情景290【夏の音】
つい、先週まで。
雨滴が縁側につながる廊下の窓を叩き、雨戸をも貫いてきそうな轟音を打ち立てていた。
つい、先日まで。
けたたましい蝉の鳴き声が、幾重にも覆いかぶさって鳴り響いていた。
——それらが、急に消えた。
しんと静まった広縁の廊下で、部屋側の土壁に背中をつけて、こぢんまりと体操座りをする。
「……こんなに、静かだったっけ」
前に突き出した足の甲をさすりながらつぶやいていた。
目の前で家の内と外とを仕切るガラス戸が、私の言葉に呼応するかのようにカタカタと音を立てる。その向こうで、写真のように凝り固まった庭に橙色の光が降り注いだ。生け垣に、巻き付いたクレマチスの白い花弁に、細く伸びる緑葉に、敷かれた石畳に、オレンジの色合いが重なる。
やがて、橙色の光が、閉じていた窓ガラスをすり抜けてこちらにやってきた。
音はなく、這い寄るように。触れたつま先から、ほんのりと熱を感じる。体操座りのまま。
カタン、と、家の中から音がする。
蝉の鳴き声は消えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます