第11話 森の惨劇


 せっかく他のプレイヤーに出会えた事だし情報交換をしていこうかね。アルが声をかけてくる直前に気になったことも、ここに居てまだ移動できないアルなら知っているかもしれないし。


「ところで、知ってたらで良いんだけどちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「おう、何でも聞いてくれや!」

「それじゃ遠慮なく。さっきまでサヤとLv上げしようとウロウロしてたんだけど、妙に一般生物が少なくてさ。でも、ちょっと前までは居たような痕跡は残ってたんだよ。その辺なんか知らない?」

「あーそれか……。一応、心当たりはあるけど、あれはなぁ……」


 どうやらアルは何か知ってる様子だけど、なんだか歯切れが悪い言い方をしている。何か言い辛い事でもあるのだろうか? 


「何か問題あるんだったら無理には聞かないけど? だよね、ケイ?」

「そうだな。隠したいような内容なら別に良いよ」

「あー違う違う、そういうんじゃねぇよ! ただ、どう説明したもんかなと思ってよ」

「……? どういう事?」


 アルの言い方に疑問を感じたサヤが眉間に皺を寄せる。あ、やべぇ、クマでそんな表情されるとすげぇ怖い。あ、その目でこっちを見ないで……!?


「なぁ、ケイさんよ。サヤさんは何か怒ってるんか?」

「アルさんよ、あれはただ考え込んでるだけだから怒ってはいないぞ」

「なるほど、そうなのか。流石にクマなだけあって中身が入るとすげぇ迫力出るな」

「そうそう、オフライン版と違ってリアルな迫力が出てるっていうかーーあっ……」

「どした、ケイ? あっ……」


 俺とアルが小声でそんな事を言い合っていたらサヤが拗ねるように座り込んで俯いてしまっている!? 見た目クマとはいえ、中身はちゃんとした人間だ。しかもサヤは多分同い年くらいの女の子だ。そんな相手に男二人して怖いだの迫力あるだのは流石にデリカシーに欠けていた!


「……サヤ、なんかゴメン」

「俺も悪かった。スマン!」

「……もう言わない?」

「「言わない!」」

「……ならいいよ」


 サヤは拗ねて座っていた状態から立ち上がってくれた。ふー良かった。結構しっかりしてると思ってたけど、意外と繊細な乙女心だったか。以後気をつけよう……。でも偶になら……。うん、色々と考えてる事を悟られないうちに思考を切り替えよう。


「それでどういう事なの、アル?」

「簡単に言うとだな、ありゃプレイヤーの暴走の結果だな。ハチのプレイヤーだったから暴走ってのもなんか違う気もするが、まぁそこは気にすんな」

「プレイヤーの暴走ねぇ? なんでそんな事になってたんだ?」

「あー俺も聞いてみようと呼び止めてみたんだけど、一切眼中になしって感じで無視されたぜ。鬼気迫るってのはああいうのを言うんだろうな」


 あの森の一般生物の姿の見えなさはハチのプレイヤーが暴走していたのが原因だとはね。でも1人のプレイヤーが暴れたところでどうにかなるもんなのか?


「……ハチのプレイヤーか」

「サヤ、どうした?」

「いや、なんでもないよ。……まさかね?」


 何か気になる事でもあったんだろうか? いや、気になって当然か。お陰でこっちは一般生物の探索に支障が出てるんだしな。……運営的にはどうなんだろうか、その辺の行為って。


「なぁ、アル。それってなんかの違反行為にはならないのか? 正直、ちょっと迷惑な事になってるんだけど」

「それがなぁ、一応運営に問い合わせてみたんだが『ただ飛び回っているだけだから違反行為ではない』って返答だったぜ。何度か見かけたけど、実際ただ闇雲に飛び回ってるだけなんだよな。殺気が凄くて逃げ隠れる一般生物が続出だけどな」

「……何度か見かけたってのは?」

「いや、俺も暇だったから『同族同調』を使いまくって周りの木の視界で色々調べてたんだけどさ。あちこちで何度も見かけるんだよ、そのハチのプレイヤー。何してんだか知らんけど、広範囲をひたすらに飛び回ってるみたいだぜ」

「へぇ?」


 聞けば聞くほどよく分からないな? そりゃ説明しにくい訳だ。他のプレイヤーの呼びかけも無視してひたすらに鬼気迫る様子で一般生物を脅かす暴走するハチ……。うん、出来れば出会いたくないプレイヤーだ。

