第26話 ワールドクエスト


 なんだか呆れられた様な雰囲気を壊したのはヨッシさんである。あの空気は地味にキツかった。


「ケイさんがLv10に達していなくて進化先が出てるのなら、このスキルの取得条件が分かりそうだからいいかも知れないね」

「なんてスキルだ?」

「『巣作り』ってスキル。多分種族によって名前は変わると思うけど、性質を考えたら同種のスキルは絶対にあるはず」

「『巣作り』? どんなスキルなの?」

「えっと、簡単に言えばリスポーン位置の任意設定スキルだね。ケイさん、それっぽいスキル持ってない?」

「ほう、リスポーン位置の任意設定スキルとな? 便利そうだな、それ」


 アルが食いついていた。それにしてもリスポーン位置の任意設定スキルか。そんなスキルもあるんだな。ずっとランダムなのかと思ってた。でも俺にはそんなスキルはまだ無い。


「そんな感じのは持ってないな」

「じゃあ取得条件はLv10に到達する事かな? あ、あと進化しないとLv10で一旦打ち止めみたい。ついでに進化したらLv1からみたいだね」

「その辺の仕様はオフライン版と同じなんだな」


 進化階位が上がる毎にLv1から上げ直し、そしてLv上限も上がっていく。オフライン版はそういう仕様だったけども、そこら辺は引き継いでいるらしい。何もかも別物になってもつまらないし、かといって何もかも一緒でも新鮮味に欠けるから、この程度がちょうどいい塩梅なのかもしれない。ポイント周りや称号とか変更や追加点多いしな。


「ふふふ、何もせずとも次々と新情報が手に入ってくるぞ!」

「そだねー! ケイさんがいたら退屈しなさそう!」

「3つの群集で分かれてるから情報秘匿が地味に出てきそうだし情報は重要だな」

「うんうん! 称号もアルさん達がバラすまで隠してた人も居たみたいだしね!」

「オフライン版とは結構変わってるみたいだしな」

「お、アルさんもオフラインのやってたんだ。私もやってたよー! 攻略そっちのけで鑑賞ばっかりしてたけどね」

「ほう、ハーレさんはサファリ系プレイヤーか」

「オフラインの時はねー! でもヨッシが誘ってきてくれた時にがっつり調べたし、攻略もしたからある程度は大丈夫!」

「そうか。それでも分からないことあったらいつでも聞いてくれて良いぞ」

「おーアルさん、ありがと!」


 いつの間にやらハーレさんがアルに登り、枝の上で寛ぎながら談笑していた。ハーレさん自由すぎるな!?

 ちなみにサファリ系プレイヤーとは、人類種を目指すというゲームの本題から逸れて動植物を愛でるという目的でプレイしている人の事だ。結構な割合でいるらしい。オンライン化した今回はどの程度居るのかは全然分からないけど。



<規定条件を達成しましたので、ワールドクエストを開始します>


 そして唐突にそんなメッセージが現れた。


「え? なに?」

「この始まり方、覚えがあるけどクエスト名が違うよな」

「群集クエストがこんな感じだったよね」

「そうだが、ワールドクエストねぇ?」

「あのフクロウとなんか関係あるかな!?」


 サヤ以外は群集クエストの発生時にログインしていたので何が起こっているかはなんとなく察しがついていた。ただし、初めて目にするクエストだから正確なところはわからない。演出が始まるまで待つしかないだろう。


『やぁ『灰の群集』の同胞達よ。私は『灰の群集』の長のグレイだ』


 少し待っていると目の前に半透明で幽霊みたいなやつが現れた。やっぱりグレイか。みんなは下手に口を挟まず聞くことに集中している。俺もそうしよう。

 それにしても『群集クエスト』と『ワールドクエスト』の違いはなんだ? そもそもまだ『群集クエスト《地図の作成・灰の群集》』も終わってないんだよな。


『地図の作成は順調に進んでいるようだが、その過程で悪い情報が入ってきた。同胞達の中には直接遭遇した者もいるだろう』


 あ、地図の作成の過程で出てきたトラブルって事か。遭遇したって言い方だとあのフクロウが気になるな? ……そういえばあのフクロウ倒した時のメッセージに長に報告とかあった気がする。


『この地に降り立った同胞達の一部に生物との同化が不完全となり、暴走した者が現れたとの報告を複数受けている。原因は現在調査中ではあるが、いくつか判明している事がある』


 あのフクロウの幼生体・暴走種ってのはそういう事か。そしてそれを倒した事で報告した事になっていると。要するにあのフクロウはこのワールドクエストの発生条件の一部ってことか! それで俺らが雑談してる間に発生条件を満たしてクエストが始まったのか。


『暴走した同胞達は、討ち倒せば一度同化が解除されることが確認された。事が事な為に不本意ながら『赤の群集』と『青の群集』にコンタクトを取ったがどちらも同じ事態が発生しているようだ』


 他の群集でも同じような事になってるのか。そういや他の群集でもマップ開放の群集クエスト始まってるのだろうか? 群集だけではないから群集クエストじゃないのかもしれないな。


