんかな……」
「そういう反省は後でね。『ポイズンボール』!」
「そうだよ! 『散弾投擲』!」
落とし穴を通り越して少し行った辺りで完全に移動を止め、まだ落とし穴の位置には到達していないザリガニが撃ってくる砲撃を撃ち落としていく。……ほんと1撃ずつは魔法とか魔力集中ありの投擲で撃ち落とせる範囲の威力で良かったな。だけど一度に最大で4連発の攻撃は厳しいものがあるのもまた事実。
「我らオオカミ組! 『魔力集中』に切り替えていくぞ! 『魔力集中』!」
「「「「『魔力集中』!」」」」
そして意外と多彩なオオカミ組のスキルに結構驚かされる。もしかしたら同じ種族だから魔力集中や自己強化のコツも同じなのかもしれない。幼生体の頃に氷狼戦で会った時とはまるで別の人達に見える。これもベスタという目標があるおかげかな。
「ケイとアルマースは行動値の回復に専念しとけ。他のやつらは行くぞ! ただし深追いはするな!」
「死んだら失敗になるもんね! 『魔力集中』!」
「ここはあれの使いどころだね。『纏属進化・纏氷』!」
「……俺も使いたいとこだが流石に纏火は相性が悪いか……。『魔力集中』!」
「回復が必要な人は合図して口開けてね! 果物投げるから!」
みんなは深追いしない程度に戦うようである。……行動値を移動に使わなければならない俺とアルは仕方ないのか……。サヤとベスタは『魔力集中』を使ってヒットアンドアウェイで注意を引き、ヨッシさんは纏氷での攻撃と毒も織り交ぜながら状態異常を狙う。ハーレさんは魔力集中が切れてしまったようで回復支援に専念していた。そんな風にザリガニの注意を逸しながら、落とし穴へと誘導していく。
「よし、ザリガニが罠の上に来たぞ! 蓋を外せ!」
「「「おうよ!」」」
「うぉ!? 思った以上に深めの落とし穴だな!?」
「10人がかりで掘ったからな! おかげで称号もスキルも手に入ったからありがたいぜ」
「そうなのか。とにかく助かった!」
何人かの根の操作で土の蓋を作っていたようで、ザリガニが乗った瞬間にそれが解除されたようである。そしてザリガニは見事に落とし穴に落ちていた。幅も深さも2メートルくらいだろうか。1メートル超えのザリガニが完全に全身落ちている。いや、足止めは必要だけど、完全に落とされてもな……。
だが、そこでザリガニの行動パターンが変わった。ハサミの中から凄い勢いで水が放出されていく。
「うわ!? 攻撃パターンが変わったぞ!?」
「高圧水流か……。地面を削り取って出てくるつもりだな。手の空いてるやつは攻撃しろ! 攻撃の妨害をして時間を稼げ!」
「おっしゃ、やったるぜ!」
「何度も殺られた恨み、覚悟しろ!」
そうして落とし穴作成に関わっていたプレイヤー達がザリガニに恨みを込めて攻撃を加えていく。結構な人数がザリガニの被害にあっていたようだ。……大人数で押し切ってザリガニを倒さないように注意してくれよ。
「……ザックさん。半覚醒の黒の暴走種の辺りに大きめの岩がないか確認をとってもらえるか?」
「それは良いけど、んなもん何に使うんだ?」
「まぁ万が一の時の為だな。こんだけ盛大にやってれば赤の群集も動くだろうし」
「用途はわからんが、そういう事なら確認しておくわ」
「うん、頼んだ」
もし、ルアー辺りが出てくるならば相応の対応策が必要だろう。場合によっては岩の操作を使って迎撃する。あんまり時間をかけてはいられないしな。
あ、赤の群集の1PT発見。戦闘音につられてやって来たか?
「灰の群集がこんなに大勢で何やってんだ!?」
「この人数はやばい! 逃げるぞ!」
「赤の群集は仕留めていけ! 邪魔をさせるな!」
口々に恨み節が聞こえてくるけど、そこは無視。勝負事なんだから、反則でもしてない限りは問題ない。俺たちはルール違反はしていないからな。ちゃんと受注マークの確認をしてから攻撃に移ってるし、何より情報と手段さえあれば赤の群集だって同じような事をしている筈だろう。
そうして自己強化の再使用が可能になるまでザリガニの足止めの戦いは続いた。……これだけの人数で攻め立ててもHPが3割しか削れないんだから未成体の強さというのは厄介なものだな。そして赤の群集との戦闘も含めて結構な戦線離脱者も出た。やはり強いな、未成体は……。
「よし! 時間稼ぎはもういい! 協力感謝するぞ!」
「おう、後はそっちに任せたぞ!」
そして一斉攻撃を止め、ハーレさんの1撃で再び攻撃対象として俺たちが狙われ始める。高圧水流で地面を崩し、ザリガニは地上へと再び戻ってきた。そして水の砲撃へと行動パターンが切り替わる。
ザリガニ誘導チームの自己強化持ちが再び自己強化を発動する。さて、これで再び逃走じゃなくて誘導の始まりだ!
「ハーレさん、あと距離はどのくらい?」
「まだ3分の1だよ! 最低でもあと1回は同じような足止めが必要だね!」
「ザックさん、増援はまだいるか?」
「まだいるにはいるが、さっきまでよりは人数は少ないぞ?」
さてと、この作戦はそれ程甘くはないようだ。とはいえ、やるしかないから必死でやるまでだ!
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