第129話 それぞれの事情
ログアウトして1階へと行くと、ちょうど良い匂いがしてきたところである。本日のメニューはアジフライ。晴香は基本的に好き嫌いはないので、思う存分堪能していた。……下手したら俺以上に食べているのに体型が変わらなく見えるのが地味に凄いんだよな……。
俺も魚はそれなりに好きなので美味しく頂いていく。そして食べ終わったら、晴香はすぐに立ち上がった。
「それじゃ先に行ってるねー!」
それだけ言い残して晴香は自分の部屋へと戻って行った。いつもの事だけど、片付けはやはりしないらしい。
「ねぇ圭ちゃん、この間のカニの時にも思ったんだけど晴ちゃんと一緒にゲームやってるの?」
「あー結果的にそうなってるかな」
「……結果的に?」
「先週始まったばっかのオンラインゲームをやってるんだけど、中でお互い兄妹とは知らずに一緒にやる様になって、あのカニで発覚した」
「だから結果的になのね? まぁ日常生活に支障がないなら何も言うことはないけど、ほどほどにね。あと雫ちゃんにもよろしく伝えておいてね」
「……雫ちゃん? あぁ、なるほど。伝えとく」
そういえばヨッシさんの本名が宅配便にあったっけ。確か四ツ谷雫さんだったかな。晴香の長年の友達だったなら母さんなら知っててもおかしくないというか、知ってて当然か。というか、母さんは晴香が自分の部屋に行くのを待ってたのか? それだけなら晴香がいた時でも問題ない話だと思うけど、何か俺だけに話す事でもある?
「……去年、晴ちゃんが元気ない時期があったじゃない?」
「そういや食欲ないとか珍しい状態の時があったっけ。あれって受験のせいじゃなかったの?」
「それもあったんだけど、それ以上に雫ちゃんが引っ越す事が決まって落ち込んじゃっててね。春辺りから強がって隠す様にはなってたけど、最近元気が戻ってきたみたいで安心したのよ」
「……全然気付かなかった」
てっきり受験勉強でノイローゼ気味になってて、受験が終わって元気に戻ったものとばかり思っていた。そっか、晴香は晴香なりに強がっていて、最近までは空元気で動いてたのか。
「だからこの間は晴ちゃんと雫ちゃんが一緒にゲームをしてるって教えてくれてありがとね。多分、晴ちゃんは自分が寝坊したせいだからって自分では言い出しにくかったと思うから」
「……単なる偶然だけどね」
「母親としてはその偶然に感謝しておきたいかな? まぁそういうことだから、もし何かあったら教えて。あ、でも寝坊に関しては今まで通りだからね」
「了解しましたよっと」
元気一杯だと思っていた晴香にも色々とあったんだな。そういう事なら、もう少し色々と気にかけておこうかね。……出来るだけ寝坊を防ぐようには手を打とう。その辺はどうやら甘くしてくれる訳ではなさそうだし……。
母さんからの話も終わって、食器の片付けも終了。今の時間は1時半なので時間的にもちょうどいい具合だ。ゲームを再開して早速ログインしよう。
◇ ◇ ◇
そしてまたやってきたログイン場面である。まぁ1時間程度だし特に何もないと思うけど……いや、そうでもなさそうだな。いったんの胴体に『不具合情報と仕様の変更についてのお知らせ』って書いてあるな。
「いったん、これどういう事?」
「あ、それね。毎日取得の各種進化ポイントがあるでしょ〜?」
「あーたまに取り忘れるやつか……」
「うん、その取り忘れっていうのも関係してくるんだけどね。どうもポイント取得の際にバグがあったみたいで取得されなかったり、逆に取得しすぎたりって事が発生しててね?」
「……そんなバグが出てたのか」
「後は、取り忘れるから分かりやすくしてくれっていう要望もあったから少し仕様が変わります!」
「ほう、どんな風に?」
俺も取り忘れてる時はあると思うし、もしかしたら気付かないうちにバグの影響を受けてたかもしれないからな。どう変わるんだろうか?
「簡単に言うとね、ログインボーナスとして渡すことになりました〜!」
「思い切った仕様変更だな!?」
「色々と検討した結果こうなったのさ〜! あと群集ごとにポイント数が違うからね〜。これが一覧だよ〜」
そう言って、いったんがウィンドウを俺の前に表示してくる。どれどれ、どういう風に変わるんだ?
