第55話 所属は違っても
とりあえずイノシシのアーサーの状況がよく分からなくなったけど、ひとまずそれは置いておこう。あっちの木の人にリスポーン設定して既にリスポーンしているらしいので嫌でもこのまま進めば会うことにはなる。
「ケイさん、すみません。まさかこんな事になるとは思いませんで……」
「水月さんのせいじゃないんで気にしないで良いよ」
「いえ、アーサーは私の実の弟ですし、最近の荒れ具合を知っていながらこのゲームへ誘ったのも私なので……」
「え、そうなの?」
「……水月さん、何でそんな事をしたんですか?」
「身内だと舐められて手がつけられなかったのです。なのでゲームの中でならリアルの環境から離れて、色んな人と協力し合うことで人付き合いを学んでもらえたらと。それでアーサーがかなり懐いていた親戚の人に協力してもらってゲームを買い与えたのですが……」
水月さんはリアルで環境の変化に戸惑って荒れている弟を、オンラインゲームを通して対話しつつ改善を図ろうとした訳だ。だけどそれだけじゃマナーの悪いプレイヤーが誕生するよ。
あの感じだとそもそもオンラインゲームはした事なさそうだったし、教えてあげられるプレイヤーがいるか、自発的に調べるタイプでないとマナー違反自体は誰でも起こる可能性はある。元々が駄目ならゲームだけで良くなるはずがない。ネット弁慶というのも居ない訳ではないが、それとはまた違いそうだし。
「私自身がオンラインゲームは初めてだったというのも問題があったのでしょうね」
「え、それだけ動けるのにオンラインゲーム初めてなんだ!?」
「えぇ、もう一人のPTメンバーの方に色々教わりましたので」
「そいつの方は止めなかったのか?」
「……年に数回会うかどうかなので、弟の実情をあまり正確に伝えきれていなかったのです。特に荒れるようになったのも最近の話でしたし……。そういう面でも迷惑をかけてしまっていて……」
年に数回会うだけでは、懐いてきている親戚の子の比較的最近始まった問題は流石に正確には把握しきれないか。多分、軽い気持ちで引き受けたんだろうな。ちょっと同情するぞ。
「こういうの聞くのもどうかと思うんだけど、弟さんっていくつ?」
「今年、中学に上がったばかりです。近所の子も弟には頭が上がらない子ばかりで……」
「要するにリアルでガキ大将やってて好き勝手やってた奴が進学では挫折食らって荒れてたとこを、ケイがゲーム内とはいえ格の違いを見せつけて全力でボコった訳か」
「ちょ!? アルさん、言い方!?」
「まぁアルの言う通りだけど、別に水月さんの許可もあったし問題ないって。そういう奴の鼻は折っておくべき!」
「ケイさんも遠慮がないね!? この場合は容赦がないなのかな!?」
ヨッシさんは慌てているけど、マナー違反は大嫌いだ。リアル年齢なんてオンラインゲームで配慮する必要もない。マナー違反の方がよっぽど問題だし、運営から警告を受けるのは相当やり過ぎている。まぁ多少は大人気なかったって気もしない訳でもないけど。
それにしても反抗期の真っ只中なら身内の言う事なんか聞かないだろうけど、ゲームで全力でボロ負けして、逆ギレする事はなく少しは自分を見つめ直す気にでもなったのか? まぁ中学校に上がったばかりだと、それまでのガキ大将っぷりが通用しなくなってたのかもな。俺に負けて少しでも反省する気になったならそれでもいいか。逆ギレして煽ってくるやつよりはまだマシ。
「これ以上迷惑をかけるような事になりそうであれば、強制的にでもゲームを辞めさせます。本当にご迷惑をおかけしてすみません!」
「まぁその辺は水月さんに任せるよ。というかそもそも俺らがどうこう言う話でもないし」
この状況に至るまでの経緯は色々とわかったけれど、かといって俺らが出来る事も特に無いだろう。まぁ謝罪したいという事は多少は自分の問題行動の自覚が出てきたという事でもあるから、ある意味では水月さんの目論見は完全に失敗とは言えないかもしれない。
「そろそろリアルの話は置いといて、ゲームの話しよ!」
「すみません、ありがとうございます」
これ以上は意味がないと判断したのか、ハーレさんが話題を変える。ちょっと自由奔放なところがあるハーレさんだけど、空気は読めるんだよな。その心遣いに水月さんは申し訳なさそうにしていた。
まぁいつまでもイノシシの話ってのも俺が嫌なので話題転換には賛成だ。っていう事で、気になっている事を。
「なぁ、サヤって『長爪グマ』ってのに進化したんだよな? その割には爪短くないか?」
「あ、これはね。ほら、こうやってやるとーー」
おっ、一気に爪が伸びた! 確かに大きめのナイフくらいの長さと鋭さがありそうな爪だ。これはかなりの攻撃力アップが期待出来そうだ。
「で、こうやると元に戻るんだよ」
「なるほど、伸縮自在って事なのか」
「まぁね。普通にしてたらあの爪って邪魔だもん」
