第115話 ケイの企み


 晩飯を食べ終えて、再度ログインをする。いったんからは特にお知らせもなかった。まぁいつも何かあるとは限らないよな。

 ゲーム内へと移っていけば、サヤとヨッシさんは既に再ログインしていた。ほぼ同時にハーレさんもログインしてくる。


「あ、2人ともおかえり」

「おかえり。池は完成したんだ」

「ただいまー! うん、完成だよ!」

「ただいま。水が足りなくなりそうで焦ったけどな……」


 川の水を補給している途中では水の操作でも出来るのを失念していたから焦ったんだよな。まぁこの辺の今後の予定も相談していこう。そもそも特に急ぐ必要もないし、熟練度上げが主な目的だからのんびりやってもいいんだし。


「うおっ!? なんか出来てる!? ……これ、岩風呂か……?」

「お、アルか。岩風呂じゃなくて池な」

「……なんかログインしたらすぐ目の前で驚く事が多いよなぁ……」

「まぁ気にすんな!」

「おいこら、主犯が言うな!」


 ちょうど良いタイミングにアルもログインしてきた。別に目の前の光景が変わっていても良いじゃないか。……まぁ確かに俺が主犯だけども。あ、そうだ。忘れないうちにやる事をやっておこう。昨日はアルに伝え忘れてたし、覚えてるうちに一発芸の件をやっておかないとベスタが合流してからだとまた忘れそう。


「アル、何でもいいから、崖の方に向けて適当に攻撃スキルを連発してくれない?」

「……今度は何の企みだ?」

「言ったら意味が無くなるんだよ」


 特に『無自覚な討伐』の称号の方は多分ね。崖の方に今ちょうど見つけた一般生物のトカゲがいるから巻き込んで仕留めてくれたら取得の実験になる。一発芸の方は言っても問題ないけど、滑って貰いたいから敢えて言わない。是非ともアルを俺と同じ『一発芸・滑り』持ちにしてあげようではないか。


「あ、そういう……。アル、派手にやればいいかな?」

「そうだね。派手な方が良いかも」

「ほほう、これはみんなも内容を知っていて俺だけにまだ伝わっていないパターンか」

「アルさん、やってみれば分かる事だよ!」

「くっ、妨害をしてくるのか!?」

「……あーなんとなく予想がついた。多分あれ関係か」


 これはみんなして俺のやろうとした事に気付いている!? そして、みんなの発言からアルが勘付いたっぽい。……流石に誘導の仕方が露骨過ぎたか? いや、それでもアルがスキルの連続使用で滑れば良いだけのことだ!


「まぁ試したい事もあったし、ちょうどいいか。まずは『アースクリエイト』『土の操作』!」

「ほうほう、どんなだろう!?」


 アルもなんか試したい事があったのか。どれどれ、どんなもんだろうか?

 まずアルがアースクリエイトで土の塊を生成し、それを土の操作で輪状に形成していく。土で出来た穴の大きめなドーナツっぽい見た目だな。操作のスムーズさから見るとアルは昨日の夜のうちに土の操作をLv3まで上げたのか。さてこれで終わりって訳でも無いだろう。ここからどうする?


「そんでもって『根の操作』!」

「へぇ、そんなのも有りなんだね?」


 土の操作はもう必要ないのか操作を破棄して、次は根の操作を発動する。あ、これは必要ないんじゃなくて同時に発動出来ないからだな。やってる事を見たらそういう結論になる。

 操作の影響を失い、さっき形成した土の輪が崩れ始めた中に数本の根を潜り込ませていき、土の形が崩れるのが止まった。なるほど、根で土の形を保持しているんだな。初めから根の操作でこの土の形を作るのは難しいだろうし、かといって土の操作と根の操作の併用は不可だからこういう手段か。


