第126話 レベル上げ開始


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『常闇の洞窟』に移動しました>


 前回は惨敗したけども、リベンジにやってきたぜ! ……今はまだ前ほど奥まで行く気はないけどね。今回は俺の発光による光源もあるし、それに重ねて夜目も発動すればそれなりの明るさで内部を見渡す事が出来た。これなら暗視がなくても何とかなる範囲内だし、発光をLv3まで上げておいて正解だったな。

 ……だけど少し離れた距離になれば見渡せない所も多い。まぁそこは仕方ないか。


「ハーレさん、危機察知は頼んだぞ!」

「任せて!」

「危機察知なら俺も持ってるから索敵は手伝うぜ」

「お、マジか! なら任せた!」


 そうか、紅焔さんはまだ小さなトカゲだもんな。捕食される可能性の多い小動物系には危機察知は重要なスキルという事なんだろうな。ここで索敵要員が増えるのはありがたいし、頼りにさせてもらおう。


「早速お出ましのようだぜ?」

「うん、正面上部だね!」


 紅焔さんとハーレさんの見上げた方向を見てみれば、そこにはコウモリが6体くらいいた。やはり出たか、このコウモリの群れめ! あの時は識別Lvが足りなかったから改めて識別してみるか。……あ、スキルの同時使用が出来ないんだった。ここはサヤに頼もう。


「サヤ、今の識別Lvは?」

「Lv3かな。ちょっと前に上がったばかりだから、まだ使った事ないけどね」

「よし、それじゃ識別を頼むわ」

「そっか、ケイは今は水の操作しか使えないもんね。それじゃ『識別』!」

「ヨッシさん、ハーレさん!?」

「灯りさえあれば、この程度は大丈夫! 『麻痺毒生成』『毒針』!」

「前はまともに見えなかったけどこれなら大丈夫! 『散弾投擲』!」


 呑気に話もさせてくれないのか、小さなハチとトカゲを狙ってきたコウモリの集団だった。そしてヨッシさんとハーレさんが迎撃に移る。ヨッシさんの毒針を受けそうになったらバラバラになったり、凌いだあとは合体したりと変な動きをしていて、やはり変なコウモリである。やっぱり成長体からは普通の生物の常識は通じないな。


「サヤ、結果は?」

「『闇コウモリ』で属性は闇、特性は分裂と合体かな。あとLv3からの新情報でレベルが出たよ!」

「レベルが出たか! いくつだ?」

「こっちはLv7かな。あっちはどうだろう? 『識別』!」

「俺も手伝うぜ。『識別』!」

「あっちはLv8かな」

「こっちはLv9、いや合体したらLv10になったか!」


 ヨッシさんとハーレさんが多数のコウモリを引きつけながら、紅焔さんとサヤが大量のコウモリを識別していく。……何となく予想はしてたけど、コウモリは特性に分裂と合体か。そしてLvは分裂したのでLv7〜9、合体して最大でLv10。ヒノノコ戦の直後だと視界も悪くて厳しいLvだけど、今なら何とかなる範囲だな。

 ただし観察している限りでは分裂して躱されるし、融合したら回復していくみたいなのでこれは個別の攻撃では意味がなさそうだ。


「ヨッシさん、昨日赤の群集の連中が使ってたのをやってみよう」

「あ、あれだね。毒の種類は?」

「麻痺毒で!」

「了解!」


 さてと入り口付近には、あまり多くはないけどほんの少しコケがある。そこに群体化して移動しよう。このままだと攻撃が出来ないしな。水球の操作を破棄したら、魔法産の水が落下していく。


<行動値を1消費して『群体化v1』を発動します>  行動値 24/30(上限値使用:7)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 23/30(上限値使用:7)


 洞窟内部に僅かにあるコケへと移動完了。よし、これで他のスキルが使える。とは言っても使うのはまた水魔法なんだけど。……水中浮遊はこの状態では無駄に上限値を消費してはいるけど、邪魔になってはいないか。ならこのままでいいや。


