第78話 先のエリアと大騒ぎ


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『常闇の洞窟』に移動しました>


 エリア切り替えの表記が出たな。ここは『常闇の洞窟』か。そのままといえばそのままの名前だ。真っ暗闇だし、さっき夜目を切ったままなので何も見えない。これじゃ移動すらままならないけど、明かりもない洞窟って基本的にこんなもんだよな。誰の手も加えられてないのにライトアップされてる方がおかしいし。

 こんな暗いとこでコケはあるのか……? そういやヒカリゴケとかいう暗いとこにあるコケってのも聞いたことはあるけど、もしかするともしかする?


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 26/26(−1)


 とりあえず見えない事にはどうにもならないので夜目を発動。うーむ、これは見えなくはないけど、まだかなり暗い。夜目にはLvはないし、もっとハッキリ見るには上位のスキルが必要か……? この暗さだとコケがあるかどうかさえ分からないぞ? ちょっと増殖して少し奥に行ってみてーー


<成長体・暴走種を発見しました>

<成長体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 あ、発見報酬が出た。しかも成長体と来たか。今更だけどPTを組んでるときは発見報酬は共有って感じだな。さて、誰が何を見つけた?


「……ねぇ、ケイ。ちょっと、こっちのを識別してみて……」

「ん? サヤ、どうしたよ?」


 サヤが険しい顔で洞窟の奥を見ている。ってことは見つけたのはサヤか。あ、あれか。なんかコウモリっぽい感じのヤツが洞窟の上部にぶら下がってるな。……っていうか、ここの天井部は地味に地上の木の根が出てきてるのか。コウモリはその根に止まっているっぽい。


<行動値を1消費して『識別Lv1』を発動します>  行動値 25/26(−1)


 詳細を見無いと分からないのでとりあえず識別してみよう。っておいこら、ちょっと待て……。


『闇コウモリ』

 種族:黒の暴走種

 進化階位:成長体・暴走種


 よく見たら同じのが3匹もいるし、全部成長体!? てか、完全に同じ種類なら発見は1回分だけか! まぁそりゃそうだよな。一番乗りPTが全部掻っ攫っていけるし、それは当たり前といえば当たり前だな。……もしかして、未発見のプレイヤーがPTにいて、そのプレイヤーが発見したら2回目も貰えたりする……?


 っていうかそんな事考えてる場合じゃない! うわ、3匹ともこっちに気付いた!? げっ、他にもコウモリっぽい光る目が大量に見えてるし!? げっ、群がって向かって来た。一体何匹いるんだよ!? 夜目を発動しても暗くて視界も悪いし、入ってすぐにこの大群……。まだこのエリアは行くのは早いって事かよ!? ……うん、ここは仕方ない。

 

「みんな、撤退だー!」

「……これは確かに逃げるしかないかな?」

「わー!? 逃げろー!」

「そりゃこういうエリアもあるよな!?」

「地味に早い!? 『同族統率』!」

「折角の新エリアだと思ったのに、これはあんまりだー!?」


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 24/26(−1): 魔力値 48/52

<行動値を4消費して『水の操作Lv5』を発動します>  行動値 20/26(−1)


 黒の暴走種のコウモリの動きが予想以上に早いので、水魔法で防壁を作って足止めする。ヨッシさんも囮のハチを使って足止めをしていた。洞窟に入ってすぐだし、これだけで逃げられるはず! 流石に違うエリアまでは追ってこないだろ! 



 ◇ ◇ ◇



<『常闇の洞窟』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 洞窟に入ったばかりだったので、何とか犠牲者を出さずに即座に逃げ切れた。予想通り、他のエリアまでは追ってこないようだ。


「あー焦った。まさか成長体だらけとは……」

「よく考えたら、どう考えても他のボスより特殊っぽかったヒノノコを倒した先のエリアが簡単な訳ないよね……」


 そういや他のゲームでも時々あったりするよね。普通に行けるけどいきなり急激に敵の強さが跳ね上がる場所とかさ。いやまぁヒノノコを倒す必要がある以上は普通に行ける訳じゃないけども。

 うーん、改めて考えてみても移動に必要なコケの位置もわからないのに、あの数は無理だな。広範囲を殲滅出来るくらいの魔法と光源が最低でも必要そうだ。……いや、逆に俺単独なら察知されない可能性もなくはない……? ……それは1人でプレイしてる時に考えよ。とりあえず今は……。


「残念だけど、ここは当分お預けだな。少なくとも『夜目』より上位の暗闇用のスキルがないとキツそうだ」

「えー! でも『夜目』を使ってもあの暗さじゃ仕方ないかー」

「まぁ、良いじゃない。他のボスを倒して別のエリアを目指そうよ」

「ヨッシの言うとおりかな。ここはちょっと残念だったけど、まだ行けるエリアは3つは残ってるしね!

