第95話 新たな移動手段


「ところでケイさん、なんで光ってんの?」

「あーこれ、『発光』ってスキル。常時発動型だから、発動しっぱなしで熟練度稼ごうかなと思ってな」

「あ、それが『常闇の洞窟』とやらで必要になりそうって言ってたやつか」

「そういう事。まぁLv1じゃこの程度の明るさだけどな」

「……なるほど、非常灯レベルの明るさじゃちょっと使い物にならないよな」


 PTで動く予定だし、灯りを用意出来るスキルがあるならその方が良いだろう。全員が必要ポイント数の多い暗視を取得って訳にもいかないしね。称号取得が可能かも分からないし、もう取得してしまった俺は試せないからな……。そういやPTって言えば紅焔さんってシカの人とキツネの人と一緒にいたのを見た気がするけど、どうなったんだろう?


「ところで、紅焔さんはこんなとこで何やってんだ? シカの人とキツネの人はどうしたよ?」

「あー、あの2人とはたまたま開始位置が近かったから一緒にやってたんだけど、シカの人はリアル友人もやってるのが分かって『仲間の呼び声』で別エリアに行ったよ」

「リアル友人を優先したのか。まぁそりゃしょうがないか」

「シカの人とは普通にフレンド登録したままだし、連絡とってるけどな。キツネの方は秘密主義過ぎて、一緒にやってられなかったわ」

「あーなるほど……」


 そういや進化先に『逃げギツネ』とか出るくらいに秘密主義で逃げ回ってたとか情報共有板で見た気がする。一緒にやろうって相手にすら隠し事されまくる程だとやってられないか。


「今は小鳥のライルとカブトムシのカステラとPT組んでるよ。あ、そういやそっちのヨッシさんに『進化の輝石』を選ぶの譲ってもらってたな。あれ、ライルは相当喜んでたよ」

「そっか、そりゃ良かった。本人に伝えとくよ」


 不動桜を倒す為の臨時PTではなく、固定PTになっていたのか。ライルさんが小鳥ってのはヨッシさんが言ってたから知ってたけど、カステラさんはカブトムシだったのか。やっぱり地図作成の群集クエストは飛行系が有利だったんだな。


「今日はあの2人はログイン出来ないから、俺はこうやって初期エリアの中を地形把握も兼ねて散歩中だな。ケイさんも一緒にどうよ?」

「うーん、それもありと言えばありかな? ポイントで新スキルの取得を考えて取得可能の一覧を眺めてたけど、いまいちピンとくるのもなかったし」


 取りたいもの自体はあるんだけど、称号取得が出来そうなのがチラホラあったから悩みどころなんだよな。纏属進化・樹を使ってる最中ならば出来るんじゃないかっていう予測だけど、これは明日にならないと出来ないし。

 明日、みんなが揃って新エリアに行ってから黒の暴走種の成長体の討伐称号と共に土の操作の取得を狙ってるんだよな。アルも多分取得出来るだろうから、一緒に狙ってみるとしよう。



「よし、たまには散歩もいいか!」

「よっしゃ、そうこなくっちゃな! 色々情報交換でもしながら行こうぜ!」

「こっちこそ、望むところ!」


 こうして紅焔さんとのエリア内の散策が決まった。マップが全部埋まったとはいえ、行ってない場所も結構あるからな。拠点になる初期エリアだし、こういうのも良い機会かな。


「あ、そうだ。ちょっと移動手段で試したい事もあるんだよな」

「あれ? コケの移動手段って擬似的な瞬間移動なんじゃなかったっけ?」

「まぁそうなんだけど、『常闇の洞窟』ではコケが少なくて地味に移動に苦労してな? 他の移動手段を模索中なんだよ」

「そうなのか。コケの移動って万能な訳ではないんだな。それで新移動手段の目処が立った訳か」

「まだ思いついただけで、1回も試してないんだけどね」

「へぇ、そりゃ面白いものが見れそうだ」

「まぁとにかくやってみる」



<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 26/27(上限値使用:1) : 魔力値 50/54

<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 22/27(上限値使用:1)


 とりあえず水の生成。そして水の操作で自分自身を包み込む。魔法産の水でも特に問題はなさそうだな。さてと『水中浮遊』を使って……あれ? 発動出来ん? あ、水の操作発動中だからか。スキルの同時発動出来ないもんな。


「すまん、手順間違えた。もう一回やり直す」

「いや、まだこのエリアじゃ珍しい水魔法見れたから別にいいよ」

「……火魔法の方がもっと珍しいと思うけどな?」

「ははっ! そりゃそうだ!」


 さてと気を取り直して、やり直し。先に常時発動型のスキルを使わないといけないんだな。


<行動値上限を3使用して『水中浮遊』を発動します>  行動値 22/27 → 22/24(上限値使用:4)


 発光も発動したままなので上限値使用は合計で4か。上限値を使うスキルが増えてきたし、もうちょい行動値そのものを増やしていきたいとこだな。

 とりあえず、『水中浮遊』は水中でなくても発動自体には問題はなしと。今のままだと無駄に上限値が減るだけで何の効果もないけども。今度こそはいけるかな?


