第10話 新たな出会い


 サヤが俺を咥えてあちこち歩き回り、俺も何度も投げられて上空から索敵をするがいまいち結果が良くなかった。


「なぁ、いくらなんでも見つからなさ過ぎじゃないか?」

「確かにね? でも元々いないというよりは……」

「何かに怯えて隠れちまってるって感じだよな?」

「何かあったのかな?」


 サヤも不自然さを感じているようで、不思議そうな声音をしていた。表情はクマなのでよく分からない。

 周囲の様子を見てみると不自然に抉れた土や、巻き上がった木の葉、折れた小枝などの生命を感じさせる様子はある。オフライン版ではこの手のエフェクトはそのうち元に戻っていたが、オンライン版はどうなんだろうか? 


「おーい、そこのクマの人!」


 そこに何処からともなく声が聞こえてきた。男の声っぽいな。声の感じから少し年上くらいか。聞こえた声の出処は少し遠いかな……?


「サヤ、呼ばれてるぞ?」

「みたいだね。あっちの方かな? 他のプレイヤーかな?」

「行ってみるか?」

「そうだね、何があったか見てたら教えてもらいたいし」

「俺はどうしようかな?」

「一緒に来たらいいんじゃない? 多分、ケイに気付いてないだけだと思うし」

「それもそうだな。よし、群体化で移動しよう!」


 サヤに運んで貰うのもありだが、ここは敢えて群体化で登場といこうじゃないか。せっかくのコケだ。情報が広まる前に驚かせるのも面白いだろう!


「……何する気?」

「いえいえ、ただ咥えられて石に引っ付いて初登場ってのもどうかと思ってね?」

「で、本音は?」

「はい、折角だからちょっと驚かせてみるのも面白いかなーっと……」


 何故バレた!? 少しくらい良いじゃないか! 折角良いこと思いついたのに!


「別に驚かせるのは駄目とは言ってないけど、転ばせたら駄目だからね?」

「あ、それは流石にしないって」

「そう? なら良いよ」


 よし、サヤの許可は得た! さてさてまだ見ぬプレイヤーよ、覚悟せよ! ……あれ、なんで俺の行動にサヤの許可がいるんだろうか?


「先に行ってるね」

「おう、俺は仕込みしてから行くよ」


 さて、サヤは声を掛けてきたプレイヤーの方へと向かっていく。まぁ仕込みといっても大したことをする訳じゃない。ただ普通にスキルを使うだけさ。ふふふ。さて、群体化と群体内移動をフル活用だ!


 コソッとサヤの死角になる位置に群体化で移動して、後を付いていく。


「お、クマの人は来てくれたのか! さっきの奴は無視して飛んでいったからなぁ……」

「えーと、この木かな? アルマースさんか。初めまして」

「気軽にアルって呼んでくれていいぜ! そっちはサヤさんか、宜しくな! それにしても、すぐに木だと気付いてくれるとは嬉しいねぇ! 折角のオンラインなのにいきなり木で移動できなくて暇で暇で……」


 そびえ立つ崖の少し手前に植わっている木が呼びかけてきたプレイヤーの人らしい。カーソルは灰色って事は同じ『灰の群集』所属か。まだ二人目の遭遇プレイヤーだけど、もしかして群集毎にある程度固まってるのか?

 さてさて、とりあえず仕込みの下調べといこうか。まず崖の根本にはゴツゴツとした岩が転がっている。もちろんコケ付き。この森、どこに行ってもコケがあって助かるわー。ちょっとこの辺のコケは萎びてるのが気になるけど、問題なく群体化は出来た。よし、これで仕込み完了。

 

 この木の人の気持ちもよく分かる。序盤の植物系は動けるようになるまでは作業ゲーだし、どうしても周辺の回復待ちで暇になるんだよな。それを考えると群体化で移動出来るだけコケは良いのか?

 うーむ、それはそれでなにか違う気もする。よし、暇だったと言うならば俺がーー


「で、そっちのコケ?の人はケイさんか! それ、コケで合ってる? 実はコケを背負っただけの虫とか言わないよな? ってあれ、消えた!?」

「あーあ、あっさりバレてるね」


 くそ、何故バレた!? 初見で見抜かれるとは想定外だ! 咄嗟に木の人、えーとアルマースさんの背後のコケに群体内移動で移動したけど、どうする!? やるだけやるか?


「ケイ、諦めて出てきたら?」

「ん? まだ近くにいるのか。サヤさん、どんな移動手段なんだ?」

「それはですね。えっとーー」


 あ、サヤにネタばらしされそう!? ええい、迷ってる場合か!