「ま、それもそうだな。問題はどこに行くかだけど……」


 この先は今はまだ厳しいという事が分かった以上は、選択肢は他のエリアという事になる。もう地図作成の群集クエストも終盤だし、残る未討伐のボスは桜の木と氷狼の2体か。エリアを通過するだけなら沼ガメの残滓の討伐でも問題はないけども、どうするかな。


 そんな事を考えていると見知った相手がやって来た。そりゃあのアナウンスを聞けばここまで来るよな。俺だって近くにいるなら見に行くし。


「ようやく見つけたぞ。討伐の立役者達がこんなとこで何やってんだ?」

「あ、ベスタか。いや、この先に次のエリアがあって、初回討伐者が開放するようになっててな。それをしに来てて、お試しに突っ込んで見たらヤバそうだったから逃げ帰って来たとこ」

「ほう? そりゃ面白そうだな。って事はさっきのヒノノコの残滓の妨害位置の変更はそこの洞窟か」

「多分な。『夜目』があっても暗くてキツいぞ?」

「ふっ、そうこなくては面白くない。っと、それは後で1人の時にでもやるか。とりあえず、お前ら、『群集拠点種』のとこまで来い」


 一瞬獰猛な狩人の眼をしていたベスタだが、即座にその気配を霧散させる。流石は沼ガメを単独で倒しただけの事はあるな。後でヒノノコの残滓を仕留めに来るつもりだな。それにしてもなんで『群集拠点種』に……? なんか他にあったっけ?


「集まれる連中があそこに集まってる。エリアボスの中でもおそらく最強のヒノノコを真っ先に潰したんだ。とりあえず祝勝会とでも行こうぜ」

「……え、ヒノノコってボスの中で最強だったの?」

「知らなかったのかよ……。他はまだ勝ててこそいないが、大体は勝てる目処は立ってんだよ。全く目処が立ってなかったのはヒノノコだけだ」


 お、群集イベントの開始演出を見た人達が集まってきてるのか。今日は一切情報共有板は見てなかったから、まさかヒノノコ以外の攻略は既に目処は立っていたとは思わなかった……。……それにしてもエリアボス最強にリベンジ戦を挑んでたのか、俺たち……。その先のエリアの凶悪さにもちょっと納得。


「わー!? そんな状況だったんだ!? 特訓してて情報確認してなかったよ!」

「ベスタさん、『魔力集中』と『自己強化』の情報、ありがとうございました。おかげでかなり役立ちました」

「おう、そりゃよかったよ。んで、『纏属進化』ってのはどうだったよ?」

「すまん、ベスタ。あれ、結局使わなかったんだよ」

「ほう? そうか、あれがなくともきちんとしたメンバーが揃ってれば勝てるようにはなってる訳か。あー返そうとは思わなくていいぞ。それはお前たちにやったもんだ。好きに使えばいい」

「やっぱりそう言うと思ったよ。それじゃ有り難く貰っとく」

「おう、んじゃ行くぞ」


 一旦会話を切り上げ、ベスタを先頭にエンの元へと移動していく。


「そういや、木が光ってるのが収まってるな?」

「この光って収まってきてんのか? 俺が来たときからこんなもんだったぞ」

「おう、『夜目』がいらないくらいに明るくなってたぞ」

「……マジか。そりゃ見そびれちまったな」

「なるほどね! あれは開始直後だけにしか見られない特殊演出なんだね!」

「良いものが見れたってことなんだろうね」


 そんな風に幻想的だった森が少しだけ光るの森になった事に対する少しの寂寥感と、それを特等席で見れたという満足感を得ながら移動していく。そしてエンの元へと辿り着いた。お、こりゃすげぇ!

 そこには多種多様な種族のプレイヤーが集まっていた。シカ、イノシシ、クマ、移動種の木、トカゲ、ヘビ、キツネ、根で歩いている草花、他にもまだまだ集まっている。一体どれだけのプレイヤーが居るんだろうか?


