第119話 共同戦線


 オオカミ組を止める為に追いかけ始めて少し経つ。俺達がこのエリアに転移してきてからそれほど時間は経ってないから、同じ場所にいたオオカミ組もそんなに遠くには居ないはずなんだがなかなか見つからない。途中で色々と跳ね飛ばして、経験値がそこそこ入っている気もするけどその辺は後回し!


「あ、湖っぽいのが見えたよ! オオカミ5人でなんか戦闘中みたい!」

「よし、間に合ったか!」


「おっと、ここは通行止めだぜ?」

「そこの灰の群集の連中は止まってもらおうか!」


 そこへ先を塞ぐように現れてきたのは赤の群集のプレイヤーが4人。全員受注マーク有りでイノシシ、移動種の木、ヘビ、クマか。移動種の木は大きさが違うけどフラムに似てるから多分杉の木。

 それにしてもこいつら、もしかして赤の群集のNPCになる可能性に気付いてるのか。そしてオオカミ組があの黒の暴走種を倒すのを待っている……? でもなんで自分達で倒さない……? まぁそれは後で考えればいいか。とにかくこいつらは、オオカミ組があの黒の暴走種を倒すのを阻止しようとしている俺らを足止めしようって連中だ。ならば遠慮は要らないな。


「サヤ! 構わず轢いていけ!」

「分かった!」

「えっ! ちょっ!? マジで!?」

「退かないととんでもない事になるかな!」

「援護するね。『ポイズンボール』!」

「私もやるよー! 『散弾投擲』!」

「うわ!? 避けろ!」


 今の赤の群集は純然たる敵でしかない。全く止まる気配のない俺らに慌てた赤の群集のPTは回避に移る。よし、邪魔者排除。本格的な相手は後でするから、今は退いてもらおうか。


「おーい、蒼弦さん! 攻撃ストップ! それを倒すのは罠だ!」

「ん? って、うわ!? 大暴走の移動種!?」

「罠だと……!? 攻撃やめ!」

「おう!」

「なんっすかね?」

「……ん? 赤の群集のPTがいるぞ? どういう事だ?」


<成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 ……発見情報が共有化されないって事はこうなるんだよな。目の前に戦ってる人がいるのに初回発見ってのも変な気分だけど、とりあえず倒される前に辿り着けたようだ。


 即座に滑る為の水を防壁に作り変えて、アルの勢いを殺して止める。水の防壁はショックを吸収するみたいだから朦朧状態にはならないし、同じ群集だからダメージもない。

 そして例の黒の暴走種の残りHPは1割……。って、もう少し遅かったら危なかった! どうやら水中で生えている木みたいだ。湖の中に根を張っているのが見え、水深自体もかなり浅いみたいでオオカミくらいなら普通に歩けるっぽいな。とりあえず素直に聞き入れて攻撃を止めてくれて助かった。


「……どういう事だ? 説明が欲しいんだが」

「あー事情なら『競争クエスト情報板』を見てくれ。ちょっと説明してる時間はなさそうだ」

「……そうか。少し確認してくる」


 そう言ってオオカミ5人組は戦闘を中止し、黒の暴走種から距離を取る。それとは反対に先程足止めをしようとしてきた赤の群集のPTがやってきたので、のんびり説明って訳にもいかないから手抜き説明ですまん!


「くそっ! 作戦失敗じゃねぇか!」

「いや、もう1割まで弱っている。今の状況なら俺達でも削りきれるはずだ」

「だが灰の群集の連中も結構いるぞ?」

「んなもん、倒せばいいんだよ!」


 どうやら戦闘する気でいるようだ。こっちとしてもそれは望むところ。少なくともこいつらが俺達を足止めして、オオカミ組にあの黒の暴走種を倒させようとしていたのは間違いない。これは確実に何かがある。そして赤の群集では倒せない理由も何かあるのだろう。

 その辺に関しては紅焔さん達が今調査しているしな。おそらくは灰の群集側にも同じような存在が居るはず。そうでなければゲームとして不公平になる。


「……大体の事情は分かった。早とちりして突っ走って悪かった」

「いや、間に合ったから別にいいさ。んで、ちょっと相談」

「なんだ?」

「あのPT、一気に殲滅するけど一緒にどう?」

「よし、乗った!」


 敵は4名、こちらは俺のPT5名にオオカミ組5名。数では圧勝だけど、引く気がなさそうなのが気になるな。何か手の内を持っていると考えた方が良いか。そう考えているうちに先手を取られた。


「あれをやる! 『ポイズンクリエイト』!」

「おうよ! 『アクアクリエイト』!」

「複合魔法か!?」

「……赤の群集では秘匿してるってのに普通に知っている……か」


 赤の群集のヘビが禍々しい毒を生成し、それに重ねるように杉の木が水を生成する。おそらく複合魔法となったそれが霧のようになり徐々に広がり始めていく。……この組み合わせはまだ試してなかったけど、こうなるんだな。

 そして劣勢からの初手で使ったとこを見ると、これが多分こいつらの切り札か。よし、今度試してみよう。


 とりあえず毒の霧が広がりきる前に対処しないとマズい……マズいのか? そういや毒の有効性って自分達にはまだ試した事がない気がする。サヤとハーレさんは危ないにしても、植物系とか毒持ちって毒に対してはどうなんだろ? いや、考えてる場合じゃない。即座に打ち消さないと、バッチリ効いたらマズい!


