第23話 ハーレ救出戦


 ハーレさんの救出戦が始まった。急いで助けなければあの黒いカーソルのフクロウにあっさりと食われてしまうだろう。リスとフクロウの組み合わせは相性が悪過ぎた。


「サヤ、とりあえずヨッシさんとハーレさんをPTに入れよう」

「そうだね。その方が連携も取りやすいか」

「アルは『同族同調』でフクロウの様子を見張ってくれ」

「言われなくともとっくにやってるぜ!」

「流石、仕事が早いな」

「ヨッシ、ハーレさん、PT申請送るね」

「わかった!」「うん!」


<ヨッシ様がPTに加入しました>

<ハーレ様がPTに加入しました>


 新たにPTに2名が追加され、6人が上限のPT人数が後1人だけになった。この2人以外の他の誰かと合流予定は特にないので問題はないだろう。


「よう、俺は木のアルマースだ。今はそこにいないけど、スキルで様子は見てるからよろしくな!」

「あ、待ち合わせ場所の木の人か!」

「いや間違っちゃいないけど、その認識ってどうなんだ?」

「だってサヤからは待ち合わせ場所に木の人がいるとしか聞いてなかったから」

「ねぇ!? 私、食べられかけてるんだけど放置してその会話なの!?」


 敵に追われてとはいえ合流できたことで少しホッとして気の抜けた様子のヨッシさんと、待ち合わせ場所としか認識されていなかった事になんとなく不満を覚えているようなアルの妙な会話に1番必死になっているのはハーレさんであった。絶賛大ピンチの最中なのだから必死になるのも当然だろう。


「つってもなぁ、現状でどう対処したもんか……」

「飛べるフクロウ相手じゃ分が悪いかな? 多分攻撃さえ当たれば仕留められそうな気はするけど」

「……私の針は通じなかったしね」


 植わっている場所から動けないアルに、攻撃力と俊敏性はあるが飛ぶ相手には当てるのが難しそうなサヤ、そして羽毛に阻まれて攻撃の届かないヨッシさん、捕まって暴れるしか出来ないハーレさんと、中々に厳しい状態である。


「……このフクロウ、所属が暴走モンスターってなってるよ。進化階位は幼生体・暴走種だね」

「暴走に進化階位ありってことは一般生物じゃなくて完全にモンスターって訳か。暴走したモンスターが黒いカーソルってことなのかもな」


 サヤが『識別』を使って相手の情報を読み取ったようだ。これがオンライン版における敵なのかもしれない。まだ情報は足りていないが、その辺を考えるのは後回しだ。それにしても幼生体か。幼生体だと比較的実在の生物の性質に近いんだよな。


「フクロウか……あっ!」

「……ケイ?」


 フクロウで羽毛といえば……。いい案を思いついたかもしれない。上手く行くかどうかは分からないけどやるだけやってみるか。いやはや水の補給しといて正解だったか。


「アル、フクロウの機動力を落とせば根で捕獲出来るか?」

「ん? それくらいなら出来ると思うぞ」

「よし。サヤはその状態なら仕留められるよな?」

「流石に捕獲されてたら外さないよ」

「ヨッシさんは、ハチだし多分毒持ちだよね? 何がある?」

「えっと、微毒と麻痺毒かな。でも針は届かないよ?」

「ふむ、なるほどね」

「ちょ!? このフクロウ、なんでこんなに執拗に私を食べようとするの!?」


 うん、早く助けたいとこだけど確認してからじゃないと動けないからハーレさん、頑張って耐えてくれ。フクロウって小動物食べるらしいから、リスは絶好の獲物なんだと思うよ。

 みんなに聞いた感じでは出来そうだな。後は俺がちゃんと攻撃を当てて、フクロウの機動力を落とせられるかが問題だ。


「俺が奇襲仕掛けて、フクロウ弱らせるからサヤは陽動しながらハーレさんの救出を。ヨッシさんは麻痺毒の用意しつつ、サヤと一緒に陽動をして。ハーレさんは、解放されたらこの先の木のアルのとこまで逃げて」

「なんか策があるんだね。うん、わかったよ」

「私は麻痺毒か。うん、ここはケイさんを信じるね」

「逃げるだけで良いんだね!? 早く逃げたい!!」


 この会話の最中にもフクロウは待ってはくれず執拗に食べようと襲い続け、ハーレさんは必死に食われないように抗っている。救いは何故か飛んだままで食べようとしている点か。どこかに止まって一気に仕留めに動かれたらどうしようもない。

 でも、今のままでもフクロウの鋭い脚に捕まっているハーレさんのHPはどんどんと減っている。そんなにもう猶予はない。急がないとマズいな。


「で、俺はハーレさんを追いかけてくる機動力の落ちたフクロウを捕らえれば良いわけだな?」

「おう、アル頼んだぞ」

「そっちこそ失敗すんじゃねぇぞ!」

「それじゃ作戦開始!」


 俺の号令に合わせてみんなが行動を開始した。今の会話の間に行動値が回復してくれた。これがないと何も出来ないからな。


<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します> 行動値 9/10(−1)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 8/10(−1)


 俺はひとまず、フクロウからは死角になると思われるフクロウの背後のコケへと移動する。フクロウはハーレさんを食うのを最優先しているのか、あまり周囲には警戒していないようだ。かといって簡単に攻撃を受けてくれる訳でもない。


「『爪撃』!」

「『毒針』!」


 サヤとヨッシさんがフクロウへと攻撃を繰り広げていくが、さらりと飛んであっさりと躱されてしまう。まだだ、空中を飛び回っている間は避けられる可能性が高い。狙うのはハーレさんを仕留める為に何処かに止まった時だ。

 よし、思ったより早く木に止まったな。攻撃を受けるのが鬱陶しいのか? ともかく狙うなら今だ!