 

「それ、マップの解放を狙ってるんじゃないかな?」

「そうかもな。それはそれで迷惑な感じだけど」

「あはは、確かにね」


 サヤが言う可能性もあるかもしれない。でも流石に鬼気迫ってやるほどの事でもない気がする。そうそう、マップといえばだ。


「そういや結構移動したのにマップが解放される気配はないな」

「そういやそんなのあったっけな? お二人さんは、マップ解放を狙ってたのか?」

「そりゃあった方が便利だしね」

「だよな。それにしても全然解放されないのも気になる……」

「便利なのは分かるが、今の俺には無用の長物ってもんよ。動けんし」


 確かにアルの言う事も一理はある。スキルが増えて初めて移動が可能になる植物系モンスターには序盤にマップなんか必要ない。進化しても進化階位が低いうちは移動速度は他より遅いのも特徴だ。でも、これはオンラインゲームだ。個別の項目は変わっても流石にマップまで取得時期が違いすぎるというのも変な気はする。


「こりゃ、マップの解放条件は変わってる可能性が高いか?」

「やっぱりケイもそう思う?」

「お二人さん、どうしてそう思ったんだ?」


 サヤも俺と同じように考えていたみたいだけど、アルはいまいちピンときていないようだ。まだ移動できないから仕方ないといえば仕方ない。


「まぁ単純に移動距離は確実にオフライン版から伸びているのは決定だろ。あと、アル見てて思ったんだけど、流石にオンラインで植物系のみマップ利用は先延ばしってのも変じゃね?」

「あ、それもそうか。マップで現在地の座標すら分からないんじゃ他のプレイヤーとの遭遇はケイとサヤに遭ったみたいに偶然に頼るしかねぇもんな!」


 よし、ちゃんとアルにも俺の推測は伝わったみたいだ。だからといって変更されているって推測だけだから、実際の条件は分かんないままなんだけどなー。


「でも、それなら初めから解放しておいてほしいよね。マップが初めからあれば私もリア友とはぐれる事もなかったんだし」

「「そりゃそうだ」」


 俺とアルの声が重なっていた。確かにサヤの言う通りでもあるんだよな。そしたらあのハチのプレイヤーの暴走もなかったかもしれない。いや、動機は推測でしかないから実際のところは分からんけど。

 でもまぁ、そのおかげでサヤやアルとこうやって知り合った事を考えれば案外悪いことでもないのかもしれないな。



<システムメッセージ:外部からの呼びかけがあります。接続しますか?>


 そう感慨深く思っていたらVR機器本体の赤いメッセージが視界に浮かび上がってくる。呼びかけてくるって、誰が……あ、もう7時過ぎてる!? しまったな、完全に時間を忘れてた。


「サヤ、アル、悪い。ちょっと呼ばれてるから一旦ログアウトするよ。多分、晩飯関係」

「おうよ。飯食ってこい!」

「え? もうこんな時間なの!?」


 俺の発言にアルは軽く答えて、サヤは時間を確認したのか少し慌てているようだった。何か用事でもあったのか?


 外部からの呼びかけや異常があればこのようにゲーム内部へのメッセージが出てくるようになっている。初期のVR機器ではこの手の機能が不十分で色々とトラブルもあったらしく、設定上からでもオフに出来ない機能になっている。


 サービス開始直後からやっていつの間にやら結構な時間が経ってしまっていたらしい。楽しい時間というものはあっというものだ。


「晩飯食ったら俺は続きやるけど、どうする?」

「ごめん、ちょっと用事があるから今日は厳しいかな?」

「サヤは用事で無理か、仕方ない。アルはどうだ?」

「俺はちょっと前に飯食って来たばっかだから問題ねぇぞ。どうせ一人暮らしだしな」

「それじゃ戻ってきたら植物同士、情報交換ってのはどうだ?」

「そういやコケも植物といえば植物か。いいぜ、その提案に乗ろうじゃねぇか!」


 よし、これで飯食った後の予定は決まった。それじゃ一旦ログアウトしてーー


<システムメッセージ:身体に衝撃を感知。強制ログアウトを実行します>


 あ、強硬手段に出やがった!? くそっ! ちょっとくらい待てっての!


「身体揺すられて強制ログアウトになっちまった! それじゃ!」

「うん、またね!」

「おう、また後でな!」


 サヤとアルに慌てての挨拶をしてから、俺は強制ログアウトされるのであった。


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