第54話 進化で得た力


「ケイ、水月さんからの返答だ。『仕留めてくれて構わない』ってよ。PTの会話越しに相当荒れた声が聞こえてたみたいで、水月さんも怒ってる感じだ」

「そっか、なら遠慮なく仕留めさせて貰うよ。いい加減苛つくし」


 許可も出たし、もういい加減我慢の限界だ。俺だって他人に迷惑をかけることはあるけど、それでもやり過ぎたら謝るし、反省だってする。無自覚で迷惑を振りまくだけのこいつなんかはここらで退場しろ。


「あぁ!? やんのか、このコケ!」

「いい加減、その身勝手さには腹が立ってたんだ。ここで送り返してやるよ」

「ふざけんじゃねぇぞ、ただの色物種族野郎が!」


 ただ身勝手な怒りに任せてイノシシが突っ込んでくる。そんな単調な突撃が通じるとでも思ってるのか? というかコケが雑魚だとでも見下してるのか、こいつ。


<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します>  行動値 20/21


 イノシシの進行方向の前にあるコケを群体化する。進化したけども、一度失った地上適正を取り戻した事で幼生体の頃と同じように扱えている。いや、以前より反応速度も上がってるな。これが進化した力か。


<行動値を2消費して『スリップLv2』を発動します>  行動値 18/21


「ぐはっ!? くそ、何しやがった!?」


 群体化したコケの上に突っ込んだイノシシを盛大に滑らせてやった。思いっきり滑ってそこらの岩場に顔面から衝突していた。コケだからって舐めてかかるからそういう目に合うんだよ! とりあえず、スリップもLv2なら成長体にも有効か。


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 17/21 : 魔力値 36/40


 せっかくなので今までの水と何が違うのか試す為に『水魔法』で魔力から水を生成する。まさか進化後の初戦が対人戦とは思わなかったけど、遠慮なくやろう。


<行動値4を消費して『水の操作Lv4』を発動します>  行動値 13/21


「……なんで水が出てくるんだよ!? お前、一体何をやってんだ!?」

「誰が教えるかってんだ。情報の重要さをちょっとは考えろ!」


 必要な事は言わず、必要のない事ばかりする奴に教えるような情報はない! そもそも対人戦で戦法ベラベラ喋る訳ないだろうが!

 そして水魔法で作った水を操作する。自分で作った水だからか支配指定は必要なかった。そして明らかに今までの水とは操作感が違う。圧倒的にスムーズに動かせて動きも早い。分裂数は今までと変わらず2つまでだけどそれで充分だ。


 2つの水球を操作し、今までよりも早い速度で何度も何度もイノシシの身体に打ち付ける。このイノシシは成長体にこそ進化しているが行動が単調過ぎてプレイヤースキルが欠片もなっちゃいない。この程度の水球ならサヤは簡単に打ち落とすし、ヨッシさんには簡単に避けられるぞ。これ、水魔法のおかげか、進化の影響か、確実に威力が上がっている。両方の影響かもしれないな。


 流石に成長体のイノシシなだけにそれなりに丈夫ではあるけど、ただそれだけだな。水魔法がただの水の操作よりも強力だから充分ダメージが通る。イノシシのほうは、ただ闇雲に走り回るだけで何も出来ていない。何度も何度も水球で打ち付ける。


「くそっ! ふざけんな! なんでこんなに一方的なんだよ!?」

「そのくらい自分で考えろ!」

 

 劣勢の理由すら自分で考えようともしない。イノシシなら走り回って地面のコケを乱しまくるくらいしてみやがれ。そろそろ水の操作が厳しくなってきた。魔法で作った水のほうが操作時間も長かったけどな。とにかく一旦解除しよう。

 もうこれ以上、こんな弱い者イジメみたいな事はやってられない。次の一連の攻撃で終わりにしよう。


<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します>  行動値 12/21

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 11/21


「なっ!? 何処行きやがった!?」


 いつかの残滓のカブトムシを仕留めた時のようにイノシシの真下に移動する。ふん、同じ成長体なのにツチノコにも氷狼にも遠く及ばない雑魚め。


<行動値1を消費して『毒生成Lv1』を発動します>  行動値 10/21


「がっ!? くそ、毒もあるのかよ!!」


<行動値1と魔力値4消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 9/21 : 魔力値 33/40

<行動値4を消費して『水の操作Lv4』を発動します>  行動値 5/21


 毒は耐性がなければ受けるかどうかは単に確率の問題だけど、あっさりと通った。水魔法で作った水での攻撃では魔力値は回復しないけど、毒生成でのダメージで魔力値は1回復している。これは行動値と相談しながら合間に毒やスリップも混ぜながら運用するのがいいのか。

 再度水を用意し、イノシシの足元へと水を集中させる。逃げようとはしているけど動きが単調すぎる。そんなので回避できるとでも思ってんのか。ともかくこれでイノシシを空中に打ち上げてやる!


