第94話 リアルの事、ゲームの事


「一段落したし、そろそろ6時だから一旦ログアウトするね」

「あ、もうこんな時間なんだ。そうだ、今日は私この後はログイン出来ないかも……」

「ほいよ。ヨッシさんは弟の面倒を見るのか?」

「今日は別の用事というか、弟の面倒って言ってもこの前の時だけだよ……って、なんでケイさんがそれ知ってるの!?」

「ヨッシさん、掲示板に書き込む時はリアル情報は要注意だぞ?」

「あ……そういやそんな事を書き込んだ気も……。あちゃー、やらかしてたんだ……」


 まぁあれだけで個人を特定できる訳でもないけど、いくつか条件が重なれば知り合いなら分かるからな。気を付けたほうが良いのは間違いない。

 今日の夜はアルに続き、ヨッシさんも不在か。今日はのんびり熟練度上げをする日かな。それとも今のうちに初期エリアの全体を見て回って来るか? マップの踏破は終わってるけど、自分自身で行ってないとこの方が多いしね。


「あ、そういやハーレ。頼まれてたあれ、今日送ったから明日辺りには届くと思うよ」

「おー! ヨッシ、ありがとねー!」

「あれって何だ?」

「えっと、ケイさんは事情知ってるから問題ないよね。私がこの春に引っ越した先の名物をハーレが食べたいって言ってたからね。それを送るんだ」

「あ、ヨッシが私に色々聞いてたのってそういう事なんだね」

「あ、なるほどな。そういう事か」


 リアル友人で引っ越したからこその話か。3人共とリアルでの接点の持っていない俺にはあんまり関係もない話だ。まぁ3人がこのゲームを始めた事情を知ってるから俺がいても直接伝えたんだろう。折角話題に出して来たんだし、これくらいなら聞いても問題はないかな?


「そういやヨッシさんはどこに引っ越したんだ?」

「お父さんの仕事の都合で東北の方にね。積雪の凄い地域は初めてだから、ちょっと冬が怖いな」

「慣れれば大丈夫だって。私もいるしね」

「ヨッシはね、カニを送ってくれるんだよ、カニ! 楽しみだなー!」

「まぁあんまり高いのは無理だけどね」


 なるほど、ヨッシさんとサヤは東北地方に在住か。まぁ日本中のどこからでもアクセス出来るからこそのオンラインゲームだしな。一緒にプレイする相手が近場の人間とは限らない。


「そういうケイさんは?」

「俺か? 俺は四国地方だな」

「おっ、ケイさんも四国!? 私も四国だよ!」

「ハーレさんとは案外近いな。って事はヨッシさんは四国から東北への引っ越しか。東北の積雪とか想像つかないな」

「私は逆に雪が積もらない地域の方が不思議かな」


 そんな感じで軽くリアル話を交えて会話していた。一応県までは言わずに地方名までで留めておく。まぁこのメンバーなら言っても特に問題はないだろうけど。自分の住んでない地域の情報を聞くというのも新鮮だ。そういやアルはどこに住んでるんだろうな?


「おっと、本格的に話し込んでる場合じゃないや。それじゃ、みんなまた明日!」

「ヨッシ、また明日ー!」

「うん、また明日だね」

「ヨッシさん、お疲れさん!」


 そしてヨッシさんはログアウトしていく。そういやログアウト直前だったっけ。つい引き止めてしまう形になってしまった。


「それじゃ私もご飯かな。食べたら戻ってくるけど今日は各自、自由行動にする?」

「アルさんもヨッシもいないなら、たまにはそういうのも良いかな! そうしよっか!」

「そうだな。晩飯でタイミングもズレるし、そうするか」

「それじゃ今日はそういう事で。私はログアウトするね」


 サヤも一旦ログアウトしていった。今日は色々とみんなの都合が合わないようなので、たまにはこういう事も良いか。俺もポイントでの新スキル取得をちょっとじっくりと考えてみたいとこだしな。一緒にプレイするのも楽しいけど、1人で色々試行錯誤するのも楽しいし。でも、まだ7時までは少し時間があるからどうしようか。


