第46話 進化まであと少し


 行動値が回復しなくて何もできないので、ヨッシさんと適当に雑談しつつ時間を潰す。


「そういやLv10になったなら、リスポーン位置の任意設定スキルは取得出来た?」

「あー、それっぽいスキルは取得したぞ。『群体分離』だってさ」

「へぇー。やっぱり種族毎にスキル名が全然違うんだ」

「まぁ、コケが巣作りしてもなぁ……」

「そうだね……。ハチが分裂するようなものでもあるんだ……」


 ちょっと想像してみたけども、バラバラに分裂するハチも、巣を作るコケもなんか嫌だ。っていうか、コケの場合は巣の材料にされてる気がするわ!


「まぁ行動値が回復しない事には何にも出来ないからなー」

「あはは……。そういや『一発芸・滑り』ってどうやったら取れるの? という何をしたら取れたの?」

「さぁ? いまいち条件がよく分からないんだよ。なんとなく類似スキルもありそうな気はするんだけどな」

「確かに名前的に何かありそう」

「みんな揃って、進化終わってから色々と試してみるか」

「それもいいかもね」


 そうやって話しているうちにすぐ近くにサヤがログインしてきた。何やら眩しそうに手で日光を遮っている。あれは俺と同じ事やったな? オフライン版には『夜目』なんてスキルはなくて自動調整だったから、この仕様はまだ慣れないな。夜の見えやすさは『夜目』があるオンラインの方が遥かに良いけどさ。


「おーい、サヤ! 『夜目』を切ればいいぞ」

「そっか。なんで眩しいのかと思ったら、スキルのせいなんだね」

「……ケイさんも切り忘れてたりした?」

「……あっさりバレるなぁ」

「そりゃすぐに理由が分かってたならね。というか私もやっちゃったし」


 すぐにヨッシさんにバレたのはヨッシさん自身も同じ事をしたかららしい。こりゃ同じような事があちこちで起きてそうだな。オンライン版での初仕様で、今日が初めての夜の日から昼の日への切り替えだしな。

 サヤも『夜目』をオフにしたのか、眩しそうな様子はなくなった。


「ケイもヨッシももうログインしてたんだね? 早いなー」

「俺ん家、通ってる高校のすぐ側だから予定がなければ帰るの早いんだよ」

「私は自転車通学で遠くもないけど近くもないってとこ。サヤは電車通学だったよね?」

「うん、そうだよ。だからどうしてもヨッシよりは家に帰るの遅くなっちゃうんだよね。ところでなんで何もせずにぼんやりしてるの? というか、なんでケイは枝?」


 あーやっぱりそれは聞かれるか。俺とヨッシさんなら例の熟練度上げだって出来るからな。サヤからしたらただ何もせずにぼんやりとしているのが不思議なのだろう。というかツッコまれて当然の状況だよねー?


「……例のスキルのデメリットが発動中」

「……例のスキル? あ、一発芸のやつだね。ヨッシに目撃されたのかな?」

「サヤは知ってるんだ? 私はさっき聞いたばっかり」

「あー、サヤは知ってるも何も取得した時に目撃してたからな。ん? 待てよ、サヤに詳細って話したっけ?」

「あ、それはアルに聞いたよ」

「アルめ、しれっと暴露してやがる……」

「ねぇ、サヤ、ケイさんって何をして『一発芸・滑り』を取得したの?」

「ヨッシさん!? ハーレさんを針で追いかけ回しながらその話題止めてなかったっけ!?」

「あ、そういやそんな事も……」

「ヨッシ、別に教えてもいいよ?」

「サヤまで!?」


 スキルに滑り認定された行動なんて話したくないし、知られたくないというのに……。サヤなら味方になってくれると思っていたのに!


「ただし、ハーレにヨッシの暴走の事も話すけどいいかな?」

「うっ……それはちょっと……」


 それを口に出されると流石にヨッシさんも躊躇っていた。そういやサヤはこういう話をバラすときは別の暴露情報とセットだったっけ。ふー危ない危ない。


「うーわかった、諦めるって。サヤってそういうとこ厳しいよね」

「オンラインゲームなんだから、相手も人間だって忘れないようにね?」

「……そうだね。NPCとプレイヤーの見分けがつかないゲームも多いから忘れがちになるけど、嫌がってる事を無理に聞き出すのが嫌なのは現実と同じだよね。……ケイさんごめんね?」

「いや……なんというか、あれでそこまで反省されても逆に困るというか……」


 ただちょっと恥ずかしいってだけで、そこまで大袈裟な事でもないんだけどな。でも実際のところAIのNPCと実際のプレイヤーを同列視してオフラインゲームをやってる感覚で乱暴なプレイヤーも問題にはなってるしなぁ……。まぁ大抵そういう輩は運営に連絡すれば対応してもらえるけども。


「さて、その話はそこでお終い! いいよね?」

「そだね。とりあえずどうしよっか? ハーレがログインするのはもうちょいかかるかな?」

「俺は選択の余地無し!」

「ケイは行動値が回復しないんじゃどうしようもないか」

「ハーレが来て、ケイさんが復活するまでのんびりしてようか」

「とりあえず、サヤにはこれ」

「あ、PT申請か。はい」


<サヤ様がPTに加入しました>


 ヨッシさんがサヤにPT申請を送り承諾してPTに加入する。まだすぐには必要ないけど、一応ね。特にこれと言って焦る必要もないので、デメリットが終わるまで雑談でもしながらのんびりと待っておこう。

