第43話 リアルの日常と掲示板その3

 

 翌朝、目が覚めた。よし、全然遅刻の心配はいらない時間だ。さっさと準備して朝飯食って学校行くか。

 とりあえず自室は2階なので、1階に降りていくと母親の吉崎香苗よしざきかなえがちょうど出勤する所であった。我が家は共働きである。父親は既に出勤した後のようだ。


「おはよう」

「圭ちゃん、おはよう」

「ちゃん付けはやめてくれって、母さん」

「圭ちゃんがそんな事言うようになるなんて!?」

「いや、もう結構前から言ってるじゃん……」


 我が母親ながら大袈裟な物言いするものだ。というかもう言い続けて数年は経つはずなんだけど、一切呼び方変えてくれる気はなさそうだ。


「朝ご飯とお弁当はいつものとこに置いてるからね」

「あいよー。そういや晴香は?」

「さっき起こした筈なんだけど、起きてきてないわね?」

「また二度寝か……」

「遅刻しないように気をつけてあげてくれない? それじゃお母さんは先に出るから!」

「はいよ。行ってらっしゃい」


 そう言って母さんは仕事に行った。よくある事だが妹の晴香はよく寝坊する。まぁ割と簡単に起こす方法もあるから、ぎりぎりまで放置しよう。

 とりあえずそれは後にして、自分の用意をする。共働きで忙しいはずだが意地でも母は朝食と弁当は作ってくれていて、ありがたいものだ。夕食は母の帰宅時間によって変わってくるが、時々自分で作る事もある。ただし妹の晴香にだけは作らせないという一家の方針が決まっている。

 安全装置があるとはいえ、お湯を沸かすだけで間違えて魚焼きグリルに火を入れたまま放置されるとか危険で仕方ない。


 用意されていた朝食は焼くだけとなっているピザトーストだった。早速焼いて食べてしまおう。さては母さん、晴香が寝坊してるのを見越してこのメニューにしたな? あ、2階から慌てるように飛び起きた音が聞こえてくる。おい、階段を走るな。


「この匂いは、ピザトーストだ!」

「ほれ、先に食ってて良いぞ」

「兄貴、ありがとー!」


 食い意地の張ってるこの妹の好物の1つがこれである。どんだけ寝惚けていても即座に目を覚ますという徹底っぷり。楽でいいけど、それで本当に良いのか……?



 ◇ ◇ ◇



 朝のいつもの光景も終わり、学校へと登校していく。進学先で近所の高校を選んだので徒歩通学だ。晴香も近いからという理由で同じ高校を志望していたが、成績が足らずにちょっと遠くの高校へと進学している。まぁそんな事はどうでもいいか。

 校舎へ入り、自分の教室へと辿り着く。ゲームに熱中しているとつい時間を忘れがちになるが、そうでない時は時間には余裕を持つのが信条だ。って事でちょっと時間があるから、携帯端末で掲示板でも見てよう。とりあえず総合情報スレの最新のでいいか。



【仲間の呼び声】総合情報スレ その7【合流成功】


1:通りすがりのモンスター

 ここは総合情報スレになります。

 各種エリア、新種族、クエスト情報など総合的に扱っています。


 深く掘り下げたい場合は各種情報の専用スレにお願いします。



 前スレ

 http://*************

 

2:いったん

 スレ建てお疲れ様〜!

 前スレでも話題になってたけど、ちゃんとみんな合流出来たみたいで安心したよ。


3:通りすがりのモンスター

 いったん狩りとか言ってごめんね?

 あの時は自分でも忘れたいくらいに周り見えなくなってたみたいで恥ずかしい……。


4:通りすがりのモンスター

 >>3

 初めのスレで荒れてた人か?

 なんとかなったのか?


5:通りすがりのモンスター

 なんとかねー。

 無事というにはちょっとトラブルがあったけど、合流は出来たよ!


6:いったん

 トラブル〜? 管理AIとしては一応聞いておく必要がある気がする。


7:通りすがりのモンスター

 あー大丈夫だよ。あのワールドクエストが始まる前に黒いカーソルのフクロウに襲われたけどちゃんと撃退出来たから。


8:通りすがりのモンスター

 なに!? ワールドクエスト前に目撃情報があったとは聞いたけど、直接戦ったって人の話を聞くのは初めてだぞ!


9:通りすがりのモンスター

 詳細プリーズ!

 ワールドクエストの発生ってどういう条件なのか知りたい!


10:通りすがりのモンスター

 あ、ごめん。流石にPTで討伐したから具体的な内容はちょっと相談してからじゃないと。

 あっ!? ごめん、弟の面倒見ながらだったからこれ以上書き込むの無理!


11:通りすがりのモンスター

 そこをなんとか!

 ……もういないのか。


12:いったん

 あ、今回のワールドクエストの開始条件なら開示許可が出たよ。

 条件的に再度開催は不可だからってさ。


13:通りすがりのモンスター

 いったん、それは本当か!?


