第133話 競争クエスト攻略へ


 夕食を食べ終えて再びログインだ。さっきの今なのでいったんからは特に情報はなかった。そういう事なのですぐにゲーム内へと移っていく。


 さてみんなはもう居るとは思うけど、どうだろう? あ、ハーレさんはちょうど今ログインしてきたな。サヤたちは……居るみたいだけど夜目がないと暗くて分かりにくい。やっぱり夜の日には夜目は必須か。今日は特に空は厚い雲に覆われているので暗さに拍車をかけているのだろう。

 ……ついでに発光も発動するだけしておくか。忘れる時もあるけど、こまめに熟練度は稼いでおかないとね。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 42/42 → 41/41(上限値使用:1)

<行動値上限を3使用して『発光Lv3』を発動します>  行動値 41/41 → 38/38(上限値使用:4)


 よし、発動完了。これでよく見えるようになった。行動値も結構増えて上限値使用のスキルも使いやすくなったもんだ。……ん? サヤとヨッシさんが池作りの穴掘り地点で何かしてるけど、何やってるんだろう?


「あ、2人ともおかえり」

「わっ!? ……うん、少しびっくりしたけど光ると何処にいるのか分かりやすくていいかな?」

「ただいまー! サヤとヨッシは何してたのー?」

「ちょっと特訓。ね、サヤ?」

「う、うん! そうかな!」


 ……これはあんまり知られたくない感じの特訓か? 形になるまではあまり見せたくないとかそんな感じだろうか? まぁそういう事なら深くは聞くまい。そのうち見せてくれるだろう。


「とりあえず出来るだけ発光を使うようにしとくわ」

「そうしてくれると助かるかな?」

「その方が分かりやすいしね」


 ベスタ2ndのコケを客観的に見て、何処にいるのかの分かりにくさも実感したからな。このくらいで分かりやすくなるならそうしておこう。ただし戦闘時には状況によって切るけどね。

 そしてアルはまだのようだ。と思っていたらちょうどログインしてきていた。良いタイミングだな。


「お、俺が最後か。待たせたか……?」

「いや、俺もログインしたばっかだからそうでもないぞ」

「私もだねー!」

「なら問題ないか」

「それじゃ全員揃ったところで競争クエストに出発しますか!」

「「「「おー!」」」」


 早速出発の準備をする。とは言っても結構慣れてきたのですぐにコケ付き皮を用意し、アルの根をサヤに巻き付かせて、解散になってたPTを組み直し、準備は完了して出発した。作戦会議は移動しながらでもいいだろう。


「あ、途中でエンのとこ寄ってくれ。マップ情報を貰ってくるよ」

「ケイ、いいのか? ポイントが貰えなくなるぞ?」

「今回はクリア優先って事で。マップはあった方が確実だろ?」

「まぁそうだな。全員が取る必要はないけど、誰か1人でも取ってた方が確実か」

「それなら今後のクエストも順番に誰かがマップを貰っていくのがいいかな?」


 今後も一緒にやっていくつもりだし、ここはサヤの言う通り順番にマップ情報を貰ってくるのがいいだろう。サルの人が言うには競争クエストのエリアはほぼ全部埋まってるらしいし、確実にあった方が良い。


「それが妥当なとこだろうな。んじゃ今回は俺が貰ってくるって事で」

「いーや! 今回は私が貰ってくるよ!」

「ハーレ?」

「ケイさんは情報収集を担当して! マップを見ての方向案内は私がやるから!」

「順番でやるんなら別にーー」

「ケイさん群集拠点種の強化にポイント使ったんでしょ! ……色々と感謝してるんだからこれくらいさせてよ」


 うお!? まさかの感謝の言葉。……そういうことなら俺が強引にするのも野暮ってもんか。そういうことなら有り難く受け止めさせてもらおうかな。


「そういう事なら任せた!」

「うん、任された! それじゃ貰ってくるからちょっと待っててね!」


 話しているうちにエンの近くまで来ていたようで、ハーレさんが小走りでマップの情報を貰いに行った。


「……シスコンか?」

「この場合はブラコンじゃないかな?」

「どっちも違うわ!?」

「ケイさん、私からもお礼を言っとくね。色々とありがと」

「何もしてねぇよ、俺は!?」


 あーもうなんか調子が狂うなぁ……。精々今日もログイン出来るように両親を説得したくらいだぞ。……まぁ母さんからも感謝されたけどさ。

 俺としてはみんなで楽しくゲームが出来れば良いだけなんだけど、ハーレさんからしたらそれが嬉しいんだろうな。



 ということで、ハーレさんがエンから競争クエストの名も無き森林のマップ情報を貰ってきた。マップは聞いていた通りほぼ完成しているらしい。初期エリアよりも遥かに広いのにマップの埋まりが早いのは、参加しているみんなにやる気があるのと慣れと移動速度そのものが上がってるからだろう。


