第92話 いつの間にやら……


 流石に内容が内容なので、サラッと流す訳にもいかない。という事でアーサーには悪いけど即席の情報会議だ。ある意味水月さんがリスポーンで帰った後で良かったかもしれないな。


「ヨッシさん、ハーレさん集合! すまん、アーサーはちょっと待っててくれ」

「どしたの、ケイさん?」

「何事ー!?」

「待ってれば良いんだよな、コケのアニキ!」


 素早く集まってくるヨッシさんとハーレさん。アーサーも大人しく指示に従ってくれている。ほんと数日で別人みたいになったな。……どちらかというと今のがアーサーの素の性格なのかもしれない。

 ……あんまり待たせるのもなんだから手早く済まそう。かといってアーサーには聞かせられないので、小声で話す事にはなるけども。


「……サヤが『一発芸・大ウケ』とやらをさっき取得したらしい」

「あーなるほど。それは確かに聞かせられない情報だ」

「……え、でも、あれ? あ、そっか! ヨッシにしかまだ話してなかったっけ?」

「私もハーレにしかまだ話せてなかったね……」

「ねぇ、ハーレもヨッシも何の話なのかな……?」


 あれ? 結構重要な話をした気がするんだけど、思った反応と全然違う。サヤの方を見てみるが、サヤもいまいち話の流れが見えないのか首を傾げている。今はサヤが一発芸の別系統のスキルを取得って話だったと思うんだけど、まだ話してなかったってどういう事だ? なにか話が噛み合ってないな……?


「説明するにしても勝負を全部終わらせてアーサー君が帰ってからの方が良いと思う」

「確かに内容的にはそうだね!」

「……なんか気になるけど、2人がそう言うならそうするか」

「私が言うのもなんだけど、待たせてコソコソと目の前で情報交換をするのもどうかとは思うかな?」

「……今回はサヤが言い出しっぺだからな?」

「だから、それは分かってるってば。ほら、続きやってからにしようね!」


 どうにもヨッシさんとハーレさんの2人だけで共通して理解している話があるらしい。こうなってくるとアーサーを必要以上に待たせるのも悪いか。この件については、PTメンバーだけになった時にしっかりと話すとしよう。……アルがいないのはこの際仕方ない。


「あー、待たせたな」

「もう大丈夫っすか!?」

「まぁな。それじゃ次は、アーサー対ヨッシさんで試合やるか」

「よっしゃ! ヨッシさん、お願いします!」


 という事で2戦目のヨッシさん対アーサーの対戦が始まる。対峙するヨッシさんとアーサー。こちらは先程のクマ同士の戦いとは違い、火花を散らす様なライバル感はまるでない。


「それじゃ開始!」

「行きます! 『自己強化』!」

「いきなりそれを使ってくる!?」


 ハーレさんの合図に合わせて、いきなり切り札とも呼べる自己強化を使い、透明なオーラを纏うアーサー。そしてその状態でヨッシさんに向かって突っ込んでいく。これは短期決戦狙いか? それとも考えなしの特攻か?


「ただ強化して突っ込むだけじゃ駄目だよ」


 ひらりとヨッシさんは、アーサーの突進を回避する。そしてアーサーは誰もいない崖の方へとそのまま走り抜けていく。あー、これはプレイヤースキルの方はまだ無理かな?


「『猪突猛進』!」

「え……!?」


 アーサーは勢いを止めるどころか、更に『猪突猛進』というスキルを発動して更に加速していく。知らないスキルだな。……そのまま行くと崖に激突するけど、どうする気だ? って、崖下の岩場をかなりの速度で駆け抜けて崖を垂直に駆け上ってる!? あれだけ勢いをつければそういう事も可能なんだな。これは予想外だった。でもそこからどうする気だ? あ、崖上まで登りきってどっか走って行った……? おーい、どこへ行く?


 あ、戻ってきたっていうか、崖から飛び降りた!? おいおい、アーサーも無茶をするな。……もしかして『猪突猛進』ってスキルって自分じゃ止められないとかじゃないだろうな……?


「『硬化』!」

「……これは受けるとヤバそうだね。『同族統率』! ハチ1号、突撃!」

「これでどうだー!」


 飛び降りたアーサーは落下中に更に別のスキルを発動した。どうやら落下からヨッシさんを狙っているつもりらしい。だがヨッシさんの本体はあっさりと退避済みで、ハチ1号が落ちてきたアーサーに潰され倒された。威力は申し分ないけど、まだまだ甘すぎるし、隙だらけだな。


「え? あれ、もしかして倒せた……?」

「まだまだ視野が狭いよ。そのハチは私の本体じゃないからね? 『麻痺毒生成』『毒針』! って針が通らない!?」

「あれ!? ハチが増えてる!?」


 アーサーのヤツ、さっき潰したハチ1号をヨッシさん自身と勘違いしてるな。ハチ2号と3号にも驚いているのを見た感じだと、やっぱりまだまだか。

 その油断している隙をついてヨッシさんがアーサーに毒針を突き刺すが、どうにも刺さった様子はない。この前のアーサーはあんなに硬くはなかった筈だけど、強化されているみたいだな。


 それにしても『猪突猛進』に『硬化』か……。『猪突猛進』は多分イノシシの固有スキルだな。『硬化』は名前の通りなら硬くなるスキル……? 捕縛系スキル持ちのプレイヤーと組み合わせれば結構凶悪そうな構成だけど、まだまだ使いこなせてはいないか。でも崖を駆け上ったりしたところを見るとそれなりには考えてはいるな。


