第64話 いつもの場所への帰還
<『始まりの森林・赤の群集エリア1』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
情報共有板で得た情報を話している内にそんなメッセージが表示された。よっしゃ、帰って来たぜ、森林深部エリア!
「こうやって別エリアから帰ってきたら、ちょっとホッとするよね」
「確かになんかここの雰囲気が落ち着くな」
「そうかな? 私はみんな一緒ならどこでも楽しいよ!」
初期エリアがこことは違うハーレさんは少し違う感想のようだけど、まぁ嬉しい事を言ってくれるもんだな。さて、ここまでくればいつもの崖下まであと少しで到着だ。
「お、また『根脚移動』のLvが上がったな。思った以上に上がりが早いんだが……」
「プレイヤーを乗せてたらボーナスとかあったりしてね?」
「有り得そうだが、検証しようがねぇな。まぁ早く上がる分には問題ないか」
移動に関するスキルはLvは高い方が良いだろう。っていうか俺も群体化での移動もLv上げないとなー。つい『一発芸・滑り』に頼ってしまってる。あっちのほうが効率いいからなぁ……。
よし、アルから降りて自力移動しよう。少しでも熟練度稼いでスキルLvを上げないとね。
どことなくホッと一息つきながら移動し、いつもの場所へと辿り着く。ただ進化するだけだったのに色々あったもんだから、全部片付いて余計に安心したんだろう。
「……みんな、ストップ」
「どした、サヤ?」
「いつもの所に誰か居るよ」
「……サヤ、ほんと?」
「嘘ついても仕方ないでしょ。ケイ、お願い」
「ほいよ。了解」
「俺も確認しとくか。『同族同調』っと」
群体化Lv2を視覚延長Ⅰで倍率2倍にして範囲指定画面でストップ。望遠鏡代わりの小技を使用だ。それにしてもこれ、群体化と同じように視界で範囲指定するスキルなら地味に同じ事出来るんじゃないか?
それにしてもまだハッキリと見える距離じゃないのにサヤもよく気付いたな。アルはアルで俺とは別の方法で確認を取っている。
さてと、今度は一体誰がいるのやら……。ふむ、オオカミか? って、ベスタじゃねぇか!?
「うん、あいつは大丈夫。俺のフレだ」
「確かに問題ないが、何しに来たんだオオカミの人」
「え!? オオカミの人なの!?」
訪ねてきた相手がベスタなら、トラブルの心配はないだろう。ベスタもこちらに気付いた様子で待っている。俺達も警戒を解いて崖下へと向かって移動していく。それにしても直接来るとは何の用だろうか? フレンドコールでも会話は出来るのに。
「ようやく帰ってきたか、ケイ」
「いきなり居たからびっくりしたぞ。どうやってここが分かったんだ?」
「大体の場所は見当がついてたからな。後はほれ、そこのケイのリスポーン位置用のコケだ」
「あ、なるほど」
リスポーン位置のコケには『ケイの分離群体(破壊不可)』としっかり表示がされている。これならそりゃ分かるよな。てか丸わかり過ぎるな。これ、表示変えられないのか?
「まったく色んな情報持ってくる割に変なとこが抜けてるな……。オプションでプレイヤー名の非表示も選択出来るから、気になるなら非表示にしとけ」
「あ、マジだ」
ベスタにもあっさり考えていた事を見抜かれた。見抜く人多いよなぁ……。
それは置いといて、表示だ表示。表示対象が、無制限・フレンド限定・非表示の3つから選べる様になってるな。これは知らなかったな。それで初期表示が無制限になってるのか。よし、フレンド限定に設定しておこう。
「いきなり話が逸れたが、初めての人もいるから自己紹介をしておくぞ。俺はオオカミのベスタだ。よろしくな」
「木のアルマースだ。いつも情報や分析は頼りにしてるぜ」
「それはこちらも同じ事だ。アルマース、これからも頼む」
「おーあのオオカミの人だ! 私はリスのハーレだよ!」
「いつものリスの人だな。よろしくな」
「私はハチのヨッシ。よろしく、ベスタさん」
「おう、よろしく頼む」
「クマのサヤです。よろしくね。ところでベスタさんは何故ここに?」
「おう、よろしく。少しケイにというかお前らのPTに用事があってだな」
「……私達に?」
そう言って、ベスタは何かをインベントリから取り出している様子。インベントリから取り出された物が実体化して、それをベスタが咥えている。なんだあれ、青い何かの石の欠片……?
「ツチノコを倒すんだろ。これを持ってけ」
口に咥えていた石をサヤに向けて投げ渡す。多分、受け取れそうなのがサヤだったからなのだろう。ハーレさんは巣の中だし、ヨッシさんもサヤの頭の上にいるままだからだ。一回は警戒して離れたのに、居たのがベスタだと分かったら普通に元の場所に戻ってたもんなぁ。
それにしてもこのアイテムは何だ? 見たことないぞ?
