第114話 小さな池


 何か分からない敵を倒した後に、回復した行動値で岩の操作を使って今度こそ岩を撤去する。岩を撤去した跡地は土が乱れていたけども、岩の操作で動かしたのが原因なのか、それとも何かが暴れたのかは分からなかった。


「……やっぱり何がいたのかは分からないな」

「仕方ないんじゃないかな? 死体が残るわけじゃないからね」

「こういう事もあるんだねー!」

「……そういえばハーレの投擲で赤の群集のカメレオンを見つけた時も似たような感じじゃないかな?」

「あ、そういえばそうなるね! あれも偶然だったし!」


 結局何を倒したのかは分からないままである。ハーレさんの偶然のカメレオン発見といい、こういう事もあるんだな。本当の偶然によって手に入れる称号とスキルって事なのだろう。いやでも、前に大岩で転がった時も似たような状況だったような気もする……。もしかして何回かやらなければ手に入らない累積系の称号か!? うん、確認のしようがないな。あの時の大量の経験値の内訳なんか覚えてないし。

 ……とりあえず、取得した何やら物騒なスキルの詳細を見てみるか。


『暴発Lv1』

 発動時、一定時間の間は行動値の最大値が2倍となり行動値が全快する。ただし、確率によりスキルが暴発する。不発、制御不可、暴走による無差別のダメージのどれかが発生する。

 Lv上昇により暴発の可能性は上昇、暴発の可能性の時間は減少となる。


 うっわ、何この使いどころに困りそうなスキル……。どんなふうに暴発するかもその時次第かよ。いや、決まっている暴発っていうのもおかしいけどさ。

 不発は不発で困るけど、無差別なダメージってのもな。


「うーむ、またなんか変な称号とスキルの取得か……」

「えっ、称号取得あったの!? ケイさん、どんなの取得したの!?」

「……なんか変わったところに変な条件あるよね、このゲーム」

「それは同感。『無自覚な討伐』っていう称号と、『暴発』ってスキルだな。行動値の上限が倍になって全快する代わりに、スキルが一定確率で暴発するんだとよ」

「えっ、そんなスキルがあるの?」

「あっ! それ、スキル取得一覧で見た事があるよ!」

「私も見た覚えがあるね。取得ポイントが地味に高めの割に、危なそうだからスルーした覚えが……」

「……あったのかよ」


 スキルの取得一覧はキャラLvやスキルLvが上がったり、新スキルを取得した時に内容が増えていたりするからそんなに頻繁に見てる訳でもないんだよな。そうか、『暴発』はあったのか……。


「あ、あったかな。地味に増強進化ポイント10、生存進化ポイント10って多めだね。これは試しに取ってみるのは流石に微妙かな?」

「……確かにそのポイント量だと試す気にはならないよな」


 操作系スキルがどれか1種類の進化ポイントを20使うんだし、それと同じポイント数では流石に取る気にはなれない。……ポイント数が多めって事は地味に使い道はあるのか? あ、でも行動値が無くなって追い詰められた時に、一か八かの賭けになら使えなくもないか。……もしかして暴発時の無差別ダメージって進化にも使える? うーん、試すとしても試しにくいスキルだ。


 よし、アルがログインしてきた時にちょっとやる事を思いついた。一発芸の情報もまだだったし、ちょうどいいだろう。まぁ一発芸はまだしも、こっちは上手く行くとも思えないけど、やるだけやってみよう。

 と言っても、アルに『一発芸・大ウケ』か『一発芸・滑り』のどちらかと運が良ければ『暴発』も取得してもらうだけだ。一発芸がどっちの取得になるかはアルの運次第だけど、俺としては『一発芸・滑り』を希望。……なんとなくサヤに勘付かれている気もするけど、何も言ってこないので気にしない。

 とりあえず本題に戻して、実験用の小さな池の方を仕上げて行こうじゃないか。


「その話はそのくらいにして、今のうちに小さい方の池を仕上げよう」

「「「おー!」」」

「俺は岩の操作で池周りに岩の設置していくから、ハーレさん手伝いよろしく!」

「土の操作で収まりが良いように調整すればいいんだね!」


 周りを岩で囲んでいけば池っぽくなるだろう。内部の仕上げはまず外枠を作ってからだな。使う岩は掘り出したのやら、まだ埋まってるのやら、その辺に転がってるのやらが沢山ある。それらの岩を置きながら水魔法で水洗いもしていくか。掘り出したやつは土だらけだしな。小さな池だから大して時間もかからないだろう。


