第22話 黒いカーソルのモンスター


 しばらく『水の操作』の熟練度上げをしているといくつかLvが上がっていた。今は『水の操作Lv3』になっている。Lv3になった時点で消費行動値が4に減って、Lvが上がるに従って操作もやりやすくなっている。もちろん多少慣れたということもあるだろう。

 という事で熟練度稼ぎの方法を変えてみた。


「こっち! えい! やっ!」

「おーすげぇな、サヤ」


 ある程度の速度で操れるようになったのを見て、サヤが1つの提案をしてきたのだ。俺が水の操作で水球を作り、サヤがそれを叩き落とすというものである。とりあえず1回お試しでやってみたら結構良い感じにサヤが爪で水球を破裂させていた。


「ふふっ! ケイ、まだまだ遅いんじゃない? 楽勝すぎるよ」

「言ったな! もっと速度上げてやる!」


 Lvが上がって少し操作がしやすくなった為、同時に水球を2つ作れるようにはなっていた。だけどまだまだ遅いので簡単にサヤに叩き落とされてしまっている。うん、この対戦ゲーム方式は黙々と1人で熟練度稼ぎするより遥かに楽しい!


「サヤもケイも楽しそうで良いな……。俺は1人でちまちまやるしかないのによ……」

「アルももうちょい根が動くようになったらやろうぜ? これ楽しいぞ!」

「くっそ! さっさと参加できるまでになってやる!」


 その悔しさを表すかのように、アルが練習用に地面から出している根が打ちつけるように激しく動いている。アルの根も結構動くようになってきた。なんとも感情豊かな根だな。さっきまで項垂れながらフラフラと揺れてたのにな。


<規定の条件を満たしたため、スキル『夜目』を取得しました>


「お、『夜目』ゲット」

「いつの間にかそんなに時間が経ってたんだ?」


 サヤと対戦風に熟練度を稼いでいるうちに目的のものが手に入った。って事は大体1時間くらい経った訳だ。意外と時間の流れを早く感じたな。とりあえず早速オンにしておこう。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 10/10(−1)


 微妙に表記が変わった。なるほど、こう表示されるのか。そして夜目の効果はどうかといえば、これはかなり見えやすさが違う。行動値の最大値が1減っててもこれは使っておくべきだな。


「よし、水も底突きたし『夜目』の慣らしがてら水の補給してくる」

「おう、行ってこい!」

「私も行こうか?」

「いや水だけだし、ひとりでいいよ」

「そっか、じゃあ待ってるね」


 とりあえずサクッと水分補給をしてこよう。あと水の保有上限個数も調べておこう。インベントリは100枠あるからあり過ぎても圧迫して困るけど、結構水は使いそうだもんな。それなりの量が欲しい。


 『一発芸・滑り』で最速移動。川へ行って水を補給して帰ってきた。うん、水の補給自体はこれまでと同じだから特筆すべき事はなし。川の水の入手上限は20個だった。もっと多ければ『一発芸・滑り』で入手しまくりたかったのに残念……。まぁインベントリの空きも考えればこんなもんで良いか。

 本日分の群体化による融合進化ポイントも3ポイント確保してきた。『一発芸・滑り』だけで移動してる途中で思い出して良かったよ。危うく取り忘れるとこだった。


「戻ったぞー!」

「ケイ、おかえり」

「サーーー! 近ーーいるー!?」

「サヤさんよ、なんか呼ばれてるぜ」

「え、ほんと? ヨッシかな?」



 アルとサヤのところに戻ってきてすぐに何処からともなく薄っすらと声が聞こえてきた。まだ距離が遠いのか、僅かに聞こえてくる程度で正確な内容は聞き取れない。声が聞こえて来たのは崖の無い側からか。俺もアルもサヤも3人揃って静かになる。

