第37話 黒の暴走種の残滓


 さてとりあえず南端のボスも確認したし、アルの植わってるとこまで戻ろうかな。


<行動値を1消費して『一発芸・滑り』を発動します>  行動値 14/15(−1)


 一発芸・滑りで移動を開始したら、登録スキルの発動が終わった所で目の前に黒いカーソルのカブトムシを見つけた。大きな岩の上でなにか探すようにウロウロ動いている。えー、折角出発したばっかなのにもう敵と遭遇か……。発見報酬も出てこないなら、こいつは……。一応『識別』で確認しておこう。


<行動値を1消費して『識別Lv1』を発動します>  行動値 13/15(−1)


『カブトムシ』

 種族:黒の暴走種の残滓

 進化階位:幼生体・暴走種


 初めて見る表記だ。残滓って事はやっぱりこいつは一度倒されて弱体化した黒の暴走種か。残滓は初遭遇なんだよな。水の補給も目処が立たないから温存したいとこだけど、ソロでどの程度渡り合えるのか試してみたい気もする。多分弱体化してるんだし、あのフクロウよりは弱いはず。

 そういやフクロウは初めはハーレさんを食おうとしてた。そして俺の手持ちには樹液がある……。あれ、耐久力次第だけどこいつ楽勝じゃないか? まだこっちにも気付いてないし、やるだけやってみるか。



<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します>  行動値 12/15(−1)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 11/15(−1)


 その辺のコケの生えた適当な木の幹に移動してっと。さてと虫取り罠でも仕掛けようか。


<インベントリから樹液を取り出します>


 木のアルに『樹液分泌』って誘引用スキルがあるんだから効果はあるはず。お、やっぱり効果あり。よしよし、夢中になって樹液に向かっていってる。やっぱりゲームだし特定行動に対して決まった動きをするんだろう。これ、アルがいる時なら結構良い手段になりそうだな。さてと、これで仕留めれたらいいんだけど、どうだろう?


<インベントリから小川の水を取り出します>

<行動値を4消費して『水の操作Lv3』を発動します>  行動値 7/15(−1)

<熟練度が規定値に到達したため、スキル『水の操作Lv3』が『水の操作Lv4』になりました>

<『水の操作』の精度が上がりました>


 お、水の操作のLvが上がったけど、とりあえず後回し! カブトムシを水の中に閉じ込めるように水を操作していく。やってることはフクロウ戦と同じだけど、弱体化したらどの程度のものなのか。お、暴れ出した。カブトムシも水の中で飛ぼうとするのか!?

 あ、水から逃げ出された。やっぱり水で窒息させて仕留めるにはもう少し水の操作のLvが必要かな。ふむ、警戒態勢に入ったけども俺の位置には気付かないと。うん、隠密性が高いというか周りはコケだらけだもんな。格上にはバレるけど、そうでもなければほぼバレないと。


 さてと、まだ水は操れているから時間切れになる前にサクッとやってしまおう。これが通じるなら水さえあれば残滓ならソロで狩りも出来るってことだ。

 水球の形に整えて、そして最高速にて操作する! 標的はカブトムシ!


 真正面から飛んでいく水球を見て、カブトムシはサラリと回避する。っておい、避けんな! 警戒している時に真正面から撃ち込んだらそりゃ避けられるよなぁ。あっ、水の操作の時間切れ……。くっそ、貴重な水が1個無駄になってしまった。


 少し間を開けてからもう一回試す? 今度は不意打ちで一気に水で叩き潰す感じで。あーついでに毒でも食らわしてやろうか。諦めて水を完全に無駄にするよりはもう1個水を使ってでもあのカブトムシを経験値に変えてやる。

 そういやフクロウの時に土壇場で変異したから毒生成の詳細確認してないね。多分使ってる感じはオフライン版と同じ気はするけど、一応確認しとこう。


『毒生成』 

 継続ダメージを与える毒を生成し、自身に毒を付与する。触れた相手を確率で毒の異常状態にする。Lvにより威力、効果成功率上昇。


 毒:毒性はそこそこで継続ダメージ量は微毒より多い。若干動きを鈍らせる。


 やっぱりオフライン版と同じだ。微毒と違ってダメージ量が増えて倦怠感ではなく確実に動きが鈍る。けど不定期な脱力感はなくなると。決定的な隙を作りたいならヨッシさんが持ってる麻痺毒の方が便利なんだよな。毒は毒で使えるからいいけどさ。



 少し待っていると警戒態勢を解いたカブトムシは発見した時と同じ様にウロウロしだした。あれは餌を探しているって事か。そして待ってる間に行動値も全快だ。さて再チャレンジ!