「それで仕上げだ。『スタブルート』!」

「おぉ!? アルさん、それは凄いね!?」

「予想以上に派手だったかな?」

「これは多分私達と同じ方を取得だね」


 仕上げに発動した樹木魔法Lv2のスタブルート……いや、これは多分だけど土魔法と樹木魔法の複合魔法になってるな。ドーナツ状の根が仕込まれた土から、穴の内側へ向けて複数の根が獲物を突き刺そうとばかりに一斉に伸びていく。穴の部分に敵がいれば、前後左右から同時に刺されていた事だろう。


 ……残念ながら一般生物のトカゲは巻き込まれてはくれなかった。土の操作の辺りで速攻逃げてたし……。結構惜しい位置にはいたけど、流石に場所を知らせずに討伐は難しいか。……取得するスキル的にあんまり検証する意味もないかもしれないけど……。

 

 それにしても、結構えげつない攻撃だな。土の形次第で狙う方向が自由自在か。うん、素直にこれは便利そうな新技だ。……あーあ、普通に感心してしまった。


「あーなるほど、やっぱりか。ケイ、残念だったな?」

「やっぱりあっちになったか……」

「そういう事になるんだろうな? なるほど、『一発芸・大ウケ』か。取得条件分かったんだな?」

「アルさんがログイン出来なかった日にね。昨日は伝え忘れててごめんかな」

「いや、まぁそれはいいさ。ケイの行動的にサヤとヨッシさんとハーレさんは『一発芸・大ウケ』を取得したんだな? そして取得可能なのはどっちかのみと見た」

「アルさん、大正解! 取得条件は見学者が2人以上いる時に、スキルを連発する事みたいだよ!」

「なるほどな。それでケイは俺に『一発芸・滑り』を取らせようと思った訳だ」


 思惑はほぼ見抜かれて、結局『一発芸・滑り』なのは俺だけなのか。……くそう、アルめ。しっかりとした連続使用のスキルを使いやがって……。いや、別に悪い事じゃないんだけど、寧ろ戦力アップなんだけども!


「……素直に言ってれば、別に『一発芸・滑り』でも良かったんだがな」

「え、マジで……?」

「まぁ今更遅いけどな」

「判断ミスったー!?」

「やっぱりケイさんって変なところで詰めが甘いよね」

「同感かな?」


 変な事を考えずに素直に話しておけば良かった……。いや、ほんと今更遅いけどさ……。



「……相変わらず何やってんだ、ここのPTは?」

「あ、ベスタ来たんだな!」

「ケイさん、切り替え早いね!?」


 よし、ベスタが来たようなので、気分を切り替えよう! いつまでもしょうもない理由で落ち込んでても仕方ないからな。あと、切り替えの早さはハーレさんにだけは言われたくはない。その辺はお互いに似たようなもんだろう。


「……ん? ベスタだと……? コケに見えるが……ってベスタ2nd!? 2枠目か!」

「おう、アルマース、それで正解だ。それにしても『一発芸・大ウケ』だとか『一発芸・滑り』だとか何の話だ? それにさっき来たときも地面を掘り返しているのは気になったが、そんなとこに池なんかあったか……?」

「……あ、聞いちゃってた?」

「おう、バッチリとな。まだアルマースに情報は伝わってないみたいだし、まずはそこから話していくか」

「……あぁ、頼む。ちょうどログインしたばっかりでな。色々と状況が掴めてないんだよ」

「俺のほうがちょっと早く来すぎただけだ。まずはーー」


 確かに8時にはほんの少し早い。とは言ってもあと5分くらいなもんだけど。まぁ事情説明をベスタがしてくれるなら任せようか。

 そしてベスタがアルに2枠目の条件や、頼み事について話していく。それを聞き、アルも状況を正確に把握していき、ベスタの説明が終了した。


「ーーという事なんだが、『常闇の洞窟』に入るのを手伝ってもらえないか?」

「あー、大体事情は分かった。みんなは問題ないみたいだし、俺も別に良いぜ。色々と情報も貰ったことだしな」

「そうか、助かるぜ。……ところでさっきの一発芸がどうとかいう話だが……」


 ……やっぱり聞いてくるよな。でも見られていたなら、ベスタなら自力で辿り着く可能性はありそうだ。多分、目撃者さえいればすぐに取得するだろう。俺達だって氷狼の争奪戦で周りに観戦者が沢山いたからハーレさんとヨッシさんが取得して条件の特定が出来た。あの時に一緒のPTにいたベスタになら教えても問題ないだろう。


