第9話 次の目標


 次の目標はソロでも戦える攻撃スキルを手に入れること! そう決めたものの、なかなか一般生物が見つからないでいた。

 俺を投げてばっかりというのもどうかと言うことで、普通に歩きで探していたけれどこれが全然見つからない。


「見つからないねー」

「だよなぁ……。なんでこんなに見つからないんだ?」

「……私がクマだから?」

「……あっ、なるほど」


 あ、そりゃ逃げるわ……。さっきの鹿の群れは俺がサヤの索敵範囲外から見つけたから先んじて気配を殺しながら近付けたのであって、一般的に食われる動物はそりゃさっさと察知して逃げるよな……。


「どうしようか?」

「気配を消せるスキルがあったら良いんだけど、取れる?」

「んーそれっぽいのはあるけど、ポイントが足りないかな。ケイはなんか使えそうなスキルやポイント稼ぎ案とかある?」

「俺もポイント足らないし、やっぱりLv上げでポイント稼ぎだな。さて、どうしたもーー」

「ん? なんか思いついた?」


 あ、なんか良いこと思いついた、いや気付いたかも! そうだよ、コケはコケなんだ。色物種族とか言ってたけど、分類上の種類はあるはずだ。コケは植物であり、分類上は植物系モンスターって事になるはず! ていうか川の時に同じ手法を元にしたのになんでそんな事を見落としていたんだ、俺は……。


「なぁ、サヤ。植物系モンスターの序盤での強化手段って知ってるよな?」

「? そりゃ知ってるけど、なんでそんな……あ、コケも植物系になるのかな!?」

「そうそう、それで今度はもっと直接的なヤツをやってみようかなと。川の水はまだ無理だったし」

「そういや川でやってたのもあれの応用みたいなものだったね、失敗だったけど。コケのインパクトが強くてつい忘れてたよ」

「ぐっ、失敗は事実なだけに反論し難い。とにかくちょっと試してみる」

「わかった。私は見てるね」


 オフライン版では植物系モンスターの定石とも言える強化方法が存在した。基本的に序盤の植物系モンスターは移動が出来ない。ではどうするかというと周辺の木に必要な分の水分すら奪い取り、枯らす事でポイントを稼ぐのである。そして種族毎の固有移動スキルを早いうちに取得するのが定石だ。

 枯らす植物が減ってきて、植物の身体の一部を伸ばしたり本体ごと移動できるようになってきてやるのが応用編の川の水の吸い上げである。まだ応用を元にするのには早すぎた。


 ただし、この手段は植物系モンスターのみの手法で動物系モンスターが一般植物を枯らしてもポイントは貰えないようになっていた。一応コケは植物のはずだし、多分大丈夫だとは思うけど試してみないことにはわからない。ということで試してみる。


 標的は表面がコケに覆われている樹木。本来なら地面の中の水分を吸収するんだけど、コケではちょっとそれは出来そうにない。ということでコケ風にアレンジを加えてみる。


<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します> 行動値 10/11


 先ずは樹木を覆うコケの群体化をする。そして次はこいつだ!


<行動値を1消費して『水分吸収Lv1』を発動します>  行動値 9/11

<吸収した樹液はインベントリに収納されます。樹液1個獲得>


 ……あれ? なんか予想と違った結果になったぞ。なんか樹液が手に入った? いや、まぁいい。樹木から水分を吸収出来てる証拠ではあるさ! もう一回だ!


<行動値を1消費して『水分吸収Lv1』を発動します>  行動値 8/11

<吸収した樹液はインベントリに収納されます。樹液1個獲得>


 うん、同じ結果だな。よし、もう一回!


 ……行動値が尽きるまで繰り返した結果、樹液が10個手に入って、ポイント取得もなく、木はまだ枯れていない。どうしてこうなった?

 失敗の原因は水分吸収のLv不足か? いや、それともコケは普通の植物系モンスターとは何か違うのだろうか? それとも仕様そのものが変わっている?


「枯れてないけど、失敗?」

「……そうみたいだ。でもなんか樹液が手に入ったよ」

「樹液ってオフライン版には無かったよね? 何に使うの、それ?」

「わかんねぇ。……でも樹液って昆虫とかが食べたり、天然樹脂とかの原料なんだよな。鹿の革も手に入ってたし、オンライン版ってもしかして生産系のモンスターとかがいる……?」

「……もしくは、強化用アイテム?」

「強化用アイテムって?」


 サヤの何気ないその言葉に不思議な感覚を覚える。強化用アイテムに一切覚えがないけど、そんなものあったっけ? 


