第58話 別エリアの敵


 目的地に向けて川沿いに下っている最中にそれは突然現れた。


「あ、逃げやがった!?」

「カニは経験値が結構良いんですよ! 逃がすのは勿体無いです!」

「マジか!? くっそ、逃してたまるか!」

「PTが違う私が戦いに混ざりますと邪魔になりますので、対処は皆さんでお願いします!」


 水月さんの情報によるとカニは、経験値が良いらしい。進化したてで少しステータス的には弱体化しているので是非ともそんな敵は倒しておきたい!


 本来なら水月さんも一緒のPTにしてしまいたい所だけど1PTの上限は6名だ。水月さんのみならPTに加入は出来るけど、その場合だと水月さんがPTメンバーとの連絡が出来なくなってしまう。あのイノシシのアーサーの件がなければフレンド相手に使える一対一の通話を使えば良かったんだけどな。でも今のよく分からない状態ではPTを抜けて迂闊に放置出来ないという事で水月さんはこういう形になった。


「まぁ幼生体の残滓だし、問題ない!」

「強くはないけど、動きが早いな、このカニ!?」

「わ、わ!? そっち行ったよ!?」

「アル、一旦『根下ろし』! この素早いカニ相手じゃ動ける意味はあんまない!」

「ちっ、そうだな。俺が根で捕まえる!」

「アル、捕獲は任せるぞ! ヨッシさんとハーレさんはカニの動きを制限して逃げ場を誘導! サヤは攻撃待機!」

「おう、任せとけ!」

「分かった!」

「了解!」

「みんな、任せたよ!」


 とまぁ、カニを相手に大騒動を繰り広げている。大きくも小さくもない川に居そうな普通のカニに見える。初めは奇襲を仕掛けてくるほど好戦的だったが、数で負けているのに気付いたのか途中で逃げ出した。動きが早くてなかなか仕留められていない。逃げ切られないように頑張ってはいるんだが、河原のほう砂利の上でコケが少ないというのも痛い。あ、やばい。川に向かって逃げ出した。

 逃さねぇぞ、カニ野郎! ここはあの手段で行こう。まずは下準備だ。


<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します>  行動値 22/23

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 21/23


 よし、これで河原にあったコケのない石に移れた。よし、次だ!


「サヤ! 河原の川の手前まで投げてくれ!」

「うん、わかった! 『投擲』!」


 サヤに石ごと投げてもらう。カニを川の中へと逃がせば追いかける事も難しいだろう。だから水際で食い止める! よし、狙った位置に移動完了! ここの川への道は、封鎖させてもらう!



<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します>  行動値 20/23

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 19/23

<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します>  行動値 18/23

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 17/23

<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します>  行動値 16/23

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 15/23


 核の位置を移動させながら増殖を使って俺の専用の戦場を作り出す。ふふふ、これで川へは逃さない。俺のコケエリアに踏み入れたら滑らせて、その後毒も食らわせてやるぞ。来るなら来いや!


 明らかに様子の変わった川岸の河原の様子に川への逃亡は諦めて別の方向へ逃げ出していく。ふふふ、そう簡単に逃げられると思うなよ。


「『同族統率』! カニの退路を塞いで!」

「そっちは駄目だよ! 『投擲』!」

「この、ちょこまかと! よし今だ、『根の操作』!」

「よし、いいぞ、アル!」

「よし捕まえた! って、こいつ根を切りやがった!? それならこれでどうだ!」


 ヨッシさんが幼生体のハチを3匹呼び出してカニを囲んで誘導し、それでも意図しない方向に行く場合はその方向へと河原の石を拾ってハーレさんが投げつけていく。

 そしてアルは根を下ろしてヨッシさんとハーレさんの二人がかりで逃げ場を制限したカニを逃げられないように根を動かす。初めは直接捕まえるつもりで細めの根でやっていたようだが、カニのハサミに切られた事で太い根に変えていた。進化したおかげか、以前よりも太い根も操作出来るようになったらしい。

 太い根に切り替えてからはカニのハサミでは切れないようで、カニを中心に円を描くようにグルグルと根を伸ばしていき、筒状になるように操作していく。これでもうカニの逃げ場はない。


