第8話 コンビ技、発動!
さて、とりあえず一般生物を倒して経験値稼ぎと言ってもまずは獲物となる一般生物を見つけなければ話は始まらない。そしてサヤの習得した投擲もさっき上空に投げられた事も合わせて思いついた事がある。
「サヤ、もう一回上空に投げてくれないか?」
「いいけど、なんで?」
「さっきは急だったから余裕なかったけど、予め分かってたら周辺の偵察くらいできないかな?ってね」
「お、それいいね!」
せっかく二人でプレイしてるんだ。存分に協力し合おうじゃないか!
……とりあえず、地面衝突防止用に群体内移動用の群体数は用意しておこう。ダメージはないとは思うけど、やっぱり地面に衝突はしたくないし。
サヤは小石のコケに移動した俺を上空に放り投げる。お、森が開けた所に動物の群れを発見! カーソルは緑色だから一般生物か。パッと見、鹿とかそういう系統っぽいな。
よし、無事に地面に戻ってきたぞ。うん、この偵察方法ありだな。
「どうだった?」
「ここから真正面に進んだとこに開けた場所があるな。そこに多分、一般生物の鹿の群れがいた」
「群れかー。流石に一気に仕留めるのは無理かな?」
「無理だろうな。ここは確実に1匹ずつ仕留めていこう」
「そだね、そうしよう」
そこからは慎重に行くために、サヤは極力物音を立てないように四本足でしっかりと足を踏み込みながら進んでいく。俺はコケのついた石に移動し、それをサヤが咥えて運んでいる。よく考えれば女の子に全身を委ねて運ばれているのだ。もっとよく考えれば、クマが石を咥えて獲物を仕留めに行っているだけだけど。
そして鹿の群れを目視出来る距離にきた。少々開けた場所ではあるが、周囲は変わらずに鬱蒼と茂った森である。もちろん、あちこちにコケも生えている。
サヤは咥えていた石を置き、四足歩行から立ち上がり、再び手に石を持つ。
「ケイ、準備はいい?」
「いつでもどうぞと言いたいけど、一つだけ」
「なに?」
「一応は確実に一体狙いだけど、条件的には足止めが出来そうだから場合によってはもっと倒そう」
「あー確かに、やり方次第で出来そうかな?」
「ま、サヤの仕留める素早さにかかってるけどな」
「そうだね。なら一匹は確実に仕留めて、後は逃げられないようになってれば追撃でいいかな?」
「それでいいぜ」
あくまで狙いは一匹を確実に仕留める事。でも他も狙っちゃ駄目だという理由もないからな。サヤの攻撃力次第ではあるし、運任せな要素もあるけど、失敗したら失敗したで反省点にすればいい。ゲームなんだからそれもありさ。
そんな事を考えているうちにサヤが投擲準備を始める。鬱蒼と茂った森の中からの投擲だ。だからまっすぐ一直線に狙うのは難しい。なので狙いは枝の途切れた青空の見える場所から斜め上への投擲だ。
「それじゃいくよ」
「おう!」
サヤの言葉と同時に俺がついた石が投げられた。勢いはそれほどない。鹿のどれかに当たるだけでいい。必要なのは威力ではなく正確な投擲だ。少しの間森の上を飛び越えて、鹿の群れへと突入する。
よし、ちゃんと鹿の一体に当たりそうだ。上空からの小石の投擲には気付いていない!
<行動値を1消費して『微毒生成Lv1』を発動します> 行動値 9/10
微毒を身に纏い、俺は鹿へと突撃する。当たった鹿は微毒を受け一瞬身体が硬直し、群れは即座に異常に気付き逃走を開始する。
「そう簡単には逃さないぜ」
微毒を受けて少し動きの鈍った鹿はもうサヤの担当だ。サヤも猛烈な勢いでこちらへ走ってきている。鹿たちも慌てて逃亡しようとする。だけど、慌てた行動こそこちらの狙い目!
<行動値を1消費して『群体化Lv1』を発動します> 行動値 8/10
鹿たちの逃走経路の先にあるコケを群体化していく。さすがに鹿も同じ方向にばっかり逃げる訳でもないから、ある程度は仕方ない。後はタイミング次第だ!