【ログインボーナスによる各種ポイント配布数一覧】
『赤の群集』
増強進化ポイント:7
融合進化ポイント:5
生存進化ポイント:3
『青の群集』
増強進化ポイント:3
融合進化ポイント:7
生存進化ポイント:5
『灰の群集』
増強進化ポイント:4
融合進化ポイント:4
生存進化ポイント:7
「あー群集での特徴に合わせてポイントの数が違うんだな」
「元々そういう仕様だからね〜。それでログインボーナスになる代わりに毎日取得のポイントは無くなるからね〜」
「ま、そりゃ当たり前だよな」
倒したり死んだり群体化したりでの各種進化ポイントの取得は無くなる訳か。ちょっと誤差はある気はするけど、今までの毎日取得分のポイント数と極端には変わらないみたいだな。
1日の取得上限もあったから、元々ログインボーナスみたいなものだったし特に文句はない。というかこっちの方が取得を忘れることが無くて普通にありがたいかな。
「反映は明日の分からになるからね〜。あとその仕様変更の為に0時から1時間ほど臨時メンテナンスになるから、その辺は気を付けてね!」
「おう、分かった」
「それじゃ引き続きゲームを楽しんできてね〜」
そうしていったんに見送られながら、ゲームの中へと移動していく。いったんも復帰早々にお仕事ご苦労さま!
◇ ◇ ◇
そして再びゲームの中へ。
ログアウトしたから夜目も発光も全て発動が切れてるな。……そういう仕様になってるんだから仕方ないか。再発動しておくか。
<行動値上限を3使用して『発光Lv3』を発動します> 行動値 37/37 → 34/34(上限値使用:3)
<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します> 行動値 34/34 → 33/33(上限値使用:4)
移動の方はどうしようか。今は落ちてるいつもの小石についてるままだし、他のスキルとの兼ね合いを考えるなら水の操作で水のみの攻撃よりは土の操作で小石を浮かせる方が地味に便利だ。操作を切っても地面に小石ごと落ちるだけだしな。
よし、この辺は場所によって使い分けるか。この常闇の洞窟だと小石移動の方が向いているから、こっちで行こう。
<行動値を4消費して『土の操作Lv3』を発動します> 行動値 29/33(上限値使用:4)
よし、これでオッケー。さてとみんなはもう来てるかな?
「あ、ケイさん! こっちに灯り頂戴!」
「……何やってんの、ハーレさん?」
「まだみんな居なくて暇だったから、この中を探索してたんだ!」
「それでそこによじ登った訳か。落ちるなよ?」
ハーレさんの声がしてきたのは上の方。見上げてみれば所々から突き出ている木の根を足場にして、洞窟の壁面をよじ登るリスの姿があった。
「大丈夫だよ! あっ!?」
「あー注意したばっかなのに……」
他の所に比べれば多少明るいとはいえ、それでも夜目だけでは相当暗いはずなのに無茶をするから……。まぁ落ちても朦朧状態にはなってもダメージはないだろうけど、そのまま落ちるのを見るってのもな。仕方ない、助けますかね。
<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 32/33(上限値使用:4) : 魔力値 58/62
<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します> 行動値 28/33(上限値使用:4)
さっき発動したばかりの土の操作を破棄して、魔法産の水を作り出し支配下におく。これを一気に落下しているハーレさんを受け止められる位置まで移動させて、マット状に成形。その上にハーレさんが落下した。おいこら、着地ポーズを決めるんじゃない!
「ケイさん、ありがとね!」
「ゲームだからってあんまり無茶すんなよ?」
「うん、ちょっと甘く見てた! 次は落ちないように気をつけるね!」
「……登らないって選択肢はないんだな」
「あはは! 君たち面白いね」
「ん? 誰だ?」
「どちら様?」
急に声をかけてきた人がいた。まぁ俺ら以外にも他のプレイヤーがいるのはおかしな事でもないけど、誰だろう? 声に聞き覚えは特にないな。っていうか声は上の方から聞こえてくるけど、どこにいる?
