第128話 洞窟内の仕様


「わっ!? 何これ!?」

「ハーレ、大丈夫かな!?」

「これは……一般生物のハエだね」

「焼き払うから動くなよ。『ファイアクリエイト』『火の操作』!」


 俺は自分で土の操作を使って移動していく。そして若干気落ちした感じで歩くハーレさんが足を滑らせて、ハエの集団に突っ込んでしまっていた。……地面が濡れていて滑りやすくなっている場所もあるようだ。とはいえ、これでも実際の洞窟よりは随分と動きやすいんだろうけど。

 そして紅焔さんが火魔法でハエの集団を焼き尽くしていく。紅焔さんの火魔法がこの洞窟内では大活躍だな。一般生物でも僅かながらに経験値は入ってくる。ホント僅かにだけど。っていうか、アイテムに虫の死体ってあるのかよ!? ……何かのエサにでも使えるのか?


「紅焔さん、ありがと! ……流石にハエの集団に突入は堪えたよ……」

「Gに突っ込む方が良かったか?」

「……ホントにごめんなさい!」

「……今回だけだからな。次は本気でリアルで出た時に放置するからな?」

「うん! 気を付けます!」


 ずっと怒っていても仕方ないし、流石に反省もしたみたいだからこの辺で許しておこう。ハーレさんもこれで雰囲気普段通りに戻ったな。


 気を取り直して、さて気になるのはこの先の窪んでいてパッと見では内部が分からないけど露骨にカサカサと物音のしている場所と、そこを避けるように遠回りになっている通り道。


「で、露骨に迂回路みたいなのがあるけど、どうするよ?」

「ここは素直に迂回しておく方が良い気がするね」

「……私も単体なら大丈夫だけど、群れは勘弁かな?」


 露骨にカサカサと音がする場所は、多分だけどムカデやGの集団やそれ関係の黒の暴走種がいるんだろうな。俺も集団だと流石にパスしたいところだな。


「俺は平気だけど、下手に見つかって呼び寄せても厄介だし見るのは今度にしとくわ」

「そうしてもらえると助かるな」

「ま、苦手生物フィルタがあってもやっぱり苦手なもんは苦手だろうしな。無茶はしねぇよ」

「心遣い、ありがとよ! それじゃ、そこはスルーして行くか!」

「「「賛成!」」」


 こういうのも想定しての迂回路の設定なんだろうな。全てはカバーしきれなくても、配慮しようという運営の努力がこういう所に見え隠れしている。


「そういや苦手生物フィルタだとGってどう見えてるんだ?」

「えっとね、なんて言ったらいいかな? んー、敢えて言うなら動く黒くて薄めの饅頭……?」

「饅頭!?」

「だって説明がしにくいんだもん! それにサヤがクモの時に言ってたみたいに違和感はかなりあるよ!」


 確かにGが動く饅頭に見えるんだったら違和感は凄いだろうな。というか、見た目の変え方が半端ないな、苦手生物フィルタ!? いくつか段階設定があるけど、そこまでやるのか……。


「あー、つまりハーレさん的には饅頭に小石をぶつけただけに見えてたって事になるのか?」

「そう! 紅焔さん、正しくその通りだよ!」

「……平気だった理由はなんとなく分かったけど、容赦なく俺を突っ込ませた事実は変わらんからな?」

「……はい。分かっていますとも」

「分かってるならよし! んじゃこの話はここでお終い!」


 ハーレさんにはそう見えても俺にはバッチリGに見えていた事を忘れちゃいけない。まぁ情状酌量の余地有りとして、これ以上はこの件に口を出すのはやめておこうか。これ以上やると自分に何かの形で返ってきそうで怖い。