 そういや思考操作でもスキル発動は出来るけど、みんな結構スキル名を叫んで発動させてるよな。思考操作での発動だと地味に難易度上がって誤発動も多いから、音声発動の人の方が多いっぽいね。まぁ敵モンスター相手なら特に問題ないから別に良いか。PTプレイ中ならそっちの方が何やってるか分かりやすいしな。俺もPT戦の時はそうしてるし。

 対人戦はこれからの慣れ次第だね。オフライン版じゃ対人要素が無かったというのも大きいんだろうけど、あれって手の内をバラしているようなもんだしな。



「もっと周りの様子をよく観察しようね。折角の攻撃力が台無しだよ?」

「はい! 勉強になります!」


 ヨッシさんがアーサーの悪い点の指導をしている。完全に訓練用の模擬戦になってるな。まぁこれもアーサーにとっては良い経験だろう。その後、幾度となくアーサーがヨッシさんに攻撃を加えていくけれど、どれ一つとしてヨッシさんを捉える事はなかった。

 それでも俺が叩き潰した時よりは確実に動きは良くなっている。まだかなり周辺に対する視野が狭いところはあるけど、その辺りは数日程度ですぐにどうにかなるものでもないだろうから、後は慣れが重要といった感じだな。


 アーサーの戦い方を見ているとなんとなくだけど水月さんが土魔法を取得していた理由が分かった気がする。あれは多分アーサーとの連携で足止め用に使うのだろう。サヤにも目潰し攻撃に使ってきたしな。まぁあくまでも推測だけど。


 そしてしばらくそんな訓練を続けて、一旦休憩を入れ、その間に反省会である。


「アーサー君の課題は攻撃の為の突撃以外の立ち回りだね」

「うっ……それはフラム兄にも言われた……」

「今のままだと回避が簡単過ぎるな。……取得出来るスキル次第だけど、何か攻撃以外の足止めに使えるスキルを取ったほうがいいぞ」

「アーサー君は、カウンターにも気を付けた方がいいね! 速度があるとそれだけカウンターの威力も上がるからね!」

「カウンター……?」

「まぁ物は試しだな。こういうのは体感した方が早い。ヨッシさん、良い?」

「もちろん大丈夫」


 なんかアーサーの強化講座になってきているけど、まぁそれもいいか。群集が違うとはいえ、心を入れ替えて向上心のあるやつを無下にするのも気が引ける。アーサーは初対面こそ悪印象だったけど、随分と印象が変わったもんだ。年下の中学生って事もあるのかもしれないが。


「とりあえず、全力で突進するつもりでヨッシさんに向かって突っ込んでみな」

「はい! 『自己強化』『硬化』『猪突猛進』!」

「『自己強化』有りなら、こっちも相応のものを使わないとね。『魔力集中』『斬針』!」


 突進してくるアーサーとのすれ違いざまに、ヨッシさんが最小限の動きで回避し、そして勢いを利用してカウンターの斬撃を直撃させる。うん、流石ヒノノコ相手にも見事なカウンターを決めたヨッシさんだな。

 結構なダメージ量があってアーサーのHPは4割ほどまで減っていた。


「カウンターってこういう事っすか!」

「そういう事」

「まぁ何から何まで全部教えたら経験にならないから、これより先は自分で考えてみることな」

「そうだよー! どうしても分からない事があれば聞いたら良いけど、自分で考える事も大事だからね!」

「……まぁ自分で考えた結果、大暴走って事もあったりもするけどね?」


 ……サヤ、何故そこで俺を見ながらその発言をする……? いや分かってますよ。何度も暴走したもんな。自覚はあるけども、ゲームだからあからさまにやり過ぎでない限りは自重はあんまりしないけど! 

 大体の暴走行為って結果として称号とか手に入ってるから運営の想定内の範囲なんだよ。そうでなけりゃバグとして修正が入るはずだしな! まぁやり過ぎて迷惑かけた場合はちゃんと謝るから、勘弁して下さい……。


「あっ!? そろそろ水月が帰ってこいって言ってる」


 あーちょっと戦うだけのつもりがちょっと特訓じみてきて、思った以上に時間が経っていたな。それにいつの間にか雨も止んでいた。あんまり気にしてなかったけど、いつの間に止んだんだろうか? まぁいいか。


「それじゃ色々ありがとうございました!」

「おう、それじゃ頑張れよ」

「はい! コケのアニキ!」


 という事でアーサーがリスポーン機能を使って赤の群集エリアへ帰る為に、俺が全力の水魔法Lv2の『アクアボール』の最大速度で仕留めておいた。うん、経験値がいいね。とはいえLv1の時と比べると徐々に経験値の伸びが悪くなってきたな。やっぱりLvが上がってくると上がりにくくはなってくるか。ボス戦で一気にLvは上がったけど、それ以外だとちょっとLvの上がる速度は落ちそうだ。


 さてと、思ったより時間はかかったけど改めて情報の共有に移ろうか。ヨッシさんとハーレさんは一体どんな情報を持っているのだろうか? 一応は内容の推測はしてるけど、もし推測通りの内容ならある程度条件が絞り込めそうなんだよな。まぁとにかく詳しい話を聞いてみよう。

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