第5章 クエストの攻略と新たな要素

第112話 2枠目の情報


 家に帰って、晴香からのメールで掲示板を確認してからゲームを起動する。とうとう2枠目の開放条件が判明か。成長体Lv20が条件だったとはね。俺はまだLv9だしLv20まではちょっと時間がかかるかな?

 そしていつものログイン場面へとやってくる。いったんに2枠目について聞いてみるか。


「いつもログインありがとうね〜」

「おう。掲示板で見たけど、2枠目の条件は出たんだな?」

「うん、そうだよ〜。でも詳細は開放した人にしか説明出来ないから、ごめんね〜」

「あ、やっぱりそうなるの?」

「そりゃやっぱりね〜。でも開放後の人から内容を聞くのには制限はないから、気になるなら他のプレイヤーに聞いてみることさ〜!」

「ま、それもそうだな」

「とは言ってもまだ少ないけどね〜」


 それも当然といえば当然か。現時点で2枠目を開放してる人は間違いなくLvだけはトップクラスだろう。Lv以外はどうかは知らないけど。掲示板での人は熟練度無視してとか言ってたし、後々スキルのLv上げで苦労しそうだよな。


「条件を満たして、2枠目を使いたい時は僕に言ってね〜」

「ほいよ。あ、条件満たしただけでも説明自体は聞けるのか?」

「それは勿論だよ〜」

「そっか。それじゃとりあえずLv20が目標だな」

「頑張ってね〜」

「おう、頑張るよ」


 なんとなくだけど成長体Lv20という条件が気にはなっている。未成体に進化してからを条件にしても良さそうな気もするけど、何かありそうな気がするんだよね。まぁ確証は何もないんだけど。まぁ何にしてもまだ早い。



 ◇ ◇ ◇



 昨日の夜にログアウトしたのがエンの前だったので、ログイン場所はエンの前である。昼の日なので明るいね。さてと、みんなのログイン状態を確認しようかな。えーと、サヤは少し遅れると言っていたので当然まだいない。我が妹はまだ帰るまでには時間がかかるはず。ヨッシさんもまだいないと。

 そうなるとしばらく1人だけど、それほど長い時間でもないから今のうちに土の操作や岩の操作でも鍛えておこうかな。


 という事でサクッといつもの崖下へ移動していこう。群体化で移動したから今日の分の融合進化ポイント3も忘れずに確保。地道なポイント稼ぎは重要! あんまりポイント使ってないけど……。


 いつもの場所に辿り着くとアルが戻ってきて植わっていた。樹洞は入り口が閉まっていて中には入れない様子。あの『樹洞開放』ってスキルは本人がログイン中に限定された仕様か。

 それはそうと掘り返した土はどうなってるかな? これがどうなってるか次第で池作りの決定的な成否が決まってくるからな。確認必須!

 

「お、元に戻らず穴が掘られたままだな」


 昨日の岩の操作の特訓用に始めた池作りの穴だけど、時間経過では元に戻らずそのまま残っていた。まだ断定は出来ないけど、これは池作りも期待できそうだ。魔法スキルの影響は早くに元の状態に戻るけど、操作系スキルの影響は少なくともそれなりの時間は残るんだな。

 これ以上の時間での変化の確認は時間が経つのを待つしかないからこのままでいいとして、池作りの続きをやっておこう。そんなに長時間ではないはずだし、1人で黙々と作業をしていこう。折角、土の操作も手に入れたんだから鍛えていかないとね。



 1時間ほど1人で岩を撤去したり土を除けたりした結果、岩の操作も土の操作も共にLv2になった。それは良いんだ、それは……。でも、なんかさ、みんなログインが遅くないか……?


「ケイさん、ごめん! ログイン、遅くなった!」

「あ、ヨッシさんか。結構遅かったけど、何かあったのか?」

「……えっと、帰りにトラックの跳ねた水を思いっきり被っちゃってね……。荷物やら制服やら乾かしてたら遅くなっちゃって……」

「あー、なんというかドンマイ?」


 ヨッシさんがようやくログインしたかと思ったらなんか散々な事になっていたようだ。梅雨入りしたので、雨が降るのは仕方ない。それでもそれは運が悪かったとしか言いようがないな……。


「やっほー、ヨッシ! ケイさんも!」

「あ、ハーレもログインしてきたんだね」

「……あれ? ヨッシ、ちょっと元気ない? 何かあった?」

「あー実はね……」


 我が妹もログインしてきて、ヨッシさんは帰宅途中の出来事を話している。あー水を被ったって聞いた辺りでハーレさんがちょっと怒ってるな。まぁ気持ちは分からなくもない。しばらく落ち着くのを待つとしようかね。そろそろサヤもログインしてくるだろうし。



「よう、お前ら。調子はどうだ?」


 そうしてのんびりしていると、どこからともなくそんな声が聞こえてくる。聞き覚えのあるこの声はベスタだな。以前に来た時も直接の用事があったみたいだし、わざわざ来たという事は今回もなんか用事か?