「……醜態を晒したからな。ここは俺らの名誉挽回と行かせてもらおうか! 行くぞお前ら! 『アイスクリエイト』!」

「ボス、あれっすね! 『ウィンドクリエイト』!」

「我らが複合魔法『コールドエア』でも喰らえ!」

「んな!?」


 リーダーの蒼弦さんが氷魔法を使ったと思えば、他のメンバーが風魔法を発動し、複合魔法を発動させる。どうやらオオカミ組も普段から複合魔法を使っているようだ。そして白い冷気が周囲に広がっていく。体感温度はないので寒くは感じないが、体感温度の設定があれば寒いのだろう。そして2つの複合魔法がぶつかり合い、毒の霧は凍り、冷気も消えて共に効果を失って消滅した。


「ちっ、灰の群集の連中は魔法が多彩でいやがる!」

「やっぱり甘くないってか。『杉花粉』!」

「そんなもん効かないぜ! 『ファイアボール』!」


 今度は杉の木が花粉を舞い散らせ、更に別のオオカミが火魔法Lv2でそれを焼き落とす。杉花粉ってクシャミが止まらなくなりそうなスキルだな……。いや、どんな状態になるのか試してみないと分からないけど、今は流石に試せないしね。

 それにしてもこのオオカミ組って、それぞれ別属性の魔法を覚えてたりするのか……? とにかく気を引いている内にこっちはこっちでやっていこう。おかげで行動値も全快してるしな。


「アルは根下ろし。ハーレさんとのいつものパターンで必要そうな所に援護の投擲!」

「おうよ! 『根下ろし』!」

「狙っていくよー!」

「サヤはクマを任せた。ヨッシさんはイノシシを頼む」

「分かったよ!」

「了解!」

「オオカミ組は今の相手をそのまま頼む! 手が空いてるときは援護攻撃もよろしく!」

「おう、任せとけ!」


 さてと指示出しはこんなもんでいいか。俺は遊撃として動こうじゃないか。


<行動値を3消費して『群体化Lv3』を発動します>  行動値 32/35


 周辺のコケを一気に群体化して支配下におく。さて状況に合わせて攻撃していこうじゃないか。まずはクマ同士の戦いだ。ここは動きが激しい為か、オオカミの人は援護のタイミングがうまく取れないようでいた。まぁ近接戦闘だから、迂闊な援護は邪魔になりかねないし初めて一緒に戦う時には仕方ないか。


「くっ、こいつ強い!?」

「……水月さんに比べるとまだまだかな」

「水月を知ってんのか!?」

「私のクマとしてのライバルだしね! そこ! 『双爪撃』!」

「数で負けてるからってそう簡単に負ける訳にもいかねぇんだよ! 『強硬牙』!」

「サヤ、下がれ!」


 サヤの『双爪撃』の直撃を受けてなお、鋭い牙で一矢報いようと赤の群集のクマが襲いかかる。サヤなら何とか出来るだろうけど、今は即座に殲滅を優先する。って事で足元にご注意を。


<行動値を2消費して『スリップLv2』を発動します>  行動値 30/35


「なっん……!?」

「1対1じゃないからね。まぁご愁傷様かな。『薙ぎ払い』『爪連撃』『爪刃乱舞』!」


 俺のスリップでバランスを崩した所に薙ぎ払いで完全に転倒させ、そこに連撃で一気にHPを削り切る。あと少しで切れるというところだろうが、まだ自己強化の効果中だったこともあり一気に削りきれたようだ。赤の群集クマはポリゴンとなり砕け散っていく。まずは1人目。


 さて1人減ったし、次だ次。ヨッシさんとイノシシを見てみよう。


「あーそのパターンは何度か見たことあるって。はい、『斬針』!」

「くそっ、なんでこんな一方的に!?」


 イノシシは一方的にヨッシさんにカウンターを決められ、どうやら複数の毒を受けている様だ。まぁイノシシの固有の攻撃パターンはアーサーを鍛えた時に見たからな。どうも見た感じではアーサーとプレイヤースキルは似たりよったりって所か。これは放っておいても問題ないな。オオカミ組の1人も後ろで待機して時々土魔法で援護してるみたいだし、ここは過剰戦力だな。さて、次!



