第116話 ヒノノコの残滓


「あ、そうだ。アル、この岩を持っていけないか?」

「あーいつかケイが転がってきたあの岩か。丸いから転がせば運べるだろうが、どっかに転がっていっても知らんぞ? そもそも何に使うんだよ」

「ふふふ、池作りの成果で岩の操作はLv3になったのだ!」

「岩の操作っていうと、例の応用スキルか。なんで池なんか作ってんのかと思えば、熟練度上げをしてた訳なんだな」

「ケイ、流石にあれを持ち運ぶのは負担が大きいから、現地調達にして欲しいかな?」

「あ、やっぱり無理?」

「ケイさんがずっと岩の操作し続けられれば問題ないんだろうけどね」

「途中で操作が切れて、転がっていって大惨事は勘弁だね!」


 サヤだけでなく、ヨッシさんとハーレさんからも反対意見が出た。……言われてみればそうだよな。丸い岩だから操作時間切れで再発動の為の行動値の回復中に転がっていったら困った事になる。持ち運びは諦めて、現地調達にしようっと。


「そういや、あの岩風呂っぽい池や掘り返した跡はなんなんだ?」

「あー、スキルの熟練度稼ぎだよ。あと地形変化の実験」

「ほう、なるほどな。そういやケイは岩の操作とか持ってたな」

「おかげで岩の操作も実用レベルには達したぜ。ちなみに2つ称号も手に入った」

「……それで岩を持っていくとかの話に繋がる訳か。とりあえず称号のところを詳しく頼む」


 軽く事情を説明をすればベスタも納得した様子であった。そして称号情報に食いつきが良かった。行動値の上限が増えるスキルは重要だろう。それ以上に同じスキルは統合されるという情報が重要か。


「『無自覚な討伐』は微妙だが『地形を弄るモノ』は有用か。まさか同一スキルを取得すると統合されるとはな」

「だろ? これ、土の操作で穴でも掘れば案外簡単に取得出来るんじゃないかと思ってるんだけど」

「……どの程度掘る必要があるかの検証も必要か。まぁとりあえず今は『常闇の洞窟』が先だな」


 確かにどの程度掘ればいいのかは分からない。岩の操作で岩を動かして出来た穴だから、あの範囲でも取得出来ただけかもしれないしね。……少なくとも今まで掘ってた池の範囲ではまだ無理だったし。もしかしたら両方を含めての取得かもしれないけど。


 そんな雑談を交えながら出発準備を済ませて、アルに乗り込んでいく。ベスタも今はPTに加入中かつフレンドなのでアルの樹洞の中へと入ってこれた。俺みたいに水球移動はまだ無理なので、コケ付き石に移動して運んでもらっての移動になったけど。


「移動種の中ってのはこんな風になってんのか。すげぇな」

「だよね! ウチのPT自慢の移動拠点だよ!」

「あーとりあえず出発するぞ」

「それじゃ出発かな」

「おー!」


 サヤに引っ張られたアルに乗り、群集拠点種のエンの元へと移動していく。そういえば同じような移動方法を使い始めた移動種の木も増えてきているみたいだ。時々すれ違う事が何度かあった。


 移動中に南部の高原エリアの調査クエストについてベスタに聞いてみたけど、あちらのクエストは個別受注で期間の制限もないからLv20になって2枠目が開放された時点で後回しにしたらしい。クエストとしては南部の調査クエストが1番難易度が低いそうだ。そして新エリアのどのクエストも同時受注は可能との事。

 あと重要な情報としては、確率は低いけど属性持ちの成長体からはその属性の進化の軌跡も落ちるらしい。それでもボスの残滓の方が落とす確率は高くなっていて、雑魚敵の成長体の残滓でも落ちる事は確認済みとの事。Lvを上げる為に倒しまくったんだろうな。


 そして昨日俺達がログアウトした少し後に海エリアでは『アサシイカ』の討伐に成功して、海エリアにも群集拠点種が誕生したようだ。俺もずっとログインしてる訳ではないし、居合わせられない事もあるのは仕方ないかな。今度情報共有板を覗いた時にでも海エリアの人に労いの言葉をかけておこう。


