第3章 初期エリアの外へ

第57話 赤の群集の森林エリア


 一通りこちら側の進化も終わり、合流もした。次は水月さんのPTの方の木の人の進化の為に赤の群集の森林エリアに行く番だ。という事で現在、エリア切り替え場所まで移動中。


 そろそろ灰の群集の森林深部エリアと赤の群集の森林エリアの境界に近付いてきた。深部の方は割と険しいので進化したてで、大きめでまだ移動速度の遅いアルの移動に案外手間取ってしまっていた。


「この移動、結構面倒だな」

「アル、こういうのは慣れだよ、慣れ! コツさえ掴めば楽勝だって」

「コケの特殊な移動方法に即日で馴染んだ奴の言う事は違うな!」

「そういえばケイさんはどのように移動しているんですか? 見ていてもよく分からないのですが」

「簡単に言えば、視界内にあるコケへの瞬間移動」

「……それはなかなか難易度の高そうな事ですね」

「そうか?」


 こんなもんちょっとやれば誰でも出来そうな気もするけどな。実際にすぐに慣れたし。


「ケイって、やる事無茶苦茶だし、発想もなんか変だけど、地味にプレイヤースキル高いよね」

「あ、それは私も思ってた。難しそうな事もあっさりやってるもんね」

「だよねー。あの移動方法だと私は方向分からなくなって迷子になる自信があるよ! とんでもない事してこそのケイさんだ!」

「あのー褒めるのか貶すのかどっちかにしてくれない?」


 色々言われてるけど、みんなも結構プレイヤースキル高い方だと思うけどな。何だかんだでみんなもPTとしての役割はきちんとこなせているし。移動出来ていなかったアルの戦闘はあまり見ていないけど、フクロウ戦や熟練度上げの時、そして何よりあの大岩をサヤと一緒に止めた時の動きを見た感じではかなり腕は良いと見た。


「まぁケイのプレイヤースキルは置いといてだ。水月さん、森林エリアってどんな感じだ?」

「えっとですね、こちらよりは険しくはないですし、基本的に平地になっています。川も川幅が広くなっていますね。川魚のプレイヤーもいますよ?」

「お、川魚のプレイヤーがいるのか! って事は黒の暴走種の魚もいるのか!?」

「えぇ、居ますよ。ケイさんは川魚にご興味が?」

「あ、いやコケってかなり死ににくくてさ。数少ない確実に死ねる手段が魚に食われる事なもんで」


 ちょっと前なら水の補給もあったんだけどな。水魔法で水を作れるようになったし、アイテムとしての水は出番も減るだろう。そういや後で魔法産の水とアイテムの水の違いも検証しておこう。もし、アイテムの方が良い点があれば勿体無いし。


「そういやケイさん、魚の捕獲もしてたよね?」

「あーあれな。あれって黒の暴走種が相手でも通じたらいいけど」

「魚の黒の暴走種でしたら、陸地に上げても普通に攻撃してきますので注意していた方が良いですよ?」

「というか、ケイ、どうやって魚を捕るんだよ? サヤがやる分には納得出来るけどさ」

「それは私も気になるね」

「ケイさん、後で実演してみせてよ!」

「おーいいぞ!」

「私達のPTの木は割と川の近くですのでちょうどいいかもしれませんね」

「お、やったね!」


 ただし『一発芸・滑り』を使っての高速乱獲はなしだけどな。あれは封印だ。もう二度とやらん! 『一発芸・滑り』は急ぐ時の移動用と決めたんだ。もうデメリットで行動不能はごめんだしな。


 そんな風に雑談しながら移動しているとやがてエリア境界へと辿り着いた。俺とヨッシさんはちょっとだけ覗き見た事はあるけど、先には殆ど進んでいなかったので詳しくは知らない。アル、サヤ、ハーレさんは全く足を踏み入れてさえいないだろう。

 ハーレさんだけは元々は灰の群集の森林エリアにいたので、似たような雰囲気を感じるかもしれないけども。


「そういや、赤の群集エリアで死んだらどうなるんだ?」

「それはですね、リスポーン位置を設定していてそちらを選べばそちらでリスポーンします。ですがランダムリスポーンになりますと、死んだエリアでランダムリスポーンする事になるそうです」

「へぇ、そうなんだ」

「アーサーが昨日、そのように申しておりました」

「げっ、あの件か……」

「あー水月さんには説明しとくか」

「……どういう事でしょうか?」


 最早イノシシ本人に謝る気は欠片もなかったけれど、水月さんには昨日の出来事の事実関係を説明しておいた。ただし、流石に操作系の取得条件に関する情報は内緒。イノシシの注意不足の割合が大きいとはいえ、こちらにも非はあったのでなんらかの形で決着はつけておきたかった。


「なるほど、そういう事ですか」

「あれに関してはこっちのミスだったから……」

「いえ、やはりアーサーの周囲の観察不足が原因でしょう。ハーレさんが戦闘中だったらどうするつもりだったのやら……。それに声をかける前に周囲を確認していれば気付けた筈ですから、お気になさらずに」

「そっか。それならそういう事で決着という事で」

「はい、それで構いません」


「話はもういいかな!?」


 ハーレさんがわくわくした様子で俺と水月さんの会話が終わるのを待っていた。赤の群集エリアへの遠征が楽しみなのだろう。俺も正直楽しみだ。新エリアってわくわくするもんな!