「あ、この声はベスタだな。……って、あれ?」

「……姿が見当たらないね?」

「あ! みんな、あそこのコケ!」

「……コケ……?」


 ハーレさんの指し示す先にはコケがある。そこら中にコケがあるのはいつもの当たり前の光景だけど、よく見てみるとハーレさんの言いたい事が分かった。そこのコケには灰の群集のプレイヤーを表す灰色のカーソルがあり、そしてそのプレイヤーの名前は……。


「ベスタ2nd……って2枠目のキャラを作ったのか!」

「おう、ほんの少し前にな。選んだ種族が種族だから、ケイに見せておこうと思って来たぜ」

「わー! コケの人が増えたね!」

「やってみて思ったが、予想以上にコケの移動方法はクセが強いな……。よくこれであれだけ動けたな?」

「ケイさんは簡単にやってるけど、やっぱり難しいんだ?」

「まぁ多少は慣れてはきたけどな。だが、もう少し慣れないとすぐに自分の位置を見失いそうにはなる」

「そうか……? そんなに難しいとも思わないけどな?」


 そんなに難しいかな、群体での移動って。それにしても、まさかベスタが2枠目をコケにしてくるとは思わなかったな。……そういや初めてまともに遭遇した時に、コケの移動方法に興味を示していたからそうでもないのか?

 それにしても2枠目の種族の選択基準ってどうなってるんだろう? 全種族が一覧表示になってたりするのだろうか? それも気にはなるけど、こうしてベスタ2ndが出てきたという事はつまり……。


「ベスタは成長体Lv20に到達したんだな?」

「まぁそういう事だな。2枠目の種族選択には条件があったから教えておいてやろうか?」

「お、良いのか?」


 いったんに聞こうとしても教えてくれなかった情報をベスタが教えてくれるようだ。これは是非とも聞いておきたい。Lv20になれば自然と分かる情報だし、別に聞いておいても損はないだろう。それに条件付きなら、条件は早めに把握しておきたいし。何よりも純粋に気になる!


「それ、かなり知りたい!」

「私も気になるね」

「って事で、ベスタ。条件を教えてくれ! 俺も無茶苦茶気になる!」

「おう、良いぜ。ただ、後で少し頼みを聞いてくれ」


 条件が気になるのはみんな同じと。ベスタはベスタで、ただ単純に見せに来ただけという訳でもなかったらしい。よほど無茶な内容でなければ頼み事を引き受けるくらいは問題ないだろう。まぁその辺は内容次第にはなるけども。


「みんな、お待たせ! って、あれ? 誰か来てるの?」

「お、サヤも来たのか。邪魔してるぜ」

「……え、ベスタさんが……コケ……? あ、2枠目かな!?」

「おう、そういう事だ。アルマースはまだいないのか?」

「アルならいつも8時過ぎくらいからログインだぞ」

「……そうか、なら8時頃に出直す。とりあえず先に情報を教えておくぞ」

「うん! お願いね!」

「アルには後で伝えとくか」


 アルが一番時間がズレる事が多いので、この辺の情報は後から伝えるのでも良いだろう。……あ、そういや一発芸の情報をアルに伝え忘れてる……。うん、今日のこれからの情報と一緒に伝える様に気を付けよう。


「まず、これはもう既に掲示板の方で流れている情報だが2枠目の開放条件は成長体Lv20だ。そこはいいか?」

「おう、問題ない」

「大丈夫だよ!」

「ハーレがその情報の連絡を送ってきてたしね」

「私もハーレから連絡で確認したから大丈夫かな」


 あの連絡は全員に送られていたものらしい。アルも掲示板は確認しているようだし、おそらくこの情報は見ているだろう。そして肝心の内容はその先からである。Lv20に到達しなければいったんは情報開示はしてくれないからな。


