第93話 大ウケと滑り


「水月さんからお礼の連絡来てたよ。『アーサーの特訓にまで付き合っていただき、ありがとうございました』だって」

「あそこまで特訓に付き合う予定じゃなかったんだけどね」

「ヨッシはなんか途中から気合入ってたもんね!」


 ハーレさんの言う通り、ヨッシさんはアーサーが崖を登り始めた辺りから雰囲気が変わっていたもんな。あの辺りから明確に油断は消えていた。まぁそれでもまだまだ余裕そうだったけど。まぁオフライン版をがっつりやってるこのメンバー相手だと、オンライン版から始めた人とは差もあるからな。その慣れの差ばっかりは仕方ないだろう。


 ともかくPTメンバーだけになったので、これで重要な話に移れるな。


「……さて本題に移ろうか。『一発芸』に関する事だ。ヨッシさんとハーレさんは何を隠している?」

「隠してる訳じゃないよ! 昨日のあの大騒ぎで取得してたのをついつい忘れてただけなんだって!」

「……私もだね。つい毒魔法の方に意識が行っちゃってね?」

「……昨日? もしかして2人共、昨日の時点で……?」

「うん! 私もヨッシも『一発芸・大ウケ』を昨日の氷狼戦で取得してたよ!」

「……マジか。え、でもいつの間に2人で話してたんだ? そんな時間あったっけ?」

「群集拠点種の前で1回バラバラに逃げたじゃない? あの後、ハーレと先にここで合流してサヤを待ってた時に話しててわかったんだ」

「あ、あの時か!」

「……私は他のプレイヤーに捕まってた時だね……」


 俺は『常闇の洞窟』に突っ込んで行ってた真っ最中だな。あの時は色々油断出来なくて集中してたから、PT会話はまともに聞いてなかったもんな。そんな重要な話をしてたとは……。うーむ、地味にPT会話で聞き逃してる事が多いな。いや、他の事しながらだとどうしてもそうなるんだけども。

 サヤはあの後、結局他のプレイヤーに捕まってたのか。まぁクマがこのメンバーの中では1番目立つし、仕方ないのか……?


「それでね、私とヨッシの推測なんだけど、取得条件は見学者がいる事なんじゃないかなって思うんだ!」

「……見学者か」


 なるほど。昨日の氷狼戦も、さっきのサヤと水月さんとの試合も、ついでに言えば俺の時にも見学者はいた。だけどその場合だと取得の為の最低人数は何人だ……? 氷狼戦は人数が多くてあまり参考にはならない。……サヤとアルの2人だけでも取得出来た俺の時が参考になるか?


「条件として見学者が最低2人か?」

「あとスキルの性質を考えたら、スキルの連続使用も条件かも。私が取得したのは毒生成系を連発した時だし」

「あ、それはありそうかな。私は水月さんへのトドメに『薙ぎ払い』と『双爪撃』と『爪刃乱舞』を連続使用した時だしね」

「私は氷狼の爪を壊したとっておきのあれの時だね!」


 みんな取得時にスキルを連発していた状況であり、かつ見学者がいた。……俺の場合も確かにスキル連発した上に、見学者というか目撃者がいた。……なんとなくだけど、条件が見えてきたぞ。


「一応確認させてくれ。『一発芸・大ウケ』の仕様とデメリットは?」

「ケイの『一発芸・滑り』と基本的には同じみたい。ただ、デメリット条件が違うかな。ケイのはウケたら駄目だけど、こっちは白けると駄目みたい」

「……これ、ソロで使ったら確実にデメリット発生するんじゃないかな……?」

「ちょっと試してくるねー!」

「あ、ハーレさん!?」


 ハーレさんが崖を軽々と登っていって速攻試しに行っちゃったよ。まぁ検証は必要だし、別に良いのか……?

 それにしてもやはりあったんだな、滑りとは別の一発芸スキル。俺のとデメリット条件が逆という事はどちらかというと攻撃向けな感じか。目に見えて盛大な攻撃をしないと自滅しそうだな。

 

 あ、なんか岩が砕けるような音がした。早速試したな、ハーレさん。あ、崖上から顔を出してこっちを覗き込んできてるな。


「ヨッシの推測、大当たりだよー! 行動値の回復が不可になったー!」

「ソロでは使用不可のスキルで確定だね」

「使いどころにも要注意かな。これで攻撃を外したりしてもデメリット発生しそうだし……」

「あー、そのデメリット条件ならそういう事もあるのか」


 滑りならむしろソロ以外で上手く攻撃を当ててしまえばデメリット発生なんだろうけど……。なんというか滑りにしても大ウケにしても、ピーキー過ぎる性能だな。使いどころを間違えれば30分行動値が回復しないデメリットはキツい。だけど、有用なのは間違いない。……滑りが俺だけになったのがちょっと寂しいけど……。ん? 待てよ?


