情景294【帰りの電車】
今朝は、満員電車だったっけ。
緊急事態を告げた宣言が開ける前から、朝の通勤電車は騒がしく、以前と変わらない人込みでひとを都市へと運んでいた。
その、帰り道。今朝の息苦しさの余韻がウソみたい。
静かだった。
車両には、私以外にぽつぽつと何人かがいるだけ。離れたロングシートに座っているおばあさんらしきひとや、次の駅を扉の前でおもむろに待つ若いひとと、あとは、顔もわからないくらいの距離感に二、三人ほど。車両を隔てる貫通扉は開きっぱなしで、奥まで覗き込めば乗務室が中心の底にある。
乗務室の前の床に、オレンジ色の四角い陽だまりが音もなく列を成していた。その陽だまりの列は一定の動きで横へと伸びるように動き、そのまま床に吸い込まれるようにして消える。
それから、オレンジの陽だまりが足元に生じた。向かいのロングシートに光が当たり、床で広がり、銀色の窓のふちや手すりに光を散らす。
光は前方西側から生じている。そっと顎を向ける要領で見上げれば、空の青に西日の夕が混じる紫がかった海の向こうで、夕陽が浮かんでいた。こちらを見ているらしい。
眩しいとは思わなかった。ただ、のんびり眺めていられる。眺めているうちに、今日が私から離れていった。
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