第7話 失敗から分かった事
少し興奮気味のサヤが迫り来る。そんなに情報が知りたいか!?
「で、どんな感じだったの?」
「まぁまぁ、落ち着けサヤ。その姿で興奮されると少し怖い」
「失礼だねー! そんなの承知でこのゲームしてるんじゃないの?」
「そりゃそうだけどさ」
リアルな動物同士の戦いというのもオンライン版、オフライン版の共通の作品の売りでもある。ただし、グロいのが苦手な人や苦手な動物がある人向けのフィルター機能も完備している。でも実際にプレイヤーが相手で中身に本物の感情が入ると予想以上に臨場感が増すね。うん、思いっきり実感した。
待ちきれないとばかりのサヤの視線に根負けする。犬だったり、猫だったりにこの目をされれば連れて帰ってペットとして飼いたくなったかもしれない。……クマだけど。
「……なんか失礼なこと考えてない?」
「か、考えてねーよ?」
「ふーん?」
いかん、勘が鋭い!? コケに表情も何もないのになぜ感情を読まれた!? ……よし、話を誤魔化そう。
「そんな事より、実験結果はいいのか?」
「ま、流してあげましょ。失敗って言ってたけど、元々はどういう計画だったの?」
ほっ、誤魔化されてくれた。思惑はバレバレだったみたいだけど。
「『水分吸収』って初期スキルを使って、川の水の少ないとこを干上がらせて魚を弱らそうかなーってね」
「オフライン版でそういうポイント稼ぎ方あったね! 植物系モンスターで一般植物を弱らせるやつだ! その応用かー」
そうとも、今回の作戦はオフライン版での植物系モンスターの序盤でのポイント稼ぎの定番方法を改変したものなのだ。うん、自分で一から考えた訳じゃないんだよな。
「まぁ、大失敗だったけどね」
「え? 駄目だったんだ? なんで?」
「まず失敗原因その1。『水分吸収』のレベルが全く足らん! Lv1じゃ全然川の水が減らなかった!」
「あー初期スキルの初期レベルじゃそうなるか……」
うん。まぁ、これは全く想定してなかった訳でもない。可能性としては考えていた。
「まぁそこはいいんだよ、そこはね。問題だったのは魚に食われた事だよ!」
「……え? あ、コケを食べる魚って実際にいるんだっけ? そんなとこまで再現してるんだ」
「どんな魚がどんなコケを食べるとか詳しくは知らないけど、ここの魚は間違いなく俺を食う。食われたんだから間違いない!」
「あはは、そりゃそうだ」
正直、魚に食われることは一切考えてなかった。ここの運営はコケとかいう色物種族を作っても全く倒されない無敵モンスターに作る訳もないか。でも、これは大きな情報だ。
「だが悪い事ばかりじゃない。食われたおかげで生存進化ポイントと所属ボーナスの内容が分かった」
「お、その情報はいいね!」
「群体の一部が食われた時に1ポイントで、群体の核が食われた時に3ポイント、んで所属ボーナスは生存進化ポイント取得の上限回数2回が+1で合計3回になった」
「おーそれはいい情報だ! 上限回数が増えるのは良いね! ……ってあれ? 核が食われたって言った?」
「うん、言った」
「PTメンバーの一覧の群体数、0にはなってなかったと思うんだけど?」
PT表示でもそうなってたのか。だったら推測通りで確定と思っていいだろう。やっぱりPT組んでて良かったかもな。これはソロでやってたら絶対に見落としてたと思う。
「それ、群体化の欠点みたいなんだよ。群体化したコケが視認できないと群体内移動が出来ないらしい。あと一定距離以上離れると群体化も解除されるみたいだ」
「結構な縛りがあるんだね。それは永続的なもの? それともLv不足?」
「多分Lv不足。移動距離はLvで変動ってなってたから、Lvが上がれば条件変わると思う」
でなきゃ困る。視認のみだとそれほど距離伸びないし。
「Lv不足かー。スキルのLv上げって熟練度と本体のLvの経験値の2つだから、Lv上げでもする?」
「……また知らない情報。またヘルプ……?」
「うん、ここも変更点みたいだね。オフライン版だと熟練度のみだったしね」
「群体化自体のLv上げは一人でも出来るけど、本体のLv上げは自力じゃ無理っぽいし頼もうかな?」
「よし、なら決定だ!」
とは言ったものの、流石にPTで寄生プレイはしたくない。生存進化ポイントが6ポイントに増えたし、なんか取得出来るスキルは無いものか?