「よし、それじゃ乗り込むぞ!」

「「「「おー!」」」」


 今回は往路の実は使わずに直接エリア移動だ。往路の実の節約の為でもあるが、今はヤナギさんは同期中ではないようで単純に使えないという意味もある。まぁ、こればっかりは仕様なので仕方ない。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『名も無き森林・灰の群集エリア2西部』に移動しました>


 やってきたぜ、競争クエストの戦場へ! 夜だからか、高いところにいるからか、いくつかの戦闘音や魔法っぽいものが飛び交っているのがちょっと見えたりもする。うん、かなり盛況のようだね。


「灰の群集の増援を仕留めろ!」

「やらせるか!」


 そしてエリア切り替え早々に襲い来る赤の群集6人とそれを追いかけてきたらしきオオカミ集団。って、蒼弦さんのオオカミ組か!

 赤の群集側には浮いた水の中を泳ぐ魚と土に乗って飛んでる草花がいる。こっちと同じように赤の群集も操作系スキルを使った移動方法を確立してきたようだ。だけどそれには他のスキルが使えないという弱点もあるのも把握済み。あとはカブトムシと、ネズミと、シカと、フクロウか。いきなりの襲撃だけど、返り討ちにしますかね。


「お、ケイさんじゃねぇか!」

「また共同戦線と行きますか!」

「おう、頼む!」

「げっ、ルアーを倒したコケのPTの連中か!?」


 どうやらルアーのPTを倒した事によって、赤の群集ではそれなりに知られたらしい。とりあえず大して強くもなかったし、数的にもこちらが有利だったので即座に返り討ちにしておいた。『浄化の欠片』は無かったのは残念だったけども……。


「ケイさん達は、これから参戦か?」 

「おうよ。戦況はどんなもん?」

「行き詰まってるとこだから、ちょっと知恵を貸してくれ」

「って事は、競争クエスト情報板に行けばいいんだな?」

「あぁ、そうだ。お前ら周辺警戒任せたぞ」

「了解っす」

「ほいよ」

「おう」

「任せとけ」

「私も手伝うかな。直接、戦闘の状況も聞きたいし」

「ケイさんとアルさんとハーレでそっちをお願い」

「おう、分かった」


 サヤとヨッシさんはオオカミ組の他4名から直接戦ってる際の状況を確認してくれるらしい。それなら俺とアルとハーレさんで全体の戦況とクエストの進行状況の確認だな。


 ケイ   : 今クエストはどうなってる?

 カイン  : お、来たか!

 ベスタ  : 遅いぞ、ケイ。

 ケイ   : こっちだって色々事情があるから大目に見てくれって。

 蒼弦   : とりあえず話を進めようぜ。

 ベスタ  : ……何かイベントフラグがあるはずだが、その特定に難儀しているところだな。

 招き猫  : 半覚醒の黒の暴走種が怪しいのは確実だけど、倒せない!

 ケイ   : ……その件だけど、他の黒の暴走種を戦わせてみるってのは?


 ちょっと前に気になっていた事である。灰の群集では倒せないし、赤の群集に思惑がバレてうまく行かないのであれば黒の暴走種を使ってみるのも有りなんじゃないかと。


 ラーサ  : それは試したけど、思ったように戦ってくれないから無理! 邪魔なだけ!

 ケイ   : あのザリガニならどうよ?

 紅焔   : ……あのザリガニか。

 招き猫  : え、あれは誘導が無理……。

 アルベルト: 何度ザリガニに襲われて『浄化の欠片』を無くしたことか!

 ベスタ  : 俺はまだそのザリガニとやらを見てないから何とも言えんな。……逃げ切れないのか?

 ザック  : 結構早いんだよ、あのザリガニ。そういや段々襲われる回数は減ってるような……?


 紅焔   : そうか、ベスタは参戦が遅かったからまだ見てないのか。

 蒼弦   : 我らオオカミ組は逃げ切るだけなら出来たぞ!

 ザック  : ……そうなのか? 足の早い種族なら可能?

 ライル  : おそらくそうでしょうね。ですが、引きつけるとなるとただ逃げるだけでは無理ですね……。必要なのは逃げられる速度と、敵を引きつける事と、そして倒されない事ですか……。


 紅焔   : ……ケイさんのとこのPTならいけるんじゃねぇか?

