第117話 競争クエストの進展状況
運良くヤナギさんが根下ろし中だったので『往路の実』を使用して、一気に移動していく。……ちなみにアルの内部で待機した状態で、アルに一番先に使ってもらって一緒に転移出来ないか試してみたけど、見事に放り出されてアルだけ転移していった。まぁそりゃそうだよね。これでまとめて転移が出来たら運営に報告しとくべき内容だろうし。
そんな感じのしょうもない実験をしてから、みんなそれぞれに『往路の実』を使って移動した。
『あらあら、沢山来ましたね?』
「おわ!? マジだ」
「おー! 沢山いるねー!」
「なるほど、時間が決まっているからこういう事も起きるんだな」
周りを見てみれば、俺達以外にも8人くらいが転移してきていた。俺達以外の2~3組くらいのPTと被ったみたいだな。転移する前からヤナギさんの元へとやってきたプレイヤーもいるみたいだしね。共通しているのは競争クエストの受注マークがみんなにある事か。
「よっしゃ、やったるぜ!」
「昨日の赤の群集の奴がいたらリベンジしてやる!」
「お、人が多いな」
「あ、サヤさん発見! おーい、サヤさん!」
「あ、こんにちはー!」
静かに周囲を確認する人、知り合いを見つけて声をかける人、気合十分にリベンジに燃える人など色々な反応をしていた。サヤの知り合いもいたようだ。ちなみにクマだったので、群集拠点種付近でサヤを捕まえていた誰かかもしれない。そして特にインパクトが強いのがこちら。
「我らオオカミ組、ようやくヤナギを見つけた! ベスタには遅れを取っているが、いつまでもは負けてられん! このクエストで成果を出すぞ!」
「「「「おう!」」」」
多分、幼生体の頃のベスタを巻き込んで氷狼戦を挑んでいたオオカミ5人組なんだと思う。そっか、オオカミ同士で一緒にプレイしてたのか。円陣を組んで気合を入れている様子である。手を重ねるのではなく尻尾を重ねているのが妙に面白い。
どうも聞こえてきた内容の感じでは転移してきたのではなく、初めてヤナギへ接触しにきたようだ。……言ったら悪いけど、多分この人達はベスタの眼中にはないんだろうけどな……。
「とにかく『浄化の欠片』を探して集めるぞ!」
「「「「おう!」」」」
「それでは出発!」
「「「「おう!」」」」
気合たっぷりなオオカミ集団の皆さんは、そうして走り去っていった。いやー、面白いPTもいるもんだな。……ところで『浄化の欠片』ってなんだ? なんかクエストに関係してそうだし、ヤナギさんに聞いてみるか。もしかしたらクエストの段階が進んでいるのかもしれない。
「ヤナギさん、『浄化の欠片』ってなんですか?」
『あぁ、それね。えぇとね、エンとの情報の同期の結果でね、『浄化の実』が必要な可能性も出てきたのよ。でもあれって簡単にすぐ作れる物じゃないみたいでね?』
「え、あれってあっさり渡してくれたけど、そんなに重要な物だったの!?」
「……よく考えたらまぁ、あれは特殊アイテムだよな」
「これはやっぱり『常闇の洞窟』は重要なのかな?」
『エンが拠点としたあの場所は特に大きな浄化地点のようでね? あそこには元々大きな『浄化の結晶』って物があったらしいのよ。それを私達が扱いやすい様にしたのが『浄化の実』らしいのよね』
「そのままの結晶だと扱えないからエンが一度取り込んで『浄化の実』として生成し直した感じですか?」
『えぇ、その理解で合ってるわ』
うーむ、やっぱりヤナギさん相手だと丁寧口調になってしまうな。まぁ支障もないからこのまま行くか。
それにしても『常闇の洞窟』の開放のために出てきた『浄化の実』がまた出てくるとはね。浄化の要所とやらにあの時みたいに浄化の実を使う必要があるんだな。この感じだと浄化の実は色んな場所で出てきそうだ。
でも、なんでクエスト開始直後にその情報が無かった……? 時間経過によるクエストの進展か、もしくはなんかのフラグがあった?
