第77話 群集拠点種のエン
踏破は後回しにして、見えてるデカい木の『群集拠点種』に向かってレッツゴー! それにしてもデカい木に近付いて行けば行くほど、なんか雰囲気が他の場所と変わっていく気がする。なんかちょっと、だんだん明るくなっているというか……。
「……なぁ、これ、この辺りの木が光ってないか?」
「あ、ホントだ!?」
「ちょっと『夜目』切ってみるか」
<『夜目』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 26/27
試しに夜目の発動を切ってみる。うん、木だけに限らず周辺の植物が『群集拠点種』を中心にして淡い光を放っている。なんというか幻想的な風景だ。
「みんな、『夜目』切ってみ。凄いぞ、これ!」
「ほう? ……こりゃ確かにすげぇな」
「あ、これは凄いかな」
「これは幻想的だね」
「これ、凄いね! 夜の日で良かったかもね!」
みんな言葉少なに幻想的な森の風景に魅入っている。この風景は『群集拠点種』の誕生と『大地の脈動』とやらの自浄作用の効果なのだろうか? 淡く光る森林なんて現実じゃ見れないんだ。ゲームならではの景色だな。
そんな幻想的な森の中を進んでいくと、拓けた場所に出た。そしてその場所の真ん中に聳え立つのが『群集拠点種』のエンである。淡くはあるが、他の木々よりも力強い光を放っている。見上げても、木の葉で隠れて木の上の端は見えない。所々に眩く光る実も生っているけど、あれはなんの実だろう?
「わぁ! これは近くで見ると凄い迫力だね」
「これは見事だね。なんの木なんだろ?」
「なんの木でも良いじゃん! うー登りたい!」
「いやいや、ハーレさん流石に登るのはやめとこうな?」
「何にしてもこりゃすげぇな!」
周りにはまだ誰もいないが、その内アナウンスを見た近くのプレイヤーも見に来るだろう。俺ならそうするし。……そういやヒノノコの残滓はどうなるんだろうか?
『おっ! お前たちだな、俺を解放してくれたのは!』
「お、この声はさっきのエンって奴か!」
『おう、お陰さまで黒の暴走種からは解放されたぜ。礼を言わせて貰う。ありがとうな!』
「いえいえ、どういたしまして」
群集クエストとかに関わる特殊な黒の暴走種が解放されるとこうしてNPC化して重要そうな役割に就くんだな。……ベスタが倒した沼ガメも何かあったりするんだろうか?
『さっきの呼びかけである程度は理解して貰ったとは思うが、改めて自己紹介をさせてもらうぜ。俺はエンだ。灰の群集の安全地帯認定した5つの場所の内、この地帯の自浄の地において拠点管理を請け負うことになった』
「自浄の地ってのは?」
『あぁ、惑星の中に【大地の脈動】っていう力の流れがあるようでな。その中の淀みを自浄する場所がある。その一つがこの場所だ。それ以上の事はグレイが現在調査中だ』
「なるほどねー! まだ色々調査中なんだね!」
ワールドクエストか群集クエストか、はたまたそれ以外の別の何かかそこまでは分からないけど、これは確実に次のクエストがあるな。オフライン版は自分の種族が人類種を目指すだけで特にこれと言ったストーリーも無かったけど、オンライン版ではこういった背景的なストーリーがあるんだな。そして個別に進めるのではなく、群集や全プレイヤー単位でストーリーを進めていくと。
『まぁそういう事になるな。……場合によってはかつてこの地には人類種がいたかもしれん。でなければ【瘴気】の大量残留は考えにくいからな』
「それって大昔には人間がいて、何かの理由で滅んで【瘴気】を遺していったってことかな?」
「そうなると未開の地とも言い切れなくなってくるな」
『すまんがまだ詳細は不明だ。何か異変を見つければグレイの方へと報告してくれ。その度、対処方法を考えるからな。俺は俺で【大地の脈動】を通じて周辺の状況や【瘴気】に関する情報を集めているとこだ』
「うん、分かったよ」
今までのクエストの発生を見た限りだと、異常報告が必要数を満たせばワールドクエストや群集クエストが新たに発生する。そして未開の惑星のはずが元々人類がいた可能性ありときた。これは場合によっては古代遺跡とか出てきたりもするのかな?
この運営のやり方だと、それはやってみてのお楽しみって感じもする。自然の中で生存競争を楽しむのも良し、古代遺産を探すも良しとか色々楽しみ方を用意してそうだ。オフライン版では種族が違えば別のゲームと言われるだけの事はあったしな。よし、それはそれで冒険も楽しくなりそうだ!
『そうだ、お前たちに渡しておく物がある。受け取ってくれ』
その言葉とともに、光っている実が5つほどそれぞれの前に落ちてくる。どう受け取れと……?
