第24話 フクロウ撃破


 大した距離でもないのでヨッシさんに運ばれながらあっという間にアルの元へと辿り着いた。


「お、戻ったか。フクロウはどうだ?」

「すぐ追いかけてくるはずだ。だいぶ機動力は落ちてるから、アル頼むぜ」

「おう、任せとけ!」

「ハーレ、大丈夫?」

「うぅ……。ちょっとフクロウ怖い……」


 先に戻っていたサヤは臨戦態勢で待ち構え、ハーレさんは怯えるようにアルによじ登って身を隠していた。流石にあれだけ食べられそうになれば怯えてしまっても仕方ないだろう。

 そしてヨッシさんを追いかけて、時折麻痺毒でビクッと痙攣しながらフクロウが飛んできた。狙いは獲物のハーレさんではなく、敵認定したヨッシさんか、もしくは俺か。


「来たね。うん、結構弱ってるね」

「よし、あれなら今の俺でも捕縛出来そうだ」


 俺たちが固まっているのを確認したフクロウが雄叫びを上げながら突っ込んでくる。弱っているとはいえまだ油断は出来そうにない。


「おらよ! って、まだこんだけ動けるのか!」

「でもこれくらいなら、当ててみせるよ! 『爪撃』!」


 今のアルが同時に操作出来る根は3本。その3本のアルの根が蠢きフクロウを捕らえようと動き出す。それに合わせるようにサヤの爪がフクロウに向かって振るわれる。だが、フクロウはそれらを掻い潜っていく。状況を圧倒的不利と認識したようでフクロウは上空に向かって飛び始めようとした。それを妨害するように何かがフクロウを目掛けて飛んでいく。


「食べられそうになった恨みは、ここで返すよ!」

「よし、良い妨害だ!」

「ありがと! 助けられてるだけじゃ駄目だしね。次々いくよ!」


 どうやらハーレさんがアルの枝の上から何かを投げているようだ。怯えからはもう復活したらしい。投げているのは木の実か? その投げられた木の実が牽制となり、フクロウの逃亡を阻止している。そこの隙を狙い、アルの根が捕縛しようと更に動く。サヤも同じく致命の一撃を与える為に攻撃を繰り広げていく。


 フクロウは同時に襲いかかる3種類の攻撃に、苛立たしそうな雰囲気で回避していく。なかなか有効打が与えられない。くそ、このフクロウ回避率高すぎだ! でも、上空へと逃げようとすればハーレさんの木の実の投擲が当たり逃亡を阻害出来ているし、いつまでもは続かないだろう。次に麻痺毒で痙攣が発生した時が狙い時だ。

 俺とヨッシさんは下手に割って入ればこの状況では邪魔になるだけだ。今のうちに行動値の回復に専念しておこう。


「マズいな、もう麻痺毒が切れてるみたいだぞ!」

「え? もう切れてるの!?」


 アルの言うとおり、麻痺毒が切れたのかフクロウが痙攣する事はなくなっていた。少しずつ動きに精細さが戻ってしまっている。くそ、毒の効果時間はオフライン版より短くなってないか!? あの麻痺毒での痙攣の隙を狙っていたというのに!


 それでもフクロウは蓄積したダメージでサヤの一撃は躱しきれておらず攻撃は僅かに掠っているし、外れる事も多いとはいえハーレさんの木の実の投擲も逃亡阻止の役目は果たせている。だが、行動値という制限もある。特にハーレさんは木の実の個数にも限界があるだろう。このままだと行動値か木の実が尽きて逃亡されてしまう可能性が高い。


 フクロウが弱っていることは間違いないのに、仕留めきるにはあと1手足りない。ここまで追い詰めたなら仕留めてしまいたい。

 くそっ! 何かないか!? 行動値はぎりぎりだけど水の操作をまたやるか? でも水球じゃ場合によってはみんなの邪魔に……って、あれならどうだ!?


「ヨッシさん! フクロウの上まで運んでくれ!」

「うん、わかった!」


 何も聞くことなく、ヨッシさんが俺を小石ごと抱えてフクロウの上へと飛んでいってくれた。他のみんなの邪魔にならないように慎重にだ。

 ハーレさんに逃亡も封じられ、アルの捕縛しようとする根を掻い潜り、サヤの致命の一撃を避けるのに必死なフクロウの殺気立った視線が俺たちに突き刺さってくる。そんな目をしても知るか! むしろこっちがその目をしたいくらいだ! よし、フクロウの真上に到着した。


<インベントリから樹液を取り出します>


「これでも食らいやがれ!」


 アルの根とサヤの攻撃を避けるのに集中力の大半を使っているフクロウには真上から浴びせられた樹液を回避することは出来なかった。それどころか俺が樹液を取り出した瞬間、即座に突っ込んできていた。水を警戒して、捕まる前に水を突き抜けようとしたのだろうか。残念だが手の内は他にもあったんだよ! これならただの水よりも動きにくくなるだろ!

 そして思惑通りに少し粘着質な樹液を浴びたフクロウの動きが少し鈍っていた。その目は俺を睨みつけている。


「あはは、ケイさん凄い! それじゃ私も追撃だ! 『毒針』!」


 チャンスと見たヨッシさんも俺を抱えたままで追撃していたが、今回は毒は不発だった。確実に毒状態になる訳じゃないからこれは仕方ないだろう。よし、行動値もいくらか回復したし、俺も追撃と行こう! 微毒でも毒が入れば多少は効果があるだろう。


「ヨッシさん、合図したらフクロウに向けて落としてくれ」

「うん、わかった!」


 すぐに高度を上げ、再びフクロウの真上へやってくる。フクロウは攻撃を避けることに必死でこちらには何もしてこれていない。よし、次にサヤの一撃を躱した時に仕掛けてやる!


