第59話 相互協力の仕上げ
「お二人はお知り合いなのですか?」
「あークラスメイトだよ」
「まさかこのような場所で出会う事になるとは思わなかったがな。よくぞ来た、我が友であるケイよ」
あ、その口調でやるんだ。まぁゲームだしそういうのも良いだろう。人それぞれだしな。教室ではよく話すから一応は友達でいいのか? うん、なんか微妙なとこだけど、別に友達で良いか。他の奴ほど気を遣わなくて良い相手なのは間違いないし。
「え!? フラム兄、コケのアニキと同級生なのか!?」
「フラム兄……? そういえば水月さん、親戚の人に協力してもらったって言ってたっけ?」
サヤがアーサーの言葉に疑問を持ったのか、アーサーの身内である水月さんに尋ねていた。みんなを見渡してみると同じように疑問に思っているのか水月さんに注目していた。俺も確かに気になっている。
「まさかフラムとケイさんが同級生だとは思いませんでしたよ。フラムは私とアーサーの従兄弟に当たります。とは言っても年に数度、親戚が集まった時に顔を合わせる程度ですが。アーサーが妙にフラムに懐いてましてね」
「それでこのゲームが発売される少し前にそこのアーサーの気晴らしも兼ねてオンラインゲームで人間関係を学ばせたいって水月殿に頼まれてな。おおよその説明はしたと聞いたが?」
「あーうん、大体分かったわ」
つまり妙に懐かれてるフラムを経由して、水月さんがアーサーをゲームに誘う口実を作ったのだろう。それにしてもまさかこんな繋がりがあるとはなぁ。
「コケのアニキ! ほんとすみませんでした! フラム兄も水月も色々とごめん……」
「……とりあえずアニキ呼びはやめてくれ。なぁ、フラム、アーサーのこのアニキ呼びは一体何?」
「あー、全力で向かい合ってくれた相手がケイが初めてで、色々叱責もされて衝撃を受けたんだとよ」
事情を説明されて、バツが悪くなったのか再度アーサーが謝罪を繰り返す。フラムにも水月さんにも迷惑と心配をかけた事も自覚したのか。まぁこれなら大丈夫そうか?
それにしてもフラムの口調が素に戻ってるな。やるならちゃんと統一しろよ。それにしても叱責なんかしたっけな? 苛ついたから思った事そのままぶち撒けて、ボコった事しか覚えにないぞ? うーん、ちょっとボコり方もやり過ぎた気もするし、この呼び方だけならずっと一緒にプレイする訳でもないし許容範囲内か……? いや、でもなぁ……。まぁ少し様子見か。
「あーまぁいいや。おい、アーサー。反省したんならそこのフラムと水月さんの言う事はちゃんと聞くんだぞ? お前の為に色々してくれてんのを理解しろ」
「うっす! コケのアニキがそう言うのなら、努力します!」
「……そのコケのアニキってのはやめて欲しいんだけどな」
「良いじゃねぇか、コケのアニキ!」
「そうだよ、いいじゃない、コケのアニキもね!」
「ケイさんはコケのアニキだねー!」
「おいこら!? みんな絶対、楽しんでるだろ!?」
「諦めなよケイさん、いえコケのアニキ」
「ヨッシさんまで!?」
面白がってコケのアニキ呼びをみんなでするな! 流石にみんなに連呼されるとなんか掲示板で珍獣扱いされるよりも嫌だぞ!?
