第118話 焦りは禁物


 クエストで何をしなければいけないのかは判明した。ひとまずやるべき事は『浄化の欠片』の大量収集である。そうなると次はどういう風に探していくかだな。行動方針はみんなと相談して決めていこう。


「とりあえず、どの方向に行く?」

「そうだな……。Lv上げもしていきたいし、適当にブラついてもいいんじゃねぇか?」

「私はアルさんに賛成ー! どこにあるかも正確にわかんないんじゃ、目的地の設定自体が無理だしね!」

「それもそうだな。んじゃ、しばらく移動は任せるわ。ちょっと俺は情報収集してくる」

「他のプレイヤーの情報も必要かもね。どんな所に『浄化の欠片』があったか分かれば探しやすいし」

「だよねー! 私も情報収集に行くよー!」

「ハーレとケイに情報は任せたかな」


 情報収集はお任せあれ! ……初めた頃には自分で書き込む気はなかったのに、一度書き込んでしまえば抵抗が一切無くなったもんな。なにかクエストに関わる新情報でもあればいいけど。


「俺は今回は移動の必要もあるから情報は無理だな」

「しばらくの間は移動は任せる!」

「それじゃ私は見落としそうな死角に飛んでいって探そうっと」

「私はアルの周辺を歩きながら探そうかな?」

「俺は足元ってか根元の方を探してみるか」

「それじゃ各自、行動開始って事で! 戦闘になったら言ってくれ」

「おう、それは分かってる」


 それぞれに探していく部分を手分けしていく。俺とハーレさんはその間に情報収集をするのが役目だな。アルは今回は移動しながらなので無理と。それは仕方ないので、俺は俺のやる事をしよう。競争クエスト情報板を見に行くぜ!


 ケイ    : クエストの進行状況って進んでたんだな?

 ライル   : えぇ、真夜中にログインしていた方々が進めていたようですよ。

 紅焔    : ま、それでも真夜中は、人が多いとも言えないから少しだけみたいだけどな。

 ハーレ   : へー! ログインしてない時にでも進むのはオンラインならではだね!

 ライル   : そうですね。そういう所はオンラインならではといったところでしょう。

 ザック   : ログインしてない時にクエストが進むのが気に入らねぇとか言う奴もいたが、そんな連中はオフライン版でもやってやがれってんだ。


 アルベルト : そういやそんな風に喚いていた奴もいたね。多数の人間が同時にプレイしているんだからその辺は仕方ないだろうに。自分だけがプレイヤーだとでも勘違いしてるんじゃないか。


 紅焔    : あー気持ちは分からんでもないけど、それ以上は止めとけ。あんまり気分の良い話でもないし。


 ザック   : ……それもそうだな。

 アルベルト : ……そうだね。

 ライル   : ところで、ケイさんはこちらに来るのは遅かったですね?

 ケイ    : PTメンバーが揃うの待ってから来たからな。んでどんな調子?

 紅焔    : なるほどね。とりあえずちらほらと『浄化の欠片』は見つかってるってとこだ。

 ライル   : 場所によって1個だけだったり、数個まとめてあったりするそうですよ?

 アルベルト : まだ情報が少ないから断定は出来ないけど、成長体が多い所に複数個あったりするってさ。逆に幼生体の所にはあんまりないっぽいね。


 ハーレ   : へー! 傾向があるんだね!

 紅焔    : まぁエリアのどの辺に成長体が多いかが分からんから、現時点ではあんまり意味ないがな。あーそれとだな、推測だけどあのザリガニだがな……。


 ハーレ   : やっぱりあのザリガニは何かあるの!?

 ライル   : 森の中で何かを集めているという目撃情報が出たんですよ。それが何かは確認出来ていませんが……。


 ケイ    : マジか? 目撃者はどうなった?

 ライル   : すぐにザリガニに仕留められてしまったそうです。

 ザック   : そんで、ザリガニが『浄化の欠片』を溜め込んでるんじゃねぇかって推測してたとこだぜ。徘徊して浄化を妨害する敵としちゃ理に適ってるとは思うからよ。


 ケイ    : あ、そうか。エンがヒノノコだった時の行動理由と重なるのか!

 紅焔    : そういう事だ。あのザリガニは絶対に倒すべきボスではないけど、倒せたら一気に進められるボーナスボスの可能性があるんじゃないか?



 つまり、あのザリガニも『浄化の欠片』を奪い合う相手という訳か。……やっぱり黒の暴走種とも競争? いや、確定させるにはまだ早いか。ザリガニが集めた『浄化の欠片』の存在を確認しなければ推測の域は出ない。何を拾っていたかさえ確認出来ていればな……。


 ケイ    : ザリガニが拾っているとしても何処に溜め込むかって話でもあるのか……。

 ハーレ   : やっぱりあの湖の底かな……?

 紅焔    : 可能性としてはあるとは思うんだが、多分まだ何かあるか、もしくは全くの的外れだな。湖の中が溜め込んだ場所なら不公平すぎるし。


 ハーレ   : え? あ、そっか。あっちは川があって魚のプレイヤーがいるけど、こっちにはいないもんね!


 ケイ    : あーエリアにいる種族の差か。

 紅焔    : まぁな。赤の群集と違ってこっちには水中移動が可能な種族が少ない。水中に隠すとなれば俺らの方が圧倒的に不利になる。


 蒼弦    : ふふふ、ふぁーはっはっはっ! 我らオオカミ組は見つけた、見つけたぞ!