「よし、それじゃ赤の群集エリアに乗り込むぞ!」

「「「「おー!」」」」

「皆さん、本当に仲がよろしいですね」


 まだ知り合って数日なんだけどね。それでも随分仲良くなったものだと自分でも思う。それはともかく、今は赤の群集エリアに向かってレッツゴー!


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『始まりの森林・赤の群集エリア1』に移動しました>


 この表示が出たという事は、赤の群集エリアに入ったぜ! でも切り替え部分なのでそれほど景色に変化はない。一度見てはいるけど、少し拍子抜けだ。ちょっとマップを開いてみたけど当たり前だけど全く埋まっていない。


「少し進めば景色も変わってきますよ。あ、ちょっとすみません。PTの方から連絡があったので少し失礼しますね」

「了解だよ!」


 ハーレさんが元気よく返事を返してきた。おそらくはエリア切り替えになったので合流が近い事に気付いての連絡だろう。同じエリアならPTメンバーは表示されているだろうしな。


「私のPTメンバーから赤の群集エリアに入った事を確認したと連絡がきました。アーサーも不気味なくらい大人しく待っているそうです」

「不気味なくらい大人しいって……」

「やっぱりリスポーンで戻ってたか」


 元々、その可能性は予測していたからな。だけど大人しく待っているというのは予想外だけど。


 まぁそんな事は思考の隅に追いやって、とりあえず今は先に進むことを考えよう。アルの移動速度に合わせてのんびりと行こう。


「お、『根脚移動』のLvが上がったぞ!」

「お、マジか!」


 Lvが上がった事で少しではあるが明確に移動速度は上がっていた。これで少し早く進めるようになるな。

 移動速度が少し上がり、しばらく進んで行くうちに森の雰囲気が変わってくる。深部ほど鬱蒼とはしておらず、木漏れ日も心地よい。下草も多く生えており、深部とはまた違った雰囲気の森である。

 

 このゲームは人間がいないという設定なので人が通る為の道などは整備されていないが、獣道などは普通に存在しているし、ゲーム的にも移動しやすいルートというのも設定されている。

 深部でも一応通りやすい場所はあったし、普通にみんなはそこを通ってはいた。だけど、ここは更に通りやすくなっている様だ。


 まぁ俺は地形ではなくコケの有無の方が重要なのであんまり問題はない。下草が多い分コケは深部よりは少ない気もするけど、移動に支障が出る範囲ではない。いざとなれば増殖を使って自前で調達すれば良いや。


 時折、一般生物と遭遇するがハーレさんの投擲とヨッシさんのハチたちによって即座に処理される。進化した事でハーレさんの火力不足はかなり改善したようだ。ヨッシさんは一体ずつは強くはないが手数が凄いことになっている。ちなみにハーレさんはアルに作った巣が定位置となっていた。投擲のボーナスダメージが結構大きいらしい。


 そんな風に水月さんの案内で進んでいくと大きな岩や小さな石が大量にある河原と川が見えてきた。いつも使ってる川の下流に当たる場所だろう。川全体の現在地としては中流から上流の間くらいか。全体像が分からんから断言は出来ないけど。

 渓流と言えるようないつもの小川と違い、ここは水量も多く砂利の河原もある。リアルならこういうところでバーベキューとかも良さそうだ。


「あ! 川が見えてきたね! 河原だね! 石もゴロゴロ転がってるね! ちょっと投擲用の石を確保してくるねー!」

「あ、ハーレ! ここ、赤の群集のエリアなんだから単独行動は駄目!」


 ハーレさんはそう言い残し、素早く駆けて行った。慌ててヨッシさんも追いかけていく。まぁ単独行動は良くないけど見える範囲だし、即死でない限り問題はないし、そもそもリスポーン位置は移動中のアルである。……まぁ、気を付けるべきなのは俺とサヤとアルだな。俺らは死ねば、灰の群集の森林深部エリアに戻るか、赤の群集の森林エリアでランダムリスポーンになってしまう。


「この川沿いに少し下っていったところから森に入って少し行った所が目的地になりますね」


 河原で石を拾っているハーレさんを見ながら、水月さんが目的地が近いことを告げた。もう少しで到着か。よっしゃ、相互協力だししっかりと倒してやるぜ!


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