「あぅ! あ、あ、食べられるー!?」


<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します> 行動値 7/10(−1)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 6/10(−1)


 フクロウの止まった木の近くのコケへと移動する。位置的にはフクロウの後方の下辺りになるか。ここからは時間との勝負だ。水は1個でバケツ一杯分くらい。2つくらい使うほうが良いか。


<インベントリから小川の水を取り出します>

<インベントリから小川の水を取り出します>

<行動値を4消費して『水の操作Lv3』を発動します>  行動値 2/10(−1)


 取り出した水を即座に支配下に置き、水球になるように操作する。よし、フクロウはハーレさんを仕留める事に注意が行ってるし、死角になる位置だ。気付いていないな! よし、食らえ!


「わっぷ!?」


 俺の操作した水球は方向的にハーレさんにも当たってしまったが、すぐに水球の範囲から出た。ちょっと濡れるくらいは勘弁してくれ。

 そして突然死角から現れた水球に脚を包まれたフクロウは慌てて脚で掴んでいたハーレさんを離した。フクロウは水球から逃れようと飛び立とうとするが、逃がすわけにいかない。狙いはフクロウを水球の中に閉じ込める事なのだ。

 移動速度を重視すると支配時間が短くなるんだが、逃げられては意味はない。だから現時点の最高速でフクロウにぶち当てる! ただし勢いをつけすぎて弾き飛ばさないようにだけは注意しなければならないが。


「ぷはっ! なにこれ!? 水の球!?」

「ハーレさん、走って逃げろ! サヤは誘導を頼む! フクロウ、お前は逃がさねぇ!」

「助かったー!? コケの人、ありがとー!」

「まだ終わってないよ。とにかく今は逃げよう!」

「そだね。サヤさん、どっちに行けばいい?」

「こっち、着いてきて!」

「うん、わかった!」


 急に出現した水球にハーレさんは驚いていたようだが、解放されたと認識するとすぐに逃げる事に意識を切り替えた。よし、第一段階のハーレさんの解放は完了。

 フクロウもうまいこと水球の中に閉じ込める事に成功した。フクロウは暴れながら水の中を飛ぶように移動しようとするが、それに合わせて水球の位置をずらしていく。水の中でも飛ぼうとするって無茶苦茶だな!


 速度を重視したせいか思った以上に早く水の支配の効果が切れた。ちっ、そうは上手くはいかないか。しかしフクロウも息が出来なかったせいか、動きが多少鈍っている。そしてフクロウの防御の要である羽毛は水分を吸って、体積を大きく減らしていた。フクロウって水を被ると凄い細くなるんだよな。


「なるほどね、これなら針も届きそうかな! 『毒針』!」


 水に濡れてほっそりとした姿になったフクロウにヨッシさんの攻撃が迫る。濡れた羽毛では本来の防御力の本領は発揮しないのだろう。それを裏付けるようにヨッシさんの攻撃はフクロウへと届いていた。

 ヨッシさんの一撃を受けたフクロウがビクッと動く事があるのを見れば、麻痺毒はきちんと効いたらしい。とはいえ、まだレベルが低いから麻痺毒でも時々痙攣させて動きを阻害する程度だ。ここで初めてフクロウはヨッシさんを敵と認定したのか、狙いを変えてきた。


「わっ!? こっち来た!?」

「ヨッシさんもアルのとこに逃げろ!」

「ケイさんは!?」

「行動値がもうほぼないから置いていっていいぞ。やり過ごすだけならなんとかなるし、回復したら戻るしさ」

「助けてくれたのに、それは出来ないって! なんか方法ない? あ、あの石で飛んできてたのは出来ない?」

「出来なくはないけど……」


 ヨッシさんがフクロウからの猛追を躱しながら、俺も連れて行く方法を聞いてきている。俺の役目はここまでだとは思うんだが、置いていって逃げる気は全くなさそうだ。これは素直に運ばれる方が早そうだな。ハチでも持ち運べそうな大きさのそこらの小石に移るか。


<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します> 行動値 1/10(−1)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 0/10(−1)


「しゃーないな。この小石を持って運んでくれ」

「よし、これだね。飛ばすよ!」


 ヨッシさんに抱えられ、濡れて機動力が落ち更に麻痺毒を受けた怒れるフクロウに追われながら、アルの元へと飛んでいくのであった。まぁ、大した距離でもないが麻痺毒が切れる前にアルの元まで辿り着かないとな。

 『一発芸・滑り』でも戻れなくはないんだけど、あれを使ってる最中ってスキル発動中だから行動値が回復しないんだよな。行動値1で戻って何をしろと?

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