 段々と近づいて来て、ようやく内容が聞き取れるようになってきた。


「サヤー! 近くにいるー?」

「あ、やっぱりヨッシだ! おーい、こっちだよー!」

「返事あった! あっちだね。ハーレ、行くよ!」

「ちょ、ちょっと待って!? あわっ!?」


 どうやらサヤの返事も向こうに聞こえたようだ。なにやら会話のようなものが聞こえてくる。ただし、なにやら慌ただしく、焦った感じではあるが。


「……なんか様子が変だね? ケイ、お願い出来る?」

「いいよ、どれどれ?」


 群体化Lv2を視覚延長Ⅰで倍率2倍にして範囲指定画面でストップっと。これ、範囲指定を確定せずにキャンセルすると行動値消費せずに望遠鏡代わりになるんだよな。マップ埋めの時に色々試してて気付いた。地味に便利そうな小技なので、さっきサヤとアルには教えておいたのだ。

 あーこれでぎりぎり薄っすらと何かが飛んでるのが見える程度か。こりゃもうちょい近付いてこないとわからんな。


「うん、まだ見える距離じゃないな」

「地味にズルいよね、そのケイのキャンセル技」

「頼んどいて言うことでもない気がするけどな?」

「あはは、それもそうだね。あ、見えてきたね」

「とりあえずハチとリスのプレイヤーが追いかけられてるみたいだな。追いかけてるのは、フクロウか……?」

「ハチはヨッシだね。もう1人は誰だろ? フレンドになった人かな?」


 多分リスの人はヨッシさんのもう1人のリア友だろう。やっぱりこのサヤの様子だと連れてくるとは聞かされてないな。

 そしてサヤでも姿が確認出来る距離になれば、俺はもっとはっきりと見える。様子が変なのは追われているからだろうな。でも、なんで追われてるんだろうか? フクロウの人でも怒らせた? ってあれ?


「なぁ、サヤ」

「なんか変なものでも見えた?」

「黒いカーソルってなんだっけ?」

「黒いカーソル? そんなのなかったと思うけど」

「なんかそれは気になるな。ちょっと情報共有板を覗いてみるか」

「私はヨッシを迎えに行ってくるよ。ケイはどうする?」

「サヤと一緒に行くよ。なんかあのフクロウが気になるし」


 どうにも様子が変なのが気になる。黒いカーソルももしかしたら敵対勢力とかそんな感じかもしれない。ゲームなんだから何かしらの敵がいる筈だけど、プレイヤー以外には雑魚としか言えない一般生物しかまだ見ていない。オフライン版だと他種族のモンスターが敵だったけれど、オンラインになってどう変わっているのかがまだわからない。


「よし、ならケイは小石に移ってね」

「え、マジか? 俺、咥えられて登場なの?」

「違う、違う。投げて先制攻撃だよ。多分、あれは敵だろうしね」

「サヤもあれは敵だと思うか?」

「そりゃね。『黒の群集』なんてのがあるんなら初めから選択肢にあると思うしね」

「お二人さんの敵だっていう推察は当たりっぽいぜ? 情報共有板で黒いカーソルのモンスターに襲われたって案件報告がいくつかあるぞ!」


 アルが情報共有板で黒いカーソルのモンスターの情報を探ってみてくれたが、同様の状態が色んなとこから報告があるらしい。撃退済み、交戦中、敗北済みなど色々あるそうだ。負けた人もいるという事は一般生物とも違うと思って間違いない。ならば攻撃あるのみか!


「サヤ、助けてー!」

「危なっ!? また食べられかけたー!?」


 ヨッシさんがフクロウに突撃して牽制しつつ、リスの人は全力で逃げていた。どうやらリスの人が獲物としてフクロウに狙われているようだ。これはどう見てもプレイヤーの動きじゃないな。仮にフクロウがプレイヤーだとしても敵認定で問題ないだろう。ってことで救援に向かおう!


<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します> 行動値 9/10(−1)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 8/10(−1)


 これで小石への移動は完了!