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 22/30(上限値使用:7) : 魔力値 54/62


「麻痺毒で『ポイズンクリエイト』!」


<『複合魔法:ポイズンミスト』が発動しました>

<増強進化ポイントを1獲得しました>


 昨日見た、赤の群集の杉の木とヘビが使っていた毒の霧を生成する複合魔法。名前はポイズンミストか。常闇の洞窟はクジラが余裕で通れるくらいの幅はあるとはいえ、外に比べれば密閉空間とも言えるだろう。……いや奥まで広いから密閉ではないか。そして毎日取得分のポイントが来たな。


 ポイズンミストの制御は魔力の高い俺の方へとやってきた。とはいえ複合魔法は操作系スキルでは上手く操作できないので、発動時の方向設定みたいなものくらいしか行えない。……ポイズンミストは発動場所から円形に広がっていくだけみたいなので、特にする事もないな。


「ケイさん、これ視界が悪くなってんぞ!?」

「あ、でもコウモリが落ちていってるよ!?」

「効果ありかな?」

「そんなに長時間じゃないから、奇襲だけに気を付けといてくれ」

「……そうみたいだな。『噛み付き』!」


 麻痺毒の効果で霧の範囲内のコウモリが5体ほど麻痺して地面に落ちていた。ヨッシさんの麻痺毒生成もLvが上がっているので以前よりも強力になって、完全に動きを封じている。この感じだと、そもそもこのコウモリは麻痺毒には弱そうな感じだな。でも流石に全コウモリを麻痺させるとまではいかなかったか。

 ……それにしても、いつの間にコウモリは10体まで増えてたんだろうか。まぁいい、ちょうど霧も消えてきたし今は麻痺が切れる前に仕留めよう!


「よし、落ちてるやつから仕留めていくぞ!」

「よーし、やるぞー! 『アースクリエイト』『投擲』!」

「『腐食毒生成』『斬針』!」

「任せとけ! 『ファイアボール』!」

「1人1匹かな? 『双爪撃』!」


<行動値2と魔力値8消費して『水魔法Lv2:アクアボール』を発動します> 行動値 20/30(上限値使用:7) : 魔力値 46/62


 麻痺して落ちていたコウモリは全て1撃でHPが無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていく。思ったよりあっさりと仕留められた。……そして1体当たりの経験値も予想以上に少ない。これは複数のコウモリ全体で1体のモンスターって感じか。残り5体、全部仕留めたら1体分って感じだな。これは範囲攻撃を前提とした敵っぽい。


「わっ!? 『投擲』が『狙撃』に変異したよ!?」

「ここで変異が来たか!」

「ハーレ、『狙撃』はすぐに使えそうかな?」

「ちょっと無理かも!? わっ、『視覚延長Ⅰ』ってのも増えてる!?」


 ハーレさんが戦闘中に主戦力のスキルが変異して、軽くパニックになっている。これは一度落ち着かせるべきだな。一旦落ち着けば、すぐに収まるはず。最近はあまり見なくなったと思ってたけど、昔は急な事態には慌てやすかったっけ。あ、Gが出た時は今でもこれをもっと酷くした感じか。


「とりあえずコウモリはこっちで相手しとくぞ! 『ファイアクリエイト』『火の操作』!」

「紅焔さん、頼む! サヤとヨッシさんもコウモリの方をーー」

「ケイさん、私に任せて」

「……ヨッシさん?」


 そうか、ヨッシさんはハーレさんの長年の親友だ。下手すれば俺よりハーレさんの扱いは慣れているかもしれないし、ここは任せておくか。


「ハーレ、とりあえず落ち着いて!」

「ヨッシ!? ……うん、落ち着いた!」

「もし統合の時みたいにスキル取得一覧にあれば『投擲』の再取得ね」

「うん! 『投擲』は……あったよ!」

「なら、もう大丈夫だね?」

「うん! みんなごめんね! 少しパニクっちゃった!」


 おー、流石ヨッシさん、見事な落ち着かせ方だった。……変異した元のスキルは再取得は可能なのか。統合でも再取得可能なら、変異もそうなるよな。

 ……そういや以前変異した俺の微毒生成も取得一覧にあったような気もする。毒はヨッシさんが強力で、俺自身には毒生成だけで充分だったからあんまり意識してなかったんだよな。