「ところで、そろそろお昼が近付いてきたけどその辺りはどうしようかな?」

「あ、もうそんな時間か」

「一旦ここでログアウトで良いんじゃない? アルさんみたいにキャラが残る訳じゃないし」

「そうだねー! 時間を決めてから再ログインかな!?」

「俺も昼からも一緒にやってもいいか?」

「問題ないぞ。むしろ戦力的にはありがたいくらいだ」

「そだね! 火魔法って便利だよねー!」

「だろう! まだ取ってるヤツは少ないからな!」


 そろそろ12時が近いので、一度休憩を兼ねて早めにログアウトでも良いかもしれないな。昼からもガッツリやるつもりだしね。


「……ねぇ、ここってログアウトでの復帰が出来ないエリアってなってるよ?」

「え、マジで?」


 そういえば前にいったんからログアウト不可な場所がある的な事を聞いた覚えがある。具体的にどうなのかは聞きそびれていたけど、ここがその場所の1つか? とりあえずどういう風になっているのかを確認しておこうか。

 

<ログアウトによる現在地復帰の不可エリアになります。再ログインの際には一つ前に通過したエリアでのログインになりますがログアウトしますか?>


「あー、ログアウトしたら前のエリアに強制的に戻されるのか」

「これは厳しいねー!」

「でもこの洞窟って広いのに厳しすぎないかな?」

「確かにそうだよね? 一気に抜ける以外に手段が無くなっちゃうし」


 そうなんだよな。これでログアウトする度に入り口まで戻されるとなるとこの広い洞窟の踏破は厳しいものになってしまう。何か途中でログアウト出来る要素とか、途中でログアウト出来ない理由とか何かありそうな気もするけども……。……あれ? なんとなく引っ掛かる事があるな。


「……なぁ、もしここでアルがログアウトしたとすればどうなる?」

「え? それはそのままアルさんが破壊不能オブジェクトとして残るから……。あ、そういう事ね!」

「1人なら大丈夫だけど、複数人の木のプレイヤーがそれをしたら通れなくなるかな……?」

「って事は、邪魔にならないように広くなってる場所があるのかな!?」

「それはありそうな話だな。探してみるか?」

「ここで入り口に戻されるのも面倒だしな。前に来た時はログアウトの事を気にしてなかったから気付かなかったけど、途中で広くなってる場所は何ヶ所かあったんだよ」


 前回ここに来た時はログアウトの事は一切考えてなかったし、そもそもログアウトで復帰不可の場所がある事そのものを忘れていた。ログアウトで復帰不可の仕様と、木の残る性質を考えればおそらく間違ってはいないだろう。


「ケイ、そういう事はもっと早くに言ってほしいかな?」

「今気付いたんだよ!?」

「ま、良いんじゃない? そういう場所がありそうってのは分かったんだしね」

「とりあえず広くなってる場所を探そうよ! ご飯までに見つけないと戻るしかなくなっちゃうよ!」

「それもそうだな。ログアウト可能な場所を探しに行きますか!」

「ま、それが無難だな」


 という事で改めて出発していく。

 途中でまた闇コウモリの別個体を発見して、仕留めて行きながら奥へと進んでいく。別個体でも識別での種族情報が同じだと発見ボーナスも討伐ボーナスも貰えないようである。……まぁこれでも取得出来ればポイント過剰になりそうな気もするし、仕方ない仕様かな。

 多分ゲーム的には一度それで残滓化するけど、しばらくしたらオリジナルの黒の暴走種が復活しそうだよな。そうじゃないと後から来た人が全く発見ボーナスと討伐ボーナスを得られなくなるし。

 

 時々残滓になっているクモとかコウモリも混ざっているので、他にもこの洞窟に入っているプレイヤーも居るようだ。当たり前といえば当たり前だが。


 そしてしばらく進んだところで結構広めの開けた場所に出た。広さはどれくらいだろうか。野球くらいは普通に出来そうな広さはありそうだけど、平坦ではなくゴツゴツとした岩が所々に突き出しているので野球は無理だな。鍾乳洞的なインパクトは特にないけども、休憩地点としては良さそうだ。あと、僅かながらほんの少しだけ明るい。


 うん、こんな感じの場所はいくつか見覚えがあるな。暗視を使った前回と『発光』での光源ありの今回では見え方が微妙に違う。前回は僅かに明るいのには気付かなかったしな……。

