第120話 怪しい黒の暴走種
とりあえず赤の群集のPTを撃破する事には成功したので次の検証に移っていこう。ずばり、この木の黒の暴走種が一体どういう存在なのかという事を。まずは少し距離を取って直接戦った蒼弦さん達に話を聞いてみるか。
「あの湖の真ん中の木が蒼弦さんの言ってたやつで良いんだよな?」
「おう、それは間違いねぇぜ。あの木から赤の群集の奴らは何かを受け取ってた」
「戦ってみた感じはどうだったのかな?」
「そいつ、弱かったぜ? ……そういや赤の群集の連中が戦ってた時はもっと苦戦してたような気もするんだがな?」
「それ、あからさまに怪しいよ!?」
「やっぱりボスが突っ走るから……」
「そうそう、怪しいって言ったじゃないっすか」
「だから途中で止めとこうって言ったのに……」
「ああなるとボスは周りが見えなくなるからな……」
「ぐぬぬ……! 事実なだけに否定できん!」
ハーレさんが言ってしまったけど、それってあからさまに怪しいじゃないか! っていうか仲間内でも呆れられてる!? この感じだと蒼弦さんが1人で突っ走っていくタイプなのか……? この突っ走り具合で氷狼戦にベスタを巻き込んだんだろうか。
……そう考えると蒼弦さんも中々に他人を引っ張っていく力自体はありそうな感じだな。オオカミのみというのも面白いPTだけど、これは蒼弦さんが1人で突っ走るのを抑えられる人が必要そうな気が……。まぁそこら辺は当人達の問題か。
「えぇい、過ぎたことはいい! あ、そうだ! さっきの戦いで赤の群集の連中から『浄化の欠片』が2個手に入ったぞ」
「あ、ボス、誤魔化すな!」
「ボスの変更戦を要求する!」
「ちょっと待て!? ボスは勝負で決めたじゃねぇか!」
「ボスには絶対服従とも決めてないはずっすよ!」
「PTメンバーの意見に耳を貸さないのにボスを任せておけるか!」
あ、なんか仲間割れが始まった。これはちょっと良くない流れか……? かといって下手に外野が手出しする事でもない気がするし、どうしたものか。
「おー、そこまで言うなら再勝負だ! 今回のクエストで1番『浄化の欠片』を集めた奴が次のボスだ!」
「おう、やってやらぁ!」
「ボスの座はいただくっす!」
「望むところ!」
「今度こそ負けん!」
……それでいいんだ? というかオオカミ組はPT内の勝負制でリーダーっていうかボスを決めてたのか。まぁ当人達が納得してるならそれでいいんだろうな。なんだかんだで気は合ってるのかもしれないし。
「……もういいか?」
「おう、良いぞ」
「『浄化の欠片』はヘビの人が持っていたって事で良いのかな?」
「多分な。倒した時にインベントリに入るんじゃなくて地面に落とすみたいだぞ」
「へぇー! そうなってるんだね!」
蒼弦さんが戦っていた相手はヘビだったから、それを倒した際に相手が持っていた『浄化の欠片』を奪い取れたらしい。ほんとこのクエストは対人戦をかなり推奨しているね。だからこその任意参加なんだろうけど。……参加してない人を襲った場合ってどうなるんだろうか?
「なるほどな。そうなると『浄化の欠片』は手に入れたら出来るだけ早くヤナギに渡した方が良いわけか」
「その為に『往路の実』を温存しておくのもありかもね」
「あ、その手もあるのか。ヨッシさんナイス!」
そうか、何も『往路の実』を毎回ここに来るために使う必要もない。使える時間帯には制限もあるし、本命の使い方はこっちなのかもしれないな。それなら赤の群集と遭遇しても『浄化の欠片』を持ってる時は何度使える手段ではないけど『帰還の実』や『復路の実』で群集拠点へと逃げ帰っても良いわけか。……そして逃げようとする素振りを見せた相手は狙いどころって事だな。
「同じ群集同士での『浄化の欠片』の受け渡しは?」
「あー無理っぽいな」
「そんなに甘くはないんだね!?」
「拾った人からしかヤナギさんには渡せないって事なんだね」
オオカミ組の中で試してみてくれたが駄目のようだった。受け渡しが可能なら拾うだけ拾い集めてすぐに群集拠点に戻って、強い人に集めてそれでヤナギさんに渡せば楽になるもんな。それだと奪い合いが成立しないから流石に無理と。これは『往路の実』と『復路の実』の使い方が重要になってきそうだな。
とりあえず『浄化の欠片』の仕様は大体分かったし、さっきから蠢いていて気にはなってたけど放置してたあれの方に移るかな。いや、なんかフラグ立ったのか、ここに来た当初より積極的に挑発するように蠢いてるんだよな、あの木。湖の中から根が立ち上がって、ウネウネと動きまくってるんだもんな……。いつの間にかHPも全快してるし……。
「……とりあえずこいつの詳細を確認しとくか」
「そうだね。いつまでも見てみぬふりも出来ないかな」
という事で識別を使って詳細の確認をしていこうっと。
<行動値を2消費して『識別Lv2』を発動します> 行動値 33/35
『ミズウメ』
種族:黒の暴走種
進化階位:成長体・暴走種
属性:水、樹
特性:半覚醒、不動
湖の中に生えてるから何の種類か不思議だったけど、ミズウメってもしかして梅の木か!? マングローブとかの水中に生えるようなやつかと思った。いや、そこはどうでもいい。特性の半覚醒ってどういう事だ?