「あれ、知らないの? あ、ケイはコケだからかな?」

「どういう事?」

「私の場合はなんだけど、クマは空腹度があるんだよね。それで1日に1回ずつだけど1回目食べた時と満腹になった時に増強進化ポイントが貰えるの。その食料系アイテムが強化用って表記されてるんだ」

「え、そんなのあるの? 種族格差は反対!」


 何それ、超羨ましいんだけど!? 食料系アイテムってそんな効果あるの!? ということは、昆虫系モンスターの強化アイテムという可能性は充分あるな……。


「でもケイはケイで群体化で融合進化ポイント貰ったんでしょ? 多分だけど、種族毎に固有のポイント取得行動があるんだと思う。で、それは毎日リセットだね」

「確かに俺もポイント貰ってたな。あれ、毎日リセットされるの?」

「……ヘルプに種族別項目があるから、読んでみて。自分の種族の分しか解放されてないからケイのはわからないからさ」

「マジか!? ほんとヘルプに重要な情報多いな……」


 サヤに言われた通り、ヘルプの種族別項目を見てみる。えーと、ヘルプの項目数多いな!? 種族別、種族別っと、お、あった。

 えーとなになに? コケの固有行動ボーナス、群体化の使用及び群体数の上限到達。それぞれにて融合進化ポイントを2取得。基本的に上限のある行動によるポイント取得は毎日リセットされると。ただし、所属ボーナスにより増減あり。

 ……おい、ちょっと待て。


「毎日確実に手に入るボーナスポイントが所属ボーナスで増減すんの!?」

「あはは、やっぱりケイもそうなんだ……」

「って事は、サヤも!? うっわ、地味にこの仕様は罠じゃねぇか……」

「増減だから、噛み合えばもっと増えるんだろうねー」

「1つの進化ポイントに絞って稼いでいくか、全体的に稼いでいくかって事になるんだろうな」

「最終的にどっちが良いかは、まださっぱりだけどね」


 まだサービスが始まって数時間だ。そんな時期に分かってたら楽しくはないけど、どうにも外れを引いた感じがして仕方ない。あ、でも魚に食われるので生存進化ポイントはボーナス付くから割と稼げるし、それはそれで有りなのか?

 ……ソロの時にでも一回群体数が全部食われたらどうなるのか確かめてみよう。ちょっと川で試したいことも思いついたし。


「って、思いっきり話が脱線してる!?」

「……ケイがヘルプをちゃんと読まないからだよ」

「いや、そうは言っても結構な量だぞ? むしろサヤ、よくヘルプ読み切ってるね?」

「え、種族別以外の大雑把なのは事前に公開されてたよね?」

「……」

「……知らなかったんだね?」

「……はい」


 そうか、事前にヘルプは公開されてたのか。うん、今初めて知った。はい、ごめんなさい。俺は基本的な操作以外は殆ど説明書も読まないんだ。ましてやオフライン版をやってたから基本操作は同じだろーって調べてすらいなかった!


「ま、過ぎた事は仕方ないか。とにかく、樹液は昆虫系モンスターの人用の種族別の強化用アイテムじゃないかなって思うんだ」

「……これは実際に昆虫系モンスターの人がいないと分かんないな」

「そういえばケイが持ってる鹿の肉って強化用って表示はある?」

「ん? ちょい待って、確認する」


 サヤに尋ねられた事を確認する為、インベントリの一覧を開く。えーと、小川の水に、鹿の肉っとこれだ。詳細表示っと。えーと?


「強化用って表示はないな」

「って事は、それが強化用アイテムになる人だけに表示されるのかもしれないね。私のには表示あるし」

「そうなんだ? 種族毎に随分表示変えてるもんなんだな」

「妙なとこに拘ってるよね。オフライン版でも種族によって別ゲームになってたしさ」

「だよなー」

「それで次はどうする?」

「……どうしたものかなぁ?」


 獲物は見つからず、実験も妙な結果になり成功とは言い難かった。失敗も糧になるのがこのゲームの良いところでもあるけれど、目的が失敗続きだと流石に萎えてくる。


「よし、歩きでの捜索は諦めてまた石投げ索敵で行こう!」

「石投げ索敵って、そのまんまなネーミングだね」

「こういうのは分かりやすければ良いんだよ」

「それもそうだね。んじゃレッツゴー!」


 良い案も浮かばないので、とりあえず成功方法を解禁する! それで進化ポイントを増やしてスキルを習得していくしかない! まずは選択肢を増やさないことにはやれる事も増えはしないのだ!

 そして俺は再び空に飛ばされながら、一般生物を見つける事に専念するのだった。


 

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