 蒼弦   : ……なるほど、あの移動方法ならいけるかもな。

 ベスタ  : あぁ、あれか。

 ザック  : あの移動方法ってのは?

 ラーサ  : 木の移動種を大型動物系が引っ張るって移動方法が増えてるじゃない?

 ザック  : あぁ、そういやよく見るようになったよな。

 ラーサ  : あれのオリジナル。拠点でのボスの争奪戦の大暴走のあれ。

 ザック  : あーあの噂のやつか。それならいけるかもな。

 ケイ   : え、噂になってるの?

 ベスタ  : あれだけやっといて何を今更……。

 ケイ   : ベスタは実行側の1人だろ!? というか自分で言い出しておいてなんだけど、俺のPTがやるの?


 ベスタ  : 言い出したからにはやってみせろ。

 ケイ   : 無茶を言ってくれる……。ちょい待って、相談してくる。


 既にザリガニ以外では実行済みで、ザリガニに関しては誘導が困難と……。俺のPTの移動方法なら攻撃と移動の両立が可能だから、引き剥がさない程度に注意を引きつつ逃げる事も可能ではある。……結構負担はあるけど。


「……どう思う、アル、ハーレさん?」

「どうも何も、行き詰まってるならやるしかないだろう」

「そうだねー! ちょっと敵が危ないけど、あのザリガニにもいる理由があるはずだもんね!」

「あのザリガニ相手に戦うの?」

「うん、そうなりそう! ヨッシとサヤはそれでもいい?」

「具体的には何をやるのかな?」

「サヤは自己強化で逃げに徹してもらう感じだな。ヨッシさんは、ハーレさんと遠距離からの牽制になる」

「要するに前にザリガニから逃げた時と同じかな?」

「ま、そうなるな。ただし、目的の場所へと誘導するのが狙いだな」

「……それならやるしかなさそう。要するに囮役だよね?」

「そうみたいだね。うん、それはやろうかな。あ、ベスタさんがいたら協力頼めないかな?」

「……またあの速度でやるのか。だが、仕方ねぇか。あの時よりは平坦なだけマシだろ!」


 サヤもヨッシさんも了承したし、アルもあの速度を使うのを覚悟した。……俺も覚悟を決めるか。アルも言ってるけど、上り坂ではなく平坦だし、ついでに森林深部よりも木々の間に余裕があるので前回よりは楽なはず!


 ケイ   : 了承は得られたから、囮の件は俺のPTで引き受けるよ。

 ザック  : お、やってくれるのか。

 ハーレ  : 無茶な作戦にしてくれたもんだよね! やるけどさ!

 アルマース: ……ベスタ、速度が欲しい。協力を頼めるか?

 ベスタ  : ほう。いいぜ、やってやる。

 ケイ   : 分かってたらで良いんだけど、あのザリガニってLvいくつ?

 カイン  : 未成体のLv3って話だな。

 ケイ   : 未成体Lv3か……。倒すのは進化が必要かもな。

 ベスタ  : とりあえず今回は倒す必要もないだろう。逃げるだけなら相手が未成体でも問題ない。

 アルマース: ま、逃げ切れれば良いだけだしな。

 アルベルト: ……これならうまくザリガニを利用できそうか?

 紅焔   : それならザリガニが湖にいない間に、水中の捜索もやっちまうか?

 カステラ : あ、それいいね。なんかザリガニも湖に引きこもる回数が増えてきてるし。

 カイン  : それにしてもザリガニが攻略の鍵か。ただし倒すのではなくて倒させる側として。

 ラーサ  : 強過ぎて避ける事ばっか考えて見落としてたね。てっきりあの半覚醒の奴は赤の群集に倒させるものかと……。


 アルベルト: あくまで1つの手段ってだけでそれだけって事はないだろ。相手側の行動に頼るのみとかゲームとしてどうなんだって話だし。


 ラーサ  : まぁよく考えればそうなんだけどね。

 カイン  : で、これからどうする? 

 紅焔   : そうだな、チーム分けするか。ザリガニの囮チームと、湖突入チームと、後なんだ?

 ライル  : ヤナギさんの護衛も増強が必要ではないですか?

 ハーレ  : なんで護衛なの?

 ライル  : ヤナギさんは赤の群集に何度か仕留められまして、ランダムリスポーンしているんですよ。


 蒼弦   : こっちも向こうの群集支援種を何度か仕留めてるけどな。

 アルマース: そんなことになってんのか。

 紅焔   : 今は『浄化の欠片』を渡しに行ったPTが交代で護衛をやってるな。可能な限り2PT以上はいるようにしている。


 ハーレ  : ヤナギさんは『浄化の欠片』を奪われたりとかは大丈夫かな!?