「ケイさん、色々とありがとうございます。まさかこんな形で反省してくれるとは思いませんでした」
「僕からも礼を言わせてもらう。アーサーの件は感謝する」
「おいフラム、礼くらい素の口調で喋ったらどうなんだ?」
「いやいや、これこそ僕の素の喋り方だとも」
嘘付け、さっきからちょいちょい素の喋り方出てるだろ。こいつのこういう所は地味に苦手なんだよな。まぁとりあえずこの件は色々気になる要素も残ってるけど一応は一件落着と考えて良さそうだ。
「さてと、話も纏まったみたいだし本題に移るか」
「そうだな。アルマースよ、頼む」
「そうだな、誰が殺る?」
「あ、その前になんだけど、フラムさんって何に進化するのかは決まってるの?」
「それがまだ悩み中なのだ。変わった進化を目指したいのだが、アルマースよ、同じ木としてアドバイスを貰えないか?」
「まだ悩んでたのかよ。それなら動けない方を選んでみるのはどうだ? 多分、移動種よりも選ぶ奴が少ないから珍しいと思うぞ」
「だが、それだと経験値に困るのではないか?」
「あー確かにその辺どうなってんだろうな?」
結構時間あったのにフラムの奴、まだ進化先決めてなかったのか。まぁ、アーサーの件でそれどころじゃなくなってたせいかもしれないけど。
動けない方といえばアルが言っていた動けない系統の植物の進化系だな。流石にオフライン版みたいな世界樹ルートはないだろうけど、こんな序盤から大々的に移動種と同じ数だけ進化先があるというのも気になるな。
よし、ここは是非ともフラムに情報源になってもらわねば。それになんか少しばかり嫌な予感もするし。
「経験値なら、他のプレイヤーから貰うっていうのはどうだ?」
「……ケイ、それはどういう事だ」
「水月さんは知ってると思うし、俺も知ってるけど、他の群集のプレイヤーを倒せば経験値は貰えるぞ?」
「確かにそうですね。経験値の量は黒の暴走種と同等かそれ以上だと思います」
「そうなの? そういやコケのアニキに倒された時に経験値減ってたっけ? 進化の時はそんなのなかったけどなー?」
進化の時は経験値は減らずに進化に進むが、進化でない時は経験値が減るという事か。こりゃ場合によったらPKも出てきそうだな。まぁ下手に他の群集で暴れれば袋叩きになるだろうから、そうなったとしても他のエリアが解放されてからだろうな。
「それは本当か? だとしても赤の群集エリアでそんな事をしたところで……」
「よーく考えろよ? 今の俺たちは何の目的でお互いに自分の群集エリアを離れた?」
「……はっ!? そうか、灰の群集のプレイヤーを相手に進化を報酬に経験値を貰えば良いんだな!」
「実際に来てみて分かったけど、ここまでは割と近いし迷いにくい。立地としてはかなり良いと思うぞ?」
「そうか。ならば考慮の余地もあるという事か」
よし、ここでもうひと押ししようじゃないか。というかこれをしておかないとマズいと俺の直感が言っている。
「それで、アーサーはフラムの手伝いな」
「えー、なんでだよコケのアニキ」
「ちょっと一緒にプレイしてオンラインゲームのマナーを学んどけ! ついでに色んな人とも話をちゃんとしてみろ」
「コケのアニキがそう言うなら……。ホントは着いていきたいんだけど……」
やっぱりか。そんな気はしてた。ただ思ったよりは素直に言う事を聞いたな。うん、ここはしっかりと身内で処理してもらおう。改善傾向が見えてきたとはいえ、この問題児の面倒を引き受けるなんてのはゴメンだ。フラムをここで移動不可にして縛り付けておいてやる。いやー助かった。相手が遠慮の要らないリアルの知り合いで。
「それは私もやりますよ。元々アーサーの事が目的ですし」
「よし、そういう事ならもし動けない方になるなら俺が灰の群集で宣伝しておこう。わざわざ毎回交渉ってのも面倒だろうからな」
よし、アルも俺の意図を察したのか乗ってきた。そりゃアルだってこのアーサーがPT入りは嫌なはずだ。それにこっちの利益優先ではあるけど、決して悪い話でもないはず。水月さんに至っては一番の目的と言ってもいい。
「皆がそう言うのなら、僕は動けない方に進化する事としよう。アルマース、今後は木の種族同士、情報交換は出来ないか?」
「あぁ、良いぜ。お互いの群集での秘密事項以外なら情報交換と行こうじゃねぇか」
「よし、ならばそれで決定だ。流石にずっとログイン出来る訳ではないから居る時のみに限るが、ログイン中は出来るだけ早く進化依頼を受けようではないか。希望者は群集外交流板で進化希望と言ってくれと宣伝しておいてくれないか?」