『……ワレラノ……ジャマ……ヲ……スルナ……!』
「げっ、こいつ喋るのか!?」
「俺らが戦ってた時は喋ってなかったぞ!?」
蒼弦さん達オオカミ組も驚いていた。という事は、倒さずに戦闘を止めるのが変化のフラグ……? 半覚醒っていうのは、半分意識が戻っている状態って事か。倒されるのを邪魔したのを怒っている……? なんで仲間である赤の群集の連中に倒されないんだ? これは赤の群集のプレイヤーにしか分からない情報かもしれないな。
「わっ!? 攻撃してきたよ!」
「……ケイ、これは反撃しない方が良いかな?」
『ワレト……タタカエ……!』
「……台詞的に戦わないほうが良さそうだな。よし、撤退!」
「いかにも何かありますって言ってるよね」
「よし、俺らの方も撤退するぞ」
「「「「おう」」」」
どう考えても戦えとか邪魔するなとか言ってる赤の群集の味方っぽい奴は倒すべきじゃないだろう。ここには手を出すなとみんなに周知しておくべきだな。そして同系統の灰の群集の奴を見つけてどういう事情なのかを調べる必要があるだろう。
『……ニゲルノカ……! ハイノ……グンシュウ……!』
挑発してきているけど、それは無視。はい、オオカミ組も俺のPTも撤収しまーす。
怪しい黒の暴走種が見えなくなる位置まで移動してきて、一旦移動を中止する。とりあえず次の行動方針を決めないといけないしね。
「蒼弦さん達はこれからどうする?」
「とりあえずヤナギのとこにさっき手に入れた『浄化の欠片』を届けてくるわ」
「あ、それは確かに必要か。それじゃ競争クエスト情報板の方は俺らでやっとくわ」
「おう。早とちりで迷惑かけてすまんな」
「いや、情報自体は貴重で重要な物だったし気にすんな。何も分からずに倒してたよりはずっと良い」
焦りはしたけども、結果的には間に合ったし、明確に他の黒の暴走種とは違う事も判明したしな。特性の半覚醒は非常に重要な情報だろう。今回のクエストだけでなく今後にとってもだ。
そうしてオオカミ組はヤナギさんの方へと向かって移動していった。さてと、俺達は俺達でやる事をやりますか。
「んじゃまたサヤとヨッシさん、周辺警戒をお願い」
「今回は俺も情報の方に回るぞ」
「周辺警戒は任せてかな!」
「周辺警戒ね。了解」
という事で再び競争クエスト情報板を覗いていこう。さて紅焔さんを筆頭に北端へ向かった人達は何か進展はあっただろうか?
ケイ : 決着が着いたので報告に戻ったぞ。
ザック : おっ、そっちはどうなった!?
ハーレ : ぎりぎりだったけど間に合ったよー!
アルマース : ついでに待ち伏せしてた赤の群集のPTも仕留めておいたぞ。今は蒼弦さんのPTがそいつらから奪った『浄化の欠片』をヤナギさんのとこに持っていってる。
ザック : おぉ! やるじゃねぇか!
ケイ : 怪しい黒の暴走種は間違いなく何かあるぞ。半覚醒とかいう特性を持ってて、カタコトだけど喋りやがったしな。
招き猫 : なんですと!? え、会話ログは見たけど、今はどういう状態!?
