第127話 苦手な生物
とりあえず闇コウモリは手間はかかるけど、確実に倒せる事は判明した。後は奥に進んで行きながら、出会った黒の暴走種は識別でレベルを確認しつつ進んでいけばいい。極端なレベル差が無ければボスでない限りは倒していけるだろう。……それでも不意打ちには要注意だけど。
それにしてもコケのない所だと移動が制限されるのは分かってはいたけど、やっぱりきついな。……同時発動用のスキルとかあったりしないかな……? あ、土の操作の時間切れか。コツンと音を立てて地面に落ちてしまった。
「もう1回水球を作り直すか、土の操作の方でいくか、どっちが良いかな……」
「ねぇ、ケイさん! 良いこと思いついたよ!」
「ん? どんな事だ?」
「私がこうするのはどうかな!? 『土の操作』!」
うおっ!? コケ付きの小石が浮かんでいく。そういや、土の操作は水の操作と違って同じ物で再支配が可能だったっけ。この辺の違いは元々水と土の性質の違いのせいだろう。それにしてもこの手があったか。草花系のプレイヤーが使っていた土を使った移動手段だけど、他のプレイヤーにやってもらうという発想は無かった。
ハーレさんが他のスキルが使えなくなるが、その場合は即座に操作を切ってもらえれば良いだけだ。ただその場に落ちるだけだし、俺が移動で行動の制限がかかるよりは楽だろう。
「ハーレさん、ナイスだ! これなら問題なく他のスキルが使える!」
「えっへん! それじゃ移動は基本的にこれで行こう!」
「……運んでもらうのは良いのか、ケイさん?」
「え、別に割といつもの事だけど?」
「アルさんに乗ってる事が多いしねー!」
「あ、そうなのか」
思い返せばこれまでも、サヤに投げられ、ヨッシさんに運ばれ、アルに乗り込んで移動もしてきた。今更移動を任せるのに別に躊躇いはない。いざとなれば自力でも動けない訳じゃないし。
あ、小石での移動なら水中浮遊は要らないから切っておくか。……あれ、土の操作で移動出来るなら水中浮遊の存在価値って薄くなった……? うん、気にしない事にしよう。
<『水中浮遊』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 10/30 → 10/33(上限値使用:4)
よし、これで良いだろう。お、前方からなんか灯りが見えてきたな。他のプレイヤーか、もしくは……。
「……ねぇ、ケイ。灯りを持ったクモがいるんだよね……?」
「まぁな。って事でサヤ、覚悟を決めろ?」
「サヤ、頑張って」
「頑張れ、サヤー!」
「うん、頑張ろうかな!」
バシッと両手を打ち合わせ、サヤが気合を入れる。いつもの戦闘時のように爪もしっかりと伸ばして臨戦態勢に入っていた。あとは実物を見て大丈夫かどうかの問題だな。
そして徐々に灯りが近付いてきて、その姿が視認出来た。やっぱりあのクモか! 近付くまでに時間があったお陰で行動値も全快している。
<行動値を2消費して『識別Lv2』を発動します> 行動値 31/33(上限値使用:4)
<熟練度が規定値に到達したため、スキル『識別Lv2』が『識別Lv3』になりました>
『光源グモ』
種族:黒の暴走種
進化階位:成長体・暴走種
属性:光
特性:捕縛
お、識別がLv3に上がったな。とはいえ、今回はLv2での情報なのは上がった直後では仕方ないか。次から使う時は敵のレベルも見れるようになるから、今回はこれで我慢しよう。さて、サヤはどうだろう?
「お、思った以上に大きい……。でも結構、苦手生物フィルタが効いてるから大丈夫そうかな?」
「ちなみにどんな風に見えてるんだ?」
「……なんだろう、デフォルメしてヌイグルミみたいにした感じかな? でも周りとの差の違和感が凄いね」
大きさ的には多分60センチくらいで、形的にはリアルで見かけるような巣を作っているクモみたいな光源グモ。それが結構リアルな洞窟の中に60センチくらいのデフォルメされたクモのヌイグルミだと、違和感は確かに凄いだろうな。
だけど、そこまでやればサヤは大丈夫っぽい感じか。結構凄いな、苦手生物フィルタ。
「でも絶対に避けられない時ならともかく、積極的には戦いたくはないかな……?」
「ま、その程度で済むなら問題ないって。折角投擲もあるんだから、遠距離からでもいいぞ?」
「……そうだね。そうさせて貰おうかな?」
「確認はもういいか? そろそろ接敵しそうだぞ?」
「うん、大丈夫かな。そうだ、レベルの確認をしないとね。『識別』!」
お、サヤも識別を使ってくれた。よし、視認が必要な識別も大丈夫ならサヤの苦手生物のクモは問題なく戦えそうだ。
「Lv12だね! 特性に捕縛があるから捕まらないように気をつけた方がいいかな!」
「んじゃ、仕留めていきますか!」
「「「おー!」」」
「ホント仲いいな、このPTは!」
さて、サヤの苦手生物の確認は済んだし、クモの殲滅を開始だ。レベル的にも経験値はちょうど良さそうだ。さっさと経験値を寄越せー!
そしてしばらくの奮戦の後に、クモはポリゴンとなり砕け散っていった。経験値をありがとう。
このクモは分裂しなかったのでコウモリよりは楽に倒せた。基本的に光源グモは目くらましの強烈な光と、クモの糸をメインに攻撃をしてくるようである。
目くらましの方は予備動作で光が点滅し始めるので、タイミングさえ分かれば対処は簡単だった。俺以外は……。いや、ただ目を閉じれば良いだけなんだけど、コケ的にそれは無理なんだよ!?