「……そういや、これって両方とも取得出来るのか?」

「あ、どうなんだろう?」

「んー、両方とも取得可能なら既にケイが取得しててもおかしくはないと思うけど?」

「それもそうか……?」


 あれ、どうなんだろう? 見学者がいる状態でスキル連発とかしたっけ……? いない場所でならしまくった覚えもあるけど、ちょっとあやふやだな。よし、ちょっと試してみるか。


「みんなごめん! スキル補正なしだと降りれないから、誰か迎えに来てー!」

「あらま……。よし、ちょうどいいか。ハーレさん、ちょっと乱暴でも良いか?」

「うん! 多少は大丈夫だよー!」

「ケイ、何するつもりかな?」

「移動も兼ねて、『一発芸・大ウケ』の取得実験をね?」

「ケイさん、滑らないでよ?」

「滑らんよ! ……多分」


 これからやるつもりの事は流石に滑らないと思いたい。……上手く行けば大道芸の類だし、大丈夫だろ、うん。



<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 27/28 : 魔力値 50/54

<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 23/28


 さて、まずはいつもの様に水球を作る。数は1つで充分だな。そこからちょっと形を変えて円盤状にしていく。そんでもって反発力は強めにしてっと。それを崖の上の方へと移動させていく。


「ハーレさん、その水の上に乗ってみてくれ!」

「えっ! これの上に乗れるの!? いやっほうー!」


 躊躇なく崖から飛んだな。流石ハーレさんだ。そして見事に魔法の水の上に着地する。よし、軽いリスのハーレさんなら乗れると思ったけど、予想通り大丈夫だった。


「おっ! これ、跳ねるんだね!」


 そしてハーレさんは水の上で飛び跳ねている。流石にそのままじゃ上手く跳ねないので操作で補佐はしているけど、大体想定通りの動きだ。言う前にやるとは思ってなかったけど。


「ケイさん、トランポリンみたいで楽しいよ!」

「ま、そんなイメージで操作してるからな。飛び上がったらその先にどんどん同じの作っていくから、それで降りてきてくれ!」

「お、それも楽しそう! やるやるー! せーの!」


 何度か水の上を跳ねた後に、勢いをつけてハーレさんが思いっきりジャンプして少し前方に飛び上がる。よし、ジャンプに合わせて反動を強めに操作するタイミングもぴったりだな。飛び上がった後の水はもういらないから即座に解除。次を生成しよう。


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 22/28 : 魔力値 46/54

<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 18/28


 さっきより少し低めの位置で着地地点になりそうな場所に再び同じものを生成。ハーレさんは見事にそこに着地して、その反動で再び前方へと飛び上がる。行動値的には後3回で地面に着地させないといけないか。


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 17/28 : 魔力値 42/54

<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 13/28


「いやっほー! これ、楽しいー!」

「それは何よりで」

「ケイ、よくこんなの思いつくね。ハーレ、楽しそう」

「ハーレ、こういうの好きだもんね。……多分サヤは厳しいと思うよ?」

「ヨッシ、なんの事かな!?」


 サヤも結構分かりやすいところはあるよね。寂しがり屋だったり、羨ましがったりという時はよく分かる。誤魔化してたけど、今は確実に自分もやってみたいって思ってた様子だな。ただなぁ、Lvがもっと上がれば出来そうだけど、ちょっと大型動物系はまだ無理そうな気がする。っと、またハーレさんが飛び上がったな。次だ、次。


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 12/28 : 魔力値 38/54

<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 8/28


「ハーレさん、次で着地な! これ以上は行動値が足りないから!」

「うん、分かったよー!」


 そして最後の大ジャンプ。お、クルクルと空中で回転するとはハーレさん、やるな!


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 7/28 : 魔力値 34/54

<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 3/28


 最後はちょっと分厚めのマット的な感じに水を操作する。思いつきでやってみたけど、地味に汎用度高いな、魔法産の水を使った水の操作。

 おーハーレさんが綺麗な着地を決めた。とりあえずこれで今は行動値が使えないハーレさんも崖下に戻ってこれたな。うん、これは場所によっては移動にも使えそうな感じがする。もうちょい使い方も色々考えてみよう。


「あー楽しかった! ケイさんありがとねー!」

「いえいえどういたしまして」

「それでケイ、どうだった? これは流石に滑る内容ではなかったと思うけど」

「うん、私もそう思う」

「あー駄目だな。これは取れるのは滑りか大ウケかのどっちかだけっぽいか」


 推測した条件は満たしていた筈だけど、取得は出来なかった。つまり、条件の推測が間違っているか、そもそも2種類は取得出来ないようになっているかのどちらかだろう。……スキル性能を考えればどちらかのみ取得の可能性の方が高いとは思うけど。


「それにしても、滑りは俺だけか……。何か地味に凹むな……」

「でもこれって、地味に滑りの方が取得は難しいんじゃないかな?」

「そうかもね! 大ウケの方は私達みたいに偶然で取得出来そうだしね!」

「そうそう。ケイさん、前向きに考えようよ」


 まぁそう言われれば確かにそうなんだけど、気持ち的な問題でね……? よし、明日アルがログインしたら、一発芸・滑りを取らせよう!


「あーでも折角、一発芸大会を考えてたのに殆ど意味無くなっちゃったね……」

「そういやそうだな。……あれ? 俺って暴露された分だけ損なのか……?」

「ケイ、そこは気にしないって事で」

「……はい」


 なんかサヤに押し切られてしまった。まぁ済んだ事は仕方ないか。とりあえずアルに一発芸・滑りを取らせる為の作戦を考えとかないと。いや、やっぱり取得サンプルは複数あった方がいいだろうしね!

 群集に広めるかどうかはその後にみんなで相談して決めよう。身を持って体験しているから言えるけど、これに頼り切るのもマズいから慎重に行かないとね。

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