ハーレ : あれは多分倒さない方が良いよー! 赤の群集のPTもオオカミ組に倒させようとしてたし、何より黒の暴走種自身が戦うように挑発してきたからね!
ラーサ : ……そんな敵までいるんだ? 厄介だね。
アルマース : ちょっと危ういタイミングではあったけど、蒼弦さんのPTの手柄だな。あれは赤の群集との戦闘を目撃してなければ普通に倒してもおかしくねぇぜ。
ザック : 早とちりも役立つ事もあるって事か。成果があるなら文句はねぇよ。
ケイ : ま、そういう事でこっちの簡単な報告は終わり。北端へ向かって行った人達はどう?
ラーサ : んー書き込みがないから、まだ探してるとこじゃないかな?
ザック : だろうな。
ライル : いえ、ちょうど今成果がありました。北西の端の湖の真ん中にいる黒の暴走種を見つけました。そちらの怪しい黒の暴走種と特徴は一致します。
ハーレ : お! グッドタイミングだね!
カステラ : 見た目は普通の黒の暴走種だね。識別もしたけど半覚醒なんてものもないよ?
ザック : ……何かフラグがあるのか?
紅焔 : 蒼弦が言うには赤の群集も攻撃をしていたらしいからな。軽く戦闘をしてみるわ。
アルマース : おう、任せたぞ!
ちょうどいいタイミングだったらしい。よし、これで赤の群集が自分達で戦っていなかった理由が分かるかもしれない。しばらくの間『浄化の欠片』の対人戦による取得方法や『往路の実』や『復路の実』の運用方法について話し合って結果を待っていた。
紅焔 : 赤の群集が自分達で倒さない理由が分かったぞ!
ケイ : お、分かったのか!
ライル : 正しくは倒せない理由ですね。
ハーレ : どういう事ー?
カステラ : えっとね、順を追って説明するよ。まず攻撃を仕掛けた時点で異変があって、そこで黒の暴走種が喋り出したんだ。
紅焔 : その時点で再度識別を使ったら特性に半覚醒が増えていたぜ。
ザック : 攻撃されることがイベントフラグって事か。
ライル : えぇ、そのようでした。そして喋った内容を要約しますね。特性に半覚醒が出ると元が同じ群集である為に灰の群集のプレイヤーではダメージが大きく減衰するそうです。そこで赤の群集を利用して自分を倒せという内容でした。
アルマース : ……そういう内容か。元が同じ群集で半覚醒状態になった為に倒しにくくなるとはな。
招き猫 : でもこれで理由は分かったね。あとは受け渡していた物に関しては?
紅焔 : 時間制限はあるけど、『特性の実:淡水適応』っていう一時的に特性を付与して水中での活動を可能にするアイテムだな。ただし、黒の暴走種の状態では数も質も揃えられないらしい。
ケイ : ……やっぱり予想通りか。それだと確実にザリガニのいた湖の中に何かあるな。
ザック : だろうな。だが、互いに相手を有利にする条件が分かった状態でどうする?
ケイ : ……ダメージの減衰量ってどの位だ?
ライル : おそらくは10分の1以下まで減っています。そして半分は味方として動けていますが、黒の暴走種としての影響で無防備に倒されるという事は出来ないそうで……。
アルマース : 他の群集相手ならそのダメージ減衰はないから、普通に戦って倒される事も可能って訳か。中々厄介な話だな。
紅焔 : とりあえずこれでお互いに条件は同じになったし、現時点でも水中活動用のアイテムが手に入らない訳じゃない。それでなんとかするしかないだろ。
ライル : そうなりますね。とにかく今は『浄化の欠片』を集めていく事を優先しましょう。後は下手に赤の群集の味方になる黒の暴走種を倒さない様に徹底して通知ですね。
ハーレ : そうだね! 知らずに倒した人が出たら台無しだしね!
ケイ : とりあえず今はそれしかないか。あとは浄化の要所の場所の特定だな。
招き猫 : みんなで頑張って探していこう!
とりあえず情報交換はこんなところか。やっぱり予想通りに同じようなのが灰の群集側にも居たんだな。それにしても味方だからこそ倒しにくいと来たか。半覚醒の特性は厄介ではあるな。ダメージが減衰するからこそ、赤の群集の連中はオオカミ組に倒させようとしてた訳か。うん、妨害出来て良かった。
なんにしても1回、北端まで行ってその半覚醒の黒の暴走種に会ってみる必要がありそうだ。明日は休みだし、みんなが大丈夫そうならこれから行ってみるのもありかもな。
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