「なぁ、ベスタ。これ、なんだ?」
「……これって、ほんとにいいの? これ、まだかなり貴重な物なんじゃ?」
「別にいいさ。説明文を読む限りじゃ今の進化階位でしか使えんし、どうせまだ持っている」
「一体どんなアイテムなんだ?」
「ケイ、『識別』だよ」
「あ、そうか。なるほど」
<行動値を1消費して『識別Lv1』を発動します> 行動値 23/24
サヤに促されて識別を発動する。ぱっと見で分からなければ識別を使えば良いだけだな。あんまり使ってなかったから一瞬忘れてた。さてと、どれどれ?
【進化の軌跡・水の欠片】
水属性を得た成長体の暴走種が遺した、暴走種が進化に至るまでの軌跡が結晶化したものの欠片。
30分限定で成長体を特殊進化の『纏属進化』をさせる事が出来る。付与される属性は水。使い捨てアイテム。
これ、マジか!? 『纏属進化』って初めて見るけど、オンライン版の新仕様か。この仕様だと30分のみ属性を得る特殊進化……。こんな進化形態もある訳か。この感じだと他にも特殊進化は色々とありそうな気もする。
「ベスタ、良いのか、こんなの貰って? っていうか、こんなのどこで手に入れたんだよ?」
「ケイ、知らねぇのか? 沼ガメだ、沼ガメ。あれのドロップ報酬だ」
「沼ガメって、あのボスの……?」
「あー!? ケイさん、沼ガメの討伐アナウンスあったよね!」
「そういやあったな……。あんまり興味なかったから忘れてた……」
「おいおい、ケイは貢献度2位なのに興味なしなのか?」
「え? 2位なの、俺?」
ちょっと予想もしてなかった発言を聞いて慌てて群集クエストのランキング画面を開いてみる。少し見ない間にどうなったんだ?
群集クエスト《地図の作成・灰の群集》
『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』貢献度ランキング
踏破率 98%、特殊地形 0/1、ボス討伐 1/4
総合貢献度ランキング
1位 ベスタ 22P
2位 ケイ 8P
3位 カステラ 7P
4位 甘口辛子 6P
5位 ライル 5P
踏破率ランキング
1位 ベスタ 踏破率12%(12P)
2位 ケイ 踏破率8%(8P)
3位 カステラ 踏破率7%(7P)
4位 甘口辛子 踏破率6%(6P)
5位 ライル 踏破率5%(5P)
ボス討伐貢献度ランキング
1位 ベスタ 『沼ガメ』単独討伐 10P
なんか項目増えてるよ。ボス戦でも貢献度ランキングでポイント制で、それに合わせて踏破率の%がそのままポイントになってるんだな。これならボス討伐でもポイントがそれなりに加算されて行く訳だ。……単独討伐以外で何ポイントになるのかが知りたいとこだけどさ……。これならボス討伐の貢献度次第では順位ひっくり返る可能性も充分にある。ベスタはなんか別格過ぎる気もするけども。
俺もいつの間にやらなんか踏破率8%とか行ってるし。でもこんなに距離を稼いだ覚えは……大岩騒動と適応進化のランダムリスポーンかなぁ……? 思いっきり心当たりありますがな!
「ベスタ、すげぇな。1位確定じゃないのか?」
「ケイさんも充分に凄いけどね」
「まぁ今日はそれどころじゃなかったんだけどね!」
「そういや赤の群集からあんだけの情報をどうやって得たんだ?」
「それはちょっとね……」
「あれはなぁ……」
「すまん、ベスタ。教えたいとこではあるんだが、ある人物の名誉に関わるから黙秘にさせてくれ」
「まぁそれは良いが……名誉に関わるって、ほんと何があったんだ?」
非常に気になる理由は分かるんだが、アーサーが改心傾向にある以上は不用意に話さない方が良いだろう。それこそ下手すれば俺らのマナー違反になる。
「ともかくだ、あと埋まってないのはツチノコが侵入妨害してる特殊地形だけだ」
「なるほど、それでか」
「実際既にソロで挑んでみたんだが、ありゃ俺だとソロでは無理だ。互いに決め手に欠けてな」
「それならPT組めば良いんじゃねぇか?」
「それを検討してた時に、ケイがリベンジ戦をやらしてくれって言ってきたからな」
そういうタイミングだったのか。なるほど、色々と合点がいった。倒せるやつに心当たりがないっていうのはベスタ自身が倒しきれなかったからか。
「それなら、ベスタさんも一緒にPT組まない?」
「いや、今はやめとくさ。リベンジは当事者だけでやるもんだろ」
「お、ベスタさん、分かってるねー!」
「そっか。でもあのアイテムは……」
「まぁあれは餞別だとでも思ってくれや。あれでも駄目だって時は直接力も貸すぜ?」
どうやらベスタは俺たちのリベンジ戦の激励と、ほんの少しの手助けをしに来てくれたらしい。そういう事ならありがたく受け取らせて貰おう。
「ありがとよ、ベスタ!」
「別にこれくらい構いやしねぇよ。それと最後にアドバイスだ。魔法未取得は何人いる?」
「私!」
「私もかな」
「はい、私も」
未取得の女性陣3人が返事をする。ベスタのやつ、何をアドバイスしてくれる気なんだろうか?