「あぁ、ごめん。こっちこっち!」
「うぉ!? これはタカか!」
「格好いいね!」
「初めましてかな? 僕はタカのソラ、よろしくね」
「俺はコケのケイだ。よろしく」
「私はリスのハーレ! よろしくね!」
バサッと羽を広げて、岩場の上に降りてきたタカの人のソラさん。僕と言ってはいるけども声は女の人っぽい。僕っ娘か。カステラさんも一人称は僕だったけど、あっちは男の人だったからな。
「お、ケイさんとヨッシさんはもう来てたか」
「紅焔さん、おかえりー!」
「おう、紅焔さんおかえり」
「ん? そこにいるのは……なんだソラか」
「君もいたんだね、紅焔」
「あれ? 2人とも知り合い?」
「まぁな。っていうか俺のPTメンバーの1人だな」
「え、でも競争クエストの時はいなかったよね?」
「僕は対人戦はあんまり好きじゃなくてね? 競争クエストが終わるまでは時間が合っても別行動にしてるんだ」
「あ、なるほどな」
確かに同じPTメンバーとはいえ、全員が同じ考え方をしてる訳でも、好みが全く同じ訳でもない。こういう事もあるんだろう。対人戦がメインのクエストなら尚更だ。まぁ、その辺の行動方針はPT次第って事かな。
「ソラはログインしたばっかりか? 今日は午前中は居なかったよな?」
「午前中はちょっと用事があったからね。ここでログアウトしたのが昨日の夜で、ついさっきログインして、ケイさん達に会ったところだよ。そういう紅焔は何をしてるんだい?」
「ライルもカステラも夜までログイン出来ないから、ケイさんのPTに便乗させてもらってレベル上げ中だ」
「なるほど、なるほど。……物は相談なんだけど僕も連れて行ってもらう訳にはいかないかな?」
紅焔さんのPTメンバーなら問題もないだろう。こうして洞窟内で出会ったのもなにかの縁だ。PT枠も1人分は空いてるしな。流石に空いてなければ無理だけど、アルがログインしたらLv上げは切り上げるからそれまでなら大丈夫だな。
「私は別に良いよー!」
「俺も別にいいけどなんでまた?」
「いやね、ソロで突入したまではよかったんだけど、少し倒すには厳しくてね」
「あーなるほどね。まだ2人来るから、その2人が良いって言ったらな? あと夕方辺りで俺達は競争クエストの方に行くけど、それでも良いならになるけど」
「もちろん僕はそれで構わないよ」
それでソラさんが問題ないのならば良いだろう。後はヨッシさんとサヤがどう言うかだけの問題だな。とはいえあの2人が断るとも思えないけどね。
そして数分待った頃にヨッシさんとサヤがほぼ同時にログインしてきた。
「お待たせ!」
「ただいま。あれ、知らない人がいるね」
「あ、ほんとだね。どちら様かな?」
「紅焔さんのとこのPTメンバーだってさ」
「初めまして、僕はタカのソラ。よろしくね」
「紅焔さんのとこの人ね。私はハチのヨッシ。よろしくね」
「私はクマのサヤです。よろしくかな」
これで全員の自己紹介は終わったし、臨時メンバーでPT加入に関してどうするか決めてしまおう。1人でも嫌な人がいれば申し訳ないけどお断りさせてもらう事になる。優先順位はいつもの俺のPTメンバーの意見だからな。まぁ多分大丈夫だと思うけど。
「で、一緒に来たいらしいんだけど2人はどう?」
「私は別に問題ないかな?」
「私も問題ないよ」
「って事で、ようこそ、俺らのPTへ!」
「うん、ありがとう。今日はよろしくね」
新たな臨時メンバーのソラさんを加えて、レベル上げの午後の部を開始していこう!
そしてしばらく先に進んでいき、戦闘を繰り返していくとソラさんの戦闘スタイルが見えてくる。高い位置から強襲し、鋭い爪で敵を捕まえて嘴でダメージを与えたり、高い所から落として落下ダメージで倒していく物理的なスタイルのようであった。火魔法がメインの紅焔さんとは全く違ったタイプである。
「いやー思った以上に、みんな強いね?」
「ソラさんだって結構強いじゃないか」
「これでも洞窟内って制約で戦いにくくはあるんだけどね」
フルPTともなれば、かなり戦力が安定し順調に経験値が稼げている。ただし、『常闇の洞窟』は出現する黒の暴走種の種類が少ないのか、目新しい敵は発見できていない。エリアの位置によって出現する種類が変わってくるんだろうか?
とりあえず、午前中の経験値と合わせてLv14までは上がった。各自のLvは、サヤは15、ヨッシさんは14、ハーレさんは13、紅焔さんが16、ソラさんが15である。多少のズレがあるのは自由行動の時に何をしてたかの差だろうね。結構順調な感じだ。
【ステータス】
名前:ケイ
種族:水陸コケ
所属:灰の群集
レベル 12 → 14
進化階位:成長体・複合適応種
属性:水、土
特性:複合適応
群体数 132/2900 → 132/3100
魔力値 58/62 → 58/66
行動値 28/37 → 28/39
攻撃 29 → 33
防御 37 → 41
俊敏 28 → 32
知識 48 → 54
器用 48 → 54
魔力 66 → 74
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