とりあえずスキル取得一覧を眺めてみよう。……ん? お、良いもの発見! これにはオフライン版でお世話になった。
『微毒生成』 取得ポイント:生存進化ポイント5
弱めの毒を生成し、自身に毒を付与する。触れた相手を確率で微毒の異常状態にする。Lvにより威力、効果成功率上昇。
微毒:毒性は弱く継続ダメージ量は少ないが、倦怠感と不定期な脱力感を与える。
これを発動したら触るだけで微毒に出来るというわけだ。俺が居ると知らずに踏めば僅かだが毒ダメージを狙えるし、VRゲームで倦怠感は地味に効く! よし、ポイントも足りるし取得しよう!
「おい、サヤ! 良いスキルゲットしたぞ!」
「へぇ、どんなの?」
「『微毒生成』だ。これを発動してる時に触れば確率で微毒になる!」
「あー植物系モンスターによくあったスキルね! あれ、怠くなって集中力落ちるから厄介なんだよね」
「まぁLvが低いうちは結構失敗多いけどな」
「それはどのスキルでも同じだけどね。あっ!」
サヤが何かを思いついたかのように、手を打ち合わせた。そして邪悪な笑みを浮かべる。おいやめろ、クマの姿でそれは凶悪さが洒落になってない!
「良い事思いついたよ、ケイ!」
「何を思いついたんだ?」
「ふふふ、ちょっと下準備が必要だから、それがうまく行けば教えてあげる。って事で、またコケのある小石に移ってくれない?」
「……良いけどさ。なんか、ちょっと嫌な予感が……」
なんだか不穏な雰囲気を感じながらもサヤの要望通りに小石のコケに群体化して移っていく。サヤは一体何をする気だ?
「ちゃんとスキル出てきてよー。せーの!」
「ちょ!? おい、なんで振りかぶる!? ちょ、待って!?」
「行ってこーい!」
そのサヤの掛け声が次第に遠くに聞こえていく。……つまり俺は小石ごと思いっきり投げられたのだ。上空に向かって……。
「ちょ!? 早い早い早い!? 高い高い高い!? あ、止まった。って今度は落ちるー!?」
上空に投げられた経験はあるだろうか? 上空からパラシュートもなしに落ちる経験はあるだろうか? 俺は、今まさにそれを経験していた。って心構えもなくいきなりだと普通に怖いわ!?
地面が猛烈な勢いで近付いていく。多分死なないけれど、地面に激突する経験はしたくない! よし、視界に群体化したコケが入った! 即座に群体内移動だ!
「はぁはぁはぁ、あー怖かった……。サヤ! いきなり何すんだよ!?」
「あはは、ごめんごめん。思った以上に勢いついちゃった?」
おい、クマでテヘぺろはやめろ。なんか不気味だ……。
「で、何を狙ってた訳?」
「『投擲』が手に入らないかなー?って思ってね」
「クマで『投擲』とか何に使うんだよ?」
「それはケイ、君を投げる為だよ!」
「……はい?」
サヤは何を突拍子のないことを……いや、ちょっと待て? ははぁ、なるほど。サヤの狙いがわかったぞ。確かに、これはハマれば上手く行くかもしれない。それなら命中補正のある『投擲』は必須と言えるな。
「なるほどね、狙いは分かった」
「お、理解が早いね!」
「肝心の『投擲』は取れた?」
「うん、ばっちり!」
ふふふ、なるほどなるほど。これで俺とサヤのコンビ技が出来上がるな。まぁ実際使ってみないと効果の程は分からないけど、全くの無意味ってことはないだろう。それにこれなら、俺もただの寄生プレイにならずに済む。
さてそれじゃ獲物探して、実践と行きますか!
それにしてもマップの解放はまだかかるのかなぁ……? もうオフライン版での解放条件を満たすだけの移動はしたと思うんだけどな? 解放条件、変わったか?
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