「私達はどうすればいいかな?」

「サヤとヨッシさんは掘り出した土の山から小さな石を集めてきてくれないか? 後で底に敷き詰めるからさ」

「了解。小石だね」


 池作りで穴を掘っている最中にわかった事だけど、小石はどうやら掴む事が出来る種族が、集めるとか拾うという意識を持って小石を掴めば採集扱いになってインベントリに入るらしい。小石はスタック可能なので、サヤもヨッシさんも今はインベントリに結構な量の小石が入っている。あと地味に便利だったのが、インベントリに入れれば小石に着いてる土が自動的に落ちて綺麗になっていることか。

 ……残念なのは俺には採集が不可能だった事。いや掴めないもんでね? 纏樹の進化中なら出来るかな……?


 作業を分担して、池の制作は進んでいく。岩の操作もそれなりに慣れてきたし、作業効率は上がっている。まだ自由自在に浮かせたりするのは難しいけど、倒しながら方向を変えて転がしていくというのは大体どんな岩でも出来るようになってきた。うん、これくらい使えれば捕縛済みの敵を押し潰すくらいには使えそうだ。……まぁ周りに岩があればなんだけど、こればっかりはその場所次第だな。


 黙々と作業を続けていくと、岩も並べ終わりそれなりに形になってきた。うん、結構いい感じの仕上がり。コケが表面に生えてる岩は極力避けて、掘り出した岩をメインに水洗いをしたのを並べきった。だけど、これは池と言うよりは……。


「形にはなったけど、これって池と言うよりは岩風呂って感じかな?」

「サイズ的にも1人用のお風呂って感じだね」

「池も岩風呂も泳げれば同じ事!」

「……いや、ハーレ、それは違うから」

「まぁ見た目は岩風呂っぽいけど、別に問題ないからこのままでいいか」


 まぁスキルの熟練度上げが最大の目的だからどっちでもいいと言えばどっちでもいい。水洗いして綺麗になった大きな岩で囲んでるから岩風呂っぽいんだろうな。あと深さや広さ的に人が1人なら入れるサイズなのが風呂みたいに見える1番の要因なのかもしれない。まぁお湯がないから風呂だとしても水風呂だけどな。


「あとはみんなで中に小石をばら撒いていってくれ。その後に岩の操作を使って平たい岩で叩いて底を固めるから」

「分かったよ!」

「小石足りるかな」

「こんな感じかな?」

「おう、そんな感じ!」


 みんなで集めた小石をインベントリから取り出していき、それを穴の底に放り投げている。よし、いい感じだな。そしてあっという間に池の底が小石で覆われていく。こんなもんで良いかな。


「よし、それじゃ岩で叩いて固めるから離れておいてくれ」

「みんな、退避ー!」

「ケイさんに潰されたら堪らないしね!」

「確かにそれは嫌かな!」

「そんな事はやらないって!?」


 なんだろう、俺の行動は巻き込まれる前提でみんな動き出してないか? いや、心当たりがありまくるから文句も言い切れないのが悔しいけども……。だけど自重はしない!


<行動値を20消費して『岩の操作Lv2』を発動します>  行動値 9/29

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『岩の操作Lv2』が『岩の操作Lv3』になりました>

<『岩の操作』の消費行動値が20から19に減少しました>

 

 お、岩の操作がLv3に到達した。少しだけ消費量も減ったし、成果あり! まぁ既に発動中のLv2も勿体無いからそのまま使うけど、どうせならLv3でやりたかったな……。とりあえず岩の操作で岩を打ち付けて、地面を固めていこう。まぁ出来るだけ平坦な面の岩を持ち上げて落とすというのを繰り返すだけだけど。


 しばらく打ち付けていけば、小石もだいたい地面に埋まり上手い具合に土も固まっている。よし、こんなもんか。


<規定条件を満たしましたので、称号『地形を弄るモノ』を取得しました>

<スキル『行動値増加Ⅰ』を取得しました>

<既に『行動値増加Ⅰ』を取得していますので統合し、スキル『行動値増加Ⅱ』に変化しました>

<スキル統合により、スキル『行動値増加Ⅰ』は失われます>


「え、これマジで!?」

「なんか称号の取得が出たね?」

「行動値の増加は良いねー!」

「これはありがたいかな」

「……同じスキルを取得すると統合されて上位のものに変わるんだな」

「何それ!?」

「ポイントで『行動値増加Ⅰ』って取得してみたら分かる。これは便利だぞ」

「あ、ホントだ!」

「これは良い発見かな」

「これはいいね」


 みんなもポイントで取得して統合されたみたいだな。スキルが統合された事で『行動値増加Ⅰ』は行動値+2だったけど『行動値増加Ⅱ』は+5のようだ。一覧を見てみれば失われた『行動値増加Ⅰ』も再取得可能だったので再取得しておこう。増強進化ポイント10くらいなら余裕のある今は問題ない! 何よりも行動値上限が増えるのは重要だしな! 結果的に今までの行動値上限が5増えた事になる。