『これらの暴走した同胞達の識別は黒くなるという事も判明している。これより暴走した同胞達を『黒の暴走種』と呼称する。暴走状態ではあるが我らの性質は受け継いでいる。故に放置すれば『黒の暴走種』は力を増し、より強大に進化を遂げ化物へと変貌するだろう』


 黒いカーソルの理由はそこか。『黒の暴走種』ときたか。暴走してるかしてないかの違いだけでプレイヤーと変わらないモンスターって訳だな。ふむふむ、フクロウが幼生体・暴走種だった理由がだいたい分かった。あれこそが『黒の暴走種』の幼生体なわけだ。あのフクロウ、結構強かったよなぁ。


『そこで『赤の群集』と『青の群集』との協議の結果、この件には相互協力で解決に当たる事に決定した。同胞達には『黒の暴走種』を発見し次第、討ち倒す事を頼みたい。それが『黒の暴走種』へと変貌した同胞達を救う唯一の手段だ。ん?』


 あれ? どうしたんだろうか。途中で言葉が途切れたぞ?


『済まない、たった今追加情報が入った。どうやら打ち倒しても残滓があるとの情報だ。我らが同胞は解放されるが、復活する性質は引き継がれたままになる。だが、非常に弱体化するようなのでこれに関しては問題はないだろう。同胞たちの解放は任せたぞ』



<ワールドクエスト《黒の暴走種の出現》が開始されました>

<各エリアに『黒の暴走種』が出現するようになりました>

<永続クエストとなりますので、クリア条件はありません。初回発見者、初回討伐者にはそれぞれ報酬が与えられます。一度倒された『黒の暴走種』は弱体化して再出現しますがそちらには報酬はありません>

<エリア移動を阻害する『黒の暴走種』を倒す事で初期エリアより先のエリアが開放されます>

<群集外交流板、群集内交流板が開放されました。ぜひご活用ください>


 言葉が途切れたのはリポップの設定のためか。なるほど、一度倒しても弱体化してまた登場ってわけだな。それで、クエスト関係のメッセージが出たってことはここまでか。


「演出はこれで終わりっぽいな」

「へぇー。クエストってこんな風に始まるんだね。昨日は見そびれちゃったのがちょっと残念……」

「サヤ、リアル事情は仕方ないって。俺だってちょっとタイミングズレてたら見逃してただろうしさ」


 多分この先も色々なクエストが出てくるだろうけど、全部の演出を見れるとは限らない。むしろ条件を満たした時に突発的に始まるのなら見れない可能性の方が高いだろう。


「クエスト自体の説明は出るんだろ? 気にするだけ無駄ってもんだ」

「まぁそうなんだけどね」

「クエスト開始演出のリプレイ機能でも運営に要望出しとくか」

「それだよ、ケイ! 私も出しておこう!」


 どことなくしょんぼりしているサヤを見かねて提案してみたら食いついてきた。これくらいの要望ならば通るかもしれない。初日でのエリア分断に対する対応を見る限りではユーザーの声を無視するような運営ではなさそうだ。


「ともかく、群集の枠組みを超えたクエストだからワールドクエストって訳だな。敵がどういう風に出てくるのか気になってたがこう来たか」

「誰かが倒すまでは強いけど、一度倒せば報酬は無くなるけど弱くなるんだね。これは報酬次第だけど一長一短かな?」

「ねぇねぇ! 初回発見者と初回討伐者の報酬ってあれかな? フクロウやっつけた時の称号!」

「あ、あの称号ってそういう事!」


 誰かが倒すまでは割と強めな敵モンスターで、一度倒されれば弱体化して多くのプレイヤーにも倒しやすくなるという訳か。あのフクロウを毎回倒せっていうと妨害役が出来るモンスターがいないときついもんな。腕に自信がある人が倒して、自信のない人は発見の報酬を狙えって感じか。

 そして倒せば貰える報酬ってのがさっき取得した称号って訳だ。さっき倒したもんな。でも俺は『幼生体・暴走種の討伐』しか持ってないぞ?


「あ、それについて確認取りたいんだけど称号『幼生体・暴走種の討伐』を持ってる人は? あ、もちろん私は持ってる」

「持ってるぞ」

「私もあるよ」

「俺もあるぜ」

「もちろん私も持ってるよ!」


 ヨッシさんが確認するように尋ねて、全員が持っていると答えた。どうやら討伐の報酬はPT単位で貰えるようだ。


「じゃあ、称号『幼生体・暴走種の発見』を持ってる人は?」

「はーい!」

「それは持ってない」

「アルに同じ」

「私もないよ」


 返事をしたのはハーレさんだけだった。なるほど、条件が全然違うのか。


「うん、わかった。称号『幼生体・暴走種の発見』は私も持ってるから、条件は初めてそのモンスターと遭遇した人だけって事だね。あの時は慌ててたから取得したのを見落としてたかな?」


 フクロウに初遭遇したのは追われていたヨッシさんとハーレさんだけという事か。そして途中から乱入した俺とサヤとアルはカウントされない仕様だな。見つけるだけでも良いとは地味に良いかもしれない。でも誰も見つけていないのを見つけるのも運任せだな。ちなみに発見報酬は討伐報酬と同じそうだ。

 

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