 前の時と同じなのは、広い場所ではあるけど敵の気配はしないという事か。こういう場所がこの洞窟を踏破していく上での1種の安全地帯なのかもしれないね。


「結構広い場所に出たね」

「なんかほんの少し灯りがあるかな?」

「上の方に何かある!?」

「上は前回はろくに確認してなかったっけ」


 前回は移動の為のコケ探しに集中して、奥へと進むのをメインにしてたからな。今回は上も確認していこうか。


 一度別のスキルを使う為に土の操作を切る。操作が切れたので小石は落ちるけど、この程度は今更気にしても仕方ない。とりあえず『視覚延長Ⅰ』と群体化を併用しての小技で天井部分を見てみよう。って、見た先で群体化が有効って事はあれはコケか。多分、『発光』の取得元になったヒカリゴケだな。


 ついでに微妙に僅かながらの横穴というか岩の裂け目を発見。どうやらその先に光源があり、ヒカリゴケがその光を反射しているって感じのようだ。ヒカリゴケを群体化したら『発光』を取得出来るのに一般生物扱いだから、直接光る訳じゃないのか。

 そもそもリアルのヒカリゴケって自分で光ってるんじゃなくて、光を反射してるだけらしいし、そこら辺はリアル準拠なんだな。多分モンスター化すれば自分で光るんだろうけど。


「なんか上の方に岩の裂け目があって、そこからの光を一般生物のヒカリゴケが反射してるっぽいな」

「光があるって事は地上に繋がってるのかな!?」

「光る黒の暴走種がいるのかもよ?」

「どっちも有り得そうな話だな。ま、流石に位置が高いし今は無理に行く必要もないだろ」

「それもそだねー!」

「ログアウトの方はどうかな? ……うん、ここなら普通にログアウト出来るみたい」

「よし、やっぱりこういう場所がログアウトが可能な場所か」

「出入り口の付近は無理みたいだよー!」


 やっぱりアルみたいにフィールドに残る種族が道を塞がないようにする為の処置らしいな。この感じだと他に洞窟とかのエリアや、通れる場所の限られるエリアでは似たような仕様になっているのかもしれない。まぁ、この辺は多くの人が同時に遊んでいるオンラインゲームだからこその仕様なんだろうな。


「んじゃ、ここでログアウトして食事休憩な!」

「再開は何時くらいかな?」

「んー、今が12時半だから1時半から2時くらいじゃない?」

「ならその辺で、全員集まったらLv上げ再開な」

「分かったよ!」

「うん、それでいいかな」

「私もそれで問題なし」

「俺も問題ないぜ」

「それじゃ一旦解散!」


 ログアウト可能な場所へと辿り着き、時間的にも休憩するにはちょうどいいので一旦ここで解散していく。こういう場所があるなら、ログアウト不可の仕様はある意味では帰還の実の代わりにもなりそうだ。



 ◇ ◇ ◇



 そしてやってきたログイン場面。……そういやバグったいったんはどうなったんだろうか。って、普通にいたよ。そしていつものように胴体に文字がある。えーと『いったんのメンテナンス完了! 大変だからあまり弄り過ぎないでね?』か。……やっぱりバグった原因は掲示板でのやり取りのせいか!?


「やっほ〜! 僕、復活!」

「戻って良かったな」

「ん〜それが何があってメンテナンスされてたのかが分からないんだよね〜。また閲覧不可なログが増えちゃった……」

「あー、まぁ気にしなくていいと思うぞ」

「うん、そのつもりだよ。僕もまた緊急メンテナンスは嫌だしね〜!」

「そっか。とりあえず、俺は飯食ってくるよ」

「はいよ〜。食事は大事だもんね〜!」

「んじゃまた後で」

「またのログインをお待ちしております〜!」


 とりあえずいったんは元に戻ったようで何よりだな。うん、ここでいったん以外がいたというのも変な違和感があったし、これくらいが気楽でいいのかな。

 母さんが呼んで来ないって事はまだ昼飯は完成してないって事だろうけど、ちょっと母さんを手伝ってさっさと飯食ってこようっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る