「よし、サヤ任せた!」

「任せて!」


 仕留め役のサヤは爪を伸ばし、アルの根によって閉じ込められたカニに向かって歩いていく。そしてカニの元へと辿り着いた。


「経験値はありがたくもらうからね? 『爪撃』!」


 容赦のないそのサヤの一撃がカニの命を奪い去った。逃げ足こそ早かったけど、充分対処出来たな。まぁ折角進化したのに幼生体の残滓に苦戦してたら世話ないが。


「おし、レベルアップ!」

「私もだね!」

「同じく。このカニ、経験値は良いね」

「私もだよ!」

「あー俺は上がってないな」

「ケイだけは先に一戦やってるからな。そのせいだろ」

「そういやそうだな」


 イノシシことアーサーを一方的にボコった事でLv2も上がったからな。その分だけ経験値の貯まり具合に差があるのだろう。それでも1体で4人が一気にLv1上がるんだから大した経験値である。


「皆さん連携が凄いですね。赤の群集の人でもなかなかあのカニを倒せる人はいないのですけど」

「強さ的には大したことなかったが、問題はあの逃げ足か?」

「えぇ、そうです。初めのカニからの奇襲の段階で捕まえなければまず逃げられるんですよ。罠でも作れれば簡単に捕まえられるんでしょうけど、籠もなにもないですからね」


 そりゃ道具も何も無いからね。生身の身体と違って動物や植物の身体だから細かな作業は難しいし、リアル技術をそのまま持ち込んで作れる訳がない。材料くらいは植物でもなんとか加工すればいけるだろうけども……。あーこれはどうだろう?


「なぁアル、根の操作で籠編むとか出来ないか?」

「やり方次第じゃ出来そうな気もするが、籠の作り方とか知らねぇぞ? そもそも編んだ後、どうすんだ? 切り離したら多分消えるぞ?」

「そういやさっき切られた根は消えてたな……」

「俺が使う分には問題ないかもしれんが、面倒なだけだな。不動種になったならまだ考えたけど、移動種だからその辺は問題ないし」

「それもそうか。まぁ後で色々考えてみるかな」

「突飛なアイデア、期待しとくぜ」


 さて、期待に答えられるかはわからないけどなんか考えておこう。ツチノコのリベンジ戦も控えているし、動きを止める手段は欲しいとこだしな。あとあの火の対策も。


「それでは参りましょうか。こちらです」


 カニ狩りも終わった事だし、細かい事は後回しにしておこう。意外とカニ討伐に結構時間がかかっていたので、これ以上はあまり待たせないようにしないと。

 川から外れ、再び森の中へと入っていく。そこに少し拓けた場所があり、そこに植わる木と、イノシシが待ち構えていた。ようやく目的地に到着したということである。


「やぁやぁ、よく来てくれたね。アルマースとその友人達よ。僕はフラムと言う。今回はよろしく頼むよ」

「おう、よろしくな。ちょっと予定より遅くなって悪い」

「いや、こちらこそ迷惑をかけたようで済まない。アーサー、謝罪を」

「言われなくても分かってるって!」


 木の人に促されながら、こちらへイノシシのアーサーが歩み寄ってくる。そして前足を折り、頭を下げていく。


「コケのアニキ、それに皆さん、無自覚とはいえ無礼な言動をしてすみませんでした!」

「……おい、なんかコケのアニキとか呼ばれてるぞ?」

「なんでアニキだよ……。まぁいいや、とりあえず自覚したならマナー違反は気を付けろよ。それとPTメンバーのフラムの言う事も……。え、フラム……?」

「ん? どうしたの、ケイ?」

「……ケイ……だと……!?」


 このゲームは同名使用は出来なかった筈だ。だから、リアルのあいつが言ったフラムという名を持つプレイヤーはただ一人。クラスメイトの佐山慎也、その人という事になる。そういや赤の群集だって言ってたな。思ったより早くの遭遇になった訳だ。


「あー、なるほど。お前、変な喋り方して何やってんの、フラム?」

「やっぱりかー!? てか話題のコケってお前かよ!?」

「そりゃこっちの台詞だよ。PTメンバーとちゃんと意思疎通しとけよ。色々迷惑したぞ、こっちは」

「いや、それはマジで悪かった……」


 リアル知り合いとのゲーム内での遭遇は色々と変わった状況のものであった。いや、慎也が言ってたフレンド2人が水月さんとアーサーだとは思わなかったな。イノシシもなんか俺の事をコケのアニキとか呼びだしてなんか妙にややこしい感じになってるし、明日リアルで責め立てるかな。よし、そうしよう。

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