14:いったん

 管理AIは嘘はつかないのです!

 これが条件だよ〜!


 ワールドクエスト《黒の暴走種の出現》の開始条件


 全エリアで発生した黒いカーソルのモンスターの発見数が50体を超える事。

 そして、その撃破数が5体を超える事。


15:通りすがりのモンスター

 おぉ! なるほど、ワールドクエストが始まる前に既に『黒の暴走種』が出現の情報があったのはそういう訳か!

 最低でも5体、倒したプレイヤーかPTがいるのか。初見ですげぇな……。


16:通りすがりのモンスター

 結構強かったもんな!

 ワールドクエストが始まってから何度目かには倒せたけど、初見じゃキツイわ!



 これ、完全にヨッシさんだな。元々ヨッシさんはいったん狩りとか言ってブチ切れてたから掲示板にいること自体は不思議じゃないか。てかヨッシさんの用事って、弟の面倒を見る事だったんだ。そりゃログアウトしても当然だわな。

 それにしてもクエスト開始条件とかも教えてくれるのか。まぁ確かに性質上あのワールドクエストは復刻開催とか無理そうだしな。



「よう、圭吾! 何見てんだ?」

「あー慎也か。新しく始めたゲームの掲示板見てるんだよ」

「む? そういや、Monsters Evolveにハマってたよな? もしかして発売したばっかのMonsters Evolve Onlineか!?」

「大当たり」

「おぉ! やっぱりか。俺も買ったぜ!」

「お、マジか!?」


 こいつは同じクラスの佐山慎也さやましんやという学校ではよく話すが、それ以上は特に何もないという微妙な感じの友人だ。こいつにMonsters Evolveを薦めたのは俺だが、オンライン版も買ったんだな。


「圭吾はどこの群集にしたんだ?」

「俺は『灰の群集』だな」

「あ、別の群集か……。俺は『赤の群集』だ」

「って事はとりあえずお前は敵だな!」

「いやいや、ワールドクエストで他の群集と連携とかあっただろう!?」

「……ん? え、どこで?」

「掲示板だよ! 群集についての考察スレってとこ!」


 言われるがままに、その該当スレを開いてみる。あ、いったんがヒントとして出してるのか。って、秘密主義が過ぎるといったんから強制情報公開とかあるんかい!? これは昨日の夜の情報公開を選んだのは正解かもしれない。


「ふむふむ、昨日はずっとログインしっぱなしだったからなー」

「あーそっか。そういやゲーム内からじゃ掲示板見れないんだったな」

「で、慎也はキャラは何になった?」

「ふふふ、違う群集のプレイヤーには教えられんな! そういう圭吾は?」

「あっそ。んじゃ俺も内緒な」

「なん……だと……!?」

「いや、自分が教えないって言っといてそれはないだろ?」

「まぁな。キャラ名だけは教えとくわ。フラムって名前だ!」

「赤の群集のフラムだな。俺はケイって名前にしたよ」

「本名のもじりかよ。安直だな!」

「うっせぇよ!」


 安直なのは自覚あるし、そもそもキャラの名前の付け方にケチつけられたくないわ! 


「ま、そのうちどっかで遭遇でもしたら一緒にやろうぜ?」

「遭遇した時にPTに空きがあればなー」

「なに? もう早くもPT組むフレいるのか?」

「色々あって、今は5人PTになってるよ」

「……マジか。俺はフレはまだ2人だぞ」

「それはご愁傷さま」


 そんな話をしている内に教師が教室にやってきた。今、掲示板を見れるのもここまでか。休み時間も利用してあちこち覗いておくか。


「おらー、お前ら、さっさと席につけ」

「そんじゃまた後で」

「おう」


 そうして普通の学校の日常が始まった。ゲームだけして生活する事も出来ないし、退屈な授業だけどやるからにはちゃんとやろう。成績が酷くてゲームどころじゃなくなる方がつまらないからな。

 


 ◇ ◇ ◇



 時間は進んで昼休み。慎也と共に昼飯を食う。彼女とかそんなものは俺にはいないって、そんな事はどうでもいいや。携帯端末のAR表示の操作を手動から、思考操作に切り替えて弁当を食べながら掲示板を見ていく。


【進化は】各種種族スレ その4【まだか?】

1:通りすがりのモンスター

 ここは各種種族の情報に関するスレになります。

 オフライン版にあった種族の変更点や、新たに実装された種族情報などをお待ちしています。


 前スレ

 http://*************


177:通りすがりのモンスター

 成長体への進化情報ってまだ出てないよな?


178:通りすがりのモンスター

 ここじゃ見てないな。各群集の情報共有板の中だとわからんが。


179:通りすがりのモンスター

 それもそうか。まずは掲示板より先にあっちだよな。

 まだ今のところは他の群集に教えるメリットもないからなぁ……。


180:通りすがりのモンスター

 あーそういや色物種族、クジラとコケ以外に1人情報出てたぞ?