「んな!? なんじゃこりゃ!?」


 俺の水によって打ち上げられたイノシシは困惑しつつも叫んでいた。打ち上げるのに使った水を上空へと移動させ、角度を調整する。狙うのは崖下の岩場部分だ。これで終わりだ。死にさらせ、身勝手なイノシシめ。

 現在最高速で打ち出した水の塊でイノシシを岩場に吹き飛ばす。イノシシの顔面は岩にぶつかり潰れていて、もうほぼHPは残っていない。


「……お前、なんなんだよ……」

「ただのコケだっての。お前、マナー違反も大概にしろよ。こっちにだって我慢の限界ってもんがあるんだ」

「……ははっ、こういう事なのか? いつか誰かをブチ切れさせるから態度を直せって言ってたのは……」


 それだけ言い残してイノシシは毒のダメージを受け、僅かに残っていたHPも無くなり息絶えてポリゴンとなり砕け散った。おそらくリスポーン位置に戻ったのだろう。水月さんは散々忠告していたんだろうな。いつか誰かを本気で怒らせるって。どうせ馬の耳に念仏だったんだろうけど。

 俺は楽しんでゲームをやりたいだけなんだ。マナーの悪いやつは嫌いだっての!


<ケイがLv3に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


 あ、Lvも上がったか。まぁ弱い者イジメみたいでスッキリしない展開だったけど、鬱憤晴らしにはなったかな。あと少しだけど水魔法の検証は出来た。


「あー、アル。イノシシ狩り終わったぞー」

「意外と早かったな?」

「あいつプレイヤースキルも何もなかったぞ?」

「よくそれで今の段階で進化出来てたね? え、あ、そういう事ですか」

「あーなるほど! 納得といえば納得かな。あの性格ならやりそうな事だしね」

「……ん? どういう事?」


 おそらくは水月さんが話しているんだろうけどPTではないから会話がわからない。


「PTプレイしてた時は指示聞かずにほぼ寄生プレイで、ソロの時には周りからの苦情から推察になるけど、弱った敵のトドメばっかり横取りする横殴りの常習犯だったそうだ。運営からも警告来てたのも無視して、水月さんがゲームを取り上げようか検討してたとこらしい」

「……マナー違反の塊だな」

「というか、さっきログアウトした時にゲーム機を一時的に取り上げてたらしいんだが……」

「……ネカフェか何処かにでも行ってログインしてきたのかもね」

「そこまでやるか、普通……」


 本当に自分勝手の塊みたいな奴だったって事か。まぁ運営からも警告されてて身内の水月さんも対応を考えてるなら、俺らが関わる事でもないな。というか関わってくれって言われても断ります。

 さて変なのも送り返したし、アルたちと合流して赤の群集の森林エリアに向かおう! あ、そういやまたあのイノシシいるかも知れないけど、次に遭遇したら即座に逃げよう。雑魚だったからあっさり倒せるけど、あれは俺の楽しみ方とは全然違う。PKは否定しないけど、あんまり個人的には好きじゃないんだよな、PKって。


 とにかく合流だ! 一発芸・滑りを再登録して時間短縮で行くぞ!


『一発芸・滑り』

登録内容:『群体化Lv2』・『群体内移動Lv2』・『群体化解除Lv2』・『群体化Lv2』・『群体内移動Lv2』・『群体化解除Lv2』・『群体化Lv2』・『群体内移動Lv2』・『群体化解除Lv2』・『群体化Lv1』・『群体内移動Lv1』・『群体化解除Lv1』


 行動値の上限も増えたから効率も上がった。急斜面でもお構いなしでショートカットしていたら蜜柑っぽいものが生ってる木が見えてきた。移動速度はあまり早くはないが、確実に動いている。もう少し近寄れば、クマが2匹にハチとリスの姿も見える。間違いなくあれはアルだな。よし、灰の群集エリア内でなんとか追い付いた!


「おーい、みんな!」

「あ、追いついてきたんだな、ケイ」


 そして何故か水月さんがこっちに向かって走ってきた。あれ? どうかしたのだろうか?


「ケイさん! 一体アーサーに何をしたんですか!?」

「えぇ……。仕留めていいって聞いたから全力でブチのめしただけだけど、やっぱり不味かった……?」

「いえ、それは何も問題はないのですが……実は、その……」

「……一体何が……?」

「……リスポーンした後に無言でログアウトしたかと思ったら、しばらくして再ログインして戻ってきたのですが、何故か皆さんに素直に謝りたいと申してまして……。私としても何が何やら……」

「……はいっ!?」


 水月さんも非常に戸惑っている様子。だけども俺はもっと戸惑っている。ついさっきまであの調子だった奴が謝りたいとかどういう事だ? あーどっか打ち所が悪かったのかな? ってゲームなんだしそれは無いか。……何がどうしてそうなった!?




【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:水陸コケ

 所属:灰の群集


 レベル 1 → 3

 進化階位:成長体・複合適応種

 属性:水、土

 特性:複合適応


 群体数 1/1000 → 359/1400

 魔力値 33/40 → 33/44

 行動値 5/21 → 5/23


 攻撃 7 → 11

 防御 15 → 19

 俊敏 6 → 10

 知識 15 → 21

 器用 15 → 21

 魔力 20 → 28

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