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 21/24(上限値使用:4) : 魔力値 46/54

<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 17/24(上限値使用:4)


 再度生成し直した水で地面にある自身のコケを覆い、水球へと形を変えるように操作して空中へと移動させていく。すると『水中浮遊』の効果なのかコケが地面を離れて水中を漂っていく。


「よし、成功だ!」

「……これって、あれか? ちょっと前に情報共有板で魚系のプレイヤー達が試しに行ったのと似たような手段?」

「そうだな。あの時に思いついた手段だし」

「なるほどな。色々考えるもんだな」


 これで水の操作の時間中であれば、コケの有無は関係なく移動できるだろう。使い勝手はこれから試す!


「それじゃ出発するか、ケイさん」

「おうよ、紅焔さん」


 とりあえず明確な目的もないエリア内の散策に出発だ! さて、森林浴といこうじゃないか!





 2時間ほど紅焔さんと共に森林深部エリア中を散策して、最終的には群集拠点種まで戻ってきた。うん、色々と楽しかったぜ。

 とりあえず試してみた新移動方法は、操作の時間切れがあるので時々発動し直す必要があるのが分かった。移動速度としては水の操作のLvが高めなので、普通に紅焔さんの移動に着いていけるくらいの速度は出たので、充分実用範囲だな。ちなみにこの移動をしている最中はかなり目立ったのか、色んなプレイヤーに声をかけられた。群体化で移動した時は全然気付かれなかったのにね。


 ただし結構厳しい欠点も判明した。水の操作がずっと発動している事になるから攻撃手段が乏しい。まぁ水球を3分割すれば2つは攻撃に回せるから、一般生物や黒の暴走種の幼生体くらいならなんとかなる。だけど、新エリアでは通用するかどうか怪しいな。普通に行動値を消費するスキルは同時に使用出来ないからなぁ……。同時発動が可能になる手段があればいいんだけど。まぁそれは追々考えよう。何かしらそういうスキルもあるかもしれないしね。



 そして群集拠点種に集まっていないプレイヤーにも多く会った。自分が見落とされた事には色々思う事もあったけど、まさか俺も沢山のプレイヤーを見落としまくってたとは思わなかったよ。カブトムシやクワガタや蝶とかの昆虫系のプレイヤーや草花系のプレイヤーって結構居たんだな。

 まぁ掲示板や情報共有板に書き込む人ばかりじゃないから当然と言えば当然か。


 数日遅れでゲームを始めた幼生体の草花系のプレイヤーには小川の水をちょっと提供してきた。アルみたいに弱らせ過ぎて困ってた人もいたもので。あとは木から水分吸収で樹液を昆虫系プレイヤーに提供してみたり。おかげで水分吸収のLvも2に上がったよ。

 他にも発光もLv2になったし、色々識別しながら移動したから識別もLv2になった。


「いやーあんなに声をかけられまくるとは思わなかった」

「流石にその移動方法は目立つからな……。いやまぁ、海エリアのプレイヤーが陸地に進出し始めたらよく見る光景にはなりそうだけど」

「森を泳ぐ魚とか、想像するだけでワクワクしてくるよな!」

「まぁそれは同感だな」


 現実ではそんなものはまずあり得ない光景だろう。まだしばらく時間はかかるかもしれないけど、そうなってくるのも楽しみだ。


「さて、俺はそろそろ今日は終わりにするけど、ケイさんはどうする?」

「俺も終わりにするよ。大体いつもこのくらいで終わりにしてるしね」

「ならちょうどいいか。なぁケイさん、フレンド登録してもいいか?」

「おう、いいぞ」


 そうして紅焔さんとフレンド登録をした。なんだかんだで、色んな人にも会えたし有意義な時間だったな。同じ種族っぽくても違う進化先になってる人も多くて、中々興味深かったしな。

 ……結局また岩の操作が後回しになったけど、明日アルと合流するまでには少しくらいは実験するぞ!



 ◇ ◇ ◇



 そしてログアウトをしてやってくるのはいつものいったんのいる場所。胴体部分には『明日は定期メンテナンスの予定です』となっている。あ、そういや木曜日の午前中が定期メンテナンスってなってたっけ? まぁ学校行ってる間だし別に良いか。


「お疲れ様〜。明日は定期メンテナンスだから気を付けてね〜」

「まぁ学校行ってるから、俺はあんまり関係ないけどな」

「そういう時間帯を狙って選んでるからね〜」

「他になんかお知らせってある?」

「特にないよ〜」

「そっか。それじゃ今日はこの辺で」

「はい、お疲れ様〜。またのログインを待ってるよ〜」


 今日は全部が全部予定通りとは行かなかったけど、色々と収穫はあった。明日はアルの変異進化をして、どうにか言いくるめて一発芸・滑りを取らせよう。その後、行きたい新エリアを決めて、必要ならばボスの残滓の討伐だな。


 さてとゲームを終えて現実に戻ってきたし、明日に備えてしっかり寝よう。今日みたいなギリギリの時間は嫌だしな。

 

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