 こちらからは競争クエストでの出来事を話しておいた。この『常闇の洞窟』の件に目処が立ったら、ベスタも参戦してくるとの事だ。場合によっては俺達のPTの臨時メンバーで動くことになるかもしれない。


 そんな風に情報のやり取りをしつつ、道中は何事もなくエンの元へと辿り着く。ここからはアルから下りて、各自で移動していく。もう少しでヒノノコの残滓の出現エリアになる筈だ。もう作戦は決めており、サクッと仕留めてしまう予定。


「そういや、ベスタ。幼生体のままで良いのか? せめて成長体に進化してからでも良いんじゃないか?」

「それだと幼生体での適応進化の検証にならんだろうが。幼生体で駄目なら、進化してからもう一度やるまでだ。それにランダムリスポーンを利用してマップの特徴も調査してくるつもりだからな」

「あ、進化だけが目的じゃないのか」

「まぁ今回は下調べだな。死ぬのを前提にしてるから、2ndの方が色々と都合がいいんだよ」


 なるほど。同格のオオカミではなく格下のコケを使ってより死にやすくしようという訳か。あそこの黒の暴走種って普通にコケでも食ってくるからな……。そして死にまくるから適応進化の実験にもなる。一石二鳥の計画か。


「ま、幼生体で適応進化が出るのが1番ありがたいがな」

「ベスタさんがどんなコケに進化するのか、今から楽しみだね!」

「少なくともケイとは違う方向性にするつもりだ。ケイの言っていた『闇ゴケ』ってのが気になってるしな」

「そういやケイさんがボコボコに殺られて負けた相手だったっけ?」

「次に行く時は奴には負けん!」


 次に遭遇した時は纏火でも使って今度はあのコケを焼き尽くしてやる! っと、そろそろ残滓ヒノノコの出現エリアだ。作戦発動といくか。


「ヨッシさん、纏氷をお願い」

「任せておいて。『纏属進化・纏氷』『同族統率・纏氷』! ハチ1号行け!」

「こうやって別属性の進化を見ると欲しくなってくるな」

「お、ベスタもか。俺も同感だよ」


 そして、とうとうヒノノコの残滓が先行させておいた氷で出来たヨッシさんの統率下のハチに襲いかかる。ヨッシさんに聞いたところ、支配下のハチは本体の持つ属性を持ってそれに特化した状態に変わるらしい。これは統率という特性の特徴なのかもしれない。

 それにしても残滓だと行動パターンは同じでもオリジナルほど早くはないな。そして食らいついたハチの効果でヒノノコは凍結状態に陥った。その間にみんなで一斉攻撃を加えていく。みんなの本体のLvはそれほど上がっていないけど、スキルLvは順調に上がっているので1撃辺りの威力は前よりも増している。


 あっという間にHPは4割を切り、残滓のヒノノコは火を纏う。だけど、そんなものはもう驚異ではない。


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 33/34 : 魔力値 52/56

<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 29/34


 即座に逃げる為に飛び上がった残滓のヒノノコを空中で水球の中へと閉じ込める。オリジナルにはこの後の行動パターンの変化で突破されてしまったけども、残滓にそれが出来るかな?


「アル、樹木魔法Lv3は?」

「あれか。昨日の夜に取得しといたぜ」

「んじゃ、それで!」

「よし、複合魔法だな。『コイルルート』!」


 地面からヒノノコを拘束する為にアルの樹木魔法が迫っていく。そして俺の魔法産の水に突入した時に変化が訪れた。


<『複合魔法:ルートレストレイント』が発動しました>


 複合魔法となったアルの根がただ巻き付くだけでなく、中身が見えないほどの密度で球状になり拘束していく。……これは拘束としては強力だけど、こっちからも手出し出来なくないか……?