「そりゃそうだ。ヨッシさんはどうだ?」
「私? ふっふっふ、それじゃケイさんの要望にお答えして新スキルをお披露目しようかな! 『同族統率』!」
「うわっ!? ハチが出てきた!?」
ヨッシさんがスキルを発動したら、アルに作られた巣からハチが3匹程出てきた。識別してみると『ヨッシ統率のハチ』で幼生体となっている。流石は『女王バチ』という事か。一体ずつはさほど強くはなさそうだけど、これはこれで使い道はありそうだ。
「これね、アルさんに指揮権を移せるんだ。巣を作った事による効果みたい」
「あ、あれか。『住処の護り:ハチ』ってやつの効果?」
「その通りだな。指揮権委譲はヨッシさんの任意に決定出来て、ヨッシさんがログアウト中なら俺に自動で指揮権が来るらしいぞ」
「そりゃいいな。アルの戦法が幅広くなる訳だ」
「とはいっても、指揮って『突撃』とか『防衛』とか大雑把なものだけどね」
「まぁそんなとこか」
それでも有るのと無いのとでは全然違ってくるけどな。この辺も要検証だな。色々可能性がありそうだ。
「って事はハーレさんも似たような感じか?」
「それが全然違ったんだよ! 私が巣にいる間の投擲攻撃にボーナスダメージが付くんだ!」
「ほう? そうきたか」
「ログアウト中には、アルさんの蜜柑を定期的に採集と保管だってさ! 採集したのはログインした際に私とアルさんに半々でインベントリ行きだって!」
「お、そりゃいいな。種族毎に特性がある訳だ」
「俺の蜜柑はログイン中なら自分で根の操作で採集出来るんだが、ログアウト中に採り貯めておけるのはありがたいわ」
「なんか他のプレイヤーに巣を作られる事が前提の仕様になってないか?」
「オンラインゲームだしな。ソロでも出来ないって事はないだろうけど、PT向けの仕様もそりゃあるだろうよ」
「よく考えなくても当たり前な話か」
オフラインで1人プレイのみのゲームの仕様と、オンラインで多くの人が同時にプレイするゲームの仕様が同じ訳もない。ベスタみたいなソロの人もいるだろうけど、基本的には複数人でプレイする事を前提にした作りだろう。
「そういうケイは少し青色がかったよね? まぁ基本的にコケだけど」
「あー水属性付いたしな。土属性もか」
「「「……属性?」」」
「あ、これか。って俺が樹属性って当たり前だろうが!?」
「……ん? あれ、何この雰囲気?」
アルが樹属性ってのは当たり前というか、むしろそれ以外の何があるって話なんだが、女性陣はなんだか不思議そうな雰囲気をしている。
「……もしかしてサヤ、ヨッシさん、ハーレさんには属性って出てない? ステータス画面の進化階位の下のとこなんだけど」
「……属性はないかな。特性ってのはあるけど」
「あ、私も特性だ」
「私も属性じゃなくて特性だね!」
「特性は俺もあるけど、皆には属性はないのか」
ちなみに俺の特性は『複合適応』だな。水の中でも地上でも両方に適応しているという事なのだろう。それにしてもアル以外のみんなには属性はないのか。種族によってこの辺のステータス画面は違いがあるんだな。やっぱり地味に細かい作りしている。
「で、誰がどんな特性? ちなみに俺は複合適応」
「あー俺は、移動だとよ」
「私は斬撃と強靭かな」
「私は刺突と統率だね」
「私は投擲と採集!」
なるほど、進化後の種族名に関わる特徴が特性として現れているってことか。誰が何を出来るのかは特性を見るのが分かりやすそうだ。識別のLvが上がったりしたら見えたりするかな?
「……皆さん当たり前の様に話していますが、これって私が聞いていても宜しいのでしょうか?」
「……あ」
「しまった、またやらかした!」
「もう水月さん相手なら良いんじゃないかって気がしてるよ!」
「確かにハーレの言う通りかもね」
「そうだよね。折角だしフレンド登録しない?」
「……良いのですか? あれだけ迷惑をお掛けしましたのに……」
「気にしなくていいよ! あれは本人が悪いだけ! ケイさんが叩き潰したし、謝りたいって反省の色が見えてるなら何とかなるよ!」
文字通り、水で叩いて岩を使って潰したしな。うん、ほんと文字通り叩き潰してた。いやー改めて考えると流石にプレイヤー相手にあのやり方はやり過ぎたかな? 大岩で転がっていた時も結構なスリルだったしな。顔面から岩に激突か、想像するだけでぞっとする。うん、苛立ってたとはいえ、やっぱりあれはやり過ぎた。
「本当に何と言ったらいいのでしょうか……。皆さんありがとうございます!」
「水月さん、群集は違いますけどクマ仲間として仲良くしましょう!」
「はい!」
サヤのその一言がトドメになったのか、水月さんとのフレンド登録会が始まった。群集が違ってもフレンド登録は問題ないようである。
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