第113話 無自覚な出来事


 2枠目でコケになってきたベスタから『常闇の洞窟』に入る為にヒノノコの討伐の手伝いというか代行を頼まれた。誰とも知らない相手なら断る内容だけど、ベスタ相手なら問題はないか。ヒノノコ戦のときには激励をしに来てもくれたんだ、このくらいはお礼として引き受けてもいいだろう。


「アルと相談してからにはなるけど、俺はいいぞ? みんなはどう?」

「私は賛成ー! 他のコケの進化も見てみたいしね!」

「うん、私も良いかな」

「私も良いよ。ハーレの言ったことにも私も興味あるしね」

「って事でアル次第ではあるけど、引き受けるぞ」

「おう、サンキューな。んじゃ8時くらいまで『帰還の実』の確保と少しLv上げしてくるわ」


 そう言ってベスタは一旦去っていく。こうして別のコケのプレイヤーを見てみて、自分じゃ分からなかったけどコケの移動って傍から見たら分かりにくい事がよく分かる。これは他のプレイヤーに見落とされまくっても仕方ないか……。


「あぁ、そうだ。これは全部教えると台無しかもしれないからヒントだけな?」

「うぉ!? まだいた!?」

「ケイっていつもこんな感じかな?」

「そだね! ケイさんってPT組んでない状態だとすぐ見失うしね!」

「客観的に見る良い機会なんじゃない?」


 何か言い忘れていた事があったようで、まだベスタはそこに居た。やっぱり思った以上に分かりにくいな!? ……なるほど、今まで俺はこう見えていたって事か。自分の事って分かりにくいもんなんだな。1人の時は群体化での移動で良いけど、気付かれたい時は水球移動をメインにしようか……?


「……ケイ、今までの自分の状況が分かったか?」

「うん、よく分かった……」

「ならいい。それでだが、2枠目が開放された時点で進化項目が1つ増えるぜ」

「えっ、マジで!?」

「何それ!? 無茶苦茶気になる!?」

「ハーレ、急にテンション上がりすぎかな!?」

「ま、それは今言うと台無しだからな。それは自分で確かめてくれ」


 そう言ってベスタは今度こそ去っていった。ふむ、カーソルの方を注意して見ていればコケの移動も分かるのか。黒の暴走種にもコケはいるし、見分け方の今後の参考にしておこう。

 それにしても2枠目開放と同時に新たな進化要素の追加とは気になるな……。今ある進化項目は変異進化と転生進化の2つだけど、ここに更に1つ増えるのか。完全にオフライン版にはなかったオンライン版での新規追加要素だし、そもそもオフライン版じゃ2枠目とかそういう要素自体が無かったもんな。


「あ、折角なら高原エリアのクエストの情報も聞けば良かったな」

「8時にまた合流するんだし、その時でも良いんじゃない?」

「それもそうか、ならそうしよう。それじゃ、それまでは池作りの続きでもやりますかね」

「土の操作も使ってみたいから、私も手伝うよ。あ、でもヨッシがする事なくなるのかな……?」

「んーどうしよう? あ、そういや気になってたんだけどさ、なんか掘ってると地味に草の根や木の根が邪魔そうじゃない?」

「確かに邪魔だね! 避けて土の操作を使ってるもんね!」

「やっぱりね。それなら、その辺の処理を私がするよ」

「お、マジか? でも、それってヨッシさんだけ熟練度上げにならないんじゃ?」


 木のない場所を選んで穴を掘っているとはいえ、森林の地中には植物の根が大量に張り巡らされている。今は岩の撤去をメインに地表に近い部分を掘っているので大した問題にはなっていないけども、そのうち邪魔にもなってくる可能性は充分にある。庭に穴を掘るのと、森林の中で穴を掘るのが同じように出来る訳がないのは当然だけど。その辺をやってくれるのであれば助かるけど……。