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 14/15(−1)

<インベントリから樹液を取り出します>

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します>  行動値 13/15(−1)

<行動値を1消費して『毒生成Lv1』を発動します>  行動値 12/15(−1)


 樹液とカブトムシの間で毒を纏って、待ち構えておく。毒生成のLv上がったら生成範囲拡がったりしないかな? もしくは水の操作みたいに操れるスキルはないかな?


 狙った通りにカブトムシが俺の上を歩いていく。そして毒を受けて動きが鈍る。よし、こいつには毒は有効か。これでトドメだ!


<インベントリから小川の水を取り出します>

<行動値を4消費して『水の操作Lv4』を発動します>  行動値 8/15(−1)


 精度が上がり少し操作がしやすくなった水の操作でカブトムシを真下から打ち上げ、毒を受けたカブトムシに抵抗させず空中に吹き飛ばす。速度重視で短期決戦だ。打ち上げたカブトムシの上部に回り込むように水を操作していく。水だけなら防御力の高そうなカブトムシには威力不足の可能性もある。だから今度は水以外の力も借りる。なに、そこら辺にあるもんだ。


 元々カブトムシがいた岩場に向けて打ち上げたのと同じ要領で水をぶつけてカブトムシをぶっ飛ばす! 勢いを増した落下ダメージでもくらえ!


 思った以上に勢い良くカブトムシは岩に激突した。うわー結構なダメージだと思ったけどまだ生きてんのか。流石に残滓とはいえ黒の暴走種、一般生物ほど弱くはないか。とはいえ、あと僅かってとこだな。もう虫の息だ。カブトムシだけに。

 あ、しょーもない事考えてたら毒の継続ダメージが入って死んだ。よし、なんとかソロで撃破出来た。勝てるかどうかは地形次第だな、こりゃ安定した狩りはまだキツそうだ。


<ケイがLv6に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント1、融合進化ポイント1、生存進化ポイント1獲得しました>


 お、Lvアップした。やった! まだLv10までいくらかあるけど、サービス2日目という事を考えたら良いペースなんじゃないか? とりあえず、ステータスチェックといこう!


【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:コケ

 所属:灰の群集


 レベル 5 → 6

 進化階位:幼生体


 群体数 632/1100 → 632/1200

 行動値 8/16 → 8/17


 攻撃 5 → 6

 防御 13 → 15

 俊敏 5 → 6

 知識 9 → 11

 器用 13 → 15



 うん、相変わらずステータスに意味をあまり感じない。やっぱり一番重要なのは行動値だ。


「お、ケイがLv上がってんな? なんか静かだと思ったらソロで狩ってたのか」

「おうよ! 地味ーに楽しそうに熟練度上げしてる声をBGMに頑張って倒したさ!」

「あ、ほんとだ!」


 ずーっと対戦ゲーム風の熟練度稼ぎの声が聞こえていたのだ。それが悪いとは言わないけど、流石に寂しいんだよ!? あー早く合流したいなぁ……。


「丸聞こえだったんだね。ちょっとそれは悪いことしちゃったかな?」

「いや構わないって。少しアルの気持ちは分かったけども」

「そうだろうとも!」


 ちょっと申し訳なさそうなサヤの声と、自慢げなアル。何故そこで自慢げになるんだよ。そこは自慢げにするところじゃないだろう!?


「ところでケイさん、何を倒したの!?」

「『黒の暴走種の残滓』のカブトムシ。ちょっと思ったより丈夫だったけど、まぁなんとか倒せたよ」

「ほう? 幼生体か?」

「成長体なら残滓でも多分まだ勝てないって……。ちなみに樹液が隙を作るのに有効だったぞ?」

「樹液ならアルさん出せたよね!?」

「あー出せるぜ。一般生物の虫だけかと思ったけど『黒の暴走種』にも有効なのか」

「普通に使ってたけど、これからは気を付けた方がいいかもね。アルに虫系の『黒の暴走種』が集まっても厄介かもしれないし」

「……確かにな」


 一般生物の虫なら多少数が集まったところでどうとでもなるけど、『黒の暴走種』が複数となればそう簡単にはいかない。1匹しか集まらないとは限らないしね。実際のところはやってみないと分からないが、進化してリスポーン位置を決められるようにしてからの方がいいだろう。コケだからカブトムシには気付かれなかったけど、カブトムシ自身の攻撃力もどの程度のものかも確かめられていないからな。


「アル、とりあえずLv10までは『樹液分泌』は控えておいた方がいいかもな?」

「今回のはケイの言う通りだな。完全な迎撃手段を確立するまではやめとくわ。いい経験値稼ぎだったんだがな」

「これは、私も早く進化して巣を作って戦力を渡さないとね!」


 現状ではアルがランダムリスポーンするのが一番困る。なので安全策を取っていこうという事になった。ハーレさんはかなり張り切っていたけどね。さて、合流に向けて再度出発だ! さて、今夜中にどこまでいけるやら。


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