 しばらく待ってようやくデメリットが解消された頃にタイミング良くハーレさんがログインしてきた。


「あー! もうみんな揃ってるね!」

「お、ハーレさんも来たか。まぁアルが居ないけどな」

「あ、アルさんは今日は夜からログインって言ってたよ! ちょっと頼み事があるかもしれないって伝言頼まれた!」

「頼み事ってなんだろう?」

「進化絡みだって言ってたよ。群集外交流板でなんか打ち合わせしてたしさ。細かい事はログインしてから話すって言ってたよ」


 あー、アルはもしかして転生進化の為に赤の群集の人の協力を得る気か? そう言えばアルは根がある程度操作出来るようになったのは分かっていたけど、移動できるようになったとは言ってなかったな。アルが他の群集と交流してたなら、もしかして仕様が変わって幼生体ではまだ移動できないとかそういう事か?


「詳細はハーレさんも聞いてないのか?」

「聞いてないって訳じゃないけど、みんなに話を通さないと駄目だったからね! みんな揃ってから詳細を詰めるって事になってるよ。みんな、今日の夜は大丈夫?」

「俺は晩飯食った後からは問題なし」

「私も大丈夫だよ」

「同じく大丈夫だね」

「みんな大丈夫って事だね! 今日中にみんな進化出来るかもね!」


 なるほど。アルも進化に向けて色々準備中という訳か。それならこっちはこっちで準備を進めておかないといけないな。


「そういやもうPT組んでるみたいだし私も入れて!」

「あ、そうだね。はい、ハーレ」

「ありがと!」


<ハーレ様がPTに加入しました>


 ヨッシさんがハーレさんにPT申請を出して加入する。夜までアルはいないのでしばらくはこのメンバーだ。さて、これからアルがログインするまでどうしようか? 


「あ、ケイさん。Lv10になってるんだ!」

「あ、ホントだね。いつの間にか抜かれちゃった……」

「あーちょっと前にな。ハーレさんとサヤはLv9か。アルはどうなってた?」

「アルさんは昨日のうちにLv10になってたよ!」

「そっか。それならハーレさんとサヤのLv上げするか? 一緒に進化のほうがいいだろ?」

「それは当然だよ! 進化したら次は負けないからね!」

「あったり前だよ、ケイさん!」


 どこかしょんぼりとしていたかと思ったらいきなり気合の入ったサヤだった。もしかしてサヤって地味に負けず嫌いか? ハーレさんはいつも通りで元気な様子。

 それにしてもアルは昨日の時点で進化Lvには到達した訳か。それで交渉に移っていたと。その辺細かい事はアルがログインしてからでいいか。今はこっちが大事だろう。


「さて、目標はサヤとハーレさんのLv10突破だな!」

「「「おー!」」」


 もうすぐ目的の進化目前という事で気合も入る。さてそれでは狩りという事になるけどこの周辺で危険なのは例の陥没した所にいるツチノコくらいだろう。後の2体のボスは何処だろうか? 南の氷狼、陥没地周辺のヒノノコまでは知ってるけども……。


「あ、そういえばね。東と西にそれぞれ『黒の暴走種』の成長体がいるって情報あったよ?」

「ハーレさんまで俺の心を読むのか!?」

「……え? ケイさん、ちょうどボスの事考えてたの?」

「あれ? 単なる偶然……?」


 あーもう、サヤとアルに良く考えを読まれるからハーレさんまでそうなったのかと思った。単なる偶然で良かった。


「あはは、ケイさんらしい反応だね。それでハーレ、東と西のボスはどんなの?」

「えっと、東が沼ガメで、西が桜の木だってさ」

「木も出てくるのか。って当たり前か」

「オフライン版の木って進化が始まってから木の種類が出てきてたけど、そこら辺は同じなんだね」

「アルさんの進化先がいくつ出るのか楽しみだねー!」


 オフライン版と仕様が同じならアルの種族である木は幼生体ではただのそこら辺にある普通の広葉樹に見える。この時点ではただの木としか表示されないが、一度目の進化で色々な種類を選べるのが木の特色だ。現実にある木の種類から完全にモンスター化した種類まで色々とある。ただし、オンライン版では色んな所の仕様が変わっているので実際やってみないと分からないけども。


「あれ? ハーレは昨日Lv10になった時にいたんじゃないの?」

「アルさんが、『みんなが集まるまでのお楽しみだ!』って教えてくれなかったんだ!」

「ほほう? これはアルさんは中々進化先に自信がありそうだね?」

「ただアル自身でも決めかねてるってとこな気もするけどな」


 ハーレさんの巣も予約済みだし、ヨッシさんも巣があるからな。そしてもう当たり前のように待ち合わせ場所にもなってるし、その辺も考えているような気もする。

 まぁアルの進化に関してはアルがログインしてからにするとして、今はサヤとハーレさんのLv上げだな。アルがログインするまでに全員Lv10にしておきたい。


「まぁアルの進化もボスも今は無理だし、後回しって事で。ボスの出現範囲に入らない範囲で狩りしていこうぜ」

「そうだね。まずはLv10で進化の準備を整えてからだね」

「頑張るぞー!」

「おー!」


 とりあえず方向性は決まった。アルがログインするまでに目指せ、全員Lv10!

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