「昨日の段階では分かってなかったんですか?」
『えぇ、そうなのよ。これは私が動き回って調査した結果なのよ? 乱れた『大地の脈動』の大きな流れ以外から漏れ出た小さな浄化の力があちこちに散らばっていて、小さな浄化の結晶を生成しているみたいでね。それを集めれば『浄化の実』を作れそうなのよ』
「おー! 新しく作れるんだね!」
「だけど、時間がかかるのは今の状況では良くないってことね」
この言い方からすると、時間経過によるクエストの進展って感じか。そしてさっきのオオカミ集団はその『浄化の欠片』を集めに行った訳だ。競争クエストと言ってもただ闇雲に戦うだけでもないらしい。そして、ゲームとして考えるなら、これは赤の群集との『浄化の欠片』の奪い合いでもある訳だ。
『もちろん時間をかければ、エンが『大地の脈動』からまた新たに『浄化の実』を作る事も可能なのよ? でも赤の群集も動き出しているから呑気に待っている訳にもいかないじゃない?』
「という事は俺たちは赤の群集に注意しながら『浄化の欠片』を集めてくればいいんですね?」
『そういう事になるわね。お願いできるかしら?』
「もちろんです」
「これは頑張ってやるしかないかな?」
「だな。やるからにはとことんやるぞ!」
『集めたらエンに渡しておくから私に渡してね? くれぐれも赤の群集には奪われないように気をつけて』
「分かったよー!」
ここのクエストをやると決めた以上は断る理由もないだろう。そして、今の台詞からすると集めた『浄化の欠片』も他の群集から横取り可能なのか。この競争クエストは本当に対人戦が前提になっている。……岩の操作を鍛えて来たのは正解かもしれない。
<競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き森林』の進行状況が更新されました>
<『浄化の欠片』の収集を開始します。現在の個数:24/1000>
<現在のエリア内に『浄化の欠片』は落ちていますので、探してみてください>
<他の群集のプレイヤーを倒す事でそのプレイヤーの所持している『浄化の欠片』を一定確率で奪い取れます。自身が倒された際には奪われる事もあるので、出来るだけ早くヤナギへと渡しましょう>
お、クエストの進行状況が変わった。現在の個数:24/1000って事は、必要なのは1000個で既に24個は入手済みって事か。多くのプレイヤーが参加しているから必要個数が多めなのかな。それにしてもこれは集めるのは大変そうだ。そういやこの24個ってのはプレイヤーの持ってる総数とヤナギさんへと渡された個数のどっちだろうか?
「ヤナギさんは今は24個持ってるってことでいいんですか?」
『えぇ、そうよ。私からは奪えないからそこは安心してね』
「そうですか、分かりました」
ヤナギさんからは奪えないようになっていると。流石にそこからも奪えれたら24時間体制でヤナギさんの護衛が必要になるからゲーム的に不可能にした感じかな。よし、状況は大体掴めた。あ、でも気になる点が1つある。これは聞いておかないと。
「浄化の要所って見つかりました……?」
『いえ、まだよ。でも、調査範囲も広がってきたからそれほど時間もかからずに見つかるはずよ。あちこちでエンと情報の同期をしている時の悪影響の差異から徐々に方向は絞れてきてはいるわ。もちろん直接見つけてくれればそれが一番ありがたいのだけどね?』
「そうですか。分かりました、頑張って探してみます」
「それじゃ『浄化の欠片』集め、頑張るぞー!」
「でもどうやって見分けるのかな?」
「……あ、そういやそうだね」
『あぁ、いけないわね。一番重要な事を忘れていたわ。皆さんこれをどうぞ』
「……? なんだろ、これ?」
<『浄化識別の実(限定)』を獲得しました>
ヤナギさんからまた違った種類の実を渡された。これは競争クエスト限定のアイテムかな? 詳細を見てみよう。
【浄化識別の実:名も無き森林(限定)】
競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き森林』への参加中及び、開催中のみの限定アイテム。
この実を持っているだけで対象エリアでの『浄化の欠片』の識別が可能となる。
お、これを持ってれば分かるようになるんだな。それでこのエリア内の参加しているプレイヤー全員で浄化の欠片を合計1000個集めつつ、浄化の要所も探し出せって事だな。さっきのヤナギさんの言い方的には、時間経過でも浄化の要所の位置は判明しそうだけど、まぁ探してみて損もないだろう。
とりあえず、これで最新のクエストの進捗状態は分かった。どう動くか、みんなと相談していこうか。他のPTの人も一緒に内容を聞いていたのか、各自のPTで作戦会議を始めていた。
「さて、現状は分かったし『浄化の欠片』を集めるのがメインになるだろうけど、どう動く?」
「……とりあえず、現在地の確認をしないかな?」
「そうだね。ヤナギさんの場所に転移してきたから、今の位置は分からないね」
「そういやそうだな。次からはまず現在地の確認が最優先かもな」
確かにそれもそうだな。赤の群集の出入り口のすぐ近くとかだとマズいだろうし、次からは気を付けよう。……オオカミ集団に気を取られたっていうのもあるにはあるけどさ……。
ともかく1回マップを最大表示にして、現在地の確認をしてみるか。あー、まだ殆どマップ情報が埋まってないから、空白地帯だらけだ。埋まっているのは昨日の森林深部エリアからそれほど離れていない湖までの間と、ザリガニから逃げ回った時の逃走経路だな。
そして現在地は、昨日の地点より南西に結構離れた位置か。全体図がまだわからないし、これは今ある情報分を任意提供して、多少の情報ポイントは捨てる覚悟で提供済みのマップ情報を貰ったほうが良いのか……? いや、その前に競争クエスト情報板で情報をやり取りする方が先か。重要な部分の座標だけならそれで情報共有もかのうだしな。
「なぁ、そこのコケのケイさんか? いつも情報共有板で色々やってるPTだよな?」
「おう、そうだぞ。何かあったか?」
「いや、単に挨拶しとこうと思ってな。なんかあったら協力しようぜ?」
「そりゃもちろんいいぞ!」
「まぁそんだけだ。お互い頑張ろうぜ」
「おう! 赤の群集に勝とうな!」
話しかけてきたのは同じタイミングで転移してきた他のPTのリーダーだと思われる人。ちなみにネズミのプレイヤーだ。お互いに激励しあい、そして出発していった。向かった方向は北か。それなら別の方向に進んで見るべきかもしれないな。とりあえずこれはみんなと相談して決めよう。
とにかくクエストも少し進んできたし、赤の群集に負けないように頑張っていきますか!
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