「落ち着いたならそれでいいけど、コウモリ連中には距離を取られたぞ? どうする?」

「あ、本当だな。……ちょいと試してみたいのがあるからやってみていいか?」

「良いけど、どんなのかな?」

「ま、見てれば分かる」


 折角だから、ここに来る前の特訓中に覚えた土魔法Lv2の実戦投入といこうじゃないか。


<行動値2と魔力値10消費して『土魔法Lv2:アースバレット』を発動します> 行動値 18/30(上限値使用:7) : 魔力値 36/62


 土魔法Lv2の仕様は水魔法2と同じで行動値はLv依存、消費魔力値は土の操作の使用行動値と使用する魔法Lvの乗算。だから行動値は2。そして土の操作の行動値が今は4なので、消費魔力は2×4で8になる。速度指定が土の操作Lv3までだから1〜3の範囲で、今回は最大速度を指定して消費魔力に2を加算する。

 使用する弾は魔法で生成された尖った小石。同時生成数も土の操作に依存で今は2発まで。砂とか土の塊とかも生成出来るけど、今回は用途的に小石が最適だ。よし、俺の周囲に2つの尖った小石が生成された。後は狙いをつけて放つだけ。


「おー! なんか新技だー!」

「ケイさん、土魔法も覚えたのか」

「準備完了。行くぜ!」


<増強進化ポイントを3獲得しました>

<増強進化ポイントを2獲得しました>


 狙うのは比較的近い2体のコウモリ。そしてアースバレットが撃ち放たれる。直後に石に撃ち抜かれて落ちていくコウモリが2体。うっわ、まさかの1撃かよ。いや、水魔法Lv2でも普通に倒せてたからそうでもないのか? ……でもこれは確実に水魔法より一点突破型の攻撃力があるな。

 とりあえず毎日2回までは討伐でポイントも貰えるのでポイント確保っと。この辺取るの忘れがちなんだよな。


「思った以上に速かったかな?」

「なんか私の役割を取られた気分だよ!?」

「でも、今の速度だと結構魔力値を使うからな。それにハーレさんのとっておきに比べたら威力は低いぞ」

「あれまで抜かれたらショックだよ!?」


 確かにハーレさんの投擲と多少役割は被ってるから、これはどうしても必要な時以外はあんまり使わないかもな。連発性能とか使い勝手とかは多分投擲の方が上だろうしね。まぁ状況次第では遠慮なく使うけども。


「あー、とりあえず残り3体も倒そうぜ? 逃げそうだぞ……?」

「あ!? 待てー!」

「しょうがないな、もう」

「逃亡は許さんぞ、経験値共! ハーレさん、石!」

「はい、これ!」


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 17/30(上限値使用:7)


 ハーレさんが頬袋から取り出したいつもの小石に移動し、運んで貰いながら逃げるコウモリ達を追いかけていく。ここまできて逃がすもんかよ!


「……いつもこんななのか?」

「まぁ、そんなとこかな?」

「……楽しそうでいいな」

「紅焔さんだって、今のPTは楽しいんじゃないのかな?」

「……まぁな。そんじゃ置いていかれないうちに行きますか」

「サヤ、紅焔さん、急げ!」

「まったく、よそ見してたのどっちだよ!?」

「待って欲しいかな!?」


 そう言いながらも紅焔さんも追いかけてくる。ちっ、コウモリ達の逃げ足が速い。こうなったら力技で行ってやる!