「ハーレと、サヤと、ヨッシだったな? 3人とも物理って感じか。丁度いい、魔法に対抗する為のヒントをやる。『自己強化』と『魔力集中』は知ってるか」
「それって水月さんが教えてくれたヤツだ!」
「ポイントが足りなかったスキルだよね」
「私はそもそも『魔力制御Ⅰ』が取れてないね……」
「悪いが『魔力制御Ⅰ』だけはポイントで取ってくれ。後は感覚頼りにはなるがポイントなしでの取得方法はある。取得出来るかどうかは当人次第だがな」
水月さんはポイントでの取得方法しか知らないって言ってたけど、身近に取得方法を知ってる人が居たとは! でも感覚頼りってのはどういう事だろうか?
「言うのは簡単だが、やるのは難しいぞ。『魔力集中』を取得する為には魔法を自力で破壊しろ。『魔力制御Ⅰ』さえ取ってれば、斬撃だろうが、打撃だろうが手段は問わん。『魔力集中』を取得出来たら、それを全身に広げる感覚でやれば『自己強化』も取得出来る」
「確かにそれは感覚頼りだね……」
「難しそうだけど、やるだけやってみるよ!」
「私はまずポイントかぁ……」
魔法を破壊するか……。確かに漠然とした感覚頼りの取得方法だ。操作系スキルより取得難易度はかなり高そうだ。それでもポイントなしでの取得ができる可能性があるのはありがたい。
出来れば手本でも見せて……いや、それはベスタに甘えすぎか。ここまでの情報だけでもかなりの大盤振る舞いの筈だ。後は自分達で確かめればいい。
「なぁ、ベスタ。その破壊する魔法ってのはケイの水魔法や俺の樹木魔法でもいいのか?」
「おそらく問題はない筈だ。一応これは俺の秘匿情報だから他には漏らすなよ?」
「おう、分かった! ベスタ、色々とありがとよ!」
「なに、構わねぇさ。その代わり、ツチノコ退治終わったら氷狼討伐を手伝ってくれや! 流石にボス相手じゃ無駄に時間がかかって仕方ねぇ」
「そんぐらいお安い御用だ!」
「あと渡したヤツを誰が使うかはお前らの中で話し合って決めろよ! それじゃリベンジ戦、頑張れよ!」
そうしてベスタは立ち去っていった。期待と共に多くのものを託していってくれた。ならばそれには応えるしかあるまい! そしてツチノコの後は氷狼か。勝てないとは言わないのが流石ベスタだ。
「よっしゃ! ここまでしてもらったんだ、意地でも勝つぞ!」
「「「「おー!」」」」
とはいえそろそろ夜の11時も過ぎたので、本格的に強化していくのは明日からということになった。まぁリアルの生活もある訳だし、この辺りは仕方ないな。という事で、今日はここまででお終いだ。
ちなみに、ベスタから渡された『進化の軌跡・水の欠片』は俺が預かっておく事になった。誰が使うかも考えておかないといけないな。
◇ ◇ ◇
そしてログアウトして、いったんのいる場面へとやってくる。胴体部分には「コケのアニキに敬礼!」と書いてある。おい、舐めてんのか運営!
「いやーなんか、大変なのを処理してくれてありがとね〜」
「あーその胴体の文章はなんとかならないのか?」
「あ、これ僕自身じゃ変更不可能なんだ。君が何とかしてくれたイノシシ以外にも運営の人も対応に追われててね」
「そうなのか。そりゃ1人だけな訳ないか」
「今回の対処でビビって多少沈静化した人もいるんだけどね。それで少し楽になったみたい」
「運営も大変なんだなぁ……」
こういうゲームを運営する以上はマナー違反や不正利用問題はどうしても発生するのだろう。でも俺のした事ってイノシシをボコっただけなんだよなぁ……。その後再会した時には一応ちゃんと指摘もしたけども。
「運営としては特別扱いも出来ないから何も渡せないけど、お礼だけは言わせてくれって伝言は預かってるよ〜」
「まぁ一応どういたしましてって事で。あんまりそんな実感もないけど」
こんな事で運営から特別扱いされても困るしな。何もなくてそれでいい。運営自体が問題のあるプレイヤーを野放しにして放置しているのではなくちゃんと対処に動いてくれているのが分かった訳だしな。
「それじゃログアウトするから」
「はいよ〜。お疲れさま〜!」
完全にログアウトして、現実世界に戻ってくる。いつも通りに風呂に入って寝てしまおう。
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