「アルさん、合図とともに解除して!」

「おうよ。ヨッシさんに任すわ」

「今!」

「おう!」


 ヨッシさんの合図に合わせて、アルが魔法を解除する。まだ全パターンを試せてはいないけど複合魔法は色々使ってみた感じでは、同Lvの魔法なら制御は不可か魔力の高いプレイヤーが、片方のLvが上なら上の方のプレイヤーが制御を持つようになっている事が分かっている。なので今は水魔法の制御は俺ではなく、アルの制御下にある。

 根の拘束から解放された残滓のヒノノコだが、HPがずいぶんと減っていた。どうやら火を封じられた直後に強烈な拘束でダメージを負っていたようである。あの複合魔法は、拘束だけではなくダメージ判定も有りということか。


「これで止めになりそうだね。『アイスニードル』!」


 ヨッシさんから氷魔法のLv2と聞いているアイスニードルが発動する。複数の尖った氷の槍が生成され、ヒノノコに突き刺さっていく。そして再び凍結の状態異常になる。火属性とはいえ、ヒノノコはヘビの1種の筈だ。……未確認動物だから断言出来ないけど多分そうだと思う。

 成長体からはリアルの常識は通じなくなってくるとはいえ、全く関係ない程でもない。だからヒノノコは低温に対する耐性も低いのかもしれないとは思ったけど効果はあったな。


「止め、どうする? 出番がなかったサヤかハーレさんがやるか?」

「そんな時間もなさそうだよ?」

「そうだね! もう終わりだし!」


 空中で串刺しにされ、身動きの取れない残滓のヒノノコはそのまま地面へと落下し、落下ダメージでHPが全て無くなった。そしてポリゴンとなって砕け散っていった。

 かつての強敵も残滓になって弱体化してしまえばこんなもんか。


<増強進化ポイントを2獲得しました>

<ケイがLv10に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント1、融合進化ポイント1、生存進化ポイント1獲得しました>

<『進化の軌跡・火の欠片』を1個獲得しました>


 ここまでの移動中にも幼生体を倒したりはしてたけど、ここでLvアップがきたか! 残滓といえど成長体のボスだ。経験値は良いのだろう。


「お、一気にLv3からLv7まで行ったか。……慣れたプレイヤーの2枠目のキャラならいいが、初心者にはさせられない手段だな」

「あーパワーレベリングになるのか。あれやるとプレイヤースキルが追い付かないからなぁ」

「後はスキルの熟練度もだな。まぁその辺は適度にやるとするか」


 一気にLv上げた時の弊害だな。操作に慣れてないのにLvだけが上がっても苦労するんだよな、あれ。まぁベスタは問題ないだろうけど。


「まぁとにかく助かった。それじゃ色々とやってくる」

「おう、頑張れよ!」

「情報期待してるぜ!」

「ベスタさん、頑張れ!」

「また何かあったら手伝うからね」

「ベスタさん、頑張ってね」

「おう、お前らも競争クエストを頑張れよ!」


 みんなで見送りながら、ベスタはPTを抜けて『常闇の洞窟』の中へと入っていった。よし、これで頼まれ事は終了だ。


「それじゃ、競争クエストを進めていくか!」

「クエストもだが、Lv20も目指したいとこだな」

「そうだね! どっちも頑張ってやっていこうー!」

「あ、ちょうどヤナギさんが根下ろし中みたい」

「本当だね。これは今のうちに移動したほうがいいかな」

「そだな。んじゃ、とりあえず『往路の実』で向こうのエリアに行くか」

「転移したらすぐに赤の群集がいる可能性もあるし、気を付けたほうがいいかな?」

「……ないとは言い切れないな。サヤの言うとおり、転移直後は警戒態勢で行くか」


 いつでも戦闘態勢に移れる心構えで、『往路の実』を使いヤナギさんの元へと移動する。よっしゃ、競争クエスト、頑張るぜ!



【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:水陸コケ

 所属:灰の群集


 レベル 9 → 10

 進化階位:成長体・複合適応種

 属性:水、土

 特性:複合適応


 群体数 872/2600 → 872/2700

 魔力値 52/56 → 52/58

 行動値 29/34 → 29/35


 攻撃 23 → 25

 防御 31 → 33

 俊敏 22 → 24

 知識 39 → 42

 器用 39 → 42

 魔力 54 → 58


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