情景283【雨上がり。なんぼかマシ】
雨が上がったあとのお昼時ほど、夏のむわっとした空気を思い知る瞬間もない。
雲よりさらに高い空、そのさらに奥の方から、陽射しが絶えず降りてくる。降りてくる陽ざしが湿ったアスファルトを熱して、熱で浮かされた雨水は空気をむわっとさせ、その空気の中を歩けばこめかみや首元に汗がにじんでくる。そのうち全身が汗まみれになるかな。
外に出ればひざしとしめりけ。雨上がりの空気は容赦がない。
今朝、外に出たときは傘を持って出ていった。それなのに、今度は陽射しに注意して出かけなきゃいけない。マンションを出て駐車場のエリアに入り、車のキーをポケットから取り出した。
「日陰、日陰」
首筋やうなじにむわっとした空気がまとわりつく。陽射しは相変わらずだ。
——ただ、ココはなんぼかマシかな。
このマンションのちょっとした好きな所。それは、マンションの一階部分が駐車場になっていること。駐車場がマンションの日陰にまるまる収まってくれるから、我が家のマイカーは夏の陽射しを浴びずに済む。
マンションの下で、アスファルトに影を下ろす駐車場に一歩、踏み入った。自分の全身に乗っていた陽射しの熱がすっと冷めて軽くなる。それから、風が横から吹いてきた。柔らかい風に、前髪がふわりと浮く。
「ふぅ——」
と、駐車場に入っただけでためいきが出た。
すると、自分が歩いてきた方から、夫が必死に手で自分を仰ぎながら日陰に入ってくる。そして、抑揚のない声で言った。
「風があるだけなんぼかマシだな」
「ふっ……」
と、吹き出しちゃう。同じこと考えてたから。
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