 ライル  : その辺は大丈夫のようですよ。


 なるほど、群集支援種って倒すとランダムリスポーンになるのか。それなら人数が多いうちに役割分担してクエストを進めてしまったほうが負担も少なくなるな。

 そして湖の中に引き籠る回数が増えたというザリガニに、水中活動を可能にする『特性の実:淡水適応』の存在。確実に湖の中になにかある。どっちにしてもザリガニをあの中から引き摺り出して、湖を調査する必要があるのは確定だな。


 ワタアメ : 追加情報が入ったよ! ヤナギさんから!

 紅焔   : お、マジか。どんな内容だ?

 ワタアメ : 浄化の要所までの間に何かが邪魔してて、正確な位置を掴めるほどの大地の脈動の流れが無いんだってさ! その流れを正常化したら正確な要所の位置が分かるってさ!


 森の狩人 : 2つの小さな大地の脈動の合流している所が浄化の要所で、そのどちらもが何かに塞がれていて、流れが弱まっているらしい。どちらかだけでも流れを正常化して要所で不動種が流れを整えれば、エンか、赤の群集の方へ繋げられるってよ。


 ハーレ  : その情報が出てくるイベントフラグは何だろう!?

 ワタアメ : 『浄化の欠片』が600/1000になったのがきっかけだと思う!

 ハーレ  : お、結構集まってるね! 

 森の狩人 : 集めるだけなら時間と共に数自体が増えてたみたいだから割と簡単だったぞ。問題は赤の群集に奪われたり、ザリガニに襲われても無くなる事だったが。


 ケイ   : 襲われたら無くなるって、やっぱりザリガニが大量に持ってそうだな……。

 紅焔   : 個数がフラグってみて良さそうだな。それで邪魔してるとなると、それの排除をすれば良いわけだな。


 アルマース: そして2つの大地の脈動ときたか。2ヶ所あるものといえば……。

 ケイ   : 邪魔してるのって2体の半覚醒の黒の暴走種か? それがそれぞれ1ヶ所ずつ流れを狂わせてる? やっぱりあれが攻略の鍵か?


 カイン  : おそらくそうだろうな。……だが赤の群集側のを倒すのは後の予想がつかなくて、リスクは高い。どちらかだけで良いなら、狙うなら手段の見えてきた味方っぽい方だな。


 蒼弦   : そうか、どっちも大地の脈動に繋がってるから意識があるんだな。だからこその特性の半覚醒か!

 ベスタ  : よし、攻略の糸口が見えた。赤の群集が気付いて動き出す前に片付けるぞ!


 推測の情報も多いけれどクエストの全体像は見えてきた。少なくとも今やるべきはザリガニを引き摺り出して湖の中を調査する事と、半覚醒の黒の暴走種をなんとかする事だ。


 紅焔   : それじゃチーム分けするぞ! ザリガニ誘導チーム、湖突入チーム、ヤナギ護衛チームでいいか?

 ベスタ  : 問題ない。ザリガニ誘導チームへの希望は湖の畔へ来い!

 紅焔   : 湖突入チームの希望者は半覚醒の黒の暴走種の元まで集まれ! 特性の実を集めるぞ!

 ワタアメ : ヤナギ護衛チームはヤナギさんの元へ! 赤の群集から守りきるよ!


 競争クエスト参加者で今ここを見ている人達でチーム分けをしての攻略作戦が始まった。ザリガニ誘導チームの指揮はベスタ、湖突入チームの指揮は紅焔さん、ヤナギ護衛チームの指揮はワタアメさんという事に決まった。そこから各自好きな所へと向かい、作戦を開始する事に決まった。


「よし、俺らはザリガニ誘導チームか」

「まぁほぼ選択肢はなかったけどな」

「あの流れじゃ仕方ないと思うかな。ヨッシ、あの速度は大丈夫?」

「うん、いざとなれば自分で飛べるから多分大丈夫」

「それじゃ湖の畔まで出発だね!」

「蒼弦さん達はどうするのかな?」

「俺達もザリガニ誘導チームにするぜ。危険な事を任せてばかりでいられねぇってな。なぁ、お前ら!」

「「「「おうよ!」」」」

「って事でいざとなりゃ、この身を盾にしてでもお前らの支援をしていくぜ」

「頼りにしてるぜ、オオカミ組!」


 方針も決まったので、俺のPTの5人とオオカミ組の5人の総勢10人で湖畔を目指して移動を開始する。さて、待ってろ、ザリガニめ!

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