 ヘビVS蒼弦さんともう1人のオオカミは少々手間取っているようだけど、一応は優勢な感じだな。毒魔法が厄介な感じだけどうまく相殺しながら、着実にダメージを与えている。ここは援軍あれば一気に仕留められそうだ。


「サヤはこっちの援軍を頼む」

「うん、分かった。ケイは?」

「なんかアル達が苦戦気味みたいだからあっちに行く」

「あ、ほんとだね。あっちが私のほうが良くないかな?」

「……あんまりヘビとは戦いたくない」

「あはは……。まぁ気持ちはわかるかな。それじゃそれで行こう」

 

 サヤに俺の我儘を聞いて貰い、俺はアルとハーレさんの増援に向かう。そして移動種の木同士の対決は、微妙に膠着状態に陥りつつあった。ふむ、お互いに水分吸収でHPを回復し合っていて決定打に欠ける感じだな。ハーレさんがいる分こちら側が有利のようだけど、この杉の木は水分吸収でのHPの回復量はアルより多い感じがする。幹が少し抉れているのを見るとハーレさんのとっておきは使用済みか。

 火魔法を使うオオカミの人も奮戦はしているがあまり魔力が多くないのか、魔法を使う頻度は少ない。近接攻撃も仕掛けて行っているが、どうも杉の木の回復量の方が上回っているらしい。回復量が多いのは厄介だな。


 よし、前々からちょっとやってみたかった事でも実験してみよう。


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 29/35

<行動値を2消費して『増殖Lv2』を発動します>  行動値 27/35


 杉の木の根本のコケに移動して増殖を発動して、ジワリジワリと幹を侵食していく。さてと、あれはLv3には上がってるけどまだ黒の暴走種の木にも他のプレイヤーにも試した事がないからな。どうなることやら。


「えっ!? いきなりなんだ!? くそっ! 『リーフカッター』!」

「あーケイがそっちにいったか」


 ふん、そんな攻撃は効きはしない。俺にダメージを与えたいなら、乾燥させる手段か、水属性の耐性を上回る高火力を持ってこい!


<行動値を3消費して『水分吸収Lv3』を発動します>  行動値 24/35


 お、これは杉の木のHPの回復速度が落ちたっぽいな。そして取得できるような物は何もなしか。植物系のモンスター相手に使えば普通に攻撃手段になるんだな。『常闇の洞窟』にいた闇ゴケの攻撃手段はもしかしてこれか……?


「ちっ『水分吸収』! くそっ、回復量が減りやがった!?」

「これでアルと同じくらいの回復量になるのか」

「くそっ、離れろよ、このコケ!」

「やなこった。アル、ハーレさん、殺っちまえ!」

「おう。『アースクリエイト』『土の操作』『根の操作』『スタブルート』!」

「ケイさん、ナイス! 『アースクリエイト』『魔力集中』『投擲』!」

「ちょっ!? 待っ!?」

「このクエスト中は問答無用だ。覚悟を決めろ!」


 そしてアルの新技により串刺しにされ、ハーレさんの取っておきで幹に貫通した穴が空いた。だが、まだ僅かにHPが残っており、徐々にHPが回復していく。木はやっぱり頑丈だな。あの直撃でもまだ耐えれるのか。


「このっ! 負けてたまるかー! 『杉花粉』!」

「わっ!? 状態異常、花粉症って何!? 目がショボショボして前がよく見えない!?」

「ちっ、厄介な攻撃を! ケイ!」

「おう!」


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 23/35 : 魔力値 54/58


「『コイルルート』!」


<『複合魔法:ルートレストレイント』が発動しました>


「なっ!? くそったれ!」


 複合魔法となった根により念入りに締め付けられ、先程の穴が空いていた杉の木はへし折れた。流石にその状態ではもうHPは残っておらず杉の木はポリゴンとなって砕け散っていった。ふむ、木も種類によって特徴があるんだな。杉の木はHP回復量が多くて、花粉攻撃ありか。


「うーこの花粉攻撃やだー!」


 ハーレさんのなんとも言い難い言葉が聞こえるけども、状態異常が治るまでは我慢してもらうしかない。さてと他は……うん、ヘビもイノシシも姿はないという事は倒したんだな。そしてこちらはオオカミ組がHPの減りが多いけども、負けた人はいないようだ。人数差があったとはいえ完勝だね。

 このクエストが終わるまではこういう赤の群集との戦いも何度もあるんだろうな。今回はこっちが人数的に有利だったけど、こっちの人数が少なくて不利な場合もあるだろう。気をつけていかないと。


「やっと治ったー! アルさん、蜜柑貰うよ!」

「おう、持ってけ」

「はい、これ食べてみんな回復してねー!」

「お、悪いな。助かるぜ」

「……すまんな、色々と手間をかけさせて」

「まぁ、次から話は最後まで聞いてからにしてくれたらいいさ」

「そう言ってもらえると助かる」


 ハーレさんがみんなに蜜柑を配っていき、休憩タイムに突入していく。


 とりあえずひとまずの目的は達成したし、赤の群集のPTも撃退した。明らかに何かある黒の暴走種の存在も発覚したし、成果としては充分だろう。まだそれ程時間は経っていないけど、北端の方の調査は進展あるだろうか? 流石に気が早いかな?

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