「ハーレさん、俺ごと小石をコウモリ目掛けて投げてくれ!」

「分かったよ! 『投擲』!」

「狙いは甘くなるけど、これでも喰らえ!」


<行動値2と魔力値8消費して『水魔法Lv2:アクアボール』を発動します> 行動値 15/30(上限値使用:7) : 魔力値 28/62


 ハーレさんに投げられてコウモリ達を追い抜いたところで、みんなの所に向けてコウモリを弾き飛ばすためにアクアボールを3発同時に撃ち出す。投げられている最中なので、狙いも大雑把過ぎるから速度加速による追加消費はなし。当たらなくても牽制でいい!


<行動値を5消費して『土の操作Lv3』を発動します>  行動値 10/30(上限値使用:7)


 そして今いる小石を土の操作で支配して、強引に投げられた勢いを殺す。小石も土の操作の影響範囲だから、こういう真似が出来て止められた。一気に支配時間が減ったけど、これはこれで有りだな。

 そして急に前方から迫った水魔法に驚いたのかコウモリ1体には直撃、残り2体は急な回避の為に更に分裂して4体になった。って、まだ分裂するんかい!?


「ケイさん、ナイスだよ! 『狙撃』!」

「追撃行くよ。麻痺毒で『ポイズンボール』!」


 光源の俺が離れてしまったのでみんなの周辺は薄暗くなっていたけど、俺を目印に照らし出されているコウモリ達に向けて、ハーレさんが変異した狙撃で分裂して4体になった内の1体を撃ち抜く。お、狙撃というだけあって射程は伸びてるっぽいな。でもLvの問題もあるけど威力は低めか。それでも分裂した1体は仕留めきった。

 そして飛んで少し距離を詰めた後に2発分で発動されたヨッシさんのポイズンボールが2体のコウモリに直撃して、麻痺させて落下していく。


「よし、今のうちに『壁上り』!」

「落ちたのは任せて! 『爪連撃』!」


 そして落下していくコウモリ2体の落下予想地点に即座に移動したサヤが1つのスキルで葬り去る。その間に残り1体のコウモリに、壁面をよじ登った紅焔さんが迫っていた。それに気付いてコウモリは更に分裂して逃れようとするが、既に紅焔さんの射程圏内。


「これ以上分裂するんじゃねぇよ! 『ファイアボール』!」

「よし、ナイスだ、紅焔さん!」


<成長体・暴走種を撃破しました>

<成長体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


「あ、最後のは経験値は多いんだ」

「これで全部倒せたね!」

「分裂は厄介だったけどね。無事倒せて良かったかな?」

「……というかこのコウモリは大量にいたと思ったけど、実は1体だったんだな……」


 更に分裂した2体のコウモリのそれぞれに火球が直撃し、最後のコウモリを倒しきった。しかも最後の1体が一番経験値が多いってがかなりの曲者な上に討伐報酬も最後まで仕留めないと出ないときた。ただし、分裂すればするほど1体ずつは弱くなっていたし、全部倒した時の経験値は結構な量だ。……この場合、最後まで倒さなくても経験値が貰えるのは良いことなんだろうか。


 まぁいいや、この調子でどんどん倒していこう。ちゃんと対処出来れば、充分倒せる範疇だということも分かった。そもそもここにいるのはこの分裂するコウモリだけじゃないしな。それにしてもやっぱり……。


「全滅させなきゃ駄目とか地味に面倒なコウモリだよな……」

「え、ケイがそれを言うのかな?」

「……え? あっ……」


 そういや俺自身も群体を全部潰して、核を仕留めなきゃ倒せない類の種族だった。……有利な場所は限られるけど、場所によっての厄介具合ではコウモリよりも俺の方が上だね。


「うん、まぁそれはそれ、これはこれって事で!」

「……ケイさんが赤の群集じゃなくて良かった気がするぞ……」


 なんか紅焔さんが呟いてるけど、俺も灰の群集で良かったって思ってる。少なくとも他の群集を選んでいれば今のこのメンバーとは一緒に遊べてなかったからな。


 さて、夜までにLv20を目指してどんどん倒していくぜー! 

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