「ハーレさん、7時までは熟練度上げでもするか? それとも自由行動にしとくか?」

「1時間くらいだし、熟練度上げする!」

「よし、それじゃやりますか!」


 7時まではスキルの熟練度上げに決定。夕食後は各自の自由行動って事になるな。熟練度上げも大事だからな。俺も他のスキルのLv上げもしていかないといけないし……。よし、自由行動では後回しになり続けてた岩の操作の熟練度上げを開始しよう! って、とりあえずそれは晩飯の後だな。


「ケイさん! 的あてで勝負!」

「良いけど、勝敗はどう決める?」

「ケイさんは今は水球は3つまで同時だよね? それをケイさんの操作の制限時間中に全部壊せたら私の勝ちで、1つでも守りきったらケイさんの勝ちでどう!?」

「よし、乗った!」


 こういう地道な熟練度上げは、やっぱりこういう対戦的なのが良いな。退屈しないし、緊迫感出て精度は上がるからね。お陰で水の操作でばっかりLvが上がって行くんだよな。まぁ主力スキルだから問題はないけど。




 そして1時間後。


「ケイさん、もう1回!」

「ハーレさん、もう時間切れ!」

「うー、時間切れじゃ仕方ないか……」


 勝敗は3戦中、俺が2勝となった。ハーレさんは俺に負けたのを悔しがっているけども、命中精度がどんどん上がっているので結構ギリギリだったぞ……。

 ハーレさんが俺の魔法産の水の的を壊すには魔力集中が必須なので、1戦が約10分で再使用まで待つのも含めて1時間では3戦までが限界だった。待ち時間には普通の小川の水で普通に熟練度上げしてたけどね。

 少し悔しがっていたハーレさんは気分を切り替えたのか、さっと立ち上がる。


「それじゃまたねー!」

「おうよ!」


 とりあえず一旦ログアウト。ここから後は自由行動だけど、とりあえず飯食って来ようっと。確か今日はカレーだったな。



 ◇ ◇ ◇



 いったんからは特にこれといったお知らせも無く、食事やら諸々のやる事を終わらせて再ログインしてきた。さてと、何からやろうかな?

 確認してみるとハーレさんとサヤも再ログインしてるな。ハーレさんはあちこち動き回っていて、サヤは群集拠点種のエンのところか。


 ……そういや誰もいないなら、折角だし『発光』を試しておくか。


<行動値上限を1使用して『発光Lv1』を発動します>  行動値 28/28 → 27/27(上限値使用:1)


 うん、光が弱過ぎて光ってるのかどうかすらよく分からん……。周囲が明るい上に発光の光が弱くて分かりにくいけど、どちらかというと暖色系な灯りだな。

 昼間の明るい日に使っても無駄なだけな気もするけど、Lvがあるなら発動しておけば勝手に熟練度貯まるかもしれない。この程度の光量なら他に誰もいなくて行動値の上限が減っても支障がない時は発動しといても問題なさそうだ。


 さてと次はポイントで何かスキルで良いものないか物色していくとしようか。とりあえずさっき情報共有板の話の中で気になってたヤツを1つ見てみよう。使いどころがよく分からなくて取得せずに放置してた固有スキルの1つの『水中浮遊』。多分水棲コケに進化した際に取得可能になったスキルで必要ポイントは融合進化ポイント5と生存進化ポイント5だ。今のポイント数ならこれくらいは問題ない! という事で取得! 詳細を見てみよう。 


『水中浮遊』

 水の中を自由に漂える。発動中は行動値上限を3使用。任意でオンオフ可能。


 あ、これも常時発動型のスキルか。なんか上限値を使用するタイプのスキルも増えてきたな。よし、簡単な説明だけど、これで自前で用意した水の中で漂って水の方を動かしていけば移動できるんじゃないかと思う。他に色々とスキルを見繕って、取得したいのを取得してから纏めて試すとしようか。


 他のスキルは何か良いのがあるかな? ……あれ、魔力集中と自己強化の取得が可能になってるけど、なんでだろう……? 心当たりがあるとすれば樹の纏属進化くらいか? 