「行くよ、ケイ」

「おうよ! 一発食らわしてやる!」


 小石のコケに移った俺をサヤが小石ごとフクロウに目掛けて放り投げる。やる事は鹿を狩った時と同じである。


<行動値を1消費して『微毒生成Lv1』を発動します>  行動値 7/10(−1)


 勢いよくフクロウへと微毒を纏ったコケのついた小石が直撃した。直撃そのものの威力はさほど無い。だが、それがメインではないのだ。ふふふ、食らうがいい。微毒体当たり戦法を! ってあれ!? 直撃したのに全然効果なし!?


<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します> 行動値 6/10(−1)

<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 5/10(−1)


 とりあえず小石から地面のコケへと移動する。直撃した以上、効果があろうがなかろうが落ちるだけの小石に残っていても仕方ない。移動したのはヨッシさんの近くのコケだ。


「直撃した筈なのにダメージが通らないな?」

「そこにいるの、コケの人なの!? そっか、サヤがフレになったって言ってたもんね。救援ありがと。そのフクロウ、羽毛が分厚くて衝撃も私の針も通らないんだよ」

「なるほどね、そういう事か」


 ヨッシさんが何故逃げて助けを求めてきたのかいまいち理由がわかってなかったけど、どうやらハチの攻撃は防御力の高い羽毛によって遮られてしまっているようだ。


「え!? コケの人いるの!? マジで!?」

「あ、どうも。コケの人ことケイです」

「私はリスのハーレだよ! よろしく、ケイさん! って、うわっ!? 助けてー!?」

「ハーレさん!? 呑気に自己紹介もさせてくれないってか、フクロウさんよ!」


 なんだかコケの人って言葉に食いついてきたリスのハーレさんがフクロウに捕まった。駄目だ、あれは今にでも食われそう。ついでに空中を飛ばれてしまい手出しがしにくい。いや元々飛んでたし、石が当たったのは奇襲だったから上手く行っただけか。飛んでる鳥に石を当てるとか普通にやれば難易度高いわ。


「みんな大丈夫!? って大丈夫じゃなさそう!?」

「クマの人ー! お助けー!?」


 俺を投げてから追いかけてきたサヤが合流してフクロウの脚でがっしりと捕まえられているリスのハーレさんを見て驚いていた。風前の灯火となっているリスのハーレさんを見たら確かに驚くだろう。早く助けなければ食われてしまう。まぁ食われてもリスポーンしてポイントも貰えるから悪い手段でもないんだが。


「そういやリスポーンって場所はどうなんの?」

「あ、そういやどうなんだろ? アル、知ってる?」

「あぁ、それか。気にはなってたけど、情報なかったからな。でもついさっき判明したっぽいぞ。同じエリア内でランダム位置にリスポーンだとよ」


 情報共有板で敗北済みって人もいたって言ってたからその人からの情報なのだろう。拠点が存在していない以上、リスポーン位置がランダムなのも仕方ないか。何度も同じ場所で死にまくってポイント稼がれるのも問題だろうし、同エリアなだけ良しとしよう。


「同エリア内でランダムリスポーンか。まぁ死んでもどうにかなるか?」

「えぇ!? ようやく合流出来たのにまた1人はやだ!!」


 俺の言葉に慌てながらもハーレさんは食べられないように必死で暴れている。多少は効果があるのか、まだ食われてはいない。何度かフクロウのクチバシを蹴飛ばして食べられるのを回避していた。

 ハーレさんとしてはエリア分断されてたのがようやく合流出来て、その直後にランダムリスポーンでまた離れ離れになるのは流石に嫌か。まぁ俺も同じ状況なら絶対に嫌だな。


「サヤ、いきなりこんな状態でごめん」

「別にいいよ、ヨッシ。ところであのリスの人ってもしかして……?」

「サヤの想像通り。紹介は改めて後からでいい?」

「あーそういうのは後にしよう、サヤ、ヨッシさん。早く助けないとハーレさん食われるぞ?」

「そうだね。合流早々だけど、ハーレさん救出戦の開始だね!」


 そのサヤの宣言により、リスの人ことハーレさんの救出戦が始まった。

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