「それくらいならお安い御用だ。引き受けよう」
どうやら群集を越えた情報網がここに構築されたようだ。早速、フラムとアルがフレンド登録をしている。そして不動種による進化斡旋所が誕生した瞬間だった。
「……コケのアニキ、出来れば俺とフレンドに……」
「いや、駄目だ」
「……そんな。でも俺がした事ってそういう事なんだな……」
「そういう事だ。どうしてもと言うなら、明確な成果を見せろ。そしたら考えてやるよ」
「……ケイ、お前ってヤツは」
「つーことで、どうしてもって時はフラムを経由しろ」
とりあえずフラムには厄介事に巻き込んでくれた後始末だけはやってもらうぞ。元々そっちの身内の問題だしな。
「それじゃそろそろ進化開始でいいかな?」
「あぁ、お願いする」
「どうせだし、みんなで一斉攻撃でやるか!」
「あ、それはいい案かも」
「私も賛成だよ!」
「という事に決まったけど、フラム、覚悟は良いか?」
「あーもうやるなら好きにやれ! ただしこっちも反撃するからな!」
若干ストレス発散が混ざっている事に気付いたのか、フラムは半ばヤケになっていた。水月さんはお詫びと称してサヤの進化を手伝ったり、ここまでの道案内もしてくれた。進化で倒さなくてはならない状況でなければここで終わりでも良いんだけど、まぁどうせフラムは誰かに一方的に倒されるだけなのだ。ちょっとくらいストレス発散させてもらっても問題はないだろう。
フラムは根の操作を使い、根で襲いかかってくる。だが所詮は幼生体でたかが知れている。
<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 22/23 : 魔力値 40/44
<行動値4と消費して『水の操作Lv4』を発動します> 行動値 18/21
水魔法で作った水を操作し、1つの水球で邪魔な根を薙ぎ払う。威力が今までとは全然違い根は水の勢いに負け、吹き飛ばされ千切れていく。
「これでも食らえー! 『投擲』! 『投擲』! 『投擲』!」
アルにある巣によるダメージボーナスもあり、フラムの枝が投げられた石によってあっさりと吹き飛ばされていく。あっという間に枝も葉も全て無くなり、幹だけになっていた。それに続くのはヨッシさんだ。
「次は私か。『腐食毒生成』『斬針』!」
「うぉ!? やべぇ!? 『水分吸収』! って回復しねぇ!?」
新たに得たらしい『腐食毒』を針に纏わせて『斬針』により幹に切り込みを入れ、その断面から腐食していく。フラムの反応からするにどうやらHP回復阻害系の毒のようだ。刺すのではなく斬りつけたのは影響範囲を増やす為という事か。
枝も葉もなくなり、幹には毒を受けた切り傷。それでもまだHPがあるというのは流石に木は耐久力があるというものだ。まぁ確実にみんなわざと仕留めてないだけだろうけど。
「さて、次は俺だな。『リーフカッター』!」
「ちょ!? それって、桜の桜吹雪に似てないか!?」
オフライン版で似非風魔法と呼ばれた桜吹雪だが、オンライン版では正式に『樹木魔法』の1つとして同系統のものとして実装されたのだろう。舞っているのは桜の花弁ではなく蜜柑の葉だが。一撃一撃はそれ程強くもないが、攻撃回数も多く範囲も広め。これなら樹木魔法は広範囲攻撃として使えそうだ。そしてHPもそれ程は残っていない。
「それじゃ、最後は私だね! 『爪刃乱舞』!」
「お前ら容赦なさ過ぎだろ……!」
サヤの強力になった爪による連撃がフラムの幹を削っていく。一撃ずつもかなりの威力だが、それが舞う様な連撃によって次々とダメージを与えていく。途中でHPが無くなった気もするけど、それでも連撃は続くらしい。動く相手には当てにくそうな技だけど、木が相手なら絶好の技だろう。
全員が攻撃するために敢えてみんな仕留めずにいたが、サヤの爪がトドメとなる。幹へと突き刺さったサヤの爪により、ボロボロの木となったフラムはポリゴンとなって砕け散った。完全にオーバーキルだったような気もするけど、連撃は相手のHPが無くなっても最後まで続くんだな。
そしてそのすぐ横に生えている苗が急成長し、どんどんと大きな木へと成長していく。早送りの映像でも見ている様な光景を経て、フラムも進化を果たした。なるほど、木はこうやって進化するのか。アルのは見そびれてたもんな。
そういやLvが上がるかと思ったけど、上がらなかったな。Lvアップにはほんのちょっと経験値が足らない。あと1体でも何かを倒せば上がりそうだけど。
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