「2枠目の種族選択には大きく2種類がある。1つは初期エリアを指定してのランダム決定。そしてもう1つはこれまで遭遇したモンスターの一覧からの選択だ」

「……2枠目にもランダム要素ってあるんだな?」

「ランダムでバラバラは嫌だね……」

「私は別エリアだったしね!」

「あぁ、そういえばお前達はエリア分断を食らったPTだったな。まぁその心配はいらねぇよ」

「……どういう事かな?」


 ヨッシさんは、初日のみんなバラバラだった事で色々とダメージがあったからな。何か思うところがあっても不思議ではない。でも初期エリアを指定って事はどのエリアでランダムになるかは決められる? それならある程度は種族が絞れるのかもしれない。とりあえず続きを聞こう。


「2枠目のランダムは、どちらかというと狙ったものがない場合の手段だな。もしくは自分では決めかねる場合か」

「……狙ったものがない?」

「単純な話だ。2枠目の種族は、今まで遭遇した黒の暴走種とプレイヤーの種族の中から選べるんだよ。そしてそういう性質上で他の初期エリア、俺らなら森林と森林深部以外のエリアになると遭遇率がまだ相当低いからな」

「あ、そうか。まだ他の初期エリアに行ってないから、遭遇した種族の一覧に他のエリア固有の種族がいる訳がないのか!」

「でも『仲間の呼び声』で来たプレイヤーを見てたら別なんじゃないかな? ほら、昨日イカの人と遭ったし!」

「新エリアの森林にはイカのプレイヤーがいるのか……。そんなやつ、灰の群集にいたか?」

「赤の群集の人だったからね!」

「……なるほど、敵側か。それなら知らなくても当たり前か」

「プレイヤーって枠組みなら他の群集でも良いのか?」

「あぁ、その点は俺も気になったから聞いてみたが、問題ないとの事だ」


 なるほど、敵だろうが味方だろうが遭遇した種族なら問題ないと。遭遇した種族が多ければ多いほど2枠目の選択肢が増えていくし、選択肢の少ない状態でも行きたいエリアが決まっていればそのエリアを指定して種族はランダムで決める事が出来るという事か。確実に選びたい種族があるなら、その種族のプレイヤーでも黒の暴走種でもいいからともかく遭遇しろという事だろう。

 そして遭遇するまで我慢ができないとか、自分では悩んで決めきれない場合はランダムという手段もありますよって事なんだろう。2枠目のランダムは任意で、あくまでも救済手段か。


 そうなってくると初期エリア同士の安定した移動方法が欲しくなってくる。でも、陸地からの初期エリア同士の行き来はまだ厳しいのは掲示板で見た。そうなると、やっぱり『常闇の洞窟』が重要か……?


「それなら俺はイカとアンコウなら海エリアのキャラは作れるか……?」

「……そういやアンコウが『常闇の洞窟』に居たとか言ってたな。それにも関わってくるが『常闇の洞窟』が別の初期エリアと繋がってるっていう件は可能性は高くなってきたぞ」

「……やっぱりか。俺も今その可能性を考えてた」

「そっか! 2枠目が作れる人が増えてくる段階で行き来が簡単なルートが必要になるんだね!?」

「それなら『常闇の洞窟』は基本的には成長体までしかいないのかな……?」

「そうかもね。数は多いかもしれないけど……」

「という事は、頼み事ってのは『常闇の洞窟』の踏破か……?」


 なるほど、確かに成長体Lv20ならちゃんとしたPTで準備を整えれば、成長体相手なら渡り合える可能性は充分にある。俺自身もあそこで戦った感じでは1体ずつはそれほど強くはない。問題は数の方。でも光源さえちゃんと用意して戦力を整えれば踏破も不可能ではないかもしれない。ベスタがそこに加わるのなら更に確実性は増すだろう。


「あー、それもその内やるつもりだが、今回は違うぞ」

「違うんかい!?」

「え、それじゃどういう頼み事なのかな?」

「『常闇の洞窟』に用事があるって点では同じなんだがな。まぁこの2ndの方であの中に入りたくてな?」

「……中は真っ暗で、成長体だらけだぞ?」

「分かっている。狙いはあの暗闇での適応進化の実験だ」

「あ、そういう事か」

「つまりベスタさんの頼み事って『常闇の洞窟』へ入る為にヒノノコの残滓の討伐をして欲しいってことで良いのかな?」

「おう、そういう事だ」


 なるほど、ベスタの頼み事はそういう内容か。作りたての2ndキャラでヒノノコに勝てる訳もないし、ベスタは通常はPTを組んでいない。だからオリジナルの討伐実績を持っていて、交流もある俺達に頼んできたという事か。

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