 ザック   : いや変な前置きは良いからさっさと喋れ!

 ハーレ   : もしかして浄化の要所、見つけたの!?

 蒼弦    : いや、違うが?

 ケイ    : 違うんかい!? えーと、それなら何を見つけたんだ?

 蒼弦    : マップの南西の端に別の浅く小さな湖を見つけた! そしてその湖のど真ん中に妙な動きをする黒の暴走種の木がいる!


 ザック   : 妙な動き……? どんなだ?

 蒼弦    : 見つけたのは偶然なんだが、赤の群集のPTがそいつを弱らせたら黒の暴走種なのに何かを投げ渡すような動きをしていてな! そしたら赤の群集の連中は倒さずに引き上げていった!


 紅焔    : ……どういう事だ? なんで黒の暴走種がそんな反応を?

 蒼弦    : とりあえず情報提供はしたから、仕留めてくるぜ!


 ライル   : もしかしてですが、元々は赤の群集所属の黒の暴走種なのでは……?

 ハーレ   : 似たようなのが初期エリアにいたよね!? ほら、木の幼生体の進化を促す黒の暴走種!

 

 そうか、そういう可能性もあるのか! 初期エリアにも植物系のプレイヤーの進化誘発用に存在する僅かながらにでも自我を取り戻し、同じ群集の仲間を手助けする黒の暴走種。そして特殊な役割を持つNPCは元々が黒の暴走種だったという設定が。となると、下手にその黒の暴走種を倒せば赤の群集のNPCが増える!?


 ケイ    : 迂闊にそれに手を出したら駄目だ!

 ザック   : っ!? 蒼弦、それを倒すのは待て!

 アルベルト : 返事がないな……もういない……?

 ザック   : ちっ、下手に倒すと赤の群集を有利にしかねないぞ!?

 紅焔    : 気が早いんだよ、あいつ! 近場に他のPTはいないか!

 ケイ    : ……まだ南端までマップが埋まってないから分からないんだけど、今のヤナギさんの位置って全体的にはどの辺だ?


 ハーレ   : あ、そういえばオオカミ組ってさっき見たね!

 紅焔    : ……マジか、それは朗報だ。ヤナギの現在地は今は南端に近いな。もしかしてケイさん達はヤナギのところに転移してきたばかりか?


 ケイ    : おう。一応確認なんだけど、蒼弦って人はオオカミ5人組のPTで合ってる?

 ザック   : あぁ、それで間違いねぇ!

 ハーレ   : やっぱり転移してきた時に近くにいたあのPTだね!

 紅焔    : ならケイさんのPTに任せた! なんでその黒の暴走種を赤の群集が倒しきらないのか理由が分からんが、倒すとマズい気がする!


 ケイ    : 詳細はこっちで実物見て確認してくるわ。

 ハーレ   : まずはオオカミの人達を止めるんだね! それならすぐに出発だー!


 紅焔    : こっちはこっちで似たような黒の暴走種を探すぞ!

 アルベルト : 確かに条件が同じでなくては競争にならないか。それに赤の群集の奴らが受け取った物が何なのかをはっきりさせないとマズイな。


 ザック   : ……可能性としては真逆の位置か?

 紅焔    : 俺のPTが北端に近いから探ってみる! 他のみんなも近い人は頼む!


 紅焔さんの呼びかけで書き込みをしていなかったけど、やり取りを見てはいたプレイヤー達が行動方針だけ軽く書き込んでいくのが見える。うん、書き込んでいないだけで結構な人数が参加しているようだ。


「情報収集は終了! 急ぎの用事が出来た。サヤ、『自己強化』有りで移動を頼む!」

「えっ? 何があったの?」

「移動しながら話す! アル!」

「……何かあったんだな? すぐに準備する!」

「マップの南西部だから、ここからならあっちだね!」

「急ぎなんだね? 飛ばしていくけど、良いのかな?」

「おう、思いっきり飛ばせ!」


 もし想像通りなのだとすれば、あのオオカミ5人組がその黒の暴走種を倒してしまえば赤の群集の支援用のNPCが誕生する可能性がある。おそらくヤナギさんとは別口の何かクエストを有利に進める為のもの。現状で推測するならば、対ザリガニ用の何か、もしくはザリガニのいた湖の中への進出手段。


 このクエスト、ただ単に浄化の要所や欠片を探すだけではないのかもしれない。倒したらマズいかもしれない敵がいるってのは厄介な罠を仕掛けてくれたもんだな!?


 全力移動でアルと俺はそれぞれ操作の制御に必死なので、説明はハーレさんに頼んでおいた。ぶっちゃけベスタとサヤの2人同時の時ほどではないけど、この速度での移動には余裕がないのもまた事実。サヤも聞き耳は立てながらも、走る事に集中していた。アルも同様である。


「……つまり、あのオオカミ5人組を止めれば良いわけね?」

「そういう事! まだ確定じゃないけど、倒すと厄介そうなんだよ!」

「……うん、そこは同感。でも貴重な情報ではあるよね、赤の群集に対しては行動が変わる状況を確認するってのも」

「そうなんだけどねー! もう少しだけ見ててくれたら問題なかったのになー!?」


 赤の群集に対して特別な行動を取るのは確かにかなり重要な情報だ。だからこそ、今こうやって急いでるんだしな。知らずに遭遇していればそのまま倒して、知らない間に相手の有利な状況を作りかねない。

 くそ、間に合ってくれよ! もしくは推測が外れててくれ!

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