<『帰還の実:始まりの森林深部・灰の群集エリア2』を獲得しました>
<『帰還の実』を使用する事で任意に帰還、死亡時にリスポーン位置として指定できます>
あ、自動でインベントリに入ったよ。ふむ、これがここでリスポーンする為のアイテムか。ちょっとこれは詳細を見ておこう。
【帰還の実:始まりの森林深部・灰の群集エリア2】
所持しているだけで死亡時にリスポーン位置に『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』の『群集拠点種』を選ぶ事が出来る。また通常時、任意に使用して『群集拠点種』へと移動が出来る。
使い捨てで所持制限1個。ただし『群集拠点種』にて再取得が可能。(1日1個まで)
ふむふむ、これで別エリアに行っても戻ってこれるんだな。しかも死亡時以外にも任意で戻ってこれるとは、流石は群集の拠点という訳か。あ、でも1回使う度に再取得が必要なんだ。まぁそれでも便利だし、ある程度の制限は必要かな。……これは初期エリア毎の帰還の実があったりするのかな? これも要確認
っと。
『そして急で悪いんだが、俺を倒したお前たちに少し頼みがある』
「お、なになに? 何でも言ってー!」
まだなにか続きあるらしいが、ハーレさんはあっさりと聞く前から受ける気満々である。これは何かのクエストフラグか……? 言葉的にはヒノノコを初回討伐した人限定って感じか。とにかく続きを聞いていこう。話はそれからだ。
『ここから北側の場所に洞窟がある。その中にも俺らの仲間たちがいる筈だが、そこへの入り口が瘴気の塊で塞がれている。俺自身は移動出来ないから、その力を見込んで入り口の解放を頼めないか?』
「洞窟があるのか」
「これはヒノノコが新エリア解放と群集クエストの発生の両方の鍵になってた感じかな」
「ここから北側の洞窟って、赤の群集の森林エリアの真下を通る可能性もあるんじゃない?」
「あ、確かに! 洞窟の長さ次第だけどそれはあるかもね!」
「まぁそれは行ってみれば分かるだろ。で、どうすればいい?」
洞窟はそのままだと通れないのなら、これは受けるしかないだろう。というかこれは初回討伐者が開放しなきゃ後続者が行けなかったりするんじゃないか? ……それはそれで悪用が出そうで嫌だな。まぁなんか対策は取ってるだろうし、むしろゲームを楽しむ上でここで断るなんて選択肢は無い!
『そうか、引き受けてくれるか。なに、何かを倒せばって訳じゃない。これを持っていけ。それで瘴気の塊は消える筈だ』
「わっと!? 危ない危ない、落とすとこだったよ!」
「ハーレさん、ナイスキャッチ!」
エンが再び光っている実を落としてきていた。さっきと違いインベントリには入らないらしい。まぁこういう渡し方をするって事は多分地面に落ちても問題ないんだろうけど、気分的には落としたくないもんな。
『その洞窟の中がどうなっているかは分からないが、出口の開放は任せたぞ』
<エリア開放クエスト《瘴気の排除:始まりの森林深部・灰の群集エリア2》を受注しました>
<『浄化の実』を手に入れました>
「あ、クエスト始まったね!」
「エリア開放クエストか。これは他のエリアの特殊地形にもあるのかな?」
「どうなんだろうね?」
「後で情報共有板で確認してみるか」
「いや、ケイ、ここ以外まだボス討伐されてないから無理だろ」
「あ、そういやそうだった。それでヒノノコの残滓ってどうなるんだろうな?」
「沼ガメは残滓がそのままエリア妨害ボスにいるらしいぞ。ヒノノコの残滓はこれから開放する洞窟への妨害ボスじゃないか?」
「多分そんなとこだろうね!」
「『群集拠点種』までの妨害はちょっと問題ありそうだしね」
「それもそうか。まぁとりあえずクエストやれば分かるか」
「んじゃ、洞窟の開放に行きますか!」
という事で、サクッと移動しよう。それほど距離もないし、ボス戦もないなら時間もかからないだろう。幻想的に光る森を移動しながら北へと向かう。陥没した地形なので行き着く先は崖になっている筈だ。そこの洞窟の入り口が瘴気の塊に塞がれているのだろう。
「ねぇ、あれじゃないかな?」
「露骨に邪悪な感じだね……」
「んー? 近付かないで、これ投げる?」
なんとも嫌そうな声を上げているヨッシさんに、投げて終わらせようとしているハーレさん。まぁ気持ちは分からなくもない。周りの光る木がなければ気にはならないかもしれないが、あからさまに黒いオーラを漂わせている岩のような何かが崖のところにあるからだ。うん、どう見てもあれだろう。
「とりあえず投げてみるか。駄目なら駄目で拾っていけばいいだろ」
「それで良いのかな……?」
「ものは試しだね!」
ハーレさんが『浄化の実』をあからさまに怪しいところに投げつけた。すると直ぐに黒いオーラが消えていき、洞窟の入り口が姿を表した。
<エリア開放クエスト《瘴気の排除:始まりの森林深部・灰の群集エリア2》をクリアしました>
<『浄化の実』は消滅します>
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』の『ヒノノコの残滓』の妨害位置が変更になりました>
んー特にこれと言った報酬はなしか。別にちょっと移動して実を投げただけだしな。浄化の実は消滅って事は、これが無きゃここは通れなかったと。ある意味、一番乗りが報酬か?
「あ、さっき気にしてた事の結果が分かったね」
「まぁタイミング的に確実にここの妨害だよな」
エリア移動の阻害ボスは一度倒せば妨害されずに通れるようになるらしいし既にヒノノコを倒した俺たちは問題ないか。これからこの洞窟の先に行きたい人はここでヒノノコの残滓を倒す必要があるってだけの話だしな。……少し気になったけど、残滓と再戦する方法とかってないかな? まぁ、それは後回しでいいか。今は……。
「さて、どうする?」
「ここまで来たんだしね」
「やっぱりそうだよね」
「もちろんだよね!」
「そりゃ当然!」
聞くまでもなかったか。ここまで来て行ってみないという選択肢もないよな! 時間的にもまだ大丈夫だし。
「それじゃ、新エリア行くぞー!」
「「「「おー!」」」」
幻想的な森を見て、ヒノノコ戦の疲れも少し吹っ飛んだ。これは行くしかないだろう!
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