第45話 忘れていた事


 ふー、結構魚を乱獲したしこれ以上やると全滅させそうだし、もう1セットで終わりにしよう。


<行動値を1消費して『一発芸・滑り』を発動します>  行動値 4/20


 まるで間欠泉でも出来たように何度も何度も水柱を上げていく。


<ケイがLv10に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント1、融合進化ポイント1、生存進化ポイント1獲得しました>

<Lvが最大値になりました。進化階位を上げるまではLvは上がりません>

<幼生体Lv10に到達しましたので、スキル『群体分離』を取得しました>


 あ、Lv最大まで行った! これで進化出来る! 『群体分離』とやらがもしかしてリスポーン位置の任意設定のスキルかな。これは後で試さないとな。

 それにしても魚の乱獲も結構効果ありか。アイテムの川魚も20匹が取得上限みたいでもう上限まで行った。まだ『一発芸・滑り』が半分くらい発動中だから中断出来ないけど、これ以上は意味がないし発動が終わったら川での作業は切り上げよう。


「お、何やってるのかと思ったら、ケイさんなんか凄い事やってるね!」


 そう思っていたら何やら興味深そうに感心したような声を掛けてくるプレイヤーがいた。まぁ思いっきりフレンドのヨッシさんなんだけど。


<『一発芸・滑り』のデメリット条件を満たしましたので、行動値が全て無くなり一定期間回復されなくなります>


 あ、やっばい!? そういやそんなデメリットあったんだった!? ヨッシさんに目撃されて感心した様子がデメリット発動条件を満たしたらしい。あーこれ、しばらく移動不可かよ……。


「あれ? ケイさん、止めちゃうの?」

「あー今使ってたスキルのデメリット効果が発動して、当分身動き出来なくなっただけ……」

「えぇ!? そんなのあるの? ……もしかして邪魔しちゃった?」

「……デメリット忘れて、こんな派手な使い方してた俺が悪いから気にしなくていいよ」


 今までずっと移動にだけ『一発芸・滑り』を使ってたから、完全にデメリット効果を忘れていた。よく考えたらこんな川から間欠泉みたいに水が吹き出して、魚を陸地に打ち上げまくってたら目立たない訳がない。そして同じ事が出来るプレイヤーも多くはないだろうし、珍しさから興味を示す人が出てきて当然だ。こんな手法、オフライン版には存在してなかったもんな。……完全に使いどころを間違えた。


「……本当にどんなスキル?」

「あー前に一回話題に出てたあのスキルだよ」

「……あのスキル? あっ、もしかしてアルさんとサヤが言ってて、ハーレが食いついてたけど結局そのまま流れた時のやつ?」

「そう、それ。便利は便利なんだけどスキル名がちょっとね……。まぁ今更だし、いいか。これ、流石に情報共有板では知られたくないから、そこは伏せといてくれよな?」

「まぁそのくらいなら良いけど、そんなに変なスキルなの?」

「取得した時は色々驚いた。そのスキルは『一発芸・滑り』という!」

「……はいっ!?」


 あー、まぁその反応は分かる。こんなスキルがあるとは誰も思わないだろう。俺も思わなかったし。取得条件もよく分かんないんだよな。アルとハーレさんの小芝居では取得にならないみたいだし、どういう条件なんだろうか?


「……よく分からないけど、公表したくない理由はなんとなくわかった」

「わかってくれて何よりだ」

「それでどういうスキルなの? 身動き取れなくなる理由がよく分からないんだけど」

「かなり特殊なスキルで、複数のスキルを登録して1つのスキルとして発動出来るんだよ。ただし熟練度は貰えず、誰かにウケたら行動値0と30分行動値の回復不可」

「えぇ!? デメリットがキツいけど、無茶苦茶なスキル……。あ、私がさっき見た事もない状況に感心したから行動値が0になって身動き取れないんだ?」

「そういう事。移動に常用してて問題なかったからデメリットの事すっかり忘れてて……」

「あーなるほど」


 理由が分かり納得するようなヨッシさん。いやまぁ、よくよく考えたらこんな渓流みたいな川で間欠泉みたいに水柱が何度も立って、魚が空中を舞っていたらそりゃ色々と思う事はあるだろう。誰かがやってるなら一種の曲芸じゃん。そりゃこんな事態にもなるよな。よし、効率は良いけどちょっと『一発芸・滑り』での魚の乱獲を今後は自重しよう。