目くらましの直後に飛んでくる糸は1回目こそサヤが餌食になったけども、それに直接の攻撃力はなかった。ただサヤの爪でも切るのが困難ではあった。紅焔さんの火魔法であっさりと燃えたけども。
その後は相性の問題か紅焔さんの火魔法によってクモの糸はほぼ燃え尽きて無力化出来ていた。天井へ糸を使って逃げようとしたクモを焼き切って落とした時は少し面白かったりもしたね。
多分、このクモは糸さえ対応出来れば楽勝なのだろう。纏火でも普通に対処出来るな、あれは。後はひたすら攻めるだけで倒せましたとも。もちろん俺は戦闘中は操作は切って石をその辺に置いてもらって、増殖でコケを増やして明るくしながら、遠距離から攻撃していたぜ。
経験値もコウモリよりも良くて、初討伐なので各種4ポイントずつゲット。どんどんポイントが貯まっていくけど、なにかスキルを取るべきか、進化と進化後に追加されるだろう新スキルの為に温存しておくか悩むんだよな。まぁあんまりスキルを増やし過ぎても熟練度稼ぐのも大変になるし、このまま行くか。
「思ったよりも進めるね?」
「……ヨッシさん、それは甘いぞ。1体ずつならこんなもんだけど、俺が殺られた時は3種類いたからな?」
「そういえばそうだったね。油断は危ないか」
「あ、分かれ道だね! どっちに行く!?」
クモを倒してしばらく進んでいくとハーレさんの言うように分かれ道が見えてきた。右側が少し下り気味で、左側がそのままの高さで続いている。どちらの先にも光源等はなく真っ暗で先は見通せない。流石にまだこの先を照らしきるほどの明るさはない。というか懐中電灯でもないので、狙った方向だけ照らすのは無理。
「ケイ、前に行った時はどっちだったのかな?」
「えーと、ここは確か右に行ったっけな」
「なら左だね!」
「え、行ったことない方に行くのか?」
「その方がケイさんも新鮮でしょ!」
「まぁ、それもそうだな。紅焔さんもそれで良いか?」
「あぁ問題ないぜ。俺は入るの自体初めてだし、どっち行っても分からないしな」
「決まりかな?」
「んじゃ左側へレッツゴー!」
俺もまだ行った事のない左側の分かれ道に行くことに決まった。さて、この先は全く知らないから何が出てくるのやら。
左側の奥へと進んでいくと、しばらくしてカサカサと何かが動くような音が聞こえてくる。……これは虫系っぽいか……?
「……ケイさん、なんか嫌な予感がするんだけど!?」
「よし、次はハーレさんの番だな」
「私も頑張ったんだから、ハーレも頑張って!」
「うー、私も頑張るしかないんだね……」
ハーレさんが覚悟を決めている間にもカサカサと言う虫が這い寄るような音は近付いてくる。あ、ハーレさんのすぐ近くに黒光りするGがいた。カーソルが緑って事は一般生物か。黒の暴走種以外にもいるんだな。……その割に幼生体はいないっぽいけど、ただ見つけてないだけかな?
「ぎゃー!?」
「え? あっ!? ちょ、ハーレさん、待ーー」
「あ、ケイごと……」
足元にGがいる事に気付いたハーレさんが、操作中の俺の小石をそのままGへと叩きつけた。もちろん俺ごと一緒に……。
「……あれ!? 反射的に攻撃しちゃったけど、案外平気っぽいよ!?」
「……そういや、リアルじゃ真っ先に逃げ出してたもんね? 攻撃に移れるだけでも随分違うんじゃない?」
「ふふふ、苦手生物フィルタって凄い! ここなら、忌々しいあれにも対応出来る! 日頃の恨み、ここで晴らしてくれよう!」
どうにもただ反射的に攻撃しただけらしい。そして苦手生物フィルタのおかげでゲーム内ではハーレさんはGに対しては問題ないようだ。……まぁ、それは良いんだけど、平気なのは良いんだけどね。
……平気でないなら、大目に見ても良かった。でも平気なのに俺ごとやるのかー。そうかー。
「……ふっ、ふふふ、そうか、平気だったか」
「あー、ケイさん。大丈夫か?」
「ケイ、大丈夫かな?」
紅焔さんとサヤが心配そうに声をかけてきた。流石に今のは周りから見てもどうかと思ったんだろうか。まぁいいや、どうするかは即座に決めた。
「……ハーレさん?」
「あ、ケイさん! 私、平気……だった……よ? あ、れ……も、もしかして……怒ってる?」
「当たり前だ! 苦手なままなら何も言う気はなかったけど、全然平気って言うから余計にな!?」
「あぅ!? ごめんなさい!?」
「次にリアルであれが出ても対処しないからな!」
「それだけはご勘弁を!?」
「知るか!」
俺だって流石に苦手ではないとはいえ、突然Gに叩きつけられれば怒りたくもなってくる。そしてその後に叩きつけた事に触れることも謝る事も無く、倒せる事を自慢げにされたらな!
「……なぁ、サヤさん。あれ、どういう事?」
「……あの2人は実の兄妹なんだよね」
「あー、なるほど。なんとなく合点がいったわ」
「さっきのはハーレが悪いかな?」
「私もそうだと思うよ。流石にいきなり叩きつけられたらね……?」
「流石に今のはな……?」
みんな同意をありがとう。まぁ怒ってはいるけどちゃんと反省すれば許すつもりではいるけどね。これくらい言っておかないとまたやりそうだし……。人任せの移動にこんな落とし穴があったとは、迂闊だったな。救いがあるとすればGが一般生物で即死だったって事くらいか。
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