「お、コケの人のPTが来たぞ!」

「ヒノノコ討伐、おめでとうー!」

「くっそ! 先越しやがって! よくやったー!」


 他にも大勢のプレイヤーが声をかけてきてくれている。まぁ祝勝会とは言っても果物くらいしかない上に、食べられない種族も結構いるからな。ただただ口々に騒いで交流を深めているだけだろう。

 そっか。これでこのエリアには拠点が出来て、こうやってプレイヤー同士が集まれる場所が出来た訳だ。普通のファンタジーのゲームなら初めから用意されている初期エリアの拠点を自分たちで用意したという事になんだか感慨が湧いてくる。


「ねぇ、ベスタさん。これ、不動種の人はどうなってるの?」

「あぁ、それか。心配ねぇよ」

『それは俺が説明するぞ。不動種同士は【大地の脈動】を通じて、ネットワークの構築に成功した。本人の移動こそ出来ないが、俺の意識を通じてこの場の状況は把握出来るようになっている。まぁ今のところはそれが限界だがな』

「今のところはってどういう事だ?」

『なに、俺が強化されていけば出来ることも増えるってだけさ。今の感じだと出来そうな事は構築したネットワークの中にいる不動種の元に転移させるとかな? まぁこのエリア内限定にはなりそうだが』

「え!? それホント!?」

「これは不動種が必要な訳だね。そういえばエンって進化階位はどうなってるの?」

『あぁ、それか。ちょっと特殊なんだが、これでも成長体だな』


 これで成長体ときたか。うーむ、もっと上に見えたけどそうでもないんだな。それにしても成長すればエリア内限定だけどファストトラベルの開放になって、その位置は不動種になると。かなり重要じゃないか、不動種って! これ他にも開放される要素がありそうだな。


「なぁ、みんな! このまま今日中に地図作成の群集クエスト終わらせちまおうぜ!」

「お、それいいな!」

「参加希望、集まれー!」

「おいこら、ちょっと待て! 氷狼は俺の獲物だ!」

「ベスタは沼ガメ倒してるんだからいいだろ?」

「いーや、氷狼は俺のPTが戴く!」

「それじゃ私達は桜の木の方を」

「誰か火魔法をポイントで取得してる物好きいないか!?」

「物好き言うな! 火魔法は憧れなんだよ! だけど持ってるとも!」


 誰が残りのボスを討伐するかの争奪戦が始まった。ベスタもしっかり乱入してるし。火魔法がどうこう言ってるのはトカゲの人か。トカゲなら火魔法覚えてドラゴンへの進化とか目指したいよな。オフライン版でのドラゴン操作は爽快だったし。あ、ベスタが戻ってきた。


「おい、ケイ! 今すぐ氷狼を倒しに行くぞ! 先を越されてたまるか!」

「え、今からやるのかよ?」

「面白そうだね。ケイ、行こうよ! ベスタさん、私達も良いかな?」

「サヤがやる気になってるね。それじゃ私も行こうかな」

「おー! 私もやるよー!」

「ケイ、みんなやる気だし、行こうぜ」

「しゃーないな! 俺のPTは全員参加希望だけど、良いよなベスタ?」

「ヒノノコを討伐したPTに文句なんかねぇよ。それじゃ行くぜ!」


<ベスタ様がPTに加入しました>


 そうと決まれば即座にベスタにPT申請を送る。臨時メンバーのベスタを迎え、これでフルPTだ。こんなにすぐになるとは思ってなかったけども、氷狼も討伐に行くことになった。どうせいつか倒す事になるなら、残滓ではなくオリジナルを倒すほうが良いか。


 ボスの2連戦にはなるけど、ここは勢いに乗って一気にやってしまえ! この争奪戦が始まった状態では桜の木は無理だろうけど、やると決めたからには氷狼は仕留めてやる! 桜の木の方も討伐参加者の争奪戦が行われているしな。


 我先にと走り出すたくさんのプレイヤー達。やっぱりクマとか狼とかが速い。あ、草花のプレイヤーって根で走るんだ。小動物系のプレイヤーは他のプレイヤーに乗って行ったりしてる。こう見るだけでも色々な移動手段があるんだな。

 って、呑気に見物してる場合じゃない。目指す場所は氷狼のいるマップの南端! こういうのは早い者勝ちだから、俺達も急がないとな!


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る