 そして何らかの形で作成に関わっていればこの称号は手に入ると。これは良いことだらけだな。今度、アルの称号取得用にもう1つ小さな池を作ろうかな。


「とりあえず予想以上に良いスキルが手に入ったし、池も完成だな!」

「だねー! 池も後は水を入れるだけだね!」

「やっぱり見た目は池と言うよりは岩風呂かな?」

「それはこの際、別に良いんじゃない? それよりサヤ、そろそろ6時だよ」

「あ、ホントだ。ケイ、ハーレ、一旦ログアウトするね」

「私もね。とりあえず一段落着いたところで良かったよ」

「うん、分かった! それじゃまた後でねー!」


 サヤとヨッシさんはいつもの夕食の時間になったのでログアウトしていった。さてと俺とハーレさんはまだ1時間あるし、その間に続きをやっておくか。


「それじゃ水を入れていくか」

「おー! ってそこは私がすることが無い!?」

「まぁ見てれば良いって。どうせ水を入れるだけだし」


 ということで、インベントリの中にある小川の水を全部使おうか。今インベントリの中に水は12個か。……足りるかな? 小川の水の正確な量を把握してなかったけど、バケツ1杯分くらいだと思うから、ちょっと量が怪しいか……?

 一応1つずつ小川の水を取り出して入れていったけども、これはやっぱりか……。


「……ケイさん、水が足りなくない?」

「……ちょっと川まで水の補給してくる」


 インベントリにあるだけの水を入れたは良いけども、やっぱり水が足りなくて半分も貯まらなかった。一応川まで水を確保しに行くけど、この感じだとこの小さな池で足りるかぎりぎりだろう。

 川の水は取得制限は1日20個までだから、今回の実験用の小さな池は大丈夫そうだけど、元々予定してた大きめの方は水の供給が完全に間に合わないな……。水の確保の事を完全に見落としてた。

 えぇい、とにかく今は水の確保だ! 川へ急げー!




 川へ水の確保に行って、なんとかぎりぎり水は足りた。おかげで水分吸収までLvが上がってLv3になったよ。とりあえず、インベントリでの持ち運びで完結して良かった。それで足らなければ手段が……。って、水の操作使えば良いだけじゃん!? いやでも元々の予定のサイズだとそれでも地味に大変そうだしな。予定の変更も考えないといけないか……?


 そんな俺の心境なんて知った事ではないようで、完成した小さな池の様子を見てハーレさんは満足そうだった。まぁとりあえず池としての形にはなってよかったか。やっぱり岩風呂っぽいけども。


「うん、完成だね!」

「こっちはな。……元々の予定はかなり長期的になるか、もしくは中止……」

「えー!? こっちじゃ泳げないよ!?」

「いや、リスなら泳げるんじゃないか? あんま広くはないけどさ」

「こっちじゃ狭いよ!?」

「……まぁやるだけやってみるか」

「やったー!」


 流石に必要な水量が増えそうだから、もう少し予定より範囲を狭めてもっと浅めにしよう。あとは水の操作で水を持ってくる場合は、川の水の量にも気を付けないと。ここで地形変更が永続的なものになるのであれば、川の水を枯渇させればヤバそうだ。……称号の取得もあったから変化は残りそうだしな。少なくともインベントリでの水の移動はまず無理だろう。何日かかるか分かったもんじゃない。

 とりあえず目的のLv上げの方は順調だったし、もっと大規模な称号も手に入るかもしれないから、このまま池を作り続けても別に良いかな。土の操作も岩の操作も実用段階のLv3までは上がったけど、まだまだ上げていきたいとこだしね。


「ま、とりあえずの完成って事で良いか」

「そだね! それじゃご飯食べに行こう!」

「そうだな、そうするか」


 まだ7時までにはもう少し時間があるけど、キリがいいからここまでにしておくか。さてと、一応完成した池を見て、みんなはどんな反応をするだろうか?

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