「ふふふ、よくぞ」


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 10/11


 アルマースさんの背後から正面に移動!


「見破った!」


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 9/11


 今度は右側!


「そうとも」


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 8/11


 もういっちょ、左側!


「俺こそが」


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 7/11


 崖の上の方へと行きまして


<インベントリから小川の水を取り出します>


 水を放出!


<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 6/11


 そして最後は正面の大岩へ!


「コケである!」


「……ケイ、自分が滑らなくても良いんだよ?」


 アルマースさんの周囲を前後左右ランダムに移動するようにしながら群体内移動を繰り返し、喋りながら登場した。最後は崖の上の方にあるコケに移動してから小川の水を取り出して滝のような演出をバックに、岩のコケに出現するのだ!

 ホントはホラー風味にじわりじわりと近付いていくメリーさん風をやりたかったんだけどなぁ……。


<規定の条件を満たしたため、スキル『一発芸・滑り』を取得しました>


 ちょっと待て、そんなスキルあんのかよ!? やった俺も俺だけど、まさかスキルが取得出来るとは思わなかったぞ!? しかも滑りかよ!


「わははは! 何やったんだ、今の!? あちこちから声が聞こえてきたと思ったら、最後には水が上から降ってきた上にそこの岩場かよ! なに、コケって瞬間移動でも出来るのか!?」


 思いの外、アルマースさんには受けていた。いや、違うな。あれは受けたんじゃなくて、スキルの方に興味があるだけか……。やっぱり滑ったって事か。


「まぁ条件付きの瞬間移動みたいなもんかな。てか、今ので『一発芸・滑り』とかいうスキル手に入ったんだけど……」

「なんだそりゃ!? そんなのまであるのか! 随分と面白い奴じゃねぇか、気に入ったぜ。改めて自己紹介だ、名前はアルマースで見ての通りの木だ。ケイさん、宜しくな!」

「最初からバレてたみたいなんであれだけど、俺は見ての通りコケだ。ケイで良いよ、アルマースさん」

「俺もアルでいいぜ。サヤさんも随分と面白い奴と組んでるもんだな!」

「あはは、私もそう思う。あとサヤでいいよ。ねぇ、折角だしフレンド登録しない?」

「おぉ、俺としては願ったりな事だ!」

「俺もいいよ。アルはなんか面白そうだ」

 全員の意見の一致により、それぞれがフレンド登録をする事になった。これで初日にしてフレンドが二人になった! こういう所こそオンラインの醍醐味だよな!


「ところで、いきなりなんだがケイとサヤはリアル知り合いかなんかか?」

「ケイと知り合ったの、ゲーム始めて少しした頃くらいだけどね」

「そうなのか? てっきり元々の知り合いかと思ったぞ?」

「私は元々一緒にやる予定だったリア友がいたんだけど、まぁ色々あって一緒にケイと行動中ってとこ」

「ふーん、そういう事もあるか。声かけた時に見た感じだと、仲良さそうだったからてっきり元々知り合いかと思ったぜ」


 へぇ、周りから見たら俺とサヤってそんな風に見えたのか。まぁ思った以上に意気投合している自覚はあるけどな。初めて会った気がしないっていうかさ。……って、ちょい待った。なんか気になる台詞があったぞ?


「なぁ、アル。声をかけた時に見たってどういう事だ?」

「あ、それな。この木の『同族同調』っていう固有スキルなんだよ。一般植物なら、ある条件を満たせば視覚やら聴覚やらを共有出来るっていうスキル」

「ほう、中々便利そうなスキルな事で。でも固有スキルじゃどうにもならんな。つまりは最初から二人組だったってことはバレてた訳か」

「そゆこと。なんか計画してたみたいだけど、あれでも充分驚いたぜ? まぁ本命潰しちまったのは悪かったよ」

「そういや本命って感じじゃなかったよね? 元々はどういう予定だったの?」


 一言も本命を諦めて、別プランに変更したとは言ってないのになんでバレるかなぁ……? まぁこの2人相手ならネタばらししても別に良いか。


「徐々に小声で近付きながら、メリーさん的なホラー演出を考えてたんだよ」

「あーそりゃ地味に怖い。リアルでそんな体験する事はまずないもんな。でも存在知ってたら意味ないわ!」

「思ったよりはちゃんと計画してたんだね、ケイ」

「うーいつか誰かにちゃんと仕掛けてやる!」


 思いの外、弾む会話を楽しみながらも俺はホラー演出をいつか実行に移すことを決意したのであった。


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