 青の群集の森林エリアの湖に淡水クラゲだとよ。


181:通りすがりのモンスター

 クラゲ……クラゲかぁ……。

 あれ? 俺、海のクラゲなんだけど何が違うの?


182:通りすがりのモンスター

 淡水のクラゲって珍しいんじゃなかったっけ?

 よく知らんけど。

 てか移動範囲が湖の中ってキツそうだな。


183:通りすがりのモンスター

 でも話によればコケの人も移動出来るらしいし、特殊な固有スキル持ちかもよ?


184:通りすがりのモンスター

 そういやコケの人って目撃情報出たん?


185:通りすがりのモンスター

 さぁ?

 クジラの方は被害報告なら聞くけどな。


186:通りすがりのモンスター

 おい、コケの人が情報共有板に現れたぞ!


187:通りすがりのモンスター

 噂をすればなんとやら……。さてログインしてくるか!


188:通りすがりのモンスター

 >>187

 貴様、灰の群集だったのか!?

 あー俺も覗きに行きたいけど群集違うしなぁ……。

 うちの群集にもコケのプレイヤーいないかなぁ?



「ごふっ!」


 思わぬ自分の話題に飲んでいたお茶が変なところに入ってむせた。……掲示板で珍獣扱いされてないか? いや、うん、この辺りは読み飛ばそう。自分の話題を読むのはなんか嫌だ。

 とりあえず色物仲間に淡水クラゲが追加か。この感じだと他にも色物種族認定されてるプレイヤーもいそうだな。


「何やってんだ、圭吾?」

「いや、むせただけだから気にすんな」

「ふーん?」


 よし、とりあえず別のスレにしよう。お、これは中々良さそうだ。


【発見】黒の暴走種総合スレ その1【討伐】

1:通りすがりのモンスター

 ここは黒の暴走種の情報に関するスレになります。

 不確定情報でも構いませんが、意図的なデマは禁止します。


 進化階位、固有名、攻撃方法、出現場所などの情報をお待ちしています。


2:通りすがりのモンスター

 お、やっぱり黒の暴走種関係のスレは建ったか。


3:通りすがりのモンスター

 そりゃ、これは必須でしょう!


4:通りすがりのモンスター

 確かにな。

 これ、群集に関する情報は伏せるのはありか?


5:通りすがりのモンスター

 群集の情報は無くても仕方ないか。

 どんな種類がいるかだけでも役には立つだろうし、そこは強制なしでいいんじゃね?


6:通りすがりのモンスター

 森林エリアで黒のカブトムシの幼生体を発見!

 ノンアクティブっぽいけど、攻撃したら角での突撃で殺られた! 


7:通りすがりのモンスター

 >>6

 ごめん、訂正。『黒の』→『黒の暴走種』


8:通りすがりのモンスター

 もう単純に『黒』で良いんじゃね? 他に黒いのいる訳じゃないし。


9:通りすがりのモンスター

 あー確かにな。

 なぁ、いったん、通称を勝手に決めるのは有りなん?


10:いったん

 はいはーい! 呼ばれて登場のいったんです!

 それはプレイヤーのみんなでご自由にー!

 公序良俗に反しない限りはそこは規制はないよー!


11:通りすがりのモンスター

 んじゃ『黒』って事で。


12:通りすがりのモンスター

 なんか意味深な地形の近くで何かに奇襲されて殺されたんだけど、なにこれ?


13:通りすがりのモンスター

 >>12

 え!? お前もか?

 夜のせいなのか、敵が視認出来ん!


14:通りすがりのモンスター

 あーうちの群集の情報共有板でも話題になってたな。

 なんか各エリア毎に意味深な地形があって、どこも似たような感じで奇襲されるんだとよ。



 ほう? これはあの火を吐くツチノコと同系統か? 各エリアに似たようなのが居るってのが気になるな。あの陥没した部分に何か特別なことでもあるんだろうか……? でも肝心の群集情報は無しなのは、仕方ないか。まぁその内、他の群集との交流もあるようになるだろう。

 あ、昼休みももう終わりか。休み時間に見るんじゃ全部は見きれない。まぁ仕方ないか。まだ群集同士が関わり合うようなゲーム内のイベントもないから、ゲーム内の情報共有板の方が情報ありそうだしな。


「さってと、午後の授業だな」

「あー早く帰ってゲームしてぇ……」

「そりゃ俺も同感だ」


 そうこうしていくうちに、その日の授業も終わり放課後になった。さてと特に用事もないし、さっさと帰ろう。母さんからは今日は普通に帰れるから、夕食は母さんが作ると連絡があった。帰りが遅い時は材料を買うなり、弁当を買って帰るなりして寄り道の必要が出てくるが、今日はその必要はない。


「んじゃ、また明日な!」

「おう!」


 慎也に適当に挨拶をして、さっさと帰路につく。今日中にはLv10まで行けるだろう。そしたら初の進化条件を満たせられる!

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