「もう少ししたらサヤもログインしてくるけど、ケイさんどうする?」

「どうするも何も、行動値が回復しないと俺は何にも出来ないぞ」

「あ、そっか。移動に行動値が必須なんだっけ? えーと、そこの枝の上か」


 ヨッシさんが周りを見渡してから、俺の方に真っ直ぐ飛んでくる。フレンドは常時表示ではないが、フレンドリストからログイン中のフレンドの現在地の表示も一時的にだけど可能だ。サヤに言われてヘルプを合間で読んで確認したので間違いない。その機能を使って正確な俺の場所を表示したのだろう。

 この機能はオプションで許可、不許可を選べるので不許可に設定しているフレンドの場所は分からないようになっている。ちなみにベスタは不許可になってた。


「ケイさん、なんか新しいスキル手に入れた? こんな上までコケなかったと思うんだけど?」

「あーそれな。『増殖』ってコケを増やすスキルをポイントで手に入れたんだよ」

「それで自己増殖が可能になったんだ。んーこれは木の枝から取るよりも、枝そのものを切ったほうが早いかな?」

「ヨッシさん、何する気だ?」

「動けないのも半分私のせいみたいだし、アルさんのとこまで運んであげようかなって思って」

「それはありがたいけど、小石に移動は出来ないぞ?」

「大丈夫、大丈夫。ケイさんのいる枝を切って持っていくから」

「え? 枝を切れるの?」


 ハチだから武器は針だよな? それとも顎で齧り取っていくのか? どうする気なんだろう?


「新スキルがあるのはケイさんだけじゃないって事! 『斬針』!」

「え、針で切れるのか」

「そういうスキルだからね」


 ヨッシさんが振りかぶったハチの針で枝を叩き切った。あまり切れ味が鋭いとは言えないが、確実に斬撃と言っていいスキルである。よく見れば針が両刃の刃のように形状が少し変わっている。ハチは刺すものとばっかり思ってたけど、こんな攻撃方法もあったんだ。

 そして切り落とされた俺のコケ付きの枝を危な気なくヨッシさんは抱えていく。ハチよりは大きい枝の筈だけど、運ぶのは特に問題はなさそうだ。


「これ、威力の割に必要なポイント多かったんだけど、フクロウ戦じゃ針が届かないとかあったから斬撃も欲しいかなって考えて思い切って取得したんだ。針で刺す攻撃も強化はしていくけど」

「なるほどね。まぁ戦略の幅は広い方がいいか」


 ヨッシさんなりのフクロウ戦からの教訓という事なのだろう。針は阻まれて一切攻撃が届いていなかったが、斬撃なら羽毛を切り裂いて防御力を削ぐことも出来たかもしれない。


「それで行動値が回復し始めるまであとどのくらい?」

「えっと、あと25分ってとこだな」

「そっか。それじゃサヤとハーレがログインするまでのんびりしてようかな? ケイさんもそれでいい?」

「構わないぞ。あ、あと昨日の夜の情報を話しておこうか?」

「あ、それは大丈夫。学校でサヤから聞いたし」

「もう聞いたあとだったのか」

「まぁ、同じ学校で同じクラスだからさ」


 リア友と聞いてはいたが同じクラスなのか。まぁヨッシさんは春に引っ越したって話だし、同じクラスとかでないとまだ新しい土地に馴染みもないだろうから友達にもなりにくいか。そして一緒に同じゲームをプレイしているから話題がゲームの事になっても当たり前か。


「それにしても称号の『森を荒らすモノ』ってケイさんも取ったんだね」

「……俺も? あれ、もしかして?」

「うん、不本意ながら私も同じ称号持ってるよ。……いつ取得したか覚えてないからあの暴走してた時なんだろうけどね。残念ながら操作系のスキルは持ってないけどさ」

「あーなるほど、納得」

「なんか恥ずかしいからみんなには内緒にしといてよ?」

「はいよ」


 少し自嘲気味に呟いているヨッシさんである。あの時は相当周りの事が目に入ってなかったらしいし、ヨッシさん的には忘れたいものなのだろう。うん、似たような経験はあるからその気持ちはよく分かる。

 とりあえず荒らす事による称号と操作系スキル取得の称号は別々だという事だな。荒らすだけなら操作系スキルは手に入らない。やっぱり重要なのは自然の中にある物を利用して何かの称号を得る事だな。


 そうやって話しながら運ばれていると、そう時間のかからないうちにアルの植わっているところへと辿り着いた。まぁそれほど距離は離れてないからな。


「さて、到着! とりあえずPT組んどこう」

「そうだな。今日はみんな進化までいけるかね?」


<ヨッシ様の率いるPTが結成されました>


「どうだろね? って、ケイさんはLv10到達したんだ?」

「ついさっきな。これで進化の準備は問題なしだ」


 ヨッシさんからの申請を受諾して、PTが結成された。そしてLv表示がされた事でヨッシさんが俺のLvに気付いた。そういや進化先って他にも開放されてたりするんだろうか?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る