 ちょっと気になるから一度スキルの画面を確かめておくか。なんか変化があるかもしれないし。



【スキル】


《固有スキル》

『群体化Lv3』『群体内移動Lv3』『群体化解除Lv3』『群体分離』『水中浮遊』


《通常スキル》

『水分吸収Lv1』『スリップLv2』『光合成Lv1』『毒生成Lv1』『水の操作Lv5』『増殖Lv2』『識別Lv1』『水魔法Lv2』『発光Lv1』


《応用スキル》

『岩の操作Lv1』


《特殊スキル》

『変異率上昇』『一発芸・滑り』『視覚延長Ⅰ』『夜目』『行動値増加Ⅰ』『魔力制御Ⅰ』『暗視』



<纏属進化時>


【纏樹】

《使用不可》

『群体化Lv3』『群体内移動Lv3』『群体化解除Lv3』


《追加スキル》

『根脚移動Lv3』『根の操作Lv3』『樹木魔法Lv3』



 あ、これか! 『纏属進化時』とか『纏樹』とかの項目が増えてる。こういう表記があるって事は纏属進化の間の一時付与のスキルも熟練度上がっていくのか? そして魔力集中と自己強化はもしかしたら纏属進化中になら使えて、だから取得が可能になった? 

 これも要検証だな。今日はもう使えないから明日からになるけど。


 よし、そうとなれば色々事情が変わってくる。使えなさそうと思ってたスキルが時間限定でも使える可能性が出てきた。じっくりとスキルの取得を考えていこうじゃないか。……まぁ数が多いから結構大変だけど……。




「お、コケの人じゃん。何やってんの?」


 しばらく取得可能なスキルの一覧と睨み合いを続けていると聞き覚えのある声が呼びかけてきた。誰か通りかかったようである。えっと、この声は確か……。


「あ、トカゲの人か。いや、ちょっと何かスキル取ろうかと思って悩んでるとこ」

「これだけ色々あるとスキルは悩むよな。それにしてもコケの人がケイさんだったのか。地図作成の上位の誰かだとは思ってたけど」

「そっか。そういや情報共有板じゃ名前は出ないから、プレイヤー名はお互い知らないんだったな」

「そゆこと。何度か会話してるし、直接会ってたけどあの時は名前見そびれたからね。俺はトカゲの紅焔だよ。宜しくな、コケのケイさん」

「おう、紅焔さんか。宜しくな!」


 トカゲの人の名前は紅焔さんか。……どっかで見た覚えがある名前だけど、どこだっけな……? えーと、つい最近だよな。……まぁそもそもまだこのゲーム始まってから数日だけど。


「あ! 桜の木の方の討伐PTで見た名前だ!?」

「……まぁそうだけど、総合2位のケイさんに言われると微妙な心境だな……」


 それもそうか。目立ち具合からしたら俺の方が遥かに上だし。って紅焔さんがあのトカゲの人って事は、火魔法を憧れとか言ってたって訳で……。


「紅焔さんってもしかして火のドラゴンみたいなのを目指してる?」

「おっ、気付かれたか! ほれ、この通り!」

「おぉ、良いな!」


 紅焔さんが息を吹くような感じで火を吐いてみせる。これは火魔法と火の操作の合わせ技か! こういうのも良いよなー!


「とは言ってもケイさんの操作系の取得情報からだと火の操作は難しそうだったから、さくっとポイントで取ったけどな」

「火の操作はやっぱりポイント取得なのか」

「流石に火が見つからないもんでな。一応ヒノノコの火を使ってみたりもしたけど、あれじゃ駄目っぽくてな?」

「確かに火の操作はなぁ……」


 火の操作を取得する方法は俺もちょっと思いつかないな。そしてヒノノコの火では火の操作は手に入らない訳か。あの火は魔法っぽいし、魔法産のものだと操作系の称号取得にはならないって事かもしれない。……それが出来ると取得が楽勝になり過ぎるし。


「ま、そのおかげで不動桜相手に有利に戦えてボス討伐報酬でポイントがっつり貰えたし、そもそもトカゲになった時点で魔法を覚えるなら火だって決めてたからな!」

「そっか。ポイント取得しても、それを使ってポイント回収をするのもありなんだな」

「そういう事だな。まぁ状況や拘り次第だとは思うけどな」


 ふむふむ、スキル取得に悩み中にはかなり役立つ意見だな。拘っている点にポイントを使うというのもありか。そういうやり方も参考にはなるね。

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