「『斬針』と『腐食毒生成』を活用していくから大丈夫」

「あぁ、なるほど。それならよろしく頼む」

「ヨッシ、お願いねー!」

「みんなが運べそうにない大きさの邪魔な物は私が運べばいいかな?」

「おう、サヤはそっちもよろしく頼む!」

「んじゃ池作り、始めるよー!」


 そうしてみんなの役割分担も決まり、池作りを再開していく。岩の操作も土の操作もみんなを待ってる間にLv2に上がったので作業効率は昨日よりも上がっている。ハーレさんもLvが上がっている様で随分とスムーズに土を撤去していく。その反面、サヤが土の操作に苦戦していた。


「あれ? 操作系スキルって初めて使うけど、結構難しいんだね?」

「まぁ初めはそんなもんだ。それにオフライン版の木の根の操作とか、桜の桜吹雪とかの操作に感覚は似てるぞ?」

「そう言われれば確かに似てるよね!」

「あの辺のスキルに似てるんだ……。あの辺の操作って苦手だったんだよね……」

「あーなるほど。サヤはあの辺は苦手なタイプか」

「あの独特な操作が苦手な人も結構いたとか言うもんね? サヤもそうだったんだ」


 サヤのようにオフライン版では種族固有のなんちゃって魔法が苦手な人が結構いたらしい。そういう人達は非現実的な操作の挙動の感覚が掴みきれずにほぼゲームのシステムアシストに頼っていたという話だ。まぁそれでクリア出来ない様なバランスにはなっていなかったので特に問題はないんだけど、全手動操作の方が自由度は高かったんだよな。

 あ、もしかしてその辺が操作系スキルと魔法系スキルが別枠になってる理由か? オンライン版で実装された魔法は照準だけで他はほぼ自動制御になってて、操作系スキルほどの特別な操作は要らないからな。俺的には少し物足りないけども。


「私には操作系スキルは向いてないみたい。無理にやるよりはヨッシと一緒に根の撤去の方を手伝おうかな……?」

「まぁ無理にやるもんでもないしな。サヤがそれでいいなら、問題ないぞ」

「そだねー! ゲームなんだから楽しくやらないとね!」

「なら、そうするよ。私もヨッシみたいに別のスキルの熟練度を上げていこうかな」


 という事で、ちょっと予定を変更して俺とハーレさんで岩と土の撤去、サヤとヨッシさんがそれ以外の邪魔な物の撤去という役割分担になった。まぁ誰にでも得手不得手はあるもんだしね。ゲームの中でまで無理に苦手な事をする必要も無いだろう。

 そしてやる事を変えたサヤは爪撃などの攻撃スキルを活用して邪魔な木根を断ち切っていく。うん、こっちの方がサヤ的にもやりやすそうな感じだな。


 そしてしばらく適当に雑談をしつつ、池作りを進めていく。するとなにか思い出したようにサヤが呟いた。


「そういえば、この池ってどのくらいの深さにするのかな?」

「あーそういや決めてなかったっけな?」

「折角だし、深めにしようよ!」

「……その前に小さめでちゃんと池になるか確かめてみた方がよくない?」

「あ、確かにそりゃそうだ。ヨッシさんの案、採用!」


 行き当たりばったりの熟練度稼ぎの為の池作りだし失敗しても問題はないけど、どうせなら上手く作りたい。ならば小さいもので実験してみるのもありだろう。システム的に長期的な地形の改変が無理なら、大きな池を作る事も不可能な訳だし、確かめてみるほうが早いか。となれば……よし、あの岩が良さそうだな。この辺の岩で一番デカいやつ。見えてる範囲でも縦も横も1メートルは越えてるか。


「よし、んじゃそこのどデカい岩を除けて、そこで試してみるか」

「うん、わかったよー!」


 とりあえずやると決まれば早速実行だな。この大物の撤去と行きますか。みんなは今は特にすることがないので見物中。


<行動値を20消費して『岩の操作Lv2』を発動します>  行動値 9/29


 Lv2になって少し扱いやすくなった岩の操作を発動して、撤去を始める。真っ直ぐ上に引っ張ってみるがビクともしない。……他の岩は大体これでちょっとくらいは動いたんだが、ちょっと岩が大き過ぎたか? それに思ったよりも埋まっている岩の範囲が広いみたいだ。ちょっと回しながら動かしてみるか。お、動いた、動いた。上下にも動かしてみればさっきと違い、少しずつだけど動くようになってきた。