「よし、今!」

「うん!」


 合図と共に俺はフクロウ目掛けて落下していく。当たれば良いし、当たらなくとも隙を作れる。


<『微毒生成』が変異して『毒生成』へと変化しました>

<変異したため『微毒生成』は失われます>


 微毒生成を発動しようとしたら別のメッセージが出てきた。変異って、なんでこんなタイミングで!? まぁいい、もう落下中だしそのまま使うだけだ!


<行動値を1消費して『毒生成Lv1』を発動します>  行動値 3/10(−1)


 変異した『毒生成』を使って毒を纏い、サヤの攻撃を回避したタイミングで動きの制限されたフクロウは避けきれずに俺と激突する。フクロウがぐったりとして動きが僅かにだけど明確に鈍った。よし、これは毒が入ったぞ!


「ケイ! 今なにしたの!? 状態が微毒じゃなくて毒になってるよ!」

「土壇場でスキルが変異したんだよ! とにかく、これで決定的に動きが鈍ったぞ、今だアル!」

「おうよ!」


 『識別』で状態を確認したサヤが驚いていた。そりゃさっきまで持ってなかったスキルを使えば驚くよな。麻痺毒の方が明確な隙を作りやすいが、ここまで弱ったなら少し動きを鈍らせるだけの毒でも充分である。

 ともかくこれで逃げる力を大幅に削がれたフクロウはアルの3本の根によってガッチリと拘束された。これでもう逃げる事は出来ないだろう。


「サヤ、トドメは任せた」

「うん、任された! 『双爪撃』!」


 対戦ゲーム式でサヤと熟練度稼ぎをしていた時に新たに取得したサヤの両手の爪で同時に切り裂くという高威力の一撃がフクロウの命を奪い去る。そしてHPの無くなったフクロウは砕け散るように消滅していった。


<ケイがLv4に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<幼生体・暴走種を撃破しました。群集の長へと報告します>

<幼生体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<規定条件を満たしましたので、称号『幼生体・暴走種の討伐』を取得しました>

<増強進化ポイントを3獲得しました>


 戦闘が終わった瞬間に一気に色々と情報が出てきた。一気にLvが2も上がったし、ポイントも一気に手に入った。ついでに称号まで手に入ったな。


「あー疲れた……」

「ケイ、お疲れ様」

「手間がかかった分、報酬は美味いな。で、何時まで登ってるんだ、ハーレさん?」

「あ、ごめん! なんかここ居心地よくて、ついね! 今下りるよ!」


 ホッとしたような感じで完全に寛ぎ状態になっていたハーレさんが慌ててアルの枝の上から下りてくる。さてと思わぬ流れからの戦闘になってたけども本来の予定はどうなるのやら。



「助けてくれて、みんなありがとう!」

「私からもありがとう! お陰でまたバラバラにならずに済んだよ」

「気にしなくてもいいぞ。色々試せたし、色々手に入ったしな」

「そうそう、困った時はお互い様ってことよ!」


 ハーレさんとヨッシさんが揃ってお礼を言ってくる。2人だけのままなら執拗に狙われていたハーレさんは食べられて死亡でランダムリスポーンとなり、ヨッシさんは逃げ延びるか倒されるかのどっちかだっただろう。同じマップ内とはいえ再びバラバラになっていたのは間違いない。

 全く知らない相手なら放置するかもしれないけれど、合流予定の友人の友人をあの状況で放置する気にもならないしな。


「ねぇヨッシ、ハーレさんって……」

「サヤ、今から紹介するよ。リアルで何度か言ってた事はあるけど、この子は私の前住んでたところでの友達のハーレだよ! エリア分断されてたから連れてくるのに手間取っちゃった」

「あ、やっぱりそうなんだ。なんか変だと思ってたけどそれで昨日あんな風になってたんだね」

「うっ! それは忘れてほしい過去かな!?」

「ヨッシ! もしかしてこのクマのサヤって人って、前に言ってたあの人!?」

「そうだよ。引っ越し先で出来た新しい友達。ハーレってば、私に友達できるか心配してたじゃん! だから色々予定通りとは行かなかったけど、こうやって紹介出来てよかったよ」

「そっか、そっかー! サヤさんが新しい友達かー! サヤさんよろしくね!」

「こちらこそよろしくね。ハーレさん」


 お互いに挨拶し合って、顔見せ完了ってところか。軽く聞いてる感じでは会った事も話した事もなかったけれど、ヨッシさん経由でお互いの存在は知っていたみたいだな。あの人とかボカシているのはリアルの名前とかだろうな。

 色々あったけど、ちゃんと合流できて良かったもんだ。和気あいあいと女子同士で会話が進んでいる。まぁ見た目、クマとハチとリスだけど。うん、普通あり得ない組み合わせだな。


「ところで、あんな風になってたヨッシってどんな風になってたの?」

「えっとね、それはーー」

「サヤ、ストーップ! それは言わなくていいから!」

「えー、どうしようかなー?」

「聞きたい! サヤさん、教えて!」

「ハーレもその事は忘れろー!」


 早速仲良くやっているようだ。ヨッシさんとしては昨日の暴走と行き倒れは知られたくない醜態みたいだな。うん、気持ちはよく分かる。


「はは、元気がよろしいようで」

「アル、おっさん臭いぞ?」

「おっさん言うな、微妙に気になる年齢なんだからよ!」

「そうなのか。まぁ何はともあれ無事に済んだな」

「ま、ゲームだから死んでも問題ないんだが、あの3人見てたら無事で良かったとは思うな」


 結構厄介な相手だったけど、なんとか無事に倒せて良かったものだ。だけど、気になる事もちらほらある。これは後で情報共有板でも見て確認してみよう。


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