「よし、今!」
<行動値を1消費して『スリップLv1』を発動します> 行動値 7/10
<行動値を1消費して『スリップLv1』を発動します> 行動値 6/10
群体化したコケの上に乗った鹿が2匹いて、そこに向かってスリップを放つ。クマという捕食相手から慌てて逃げていた鹿は俺のスリップによって見事にバランスを崩しその場に倒れ込む。そして巻き込まれるように後続にいた2匹も追突し、倒れ込む。
「ふふふ、作戦成功! サヤ、そっちはどうだ?」
「今、仕留めるとこだよ! 『爪撃』!」
ちょうど、1匹目の微毒を受けた鹿が仕留められる瞬間だったようだ。サヤの致命の一撃を受け、鹿は息絶える。ポリゴンが砕け散るような演出が出て、息絶えた鹿の姿が消えていく。こういうところはちゃんとゲーム的なものである。
「って、逃がすかよ!」
<行動値を1消費して『スリップLv1』を発動します> 行動値 5/10
立ち上がり逃げ出そうとする鹿を再びスリップで転ばせる。ふふふ、運が悪かったな。足元にコケがある以上は俺の優位は変わらないのだよ! 這い蹲れ、俺らの経験値共よ!
「なんか、しょーもないこと考えてそうだねぇ」
うぐっ!? 何故バレた!? 声に出してた訳でもないし表情もないってのに!?
そして、俺は鹿の足止めに徹しながら、サヤが残りの転んだ4匹の鹿を仕留めていった。
<増強進化ポイントを2獲得しました>
<ケイがLv2に上がりました。各種ステータスが上昇します>
<Lvアップにより、増強進化ポイント1、融合進化ポイント1、生存進化ポイント1獲得しました>
<鹿の肉5個、鹿の革2個獲得しました>
戦闘が終わったらLvも上がったし、色々とポイントが手に入った。肉は動物系モンスターに空腹値があった筈だからそれ用かな? 革は何に使うんだ? こんなのオフライン版では無かったような?
それは後回しにして、ステータスはどれほど上がったものかな。ちょっと確認してみよう。
【ステータス】
名前:ケイ
種族:コケ
所属:灰の群集
レベル 1 → 2
進化階位:幼生体
群体数 336/500 → 336/600
行動値 1/10 → 11/11
攻撃 1 → 2
防御 5 → 7
俊敏 1 → 2
知識 1 → 3
器用 5 → 7
うーん、上がってはいるけど、これってどうなんだ? 正直コケだとステータスの恩恵が実感できないな。群体数と行動値の上限値が増えたのは確実に良いことだろうけど。
「ケイ、そっちはどんな感じ?」
「Lv上がったけど、ステータスはよく分からん」
「あー確かにね」
「そういうサヤの方は?」
「Lv上がってばっちり強化されたよ! 攻撃と俊敏の伸びが良いね」
「おーそりゃ良かったな」
「ポイントの方はどんな感じ?」
「増強が3で後は1ずつだな」
「私は増強が6で後は1ずつだね。やっぱり直接倒した分の差かな?」
「分からんけど、俺は戦闘終わってから一気に取得が来たな」
「え、そうなの? 私は1体毎で出てたけど。1体目の鹿で3、2体目で2で後はポイント無しだったよ」
「マジか? 直接倒すのと支援するのだと取得条件が違う……?」
「これは要検証かな?」
「そうだな」
まだ色々と確定するには材料が少なすぎる。もっと色々と倒してみないと分からない。てか、自力で倒せるようにならなきゃ検証出来ないじゃねぇか!?
「本体のLvが上がればそれぞれ1ポイントもらえるのが分かったのはいい収穫だね」
「確かにそりゃそうだ。確実にポイントが手に入るのはいいね」
何はともあれ今回は作戦がうまく行った訳だし収穫もあった。戦法自体も足止め役と攻撃役でうまく噛み合っていた。
「次はどうする?」
「もっとLv上げしていこうよ」
「そうだな。意外と良い組み合わせっぽいし、今のうちに経験値を稼いでいくか!」
「あ、でもこの方法ばっかりに頼ると後々困りそうだから次は普通に探してみよう?」
「それもそうだな。いつでも一緒にプレイできる訳でもないし、そうするか」
そして俺は再びサヤに運ばれながら一般生物を探して経験値稼ぎを続行する事になった。とりあえずさっきの索敵方法は封印して普通に探そう。
それにしてもこの運ばれ方は群体化とか群体内移動の熟練度が上がらないな。まぁそれはソロプレイする時にでも上げればいいや。その為にもソロでも通用する攻撃スキルを取得したいところだ。待ってろよ、攻撃スキル!
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