「そうだな、ベスタになら教えてもいいか」

「ケイさん、いいの?」

「まぁ氷狼戦で2人が取得してたんだし、あの時はベスタだって一緒だったからな」

「……何? あの時に取得条件があるスキルか……? ……名前からして目撃者の有無が条件か?」


 やっぱりベスタは鋭いな。さっきの目撃と氷狼戦ってだけの情報でおおよその見当をつけたようだ。


「これは教えなくてもすぐに特定されそうだね!」

「てか俺もまだ条件詳しく知らないからな? 俺にも説明してくれよ?」

「あ、そういやそうだった。でもアルは大体分かったんじゃないか?」

「いや、確かに大体分かったけどな……。あーベスタに教えるついででいいから、一応教えてくれ」

「分かったよ。まずはスキルの存在の判明から話すか」

「あ、あれも話すんだね?」

「もうこの状況は話すしかないだろ……」

「……まぁなんか、色々あったっぽいのは察したぜ」


 なんとなくベスタから優しい目で見られている気がするけど、今のベスタはコケだし気のせいだと思おう! もう下手な隠し事は無しだ。さっき痛い目にあったばっかりだしね……。他の群集相手ならまだしも、信用してる相手にはもう変な隠し事は無し!

 という事で、アルとの出会いから、氷狼戦、そしてサヤと水月さんの一騎打ち等の一発芸スキルの取得に関する事をベスタに話していく。ベスタは興味深そうに聞き入っていた。


「……なるほどな。ケイ、要するに2人以上の前でスキルを連続発動してれば良いわけだな?」

「あと、多分スキルを使ったと認識されてる必要はあると思うぞ」

「なら、こういう事か。今から群体化で移動するからな。『群体化』『群体内移動』『群体化』『群体内移動』」

「……え?」

「あ、いつものケイさんの移動だね」

「ほう、これで『一発芸・滑り』が取得か」


 ……あれ? なんの躊躇いもなく、即座にベスタが2ndのコケで『一発芸・滑り』を取得したよ……。これは、俺が気にし過ぎていただけか?


「あー見慣れてるから驚きも何もないから滑りになるのか。それにしても、いきなりやった上にわざわざ『一発芸・滑り』を取るとはな」

「……ケイの取得までのやり取りはともかく、聞いた限りではコケの移動にはこっちの方が確実に向いているからな」

「あ、確かに移動に関しては普通にスキルを使ってるのか一発芸を使ってるのか、見分けつかないもんね!

「まぁ、オオカミの方では『一発芸・大ウケ』を取るがな」


 なるほど、キャラ毎に使いやすい方を取得するという手もあるのか! 今まで2枠目はまだ考慮に入れてなかったから思いつかなかったけど、そういう事も可能なんだな。……まぁその前に2枠目の開放が先か。


「さてと、これで大体の情報交換は終わりだな。ヒノノコの残滓を仕留めに行くぞ」

「そういやそうだったね」

「……少し忘れかけてたかな?」

「そういや『進化の軌跡・火の欠片』は使ったから、補充が欲しいな。残滓の1回目は確定1個だったっけ?」

「なんだ、もう1個使ったのか? 水属性持ちで使うと使用感はどうなんだ?」

「比較対象がないからわかりにくいけど、ちょっとダメージ減ってるみたいだぞ」

「そういうのは後にしないかな? 思ったより時間かかってるよ?」

「……それもそうだな。出発するか」


 思った以上に情報交換に時間がかかったので、ちょっと急ごう。今日の競争クエストをやる時間が無くなってしまうからな。

 

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