<増強進化ポイントを1獲得しました>


 ……ん? なんで今、ポイント取得が出た……? まぁいいや、周りの邪魔な土も除けていくか。


「ハーレさん、思ったより土が邪魔だから周りの土から除けていこう」

「みたいだねー! よし、やるぞー! 『土の操作』!」


<行動値を5消費して『土の操作Lv2』を発動します>  行動値 4/29

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『土の操作Lv2』が『土の操作Lv3』になりました>

<『土の操作』の消費行動値が5から4に減少しました>

<『土の操作』の同時操作数が1から2になりました>


 俺も一旦岩の操作を解除して土の操作を発動する。お、土の操作のLvが上がったな。Lv3までは案外早いもんだな。サヤみたいに操作が苦手だとここまで上げるのも辛かったりするんだろうけどね。


 とりあえず邪魔な土の撤去もやりながら、行動値の回復を挟み、岩の操作で徐々に大岩を動かしていく。何か岩の操作をする度に岩の下から変な感触というか衝撃みたいなのがあるのは気のせいか……? うーむ、見えない以上はどうしようもないな。とりあえず問題があるようではなさそうだし、そのまま続行だ。

 お、そろそろ岩が持ち上がりそうだけど、持ち上がりきらないな? あ、なるほど、ここに太い木の根があって引っかかっているのか。よし、サヤとヨッシさんに撤去を頼もう。


「サヤ、ヨッシさん、木の根が邪魔してるから撤去を頼む!」

「了解! えっと、これだね。こっち側は私がやるね。サヤは反対側をお願い」

「分かった! ここかな?」

「『腐食毒生成』『斬針』! こっちはいけたよ」

「『爪撃』! こっちもこれで大丈夫かな」

「おう、ありがとな」

「いえいえ、この程度はしないと」

「見てるだけっていうのもなんだからね」


 サヤとヨッシさんが太い根の邪魔な部分の両端を切り落として排除してくれた。よし、これで邪魔な根も撤去出来たし、岩を持ち上げるか。まだそんなに一気には移動させられないのでゆっくりと岩を持ち上げていく。よし、いい感じだ。岩さえ除ければ、深さや広さもお試し用の小さな池にはちょうど良さそうだな。


「あれ? 何か岩の下に居るのかな?」

「え、あ、だからさっきから妙なポイント取得があったのか」

「あっ……」

「……操作の時間切れ?」


<増強進化ポイントを3獲得しました>

<規定条件を満たしましたので、称号『無自覚な討伐』を取得しました>

<スキル『暴発』を取得しました>


 サヤが何かが岩の下にいたのに気付いた直後に、岩の操作の時間切れで岩が落下していった。どうも木の根に引っかかって悪戦苦闘してる間に時間切れが迫っていたらしい。そしてその落下した岩が何かを潰したみたいである。この感じだと途中で得たポイントも多分その何かを弱らせた時のもので、今のが仕留めた時のポイントか。経験値も一緒に手に入ったし。


 っていうか、こんな称号もあるのか。この称号は狙って取るの無理だろ。やるとしたら敵が居そうなところに適当に攻撃するとかしかないんじゃないか……? それに『暴発』って物騒なスキル名だな、おい。


「……何が居たのかな? 経験値的には幼生体みたいだけど」

「なんだろね!? 害虫系は初期エリアには居ないらしいから、そういうのではないんだろうけどね!」

「……ヘビとかじゃない? ヘビのプレイヤーはいたから、このエリアにも居そうだし」

「……俺的には見えずに助かったのか……?」


 苦手生物フィルタである程度は平気になってるとはいえ、ヘビとの唐突な遭遇は避けたいものではある。そういや案外ヘビの黒の暴走種って見かけてないな。普段は岩の隙間とかに隠れて見つけにくいタイプか……? まぁ何がいたのかは知る術はないだろう。多分岩を持ち上げてももう何も残っていないだろうし……。いや潰れたヘビとか見たくないから別に良いけどさ。

 とりあえず称号とスキルの確認は岩